対面営業・商談
元請けへの単価交渉|付き合いを続けたまま、単価の話を切り出す
このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
元請けに単価の話を切り出すには、条件の見直しとして1枚で渡す
答えを先に:方法は1つだけ
この記事で渡す方法は、1つだけです。
条件が変わった事実を1枚にまとめて、次の発注の前に渡す。
お願いとして頭を下げるのではなく、仕事の条件の見直しとして出します。以降の話は、この1つを支える材料です。
見積欄の手が止まる場面
何年も付き合いのある元請けから、次の発注が届く。見積欄を開くと、去年と同じ数字が入っている。その数字を打ち直そうとして、手が止まる。
「言ったら切られるかもしれない」という不安はあると思います。ただ、その手前にもう一つある場合があります。単価を上げてほしいと言うのは、自分にそれだけの値打ちがあると言い張るみたいで、口に出せない。この感覚です。
値段が言えない型かもしれません
値段が言えない型に近いかもしれません。金額を言うことが自分の値打ちを言うことになっていて、単価の話をしようとすると、自分の点数を申告している気がする型です。
腕の問題ではなく、金額の話し方を教わる機会がなかった、という人が多いと私は見ています。
単価の話ができない理由は、交渉の上手下手より、単価を「自分の価値の点数」のように感じてしまうことにある、という人が多いように見えます。ただ、単価は点数ではなく、仕事の条件です。条件の話なら、腕とは切り離して話せます。家賃や納期と同じ、取り決めの一項目です。
謝りながら切り出すと、何が起きるか
よくある切り出し方がこれです。
いつもお世話になっているのに申し訳ないのですが、もし可能であれば、ほんの少しだけ単価を見直していただけると…
謝りながら、金額も下げ気味に言う。気持ちは分かります。ただ、謝る形にすると、相手にも「無理なお願い」として届きやすくなります。無理なお願いは、断っていいものとして受け取られやすいと私は見ています。
切り出せないまま受け続けると、何が積み上がるのか
同じ単価が「相手側の前提」になっていく

「仕事は来ているから、今のままでいい」。そう考えて先送りするのは自然です。ただ、先送りが続くと、同じ単価は相手にとって「この人はこの額で受ける人」という前提になっていきやすくなります。相手が悪いわけではなく、何も言われなければ、条件は変わっていないと受け取られやすいからです。
ここで言いたいのは「このままだと危ない」ではありません。いまは条件が見直されないまま続いている、という状態の説明です。
時間がたつほど言いにくくなる理由
1年目より3年目のほうが切り出しにくくなりやすいと、私は見ています。据え置いた年数そのものが「今さら言うのか」という重さになるからです。
順番としてはこうです。
- 最初は「まだ慣れていないから」と据え置く
- 次は「相手も忙しそうだから」と据え置く
- そのうち「何年も言わなかったのに」と自分で止める
言いにくさは、能力より据え置いた年数で増えていくと私は見ています。だから、思い立った日が一番早い日です。
時間あたりに直すと何が起きているか
次は架空の例です。金額は置かず、考え方だけを示します。
- 数年前:1件の単価はいまと同じ。作業時間は短かった
- いま:単価は同じ。修正とやりとりが増えて、作業時間が伸びた
式はこれだけです。
単価 ÷ 実際にかかった時間 = 時間あたりの単価
単価の数字は動いていなくても、割る側の時間が増えた分だけ、時間あたりの単価は下がります。自分の案件で、単価と実際にかかった時間を当てはめて計算してみてください。この「下がっている部分」が、次の節で言う「仕事の中身が変わった事実」になります。自分の点数の話ではなく、計算の話です。
単価の話は「お願い」ではなく「条件の見直し」として出す
お願いと、条件の見直しの違い

| お願い | 条件の見直し | |
|---|---|---|
| 理由 | 自分の事情(生活が厳しい等) | 仕事の中身の変化 |
| 言い方 | 申し訳ないのですが… | 見直しのご相談です |
| 相手の受け取り(想定) | 断っていいもの | 検討するもの |
自分の事情を理由にすると、相手は「それは大変ですね」としか返しにくくなります。仕事の中身の変化を理由にすると、相手は「なるほど、では検討します」と返せます。返事の選択肢が変わります。
元請けの担当者も、社内に説明する立場にある
これは実務上の見方で、すべての会社に当てはまるとは言えません。ただ、元請けの担当者が単価を上げる場合、上の人に「なぜ上がるのか」を説明する場面が出てくることが多いと思います。
そのとき、担当者が手にできる材料があると話が進みやすくなります。口頭で「上げてください」と言われただけでは、担当者は説明に困ります。1枚のメモは、自分のためだけでなく、担当者が社内で話すための材料にもなります。
条件として出せる材料の例
自分の案件に当てはまるものに丸を付けてください。
- □ 作業範囲が広がった(最初の依頼になかった作業が、いつの間にか含まれている)
- □ 修正回数が増えた(以前は1回で済んだものが、2〜3回になっている)
- □ やりとりの手間が増えた(打ち合わせ・確認・資料の再提出)
- □ 材料費・外注費が上がった(工務店なら資材高騰)
- □ 納期が短くなった
- □ 追加工事や仕様変更が、見積に含まれないまま増えた(工務店・工事系の場合)
丸が1つもつかなければ、いまは見直しの時期ではないかもしれません。1つでも付けば、それが根拠になります。
金額を仕事の条件として伝える考え方は、こちらの記事にもまとめています。
切り出す前に作る「見直しメモ」1枚の中身
メモに書く4項目

- 今の単価と、いつから変わっていないか
- この期間に変わった仕事の中身(範囲・回数・時間)
- 見直し後の単価と、いつの発注から適用したいか
- 変えないもの(品質・納期の守り方・対応の早さ)
A4で1枚、長くても半ページで足ります。長くなるほど「交渉の書類」に見えてしまうので、短くします。
見直しメモのテンプレート(空欄つき)
今後のお取引条件について(見直しメモ)
① 現在の単価:____円(__年__月から変更なし)
② この間に変わった仕事の内容 ・________(例:作業範囲が○○まで広がった) ・________(例:修正が平均_回になった) ・________(例:確認のやりとりが増えた)
③ 見直し後の単価と適用時期 A案:____円(__月のご依頼から) B案:____円(__月のご依頼から)、その後____円(__月から)
④ 変わらないこと ・品質の基準と納期の守り方 ・ご連絡への対応の早さ ・________
④「変えないもの」を必ず書く理由
単価の話で相手が一番気にするのは、金額そのものより「付き合い方が変わるのか」だと私は見ています。単価を上げたら、対応が雑になるのか。距離を置かれるのか。そう思わせないために、変えない部分を先に見せます。
変えないものが書いてあれば、「これは関係を切る話ではなく、条件の整理の話だ」と伝わりやすくなります。
金額の出し方:2案を用意して選んでもらう
一気に大きく上げる案(A案)と、段階を分ける案(B案:今回と次回で分けて上げる)の2つを用意します。1案だけだと「受けるか断るか」の二択になります。2案あれば「どちらがいいか」の相談に変わります。
具体的な上げ幅の相場は、この記事では書きません。根拠がないからです。代わりに、自分の計算の出し方だけ示します。
- 前の節の式で、いまの時間あたり単価を出す
- 以前の時間あたり単価(または、これなら受けたいという水準)を決める
- 実際にかかっている時間に掛けて、A案の金額にする
- B案は、その金額に2回に分けて近づける
いつ、どう切り出すか——付き合いを続けたままの言い方
タイミングは「次の発注が来る前」

発注が届いてから言うと、「この案件を値上げされた」と受け取られやすくなります。案件が一段落したあとや、年度・期の変わり目の前に、「来月以降のご相談」として出します。
順番は次のとおりです。
- 案件が一段落したタイミングで、会うか電話で一言伝える
- そのあとで、見直しメモをメールで送る
- 次の発注が来る前に、返事をもらう
会って一言伝えてから、メモを送る
メールだけで単価の話を送ると、文面が独り歩きします。先に顔を見て(電話やオンラインでも構いません)一言伝えておくと、あとから届くメモが「さっきの話の資料」になります。会って信頼を積むという営業の順番は、単価の話でも同じです。
そのまま使える切り出し文(口頭版)
いつもありがとうございます。次のご依頼の前に、条件の見直しについて一度ご相談させてください。10分ほどお時間いただけますか。
内容には触れず、時間の確保だけをお願いします。内容は、そのあとメモを見せながら話します。
そのまま使える切り出し文(メール版)
件名:今後のお取引条件についてのご相談
○○様
いつもお世話になっております。__です。
先日お伝えした件について、見直しメモを添付いたします。 この間に、作業範囲と修正の回数が変わってきており、_月のご依頼から単価を見直させていただければと考えています。 品質、納期、ご連絡への対応は、これまでと変わりません。
A案・B案の2つを用意しました。ご検討のうえ、ご意見をいただけますと幸いです。
NG例と言い換え
| NG | 言い換え |
|---|---|
| 本当に申し訳ないのですが、少しだけ上げていただけると… | 作業の中身がこう変わったので、○月のご依頼からこの単価で見直させてください |
| 無理なら今のままで大丈夫です | (言わない) |
「無理なら今のままで大丈夫です」は、自分から交渉の余地を閉じてしまう一言だと私は見ています。相手が検討する前に、話を終わらせてしまうからです。気づくと口から出やすい言葉なので、メモの最後にも書かないと決めておくと安全です。
「今は厳しい」と言われたときの返し方
その場で引っ込めない
「今は予算が厳しくて」と言われたとき、「承知しました、今のままで大丈夫です」と即答したくなります。ここで引っ込めると、次に切り出すのがさらに難しくなります。
話を続ける形で返します。
分かりました。では、どこまでなら検討いただけそうか、一度持ち帰っていただけますか。
断られたわけではなく、「今すぐは決められない」という返事です。持ち帰ってもらえれば、次の話の入口が残ります。
単価以外で調整できる条件
単価が据え置きでも、手元の条件を良くする道はあります。
| 調整できる条件 | 具体例 |
|---|---|
| 修正回数の上限 | 無料の修正は2回まで。それ以降は別途相談 |
| 急ぎ対応 | 納期が短い依頼は別料金にする |
| 作業範囲の線引き | 契約に含む作業と、含まない作業を書き出す |
| 追加工事・仕様変更 | 見積外の追加は、着手前に金額を確認してから進める |
| 支払いの時期 | 月末締め翌月払いを、早める相談をする |
単価そのものが動かなくても、手間が減れば時間あたりの単価は上がります。先ほどの式で確認できます。
断られても、関係と自分の値打ちは別
一度で決まらなくても、自分の値打ちが下がったわけではありません。値段は自分の価値の点数ではなく、仕事の条件です。条件は、タイミングが合わなければ決まらないことがあります。ただそれだけです。
最小の行動としては、「では半年後にもう一度ご相談させてください」と、次の見直し時期を決めておくこと。これで、断られた話が「先送りの約束」に変わります。
法制度について
取引先との価格の協議などに関わる制度は、条文や施行時期の確認が必要です。この記事では断定しません。公正取引委員会・中小企業庁の公式情報を確認し、個別の判断は専門家に相談してください。
今日やること:見直しメモの①と②だけ埋める
今日は金額を決めなくていい
最初の一歩は、次の2つを書き出すことだけです。
- ①今の単価と、いつから変わっていないか
- ②この期間に変わった仕事の中身
金額は決めなくて構いません。事実を並べていくと、単価の話が自分の値打ちの話から、条件の話に変わっていきます。手が止まっていたのは、事実を並べる前に、自分の点数を考えていたから、ということもあります。
送る日を決める
次の発注の見込みから逆算して、切り出す日をカレンダーに1つ入れます。日付が決まっていないと、連絡が後ろに回りやすくなります。
切り出し前のチェックリスト
- □ 今の単価と据え置きの期間を書いた
- □ 変わった仕事の中身を3つ書いた
- □ 変えないものを書いた
- □ 見直し後の単価を2案用意した
- □ 切り出す日を決めた
5つ全部にチェックがつかなくても、①と②だけで今日は十分です。残りは、そのあとで埋めていけます。
よくある質問
元請けに単価交渉をしたら仕事を切られませんか?
切られないとは言い切れません。ただ、お願いではなく仕事の中身が変わったことを根拠にした条件の見直しとして出し、変えないもの(品質・対応の早さ)を先に示すと、関係を切る話ではないと伝わりやすくなります。
単価交渉はいつ切り出すのがいいですか?
次の発注が来てからではなく、その前です。案件が一段落したあとや、期の変わり目の前に「来月以降の条件のご相談」として出します。
何年も同じ単価で受けてきた場合、今さら言い出してもいいですか?
据え置いた年数が長いほど言いにくくなりやすいですが、その間に変わった作業範囲や手間を事実として並べれば、今さらではなく見直しの根拠になります。
単価交渉のメールはどう書けばいいですか?
件名は「今後のお取引条件についてのご相談」。謝りから入らず、変わった仕事の中身→見直し後の単価と適用時期→変えないもの、の順で短く書きます。できれば先に会うか電話で一言伝えてから送ります。
単価を上げられないと言われたらどうすればいいですか?
その場で引っ込めず、検討できる範囲を持ち帰ってもらいます。修正回数の上限・急ぎ対応の別料金・作業範囲の線引きなど、単価以外の条件で調整する道もあります。
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