対面営業・商談
交通費・出張費の請求の仕方|先に決めておく一行
このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
フリーランスの交通費・出張費は請求していい。言えないのは礼儀ではなく順番の問題
請求していいかの答え
交通費・出張費は、事前に合意があれば実費で請求していい仕事の条件の一部です。報酬とは別の行で扱うのが基本です。「交通費は請求してもいいものか」で迷っているなら、答えは先に出しておきます。請求していい。ただし、あとから言うか、先に言うかで話が変わります。この記事は「請求できるかどうか」ではなく、「見積の段階で一行決めておくかどうか」を扱います。
言えないのは礼儀の問題ではない
交通費を自腹にしてしまうのは、「交通費くらい自分で持つのが礼儀」だと思っているからではありません。あとから言うと細かい人に見える気がして、言うタイミングを逃しているだけです。
打合せ3回目、往復の電車代を黙って払っている。1回目は挨拶だから言わなくていい、2回目は提案の詰めだから今さら言えない、3回目は契約直前だから今言うと台無しになる気がする――毎回「今回は言わなくていいか」と先送りにした結果、言えないまま契約書にサインすることになります。契約後に交通費のことを持ち出すのは、契約前よりもっと言いにくくなっています。だから先送りは、あとで楽になるわけではありません。
遠方の案件になるほど、この先送りは効いてきます。往復の交通費くらいなら飲み込めても、新幹線で往復するほどの金額になると、自腹では続けられません。それでも「今さら言えない」という感覚は、金額が大きくなっても変わらないので、結局は損を承知で引き受けてしまう人が出てきます。
値段が言えない型かもしれません
金額を言うことが自分の値打ちを言うことになっていて、口に出せない型です。
交通費のことを口にする瞬間、報酬の話ではなく自分の器の話をしている気がする――そう感じているのではないでしょうか。交通費は自分の値打ちの点数ではなく、仕事の条件です。往復の電車代を言うことは、自分の値段を下げることでも、相手に負担を強いることでもありません。見積書に「交通費は別途」と書くのは、値切られることを恐れているのではなく、条件をはっきりさせているだけです。
抜け方は難しくありません。見積書の末尾に一行足すだけです。金額を口頭で切り出す必要すらありません。次の章で、そのまま使える文を渡します。
先に決めておく一行の作り方(見積書の備考欄に入れる文)
一行に入れる3つの要素

一行に入れる要素は3つだけです。
- 報酬に含むか別か
- 何が対象か(電車・バス/タクシー/宿泊/日当の有無)
- いつ請求するか(都度・月まとめ・納品時)
この3点が入っていれば、一行で足ります。長い説明はいりません。逆に、この3点のどれかが抜けると、あとで「対象外だと思っていました」「その都度請求されるとは思っていませんでした」という食い違いが起きます。一行に3点を詰め込むのは、面倒を増やすためではなく、あとから起きる確認のやり取りを1回で終わらせるためです。
そのまま使える文例3種
近場(都内のみなど、移動が電車・バス中心)の案件なら、こう書きます。
交通費は実費を報酬とは別にご請求します(都度、請求書に記載)。
遠方(新幹線や飛行機を使う可能性がある)案件なら、こう書きます。
交通費・宿泊費は実費を別途ご請求します(内訳を請求書に記載。領収書の添付要否はご指示ください)。
宿泊が発生する案件なら、こう書きます。
交通費・宿泊費・日当は実費または規定額を別途ご請求します(内訳は納品時にまとめてご請求書に記載します)。
このままコピーして、見積書の備考欄に貼ってください。案件の規模に応じて、近場用から遠方用に差し替えるだけで、毎回文章を考え直す必要がなくなります。迷ったときは、遠方用を基本形にしておくと、あとから案件が長距離化しても書き直しが要りません。
書いてはいけない一行
書いてはいけない一行が3つあります。
「交通費は応相談」――決めていないのと同じです。相談する場面が結局あとに残るので、あとで同じ話をやり直すことになります。
「交通費込み」――近場の案件では困りませんが、途中で遠方の案件が入ると全額自腹になります。最初に決めた金額の枠内に、あとから発生した遠方の交通費を押し込むことになるからです。
何も書かない――書かなければ、あとから言う羽目になります。あとから言うことがまずいのではなく、順番を決めていなかったことがまずいのです。
発注側が嫌がるのは金額ではなく「あとから出てくること」
担当者の机の上で起きていること

発注側は、交通費を払うこと自体はほぼ想定しています。困るのは金額ではなく、予算を固めたあとに追加の項目が出てくることです。
担当者は見積を社内で通すとき、その金額で稟議を通しています。あとから交通費が乗ると、上司に「聞いていませんでした」と言い直すことになります。担当者本人が悪いわけではないのに、確認不足という扱いを受けることもあります。金額の大小に関係なく、この「言い直し」が発注側にとって一番の負担です。追加の金額が小さくても大きくても、社内で説明し直す手間そのものは変わりません。
「聞いてない」が生む本当の損
細かい人だと思われるのは、先に言った人ではありません。あとから出した人です。
先に一行書いた人には「きちんとしている」という印象が付きます。あとから出した人には「細かい」ではなく「読めない人」という印象が付きます。そして次の相談が来にくくなります。恐れている方向が、実は逆なのです。交通費を先に言うと嫌われる、という前提そのものが、担当者の立場から見ると成立していません。
先に言うことが相手への配慮になる理由
先に一行あれば、担当者は最初から予算に交通費を入れられます。請求書が来たときは、金額を照合するだけで済みます。一行を先に渡すことは、遠慮ではなく、相手の手間を減らす行為です。「言いにくいから黙っておく」という選択は、実は相手により大きな手間を後から背負わせています。
領収書は全部必要か。3万円未満の公共交通機関は帳簿記載で足りる
公共交通機関特例とは
インボイス制度では、3万円未満の公共交通機関の運賃は、帳簿に「公共交通機関特例」などと明記することで、適格請求書なしで発注側が仕入税額控除を受けられます。つまり、電車・バス代の領収書を毎回もらう必要は、制度上は必ずしもありません。近場の打合せで使った電車代について、いちいち領収書を発行してもらう手間を省ける根拠がここにあります。
領収書が要るもの・要らないものの分け方
特例の対象は公共交通機関の運賃です。タクシーや宿泊は特例の対象として書かれていないので、領収書を残しておくのが無難です。3万円を超える運賃も同様です。
| 項目 | 3万円未満 | 3万円以上 |
|---|---|---|
| 電車・バス | 帳簿記載で可能 | 領収書を残す |
| タクシー | 領収書を残す | 領収書を残す |
| 宿泊 | 領収書を残す | 領収書を残す |
| 飛行機 | 領収書を残す | 領収書を残す |
迷ったら領収書は残しておく、が基本の構えです。特例はあくまで「なくても控除を受けられる」という話であって、「もらってはいけない」という話ではありません。手元にある領収書は、念のため保管しておいて損はありません。
発注側の経理ルールは会社ごとに違う
制度上は不要でも、社内ルールで全件添付を求める会社はあります。経理の内部規定が制度より厳しく設定されているケースは珍しくありません。だから、一行に「領収書の添付要否はご指示ください」を含めて、先に聞いておきます。聞かずに省略すると、あとから経理担当者に個別に問い合わせが来て、余計なやり取りが発生します。税務の個別判断は、税理士など専門家に相談してください。
見積書と請求書、どこにどう書くか(書き方の表)
見積書には条件、請求書には実費の行

見積書には条件を書き、請求書には実費の行を立てます。
| 項目 | 見積書 | 請求書 | 添付するもの |
|---|---|---|---|
| 電車・バス | 備考欄に一行 | 「交通費(実費)」の行 | 先方の指示に従う |
| タクシー | 備考欄に一行 | 「交通費(実費)」の行 | 領収書 |
| 宿泊 | 備考欄に一行 | 「宿泊費(実費)」の行 | 領収書 |
| 日当 | 備考欄に一行 | 「日当」の行 | 規定に応じる |
見積書の段階では金額を確定させる必要はありません。「実費で別途請求する」という条件だけ示しておけば十分です。金額が確定するのは、実際に移動が発生したあとです。
内訳の書き方
内訳には、日付・区間(例: 東京→名古屋 往復)・金額の3点を、摘要欄か別紙に書きます。
手順は3つです。
- 移動のたびにメモする(その日のうちにスマホのメモでも構いません)
- 請求時に一覧にする
- 合計を「交通費(実費)」の行に載せる
交通系ICカードの利用履歴を、内訳を作るときの参考にする方法もあります。移動のたびにメモを取っておけば、請求のタイミングで思い出しながら計算し直す手間がなくなります。
報酬に溶かすと次の値段が崩れる
報酬と交通費を足して、一本の金額にするのはやめたほうがいいです。次回、「前回はこの金額でしたよね」と言われたとき、交通費分が値下げの根拠にされてしまいます。一度溶け込んだ交通費は、次の見積のときに切り離すのが難しくなります。報酬に含めるか実費で分けるかで税務上の扱いが変わりうるので、迷ったら専門家に確認してください。
言いそびれた交通費を、あとから請求するときの言い方
飲むか言うかの判断基準

打合せに3回通って、見積に交通費を書いていなかった――よくある失敗です。
判断基準は距離です。近場の電車代なら、今回は飲んで、次回から一行を入れる。遠方や宿泊が発生していたら、相談の形で言う。この二択で決めます。金額の大きさよりも、次回以降も同じ負担が続くかどうかで判断するほうが、感情に左右されずに決められます。
あとから言うときの文例
遠方・宿泊が発生していた場合は、こう伝えます。
見積時にお伝えしておらず失礼しました。今回の出張分の交通費(〇〇円・内訳添付)についてご相談させてください。次回以降は見積に明記します。
ポイントは3つです。相談の形で出す。内訳を付ける。次回の約束を添える。この3つがそろっていれば、担当者は「今回だけの特別な話」として受け止めやすくなります。逆に、内訳がないまま金額だけ伝えると、根拠が見えないので判断してもらいにくくなります。
黙って請求書に載せるのが一番まずい
相談なしで請求書に交通費の行を足すのは、一番まずいやり方です。担当者が「聞いてない」となり、金額の大小と関係なく信頼が減ります。
もう一つのNGは、言わずに自腹を続けることです。遠方案件が来たとき、断る理由になってしまいます。自腹を続けた結果、体力的にも金銭的にも続けられない案件を、仕事そのものを理由にではなく交通費を理由に断ることになるのは、もったいない話です。
今日やること: 見積テンプレに一行足す
5項目チェックリスト
見積を出す前に、次の5つを埋めてください。
- 報酬に含むか別か
- 対象(電車・バス/タクシー/宿泊/日当)
- 領収書の扱い
- 請求タイミング
- 遠方の基準(片道〇時間以上・宿泊が出る距離)
この5つが埋まれば、一行が書けます。埋まらない項目があれば、そこがまだ決めていない部分です。
見積テンプレに貼る文
3分でできます。いま使っている見積書の備考欄に、この記事の文例をそのまま貼ってください。それだけで、次の案件からは考えなくていい状態になります。一度貼ってしまえば、以降は案件ごとに近場用か遠方用かを選ぶだけで済みます。
お金の話全体の順番はピラーへ
交通費は「お金の条件」の一部です。報酬の伝え方・値段の出し方の全体は、報酬や値段の伝え方の全体像にまとめています。
よくある質問
フリーランスの交通費は請求できますか?
事前に合意があれば実費で請求できます。見積書の備考欄に一行書いておくのが基本です。あとから言うより先に言うほうが発注側にも親切です。
交通費の領収書は必ず必要ですか?
インボイス制度では3万円未満の公共交通機関の運賃は帳簿記載で発注側が仕入税額控除を受けられる特例があります。ただし会社ごとの経理ルールがあるので、添付要否は先に聞いてください。タクシー・宿泊は領収書を残しておくのが無難です。
交通費は報酬に含めるべきですか?別にすべきですか?
別の行に分けるのが基本です。含めると次回の値下げの根拠にされやすくなります。税務上の扱いは含めるか分けるかで変わりうるので専門家に相談してください。
出張費の請求書にはどう書きますか?
報酬とは別に「交通費(実費)」の行を立て、日付・区間・金額の内訳を摘要欄か別紙に付けます。
見積に書き忘れた交通費は、あとから請求できますか?
相談の形で伝えます。内訳を付け、次回から見積に明記すると添えます。黙って請求書に載せるのが一番まずいやり方です。近場の電車代なら今回は飲んで次回から一行入れる判断もあります。
参照した情報源
- インボイス制度における旅費精算|適格請求書が不要のケースは?(経理プラス(運営:株式会社ラクス))・確認日 2026-09-12
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