対面営業・商談
キャンセル料の決め方と伝え方|揉めない書き方
このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
キャンセル料を書けないのは、がめつく思われたくないからではない
見積書の金額欄は埋められるのに、末尾のキャンセル料の欄だけ空欄のまま送ってしまう。予約制の仕事なら、日程を押さえたところで「もしキャンセルになったら」の一言が言えないまま、当日を迎えてしまう人もいます。
相手を信じていないと思われるからではありません。キャンセル料を書いた瞬間、自分がお金にうるさい人になった気がするからです。
値段が言えない型かもしれません。金額を言うことが自分の値打ちを言うことになっていて、口に出せない型です。キャンセル料も同じで、「いくら」と書いた瞬間に、自分の人間性まで値踏みされる気がしてしまいます。
でも、キャンセル料は罰金ではありません。空けた時間と、そのために動いた分の条件です。値段は自分の価値の点数ではなく仕事の条件で、キャンセル料も「いくらの自分か」ではなく「いくらの損害か」の話です。
このページで知りたいのは、結局いくらにすればいいかだと思います。答えはシンプルで、金額は「キャンセルで実際に出る損害」を基準に決めます。法律も同じ物差しで見ていて、消費者相手の契約では、事業者に生じる平均的な損害を超える部分は無効になります。つまり、損害に見合う額なら堂々と書いていいということです。
金額そのものの伝え方はお金の伝え方の基本に譲り、この記事はキャンセルという条件の決め方と書き方に絞ります。
金額の出し方|キャンセルで失うものを3つに分けて足す
キャンセル料の金額は、感覚で決めると必ず迷います。迷わないコツは、失うものを3つに分けて、それぞれ額を出してから足すことです。

- すでに動いた分 — 下調べ、打ち合わせ、仕入れ、外注の手配
- 空けた枠が埋まらなかった分 — その日程のために他の仕事を断っていた場合の機会損失
- 元に戻す手間 — 返品、再手配、キャンセルの連絡そのものにかかる手間
②の考え方は、法律事務所の解説がそのまま使えます。「予約がキャンセルされていなければ事業者が得られた粗利益額」に「予約されていた日に別の申込者が出ずに売上が得られない確率」を掛ける、という考え方です。直前のキャンセルほど別の予約が埋まる確率は下がるので、直前ほど額が上がる理屈がここから説明できます。
毎月の保守や顧問料のような継続契約の場合は、「キャンセルした顧客の契約残存期間」に「1か月のサービス提供で得られる粗利益」を掛けるのが考え方の一例です。ただし残りの契約期間の全額を取る前提ではなく、実際の損害に見合う範囲で考えます。
具体例として、1日拘束の撮影や施術、研修のような仕事で前日キャンセルが出た場合を考えます(数字は説明のための一例で、相場ではありません)。準備にかけた半日分と、埋まらなかった1日分を足す、というように内訳を言葉で説明できる形にします。
やってはいけないのは、「気持ちの問題で何%か」「なんとなく何%か」のように割合だけで決めることです。内訳を説明できない額は、聞かれた瞬間に言葉が詰まり、そこでまた値段が言えない型に戻ってしまいます。
時期で区切る3段階表|前日100%が揉める理由
金額が出たら、時期で区切ります。段階は3つで十分です。5段階以上にすると、相手も自分も覚えられません。

| 時期 | 目安の額 | 理由 |
|---|---|---|
| 申込後〜○日前 | 動いた分のみ | まだ枠の埋め直しがきく |
| ○日前〜前日 | 動いた分+枠の一部 | 埋め直せる確率が下がっている |
| 当日・無断 | 動いた分+枠の全部 | 埋め直しがきかない |
○日前の「○」は業種や準備にかかる時間で変わるので、自分の仕事に当てはめて決めます。
ここで法律の話を一つ挟みます。相手が個人(消費者)の場合、消費者契約法により、解除の時期などの区分ごとに、事業者に生じる平均的な損害を超える部分のキャンセル料条項は無効になります。「前日100%」「申込後は返金不可」がよく揉めるのは、この基準に照らして実際の損害を超えている場合があるからです。
業種によっては、特定商取引法でサービス提供開始前のキャンセル料に上限が決まっています。エステ2万円、語学教室1万5千円、家庭教師2万円、学習塾1万1千円、パソコン教室1万5千円、結婚紹介サービス3万円が例として挙げられています。講師業や施術業をしている方は、自分の仕事がここに当たらないか先に確認してください。
相手が会社の場合は消費者契約法の対象外なので、法律で自動的に上限が決まるわけではありません。ただし同じ物差し(実際に出る損害)で額を決めておくと、相手の担当者が社内で説明しやすく、揉めにくくなります。
なお、自分の契約が消費者契約に当たるか、業種の上限に当たるかは個別の事情で変わります。法務の判断は本記事では踏み込まず、専門家に相談してください。
キャンセルポリシーの例文|そのまま貼れる3パターン
決め方が固まったら、文章にします。まずは自分の仕事に近いものを1つ選んでください。
パターン①|見積書の末尾に入れる短い版(2〜3行)
日程確定後のキャンセルは、着手済みの作業分を実費でご請求します。○日前以降のキャンセルは、○○(金額または算出方法)を申し受けます。
まずはこの1行から始めるだけで十分です。
パターン②|契約書・発注書に入れる版
キャンセル料は、ご連絡いただいた時期に応じて以下のとおりとします。 ・申込後〜○日前:着手済みの作業実費 ・○日前〜前日:着手済みの作業実費+○○ ・当日・無断キャンセル:着手済みの作業実費+○○ キャンセルのご連絡は書面(メール可)でお願いします。ご連絡をいただいた日を基準日とします。
「連絡日を基準日とする」の一文を忘れないでください。基準日が曖昧だと、後で「言った・言わない」で揉めます。
パターン③|予約制サービス(施術・講座・撮影)向けの版
ご予約前日の○時までのご連絡はキャンセル料はいただきません。それ以降のキャンセルは○○を申し受けます。当日キャンセル・無断キャンセルは○○とさせていただきます。
予約制は日付だけでなく時刻まで書きます。「前日」とだけ書くと、前日の夜が無料なのかどうかで揉めます。
どのパターンにも、次の5つを入れてください。いつから/いくら/何の穴埋めか/連絡方法/振替の有無です。振替(日程変更)を無料で受けるなら明記しておくと、相手が「キャンセル」ではなく「変更」を選べるようになります。
NG例も挙げておきます。
- 「キャンセルは一切お受けできません」→ 現実には受けることになるので、後で信用を落とします
- 「実費をご請求する場合があります」→ する・しないが読めず、請求のたびに揉めます
- 「諸事情によりキャンセル料をいただくことがございます」→ 何も決めていないのと同じです
伝え方|見積と一緒に出す。あとから言わない
キャンセル条件は、見積を出すタイミングと同時に渡します。日程が確定してから、あるいは契約の直前になって出すと、金額が小さくても「後出し」に見えてしまいます。最初から書いてあれば条件、あとから足すと請求に読まれます。

口頭で添える一言はこのくらいで十分です。
「日程を押さえる分の条件を、見積書に書いています。○日前までのご連絡なら無料です」
無料になる範囲を先に言うと、相手は身構えずに読めます。
メールで見積を送るときは、添付の末尾に書くだけでなく、本文にも一行入れてください。
「キャンセルにつきましては、見積書の末尾に記載しております」
本文で触れずに添付の末尾だけに書くと、読まれていないまま話が進み、実際にキャンセルが起きたときに「聞いていない」と言われてしまいます。
NG例です。キャンセルが起きてから初めて条件を口にする、口頭だけで済ませて書面に残さない、相手が読み飛ばしそうな小さな文字で末尾に置く。どれも、条件を「隠していた」ように見えてしまう点で同じです。
言い方に気が引ける場合は、言葉を変えるだけで印象が変わります。「キャンセル料をいただきます」ではなく「日程を確保する条件です」。同じ内容でも、相手の枠を守るための話として伝わります。
実際にキャンセルされたとき|請求する・しないの判断基準と言い方
決め方の話はここまでですが、実際に揉めるのはキャンセルが起きた後です。請求するかどうかを毎回悩まないために、判断基準を3つ持っておきます。

- 実際に損害が出ているか(動いた分、埋まらなかった枠があるか)
- 事前にポリシーを渡してあったか
- この先も続く相手か
事前にポリシーを渡していなかった場合は、請求の根拠を示しにくくなります。無理に取ろうとせず、こう伝えます。
「今回はキャンセル料をいただきません。次回のご依頼からは、○○の条件でお願いできればと思います」
ここで初めて金額を言うと後出しになってしまうので、取らない代わりに次回の条件を渡す、という形にします。
事前にポリシーを渡してあった場合の請求メールは、責めずに、条件の確認として書きます。
「○月○日にご連絡いただきましたキャンセルにつきまして、事前にお伝えしておりました条件のとおり、○○をご請求いたします。内訳は、準備分として○○、空いた日程分として○○となります」
理由を聞かず、内訳だけを書きます。相手のキャンセルの事情に感想を返す必要はありません。
取らないと決めたときは、必ず「今回は」を付けます。「今回はキャンセル料をいただきません」と書けば、次回の条件は消えません。「お気になさらず」だけで済ませると、条件そのものが無かったことになってしまいます。
請求メールに「申し訳ありませんが」を3回も入れると、謝るほど条件が弱く見えます。怒りをにじませるのも逆効果です。事実と内訳だけを、淡々と書くのが一番揉めません。
今日やること|見積テンプレに1行足すだけ
最初からすべてを決めなくて大丈夫です。今日は、手元の見積テンプレの末尾に、パターン①の2〜3行を足すところから始めてください。時期で区切った3段階表を仕上げるのは、次の見積で構いません。1行あるだけで、「条件を出せる人」になります。
持ち帰り用のチェックリストです。
- □ いつから(日付・時刻)を書いたか
- □ いくらか、内訳が言えるか
- □ 何の穴埋めかを説明できるか
- □ 連絡方法と基準日を書いたか
- □ 振替の扱いを書いたか
- □ 個人客が相手なら、実際の損害を超えていないか
- □ 業種の上限に当たらないか
- □ 見積と同時に出したか
値段が言えない型から抜ける最小行動は、次に出す見積1通だけ、キャンセル条件を書いて送ることです。私の経験では、相手の反応は多くの場合「分かりました」のひと言で終わります。
最後の選択は自分で決めてください。額も段階も、正解は一つではありません。ただ「書かない」という選択だけは、相手にも自分にも条件が無い状態を残してしまいます。
よくある質問
キャンセル料は何%にするのが妥当ですか?
割合に正解はなく、キャンセルで実際に出る損害(動いた分・埋まらなかった枠)が基準。個人客相手では平均的な損害を超える部分は無効になりうる。内訳を言葉で説明できる額にする
キャンセルポリシーを書いていなかった場合、キャンセル料は請求できますか?
事前に渡していないと請求の根拠を示しにくい。今回は取らず『次回から○○の条件で』と条件を渡す方が揉めない。法的に請求できるかの個別判断は専門家へ
前日キャンセルで100%請求すると書いていいですか?
個人客相手だと実際の損害を超える部分が無効になりうる。会社相手でも、なぜ100%なのかを内訳で説明できる場合だけにする。直前ほど枠が埋まらない確率が上がる、という理由が言えるかで判断
フリーランスが契約書にキャンセル料を入れるのは失礼ですか?
失礼ではなく仕事の条件。見積と同時に出せば後出しにならず、『日程を確保する条件です』と添えれば相手の枠を守る話として伝わる
キャンセル料を請求するメールはどう書けばいいですか?
責めず、事前に伝えた条件の確認として書く。連絡日・条件・内訳の3点だけ。理由を聞かない、謝りすぎない。取らない場合は必ず『今回は』を付けて次回の条件を残す
参照した情報源
- 違約金条項は無効?消費者契約法9条の概要と要件を解説(BUSINESS LAWYERS)・確認日 2026-09-12
- 消費者契約法で無効にならないキャンセル料条項の作り方【高額キャンセル料トラブルに注意】(咲くやこの花法律事務所)・確認日 2026-09-12
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