対面営業・商談
「予算がない」と言われたときの返し方と例文
このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
「予算がない」は断り文句ではなく、順番が違ったという合図
見積を出した直後、相手が少し黙ってから「今期は予算がなくて」と言う瞬間があります。頭に浮かぶのは「高いと思われた」ではなく「自分の仕事はこの金額の価値がなかった」という判決かもしれません。
ここでやることは1つです。金額を下げる前に、「予算がない」の中身を①原資そのものがない②今期の使い道が決まっている③決める人が別にいる、の3つに切り分けます。原因が違えば、返す言葉も変わります。
金額を口に出すのが苦手なだけかもしれません。金額を口にすることが、自分の値打ちを言うことのように感じてしまい、内訳も含めて数字の話がしにくくなることがあります。
ただ、金額が高いから断られたわけではありません。その金額を払う理由が、相手の中でまだ言葉になっていないから、「予算がない」という言葉が出てきます。
予算は「ある」か「ない」かではなく、「何に割り当てるか」で決まるものです。「予算がない」は、あなたの仕事が相手の割り当て先の一覧に、まだ入っていないという意味に近いです。
この場面は業種を選びません。デザイナーでも、エンジニアでも、士業でも、施術者でも、見積を出した後の沈黙は同じ形で来ます。値段が言いにくい性格を直す必要はありません。直すのは性格ではなく、値段の伝え方の順番です。
内訳を分けずに総額だけを出す見積書は、相手にとって値段の話しかできない紙になります。値段が言いにくい人ほど、細かい説明を省いて総額だけ出してしまう傾向があります。
例えば、その場で「いくらなら大丈夫ですか」と聞き返すのはやめたほうがいいです。値引き交渉の入口になってしまい、仕事の中身の話には戻れなくなります。
次の章で、この3つの切り分け方を具体的に見ていきます。
まず切り分ける:本当にお金がない/今は順番が後ろ/決める人が別にいる
「予算がない」という一言の中身は、大きく3つに分かれます。

- ①原資そのものがない
- ②原資はあるが、今期の使い道はもう決まっている
- ③目の前の人には決める権限がない
聞き分けるのに便利な一言があります。
「今期はもう使い道が決まっている感じでしょうか。それとも、そもそもここに枠を作るのが難しい感じでしょうか」
返ってきた言葉で、だいたい判別がつきます。
| 返ってきた言葉 | 濃いのはどれか |
|---|---|
| 「今期は厳しい」 | ②今期の使い道が決まっている |
| 「うちはそういうのにお金をかけていない」 | ①原資がない |
| 「上に聞いてみます」「社内で相談します」 | ③決める人が別にいる |
判別を間違えると、対応がずれます。原資がない相手に「範囲を分けましょう」と持ちかけると、金額の話を続けたがっているように見えて距離を置かれます。逆に、決める人が別にいる相手に「今回は難しそうですね」とすぐ引いてしまうと、まだ動く可能性があった話を自分から閉じることになります。
決める人が別だと分かったときに、絶対にやってはいけないことがあります。その場で値引きして再提出することです。決める人が見るのは金額の理由であって、下がった数字ではありません。
返ってきた言葉が2つにまたがることもあります。「今期は厳しいですし、上にも確認が要ります」のような場合は、②と③が同時に起きています。この場合は③を優先して扱ってください。決める人が納得すれば、今期の枠が動くこともあるからです。
判別は1問で終わらせます。3問続けて聞くと、尋問のようになってしまいます。
①本当に原資がないとき:追わずに、条件だけ置いて引く
ここで粘るのは、相手にとっても自分にとっても損です。ただ、「縁がなかった」で終わらせると、次の接点が作れません。
条件だけ置いて引く言い方です。
「今のご状況だと今回は難しそうですね。次にこの話が動くとしたら、どういうタイミングになりそうでしょうか」
決算月、期初、繁忙期明けなど、相手の口から時期を出してもらい、その月にこちらから連絡すると決めておきます。
メモに残すのは次の項目だけです。
- 相手の名前
- 断られた日
- 出た金額
- 出た理由
- 次に触る月
「またご縁がありましたら」で締めるのはやめたほうがいいです。この一言を最後に置くと、連絡する口実が消えてしまいます。何も条件を置かずに「そうですか、また機会があれば」とだけ返すのも同じです。丁寧に見えて、相手の記憶からは早く消えます。
②今期の使い道が決まっているとき:金額ではなく「範囲」を動かす
値引きと縮小は別物です。ここを混同すると、下げた金額がそのまま次回の基準になってしまいます。

| 値引き | 縮小 | |
|---|---|---|
| 変えるもの | 金額 | 範囲 |
| 次回の基準 | 下がった金額が基準になる | 単価は変わらない |
| 相手に残る印象 | 「まだ下がるかもしれない」 | 「今回はここまで」で区切りがつく |
分け方の実例です。
- 制作系:「全部で◯◯万円」を「今回はこの1本だけ、残りは次期」に割る
- 継続系:「月◯万円×12か月」を「まず3か月」に割る
- 士業や顧問契約なら「年間契約」を「まず四半期」に割る
そのまま使える言い方です。
「金額を下げるより、今期にやる分を小さくするほうが後で困らないと思います。今期はここまで、残りは期が変わってから、という分け方はできますか」
ダイヤモンド・オンラインの記事では、断り文句への切り返しとして「こういうプランもあります」「ご予算に合う商品(サービス)があります」という言い方が挙げられています。本記事では、これを金額そのものを下げる話ではなく、範囲を絞った選択肢を出す話として扱います。
削る箇所は、最初にこちらで決めて持っていきます。相手に「どこ削れますか」と丸投げすると、全部が値切りの対象になってしまいます。デザイナーなら「バナー3点を1点に」、エンジニアなら「機能を5本から2本に」というように、削る単位を先に提示してください。
それでも「それでもまだ高いです」と返されることがあります。ここでもう一段値引きするのではなく、範囲をさらに削れるかを聞きます。「今のご予算だと、この中の1本だけに絞る形も可能です。その場合、優先順位をつけていただけますか」。金額を下げる代わりに、選ぶのは相手だという流れに戻します。
③決める人が別にいるとき:目の前の人が社内で説明できる材料を渡す
このとき、目の前の相手は敵ではなく代弁者です。相手が上司に言うための一文を、こちらが用意します。

渡すのは次の3点です。
- やる理由(何に困っているか)
- やらなかった場合に続くこと
- 金額の内訳(人・回数・期間に分けた形)
「やらなかった場合に続くこと」は、具体的な一文にしてください。「このままだと、来期も同じ課題への対応に、社内の時間が取られ続けます」のように、放置した場合の状態を書きます。困りごとが漠然としたままだと、社内で説明する側も言葉に詰まります。
メールで送る例文です。
「社内でご説明されるときに使えるよう、目的と金額の内訳を1枚にまとめました。足りない項目があれば書き足します」
内訳は「総額◯◯万円」ではなく、「初期の設計◯万円+制作◯本×◯万円+公開後の修正◯か月」のように、減らせる単位が見える形にします。
資料を渡さないと、相手は社内で「なんとなく良さそうだった」としか言えず、説明されないまま話が流れてしまいます。その場で「じゃあ安くします」と即答するのも避けたほうがいいです。決裁者に伝わるのは金額の数字ではなく、金額の理由です。
資料を10枚送るのもやめたほうがいいです。社内で回りやすいのは1枚程度です。多いほど、説明されないまま止まりやすくなります。
そのまま使える返し方の例文集(言われた言葉別)
言われた言葉ごとの返し方です。
- 「予算がなくて」→「今期の使い道がもう決まっている感じでしょうか。それなら、今期にやる分を小さくする分け方も出せます」
- 「思っていたより高いです」→ いくらで考えていたか聞く前に、「どこまでを含んだ金額として見ていましたか」と範囲を確認する
- 「他社はもっと安かった」→「同じ範囲での比較か、確認させてください。うちの金額には◯◯が入っています」(下げる話はしない)
- 「来期なら」→「では来期のいつ頃、どなたと決める話になりますか」(時期と人をその場で確定させる)
- 「社内で検討します」→「検討のときに聞かれそうなことがあれば、先に用意します。いつ頃までにお返事いただけそうですか」
- 「今は難しいです」→「差し支えなければ、難しい理由をお聞きしてもいいですか。金額か、時期か、他の事情かで、こちらの提案も変わります」
共通ルールは1つです。値段の話をされたら、値段以外に一度戻します。戻す先は「範囲」か「時期」か「決める人」の3つだけです。
この3つのどれかに戻せば、会話は値切り交渉ではなく、条件のすり合わせに変わります。値段の話だけを続けると、相手も自分も逃げ場がなくなり、最後は下げるか諦めるかの二択になります。
どこに戻すかで迷ったら、次の対応表を使ってください。
| 相手の言葉 | 戻す先 |
|---|---|
| 「予算がなくて」「思っていたより高い」 | 範囲 |
| 「来期なら」「今は難しい」 | 時期 |
| 「社内で検討します」「他社は安かった」 | 決める人・比較の前提 |
範囲・時期・決める人のどれに戻すか迷ったときは、まず「範囲」から確認するのが安全です。範囲がずれていると、時期や決裁者の話をしても、また金額の話に戻ってきてしまいます。
言われる前に減らす:見積の出し方で「予算がない」は減らせる
原因の多くは、提出物の側にあります。総額1行の見積は、金額の話しかできない紙になります。相手が「検討します」としか言えないのは、多くの場合、範囲か決裁者か期限のどれかを、こちらが聞けていなかったサインです。
見積は3段に分けて出します。
- やること
- 回数・期間
- 金額
最低限やる案と、推したい案の2案を最初から並べます。ありがちなNG例は、合計金額だけを大きく書いて、内訳を別紙にも書かないことです。中身が見えない金額は、削りようがなく、断るか受けるかの二択になります。
出す前に、次の3点を確認しておきます。
- 相手が使える上限を聞いているか
- 決める人を聞いているか
- いつまでに決めたいかを聞いているか
3つとも聞けていないまま出した見積は、返事が来ないか、「予算がない」で返ってくることが多いです。「とりあえず概算だけ欲しい」と言われた場合も同じです。概算にも「これは上限を含んだ幅なのか、最低限の金額なのか」を一言添えておくと、あとで金額だけが独り歩きするのを防げます。
金額の伝え方の順番にも関わりますが、口頭で金額に触れる順番は、先に範囲の合意、次に金額です。金額を先に出すと、範囲の話には戻れなくなります。
直近の見積を、この3点で採点してみてください。
- 相手が使える上限を聞いた
- 決める人を聞いた
- いつまでに決めたいかを聞いた
2つ以下しか埋まらないなら、次の見積から変えられます。
断られたあとの1本の連絡で、来期の話にする
その日のうちに、3〜4行の短いメールを送ります。内容は次の3つだけです。

- 聞けた事情の確認
- こちらが理解した範囲
- 次に連絡する時期
例文です。
「本日はありがとうございました。今期は使い道が決まっているとのこと、承知しました。◯月頃また状況を伺えればと思います。それまでに参考になりそうな事例があればお送りします」
相手が時期をはっきり言わなかった場合は、無理に聞き出そうとせず、こう添えます。
「差し支えなければ、大体の時期感だけでも教えていただけますか。難しければ、こちらから半年後を目安にご連絡します」
やってはいけないのは、値引き案をその日に追撃で送ることです。断った直後の値引きは、最初の金額が適当だったという意味になってしまいます。
断った相手は、月ごとの一覧にしておきます。名前・断られた日・理由・次に連絡する月の4列だけで十分です。
その月に1本だけ連絡します。件数は月3件を目安にすると、続けやすくなります。
1年後に受注になった相手は、断られた日に次の月を決めておいた相手であることが多い、というのが実務での感覚です。この1本を送るかどうかだけで、半年後・1年後に声をかけられる相手の数が変わります。断られた日の対応は、負けた場面ではなく、次の順番を決める場面だと考えてください。
よくある質問
「予算がない」と言われたら値引きすべきですか
下げないほうがいいです。値引きは同じものを安くする行為で、次回以降も同じ金額でしか買われなくなります。下げるのは金額ではなく、今期にやる範囲です。削る箇所はこちらで決めて持っていきます。
「予算がない」は本音ですか、断り文句ですか
どちらかを当てにいかず、①原資がない②今期の使い道が決まっている③決める人が別、の3つに切り分けます。1問だけ聞いて判別してください。返ってきた言葉で手当てが変わります。
予算を先に聞くのは失礼になりませんか
金額そのものではなく、範囲と時期と決める人を聞きます。「どこまでを含んだ形で考えていますか」「いつ頃までに決めたいですか」なら、値踏みにならず相手も答えやすくなります。
「上に相談します」と言われたあと、どうすればいいですか
目の前の人は代弁者です。社内で回る1枚を渡します。やる理由、やらなかった場合に続くこと、人と回数と期間に分けた金額の内訳の3点です。資料を増やすほど説明されないまま止まりやすくなります。
断られたあと、いつ連絡すればいいですか
時期を相手の口から出してもらい(決算月・期初・繁忙期明けなど)、その月に連絡すると当日のメールで宣言しておきます。「またご縁があれば」で締めると、連絡する口実が消えてしまいます。
参照した情報源
- トップセールス1800人の結論!断り文句を突破する「5つの切り返し法」とは?(ダイヤモンド・オンライン)・確認日 2026-09-09
本記事は、当編集部の制作基準——出典との照合・表現・重複の多段検証——を通過したものだけを公開しています(下書きにはAIを活用)。 仕組みの詳細は編集プロセスの開示をご覧ください。