対面営業・商談
社長との話し方|取引先の社長と初めて話すときに聞くこと
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
社長との話し方は「話題」より「聞く順番」で決まる
社長の前で固まるのは、話題や貫禄が足りないからではない
取引先の社長室に通されて、名刺を出したあと。ソファに座ったところで、何から話せばいいか分からなくなる。結局「今日は暑いですね」と天気の話でつなぎ、沈黙が来るたびに腕時計を気にしてしまう。そんな経験のある人は多いと思います。
そのとき頭の中で、「社長と話せるほどの中身が自分にはない」と自分に言い渡している人が多いのではないでしょうか。社長は経営の数字も人の動かし方も知っている。自分は作る側で、話せるのは作ることだけ。そう考えると、口が重くなるのは自然です。
ただ、実際に足りないのは中身ではありません。何をどの順で聞くかという手順です。手順は、知れば使えます。腕のある人が、手順を習う機会がなかっただけです。
仕事の話が出せないのは、頼むと対等でなくなる気がするから
もう一つ、よくある場面があります。社長と1時間話して、雑談は弾んだ。相手も機嫌よく笑っていた。それなのに、自分の仕事のことは一言も言えずに帰ってきた。駅までの道で「今日は何をしに行ったんだっけ」と思う。
この状態を、ここでは「切り出せない型」と呼ぶことにします。まだ仕事をしたことのない相手に、仕事の話を切り出せない状態です。
頼んだ瞬間、対等じゃなくなる気がする。社長相手に、自分みたいな者が仕事の話をしたら、頼み込んでいるみたいで格好がつかない。そう感じて黙る人が多いようです。これは性格の弱さの話ではなく、仕事の話の出し方を習っていないだけだと、私は見ています。
結論:初回は3つを順に聞けば足りる
初めて話す社長に、初回で聞くことは次の3つで足ります。
- ① 会社のいまの様子
- ② 社長がいま気にしていること
- ③ 自分の仕事と重なるところ
この順番です。①で相手に話してもらい、②で相手の困りごとに近づき、③で初めて自分の仕事に触れる。自分の話は一番最後で、しかも一つだけで足ります。
口がうまい必要はありません。性格はそのままで大丈夫です。人見知りでも、口数が少なくても、聞く順番を決めておけば会話は進みます。次の章から、それぞれ何をどう聞くかを具体的に見ていきます。
初対面の社長に聞くこと|順番つきの質問リスト
最初の数分は会社の始まりと今を聞く
最初は、社長自身の話から入ります。会社や仕事の始まりは、社長が話しやすい話題です。
- 「この仕事は、どういうきっかけで始められたんですか」
- 「いまはどんなお客さんが多いですか」
- 「創業された頃と比べて、変わったことはありますか」
社長自身の話から入ると、相手が話す時間が自然に長くなります。こちらは相づちと「それはどうしてですか」を足すだけでいい。話してもらっているあいだに、こちらの緊張も落ち着きます。
ここで大事なのは、答えを聞いたあとに自分の話を足さないことです。「うちも似たようなことがあって」と返したくなっても、ぐっとこらえて「そのとき、まず何から手を付けられたんですか」と、もう一段聞きます。
中盤は、いま気にしていることを聞く
会社の様子が見えてきたら、いま気にしていることへ移ります。
- 「最近、手が回っていないところはありますか」
- 「人が足りないのは、どのあたりですか」
- 「この先、力を入れたいことはありますか」
答えが返ってきたら、説明を足さずに「それはいつ頃からですか」「そうなったきっかけはありますか」ともう一段聞きます。困りごとは、最初に出てくる一言の奥に、本当のところがあることがあるからです。
たとえば「人が足りなくてね」と言われたら、「どの部署ですか」「採用は動かれていますか」と続けます。こちらが解決策を出す場面ではなく、状況を正確に知る場面です。
最後に、自分の仕事と重なるところを一つだけ確かめる
話を聞いているうちに、自分の仕事と近い話が出てくることがあります。そのときだけ、次のように伝えます。
「さっきの〇〇の件、私の仕事で近いことをやっています。今度もう少し詳しく聞いてもいいですか」
重なりが見つからなかったら、無理に出さなくて構いません。判断基準は一つです。「社長が自分の口で出した困りごとと、自分の仕事が実際につながるか」。つながらないのに話を寄せると、売り込みに聞こえます。その日は聞くだけで帰って、次の機会に回します。
持ち帰り用の表
| 順番 | 聞くこと | そのまま使える一言 | やってはいけない返し |
|---|---|---|---|
| ① | 会社の始まりと今 | 「この仕事は、どういうきっかけで始められたんですか」 | 「うちもそうです」と自分の話に持っていく |
| ② | いま気にしていること | 「最近、手が回っていないところはありますか」 | 答えを聞いてすぐ解決策を並べる |
| ②’ | 答えの奥 | 「それはいつ頃からですか」 | 「大変ですね」で終わらせる |
| ③ | 自分の仕事との重なり | 「さっきの件、近いことをやっています。今度詳しく聞いてもいいですか」 | 重なりがないのに、無理に自分の仕事に寄せる |
自分の説明から入ると、社長は聞き役に回って話が止まる
NG例:名刺を渡した直後に実績や作品を並べる
緊張すると、人は自分の説明で間を埋めたくなります。たとえば、名刺を渡した直後にこんな流れになります。
「ホームページ制作をしておりまして、これまでに飲食店や工務店、美容室など、いろいろな業種の制作をしております。最近はスマホ対応やSNS連携にも力を入れていて、こちらが制作した事例なんですが……」
社長は「はあ、そうですか」とうなずきます。1時間たっても、会社の話は一つも出ていない。帰り道で「ちゃんと伝えられた」とも「相手のことは何も聞けなかった」とも思う。どちらの感想も本当です。
説明から入ると、何に困っているかを聞く機会がなくなります。しゃべりすぎてしまうのは口下手だからではなく、何を聞けばいいかを習っていないからだと、私は見ています。上の質問リストがあれば、説明で埋める必要が減ります。
自己紹介は一文で足りる
自己紹介は、何をしているかと、誰の仕事が多いかの2点だけにします。
| 例 | |
|---|---|
| 長い自己紹介 | 「ホームページ制作を中心に、ロゴやチラシのデザイン、写真撮影、SNSの運用サポートまで幅広くやっておりまして、これまでいろいろな業種の方とお仕事をさせていただいています」 |
| 一文の自己紹介 | 「ホームページを作っています。地元の工務店や飲食店のお仕事が多いです」 |
長いほうは、聞き手が自分を重ねる場面がありません。一文のほうは、社長が「うちの業界は?」「うちの店は?」と質問を返しやすい。質問が返ってきたら、それが説明のタイミングです。
自分の説明は、聞かれてからで間に合う
社長から「何をされている方なんですか」と聞かれたとき。ここが、説明の出番です。それまでは出さなくて大丈夫です。
聞かれる前に話したくなったら、置き換えのルールを一つ使います。自分の説明を口にしかけたら、代わりに質問を一つ足す。
- 「実績を見せたい」と思ったら → 「御社では、いまどんな方法でお客さんを集めていますか」
- 「作れるものを言いたい」と思ったら → 「いま作り直したいものはありますか」
説明は聞かれてからで間に合います。むしろ、聞かれて答えるほうが、相手は自分から聞いた話として受け取ります。
経営者との話題に困ったら、ニュースより相手の会社の中を見る
景気やニュースの話は、どの社長とも同じ話で終わりやすい
「最近どうですか、景気は」と切り出すと、返ってくるのは「まあ厳しいね」「円安がね」といった一般論になりがちです。こちらも「そうですよね」としか返せず、話が広がりません。
相手の会社に固有の話のほうが、社長は具体的に答えやすいはずです。景気の話は誰とでもできますが、自社の話は社長にしかできません。社長が一番詳しい話題を、こちらから聞く。それが話題選びの基本だと、私は考えています。
会う前に見ておく3か所
会う前に、次の3か所を10分ほど見ておきます。
| 見る場所 | 見ること | 作れる質問の例 |
|---|---|---|
| ①会社のホームページの社長あいさつ | 社長が大事にしている言葉、会社の始まり | 「あいさつ文に『地域で長く』とありましたが、どういう思いで書かれたんですか」 |
| ②採用ページ | いま何の人を探しているか | 営業職の募集があれば →「営業の方を探されているんですね。どのあたりが一番必要ですか」 |
| ③SNSやお知らせ欄の最近の投稿 | 最近の動き、新しい取り組み | 「先月、新しい店舗の案内を出されていましたね。反応はいかがでしたか」 |
見たことを全部話す必要はありません。質問を2つ、メモに書いて持っていくだけで、会話の最初の数分が楽になります。
初回は避けたほうがいい話題
- 政治・宗教:立場が分かれやすく、仕事の話の前に距離ができるため。
- 同業他社の悪口:社長がその会社と付き合いがある場合もあり、聞き手の印象が下がるため。
- いきなり予算を探る質問:まだ困りごとを聞いていない段階で金額を聞くと、売り込みの前置きに聞こえるため。
仕事の話を切り出すときは、頼まずに近況として伝える
「お仕事ください」と言わなくていい
切り出せない型の人に渡したい許可があります。頼まずに、近況を伝えるだけでもいい。
「お仕事ください」と言うと、頼む側と頼まれる側に分かれます。対等でなくなる気がするのは、そのためです。けれど、近況を伝えるだけなら、頼んでいません。「最近こんな仕事をしています」は、雑談の延長で言えます。
たとえば、社長が人手の話をしたあとに、「そういえば、最近はこういう会社さんの仕事が増えているんですよ」と話す。社長が興味を持てば、向こうから「それ、うちでもできる?」と聞いてくることもあります。聞かれたら、そのとき初めて説明します。
そのまま使える一言の例
- 「最近は〇〇のような会社さんの△△をお手伝いすることが増えています」
- 「もし近いことでお困りの方がいたら、気軽に声をかけてください」
売り込みに聞こえる言い方との比較です。
| 売り込みに聞こえる | 近況として伝わる |
|---|---|
| 「ぜひうちに任せてください。安くしますよ」 | 「最近は、御社のような工務店さんの写真撮影が増えています」 |
| 「何かあれば仕事をください」 | 「近いことでお困りの方がいたら、気軽に声をかけてください」 |
| 「できることは何でもやります」 | 「私がやっているのは、ホームページの作成と更新です」 |
左は、相手に判断を迫る言い方です。右は、情報を置いているだけです。置いた情報を、拾うかどうかは社長が決めます。
その場で返事をもらおうとせず、次に会う理由を一つ残す
その場で返事をもらおうとすると、断られる怖さが先に立ちます。返事は求めず、次に会う理由だけを一つ残して帰ります。
「さっきの採用の件、参考になりそうな事例があったらお送りしますね」
この一言で、次に連絡する理由ができます。約束は一つだけ。いくつも作ると、守れなかったときに負担になります。次につながる約束を一つだけ作って帰る、これが初回の仕上げです。
話したあとにやること|当日中のお礼と、次に聞くことのメモ
当日中にお礼を送り、聞いた話を一行入れる
お礼は当日中に送ります。そのとき、聞いた話を一行入れます。
- NG:「本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。」
- OK:「本日はありがとうございました。〇〇を始められたきっかけのお話、印象に残りました。」
NGの文面は、誰に送ってもそのまま通じます。だから、誰が送ったかも残りません。OKの文面は、その社長との会話でしか書けません。一行入れるだけで、ちゃんと聞いていたことが伝わります。
聞いた話をメモに残す
会った当日のうちに、次のメモを残します。
- 会社のいま(業種、お客さん、規模感)
- 社長が気にしていること(言葉をそのまま)
- 自分の仕事と重なりそうなところ
- 次に聞くこと
社長の言葉は、要約せずにそのまま書いておきます。次に会ったとき、その言葉を使って聞けるからです。メモを残しておけば、次もいちから組み立て直す手間が減ります。
次に会うときに聞くことを一つ決めておく
2回目は、前回の話の続きから入ります。
「前回お話しされていた〇〇、その後どうなりましたか」
この一言で、初回の「聞く順番」が2回目以降につながります。社長にとっては、自分の話を覚えていてくれる人になります。
初回の順番を、そのあとの営業全体の流れにどうつなぐかは、フリーランスの営業の進め方にまとめています。会って話すだけで終わらせず、次に会う理由を作る。その積み重ねが、仕事の入る流れになります。
社長との話し方は、貫禄や話題の量では決まりません。会社のいまの様子、気にしていること、自分の仕事との重なり。この3つを順に聞く。それだけで、対等なまま話せます。
よくある質問
社長と何を話せばいいか分からないときはどうすればいいですか?
話題を用意するより、会社のいまの様子、社長が気にしていること、自分の仕事と重なるところ、の順に聞きます。聞く順番があれば、話題が少なくても会話は続きます。
経営者と話すとき、ニュースや経済の話題は必要ですか?
初回はなくても困りません。景気の話は一般論で終わりやすいので、相手の会社のホームページや採用ページから作った質問のほうが、具体的な話になります。
社長に仕事の話を切り出すタイミングはいつですか?
相手の困りごとを聞いたあと、自分の仕事と重なるところが見つかったときです。頼む形ではなく「最近こういう仕事が増えています」と近況として伝え、その場で返事は求めません。
社長相手に緊張して自分ばかり話してしまいます。どう直せばいいですか?
口下手のせいではなく、何を聞くか決めていないから説明で埋めてしまうのだと思います。話したくなったら質問を一つ足すと決めておき、自己紹介は一文で済ませます。
初めて会った社長に、会ったあと何を送ればいいですか?
当日中にお礼を送り、聞いた話を一行入れます。次に会う口実として、話に出た件に関係する情報を送る約束を一つ残しておきます。
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