対面営業・商談
相見積もりだと分かったときの返し方|値段以外で比べてもらう
このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
「他社さんにも見積を取っています」と言われたときの、その場の返し方
高いから負けるわけではありません。比べる材料を相手に渡せていないから、値段しか比べようがなくなっているだけです。だからこそ、その場の反射ではなく、先に決めた手順で返します。

その場で慌てないために、返す順番を先に決めておきます。①感謝する→②当然だと肯定する→③比べる観点を質問する→④その観点で自分の見積を言い直す。この4つだけです。順番を決めておくだけで、その場で頭が真っ白になることが減ります。
そのまま使える言い方はこうです。
「ありがとうございます。金額だけだと比べにくいと思うので、今回どこを重視されているか教えていただけますか。納期でしょうか、それとも進め方でしょうか」
相手が「実はまだ決めていません」と答えたら、「でしたら、着手の早さと納品後の対応でお伝えしますね」と、こちらから軸を提示してしまって構いません。相手は比較の観点自体を持っていないことも多いからです。
先に「比較していただいて大丈夫です」と言い切ってしまうのもおすすめです。相手は「相見積もりを取っていると言ったら気を悪くするかもしれない」と、実は言い出しにくい思いをしていることがあります。その空気を、こちらから消してしまうということです。
逆に避けたい返し方が3つあります。
- 「うちは他社さんより安いと思います」→ 自分から価格の土俵に降りてしまう
- 「他社さんはどこですか」→ 詮索に聞こえる
- 黙って持ち帰る→ 次の接点が消える
もし「他社さんはいくらでした」と金額そのものを聞かれても、「金額は各社の考え方があるので、私からは中身でお伝えしますね」とかわして構いません。金額の土俵に乗らず、観点の話に戻します。
電話でも対面でもメールでも、言い方そのものは変えません。変えるのは長さだけです。対面なら上の4つを会話の中で自然に区切りながら話し、電話なら少し短く要点だけ伝えます。メールなら、最後にもう1文足します。「比較のために追加でお出しできる資料があればお申し付けください」。
一番大事なのは、「この場で価格は下げない」と自分の中で先に決めておくことです。決めていないと、相手の反応を見た瞬間に、その場の空気で言ってしまいます。決めておけば、沈黙が流れても崩れません。
なぜこの場面で、値段の勝負になってしまうのか
見積を送った直後に「他社さんにも聞いてみます」と言われる。最初から「3社で比較検討中です」と言われることもあります。どちらも、独立して営業を教わらずにやってきた人ほど、胃が重くなる場面です。
多くの人が「価格で負けるかもしれない」と身構えて、頭の中で値引きの計算を始めてしまいます。他社がいくらで出しているかも分からないのに、先に自分の見積を削る算段を立ててしまう。中身を分けずに総額だけ出しているせいで、値段の話しかできなくなっているだけかもしれません。
相手の立場に立つと分かります。3社の見積が並んだとき、パッと見て違いが分かるのは総額だけです。A社はいくらか、B社はいくらか、C社はいくらか。中身が書かれていなければ、安い順に並べて選ぶしかありません。これは相手が冷たいのではなく、比べる材料がその見積書にないからです。逆に言えば、材料さえ渡せば、相手は総額以外の基準で選べるようになります。
一人で仕事を請けている人ほど、この場面を重く受け止めがちです。会社員のように「営業部が別に価格戦略を立ててくれる」ということがなく、見積も値引きの判断も全部自分でやるからです。だからこそ、その場の反射ではなく、先に決めた手順で動くことが効いてきます。
ここでやってしまいがちなのが、「では少し値引きします」と自分から言うことです。これは比較材料を増やさないまま、自分の見積の根拠を自分で否定する行為になります。値段を下げても、比べる軸は増えません。むしろ「やっぱり最初の金額は言い値だったんだ」と思われて終わります。一度下げると、次にまた同じ場面が来たとき、同じだけ下げることを期待されます。
渡す方法は1つだけです。値段以外に比べられる項目を、こちらから3つ出すこと。次の章から、見積書の書き方、比べてもらう項目の作り方、値引きの線引きまで順に説明します。
値段以外で比べてもらうための、見積書の書き方
返し方をどれだけ練習しても、見積書そのものが総額1行だけなら、結局比べる材料がありません。見積書の作り方から変えます。

総額の下に、内訳を3〜5行で分けます。「デザイン一式 いくらか」ではなく、次のように工程ごとに分けて書きます。
- ヒアリング・設計 いくらか
- 制作 いくらか
- 修正2回まで 込み
- 納品後1か月サポート 込み
分ける基準は工数ではなく、相手が判断できる単位です。ヒアリング/設計/制作/修正回数/納品後の対応、というように、相手が「ここは要る」「ここは要らない」を選べる形にします。
特に効くのが、修正回数・納品後のサポート期間・連絡手段と返信の目安を書くことです。ここは他社が書いていないことが多いので、書くだけでそのまま差になります。「修正は2回まで無料、以降は1回あたり◯円」「納品後1か月は追加相談を無料で受け付けます」のように具体的に書きます。
前提条件も1行入れます。「この金額は◯月◯日着手・支給素材ありの場合」。前提が書いてあると、条件が違う他社の見積とそのまま並べて比べることができなくなります。相手が社内で比較するときも、前提条件の違いに気づいてもらえます。
含まないものも書きます。「この見積に含まないもの:撮影費、印刷費」。含まない項目を先に明記しておくと、あとの追加請求のトラブルも防げます。
避けたいのは、一式表記だけの1行見積、有効期限のない見積、どこまでやるかが読み取れない見積です。これらはすべて、比べる材料を相手に渡していない見積書です。総額だけを見せられた相手は、あなたの仕事の中身ではなく、数字の大小だけで判断することになります。
比べてもらう項目の作り方(値段以外の3つを自分で決める)
見積書の内訳とは別に、「値段以外だとここで比べてもらえます」という軸を、案件ごとではなく、あらかじめ3つ決めておきます。案件が来るたびに考えていると、その場しのぎの言葉になってしまいます。

軸の例はこんなものです。着手までの早さ、窓口が自分1人で完結すること、修正の回数と範囲、納品後の相談期間、同じ業界の経験、進め方の細かさ。
軸を選ぶ基準は3つあります。①相手が困った経験のある項目か ②自分が本当に守れるか ③他社が言いにくいことか。この3つ全部に当てはまるものだけを軸にします。1つでも欠けていたら、その軸は外します。
たとえばデザイナーなら、「窓口が自分1人で完結すること」「修正は打ち合わせなしでチャットで即対応」「同じ業界の制作経験が◯年」の3つ、というように、自分の仕事のやり方から拾います。エンジニアなら「要件定義から自分1人で担当」「テスト工程を必ず含む」「リリース後2週間は無償対応」、カメラマンなら「撮影当日の即日データ確認」「同業種の撮影実績」「レタッチの修正回数」というように、業種によって拾う場所は変わります。他人の型をそのまま借りても、守れなければ意味がありません。
特に大事なのが②です。守れない軸は出しません。「24時間以内に返信します」と書いて実際は守れないほうが、値段で負けるより痛手になります。信用を失うと、次の紹介にも響きます。
伝える形はシンプルに、箇条書きで渡します。「金額以外だと、この3点で比べていただけます」。
相手の会社に決裁する人が別にいる場合、この3点はそのまま相手の口を借りて社内で読まれます。だから短い言葉で書きます。長い説明は、相手が社内で伝え直すときに削られて消えます。
値引きを求められたときの線引き
値引きを求められたとき、下げていい場合と下げてはいけない場合をはっきり分けておきます。下げていいのは、条件が変わるときだけです。

条件を変えて下げる例はこうです。納期を延ばす、修正回数を減らす、素材を支給してもらう、窓口を1本にしてもらう。金額を動かすときは、必ず何かもう1つ一緒に動かします。
条件を変えずに金額だけ下げると、最初の見積が言い値だったと自分で証明することになります。次からもその下げた金額が基準になってしまいます。1回下げた相手には、次の案件でも同じ額を期待されます。
そのまま使える返し方はこれです。
「金額だけを下げることはできませんが、ここを◯◯に変えていただければこの金額でお出しできます」
もう少し柔らかく伝えたいときは、「今回のご予算に合わせるなら、修正回数を1回にするか、素材を用意していただく形なら調整できます」という言い方でも構いません。どちらも、下げる代わりに動かすものを先に示しています。
避けたいのは、「少し頑張ります」「社内で相談してみます」という言い方です。どちらも、下げる前提の言葉になっています。かといって、理由もなく突っぱねるのも違います。相手の予算感を確認したいだけなら、「ご予算の目安を教えていただけますか」と先に聞いてしまう手もあります。
ここで一度、自分が値段が言えない型(金額を言うことが自分の値打ちを言うことになっていて、口に出せない状態)に足を踏み入れていないか確認します。金額だけ下げてしまう背景には、自分の値段を言い切る自信のなさが隠れていることがあります。値段は自分の価値の点数ではなく、仕事の条件です。値引きは、頼まれてから、条件とセットで考えるものです。
負けたとき・決まらなかったときの返し方
断られた直後にやることは1つだけです。理由を聞きます。「差し支えなければ、決め手を教えていただけますか」。この一文だけで十分です。
理由を聞くのは、次の見積のためであって、この場の結果を覆すためではありません。ここで粘って交渉を続けると、次の相談自体が来なくなります。「もう一度考え直していただけませんか」と食い下がるのは避けます。
返信はこの型で送ります。「ありがとうございます。またお役に立てる場面があればお声がけください」に、「◯月頃にまたご挨拶させてください」と次の接点を1つ添えます。
負けた理由は、金額・納期・実績・説明の分かりやすさ・相性のどれだったかを、1件ずつメモに残します。案件名・負けた理由・次に連絡する時期の3列だけの簡単な表で十分です。3件たまると、自分がどのパターンで負けやすいかが見えてきます。金額で負け続けているなら見積書の内訳を見直す、実績で負け続けているなら伝え方を見直す、というように次の一手も変わります。勝てたときの理由もあわせて残しておくと、次に何を強く出せばいいかが分かります。クラウドソーシングで案件が取れない場合の見直し方は、クラウドソーシングで案件が取れないとき|提案文を直す前に見直すことで詳しく解説しています。
相見積もりで負けた相手から、あとで再依頼が来ることは珍しくありません。1社目が期待どおりでなかったとき、2番手だった相手に声がかかる場面があるからです。だから、断られた瞬間の対応が、実は次の仕事につながっています。
だから、断られた相手を候補から外し、次の接点を作らないという対応は避けます。時期を決めて次の連絡日をカレンダーに入れておきます。取引が終わった日に相手との関係を自分から閉じない、という考え方は、賃貸仲介の集客で入居した人の紹介につなげる話とも重なります。
そもそも相見積もりを避けたいときの断り方(受けない選択)
すべての相見積もりに応じる必要はありません。ただ、「相見積もりだから受けません」という断り方は角が立ちます。
断るときは、理由を条件にして伝えます。「今の時期は着手が◯月以降になるため、お急ぎでしたら他社さんのほうが良いかもしれません」。相見積もりそのものを理由にせず、スケジュールなど別の条件を理由にします。手が回らない仕事を同業者と回し合える関係の作り方は、同業者と仲良くしておくで詳しく解説しています。
無料の提案書や企画書までは出さない、という線も先に決めておきます。見積は出すが、提案の設計は有償です、と最初に伝えます。ここを曖昧にすると、相見積もり目的で無料の提案書だけを集める相手にも付き合うことになります。
逆に、受けたほうがいい相見積もりもあります。担当者が比較の観点を答えてくれる、自社の担当者と直接話せる、期限が明確。この3つが揃っているときは、比較の土俵に乗る価値があります。
受けないほうがいいのは、金額だけを聞かれる、要件が固まっていない、他社の見積を値切る材料に使われている気配がある、という相見積もりです。見積書だけ受け取って連絡が途絶える相手も、ここに含まれます。
断ったあとも、接点は残します。「条件が変わったらいつでも声をかけてください」を必ず添えます。
見積書の内訳を分け、値段以外の軸を3つ決め、比べられたときの返し方を型にしておく。相見積もりは、金額の勝負ではなく、比べる材料をどちらが先に渡すかの勝負です。この考え方は値段の伝え方全般に共通します。日々の見積もりや価格交渉で迷ったときは、そちらもあわせて確認してください。
よくある質問
相見積もりだと言われたとき、他社の金額を聞いてもいいですか
金額を直接聞くのは避ける。代わりに「どこを重視して比べていますか」と観点を聞く。観点が分かれば、その軸で自分の見積を言い直せる。金額を聞くと詮索に聞こえ、答えてもらえないことも多い。
相見積もりを断りたいときの例文が知りたい
「相見積もりだから受けない」とは言わず、条件を理由にする。「今の時期は着手が◯月以降になるため、お急ぎでしたら他社さんのほうが良いかもしれません」。断ったあとも「条件が変わったらお声がけください」を添えて接点を残す。
相見積もりで値引きを求められたら応じるべきですか
条件を変えずに金額だけ下げない。下げるときは納期・修正回数・支給素材など、必ず何かを一緒に動かす。条件を変えずに下げると、最初の見積が言い値だったと自分で証明することになり、次回以降もその金額が基準になる。
相見積もりで負けたあと、また連絡してもいいですか
よい。断られた直後に決め手を1つだけ聞き、次の接点の時期を伝えておく。1社目が期待どおりでなかったときに2番手へ声がかかる場面はある。粘って覆そうとするのではなく、次の相談先として残ることを目的にする。
見積書に何を書けば値段以外で比べてもらえますか
総額の下に内訳を3〜5行で分け、修正回数・納品後の対応期間・前提条件・含まないものを明記する。相手が3社を並べたとき、書かれていない項目は比べようがない。中身が書いてあれば、総額の順番以外で判断してもらえる。
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