対面営業・商談
業務委託の契約を更新しないときの伝え方|何日前に、どんな文面で伝えるか
このシリーズの全体像 営業メールの例文集|場面別に、そのまま使える文面
契約を更新しないと言いにくいのは、わがままだからではない
満了日が近づいたころ、先方から「来期もこの条件でお願いしますね」と、当然のように声がかかる。条件はもう合わなくなっている。それなのに「少し考えさせてください」と返したまま、数日、数週間と過ぎていく。
こういうときに言えないのは、気が弱いからでも、恩知らずだからでもありません。
断れない型かもしれません。断ったら次が来ない気がして、合わない仕事も受け続け、いい話が来たときに手が空いていない型です。自分から契約を終わらせることを「してはいけないこと」にしていて、一度自分から切ったら二度と声がかからなくなる気がする。そう感じる人もいます。
先に、直球の答えを出します。
- 伝える時期の目安は、満了日の30日以上前。できれば1か月半〜2か月前
- 文面はお礼 → 結論 → 最終日 → 引き継ぎの4つを、この順番で書く
この記事では、この目安の根拠と、そのまま送れる文面、引き止められたときの返し方まで順に書きます。まず契約書を開いて、満了日と解約の条項を確認するところから始めてください。
「更新しない」は相手の否定ではなく、仕事の条件の決め直し
更新しないと伝えることは、相手や相手の仕事を否定することではありません。時間、単価、方向性。この3つのどれかが、いまの自分の状況と合わなくなった。それを仕事の条件の話として伝えるだけです。
条件が合わなくなるのは、どちらが悪いわけでもなく、よくあることです。腕が悪かったから切るのでも、相手が悪いから切るのでもありません。
性格はそのままでいい
断るのが苦手な性格を、変える必要はありません。必要なのは、言い方の順番を先に決めておくことです。順番さえ決まっていれば、口が重い人でも角は立ちません。以降の章は、その順番の作り方です。
何日前に伝えるか|法律の「30日前」は発注する側に向けたルール
フリーランス法で決まっていること
この規定が使われるのは、仕事を出す側が事業者で、受ける側が法律上のフリーランス(特定受託事業者)に当たる場合です。誰が当たるかは、働き方や契約の相手によって変わります。自分が当たるかどうかは、公正取引委員会の資料や専門家で確認してください。
フリーランス・事業者間取引適正化等法には、中途解除や不更新の事前予告のルールがあります。発注事業者が、6か月以上の期間で行う業務委託について、契約の解除または不更新をしようとする場合は、例外事由に当たるときを除いて、契約満了日などから30日前までに予告しなければなりません。
1回の契約が短くても、更新を重ねて6か月以上続いている場合に対象になるかどうかは、契約の内容で変わります。この記事では断定せず、対象になる場合があるものとして扱います。気になる人は、専門家に確認してください。
さらに、予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を請求した場合、発注事業者は、例外事由に当たる場合を除いて、遅滞なく開示しなければなりません。
つまりこれは、仕事を出す側が、受ける側に向けて守るルールです。「突然切られて、次を探す時間もない」という事態を防ぐための規定だと読めます。
自分から更新しない場合は、この予告の対象ではない
予告の義務を負うのは、条文上は発注事業者です。受ける側の自分から更新しないと伝えるときは、この30日前予告の対象ではありません。
ただ、法律上の義務がないことと、いつ伝えてもいいことは別の話です。相手が仕事を出す側として守るべき日数と同じ30日を、自分の目安として使うのが分かりやすいと私は考えています。これは法律で決まった日数ではなく、あくまで推奨です。30日あれば、相手は次の依頼先を探し、引き継ぎの段取りを組む時間を取れます。余裕を見て1か月半〜2か月前に伝えられれば、なお安心です。
先に契約書を読み直す
日数の基準で一番強いのは、法律の目安ではなく契約書の条項です。次のような書き方がないか確認してください。
- 「解約は◯日前までに書面で通知する」
- 「期間満了までに申し出がない場合は、同じ条件で自動的に更新する」
後者のような自動更新の条項がある契約は、期日を過ぎると自動で次の期間に入ってしまいます。「言いそびれているうちに、もう1期分続くことが決まっていた」という事態は、ここで起きます。
何日前を基準にするかの判断表
| 契約期間 | 更新しないのは誰か | 契約書の条項 | 基準にする日 |
|---|---|---|---|
| 6か月以上(更新を重ねて通算6か月以上になる場合は、対象になる場合がある) | 発注側 | あり・なしとも | 受ける側が法律上のフリーランスに当たる場合、発注側に法定の予告義務がある。受ける側は、予告を受けた日から満了日までの間なら、理由の開示を求められる(例外あり) |
| 6か月以上(同上) | 自分 | あり | 契約書の期日が基準。法律の30日は関係しない |
| 6か月以上(同上) | 自分 | なし | フリーランス法上の予告義務はない。ただし契約内容によって扱いが変わるため、満了日の30日以上前を自分の目安にする |
| 通算6か月未満 | 発注側 | あり・なしとも | 契約書と話し合いが基準。更新で通算6か月以上なら対象になる場合がある |
| 通算6か月未満 | 自分 | あり | 契約書の期日が基準 |
| 通算6か月未満 | 自分 | なし | 自分から伝える場合の法定の予告日数は、この記事では確認できていない。同じく30日以上前が目安。短い契約なら、気づいた時点でなるべく早く |
迷ったら「契約書に書いてあればそれ、なければ30日以上前」と覚えておけば足ります。
予告が要らない例外もある
発注側の予告義務には例外があります。たとえば、業務委託の期間が30日以下など短期間である場合や、フリーランス側の責めに帰すべき事由がある場合などは、予告が不要とされています。
このルールが自分の契約に当てはまるかどうかは、契約の内容によって変わります。個別の判断は、弁護士など専門家に相談してください。
伝える前に決めておく3つのこと
連絡する前に、自分の中で3つ決めておくと、言葉が詰まりにくくなります。
最終日と、そこまでにやる作業の範囲
「◯月末で終了」だけでは足りません。途中の案件、納品後の修正対応、データやアカウントの受け渡しを、どこまで自分が持つのかを書き出します。
| 項目 | 書き出す内容の例 |
|---|---|
| 最終日 | ◯月◯日(満了日と同じか、前倒しか) |
| 進行中の作業 | どこまで終わらせるか、何を引き渡すか |
| 修正対応 | 最終日以降は受けるのか、受けないのか |
| 受け渡すもの | ファイル、パスワード、手順書などの置き場所 |
ここが曖昧なまま伝えると、相手から「じゃあ、あの案件は?」と聞かれて、その場で答えに詰まります。
理由をどこまで言うか
本当の理由は、たとえば単価が合わない、時間が取れない、方向性が違う、のどれかでしょう。そのうち、相手に伝えて役に立つ部分だけを一言にします。全部を説明する必要はありません。
ただし、嘘の理由は作らないでください。「家庭の事情で」と盛ると、あとで別の仕事を受けているのが見えたときに、辻褄が合わなくなります。理由は短くていい。でも、事実の範囲で。
引き止められたときの答え
「単価を上げるので続けてほしい」と言われたとき、続けるのか。続けるなら、いくらなら、どんな作業量なら続けるのか。これを言う前に、自分の中で決めておきます。決めていないと、その場の空気で受けてしまいます。
伝える前のチェックリスト
- 契約書の解約条項と、自動更新の有無を確認した
- 最終日を決めた
- 残っている作業を書き出した
- 理由を一言にした
- 引き止められたときに続ける線(条件)を決めた
5つにチェックが入ったら、連絡して大丈夫です。
そのまま使える文面|理由別に3パターン
メール文面の書き方全般は、営業メールの文例をまとめたピラー記事も参考にしてください。ここでは、更新しないと伝える場面に絞って書きます。
基本の文面
件名:◯月末の契約更新について
◯◯株式会社 ◯◯様
いつもお世話になっております。◯◯です。
昨年から継続してご依頼いただき、◯◯のリニューアルでは、細かな要望にも一緒に向き合っていただきありがとうございました。
突然のご連絡で恐縮ですが、◯月末で満了となる契約について、今回の更新は見送らせていただきたく、ご連絡しました。
最終日は◯月◯日とし、それまでに進行中の◯◯を完了させ、作業手順とファイルの場所をまとめた資料もお渡しします。
引き継ぎで必要なことがあれば、最終日までお申し付けください。
何卒よろしくお願いいたします。
順番は、お礼(具体的な仕事を1つ)、結論、最終日、引き継ぎの申し出です。お礼には、これまでの仕事を1つだけ具体的に入れると、型どおりの挨拶に見えません。
単価や条件が合わない場合
条件の話を、相手を責める形にしないのがコツです。自分側の事情として書きます。
今の条件では、◯◯に十分な時間を割けなくなったため、今回の更新は見送らせていただきたく存じます。
「単価が安い」とは書きません。ただ、「十分な時間を割けない」という事実は、そのまま条件の話として相手に伝わります。
他の仕事が増えて手が回らない場合
相手の利益の言葉で伝えます。
他のご依頼が増え、このままお受けすると、これまでの品質を保てなくなる状況です。中途半端な形でお返しするより、今回は更新を見送り、最終日まで責任を持って対応させてください。
「忙しいから」ではなく「品質を保てないから」と書くと、断る理由が相手のためにも聞こえます。
NG例との対比
| NGな言い方 | 何が問題か | 代わりの言い方 |
|---|---|---|
| もう無理です | 理由も最終日も分からず、相手が困る | 今回の更新は見送らせていただきたく、ご連絡しました |
| 正直、割に合わなくて | 相手の条件への不満に聞こえる | 今の条件では十分な時間を割けなくなりました |
| いったん様子を見させてください | 結論があいまい。相手は更新する前提で動いてしまう | ◯月末で終了とさせてください |
3つ目は、やさしく言おうとして起きやすい失敗です。結論をぼかすと、相手は「まだ続く」と受け取ります。結論は、はっきり書いて大丈夫です。
関係をこじらせる伝え方|よくある失敗4つ
| 失敗 | 起きること | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 満了直前に言う、または何も言わず自然消滅させる | 相手が次の依頼先を探す時間を取れず、関係がこじれやすい | 30日以上前に伝える |
| 理由を盛る、ごまかす | 「休業します」と言った後に別の仕事が見えると、信用ごと失う | 事実の範囲で、一言にする |
| 相手への不満をまとめて伝える | それまでの仕事の印象まで塗り替わる | 不満は書かず、自分側の事情として書く |
| 口頭だけで済ませる | 言った・言わないになる | 電話や対面のあと、同じ内容をメールでも送る |
満了直前に言う、何も言わず自然消滅させる
言いにくいから後回しにする。その気持ちは分かります。ただ、後回しにするほど、伝える側も伝えられる側も苦しくなります。相手にとっては、突然の連絡より、時間のある連絡のほうが対応しやすいです。
理由を盛る、ごまかす
短い理由なら嘘をつかなくても書けます。「時間が取れなくなった」が事実なら、それで足ります。
相手への不満をまとめて伝える
最後だからと溜めていた不満を書きたくなることがあります。でも、それを書くと、これまでの仕事の関係ごと損なわれます。不満は、更新しない理由として必要でない限り書かなくていいです。
口頭だけで済ませる
長く付き合った相手なら、先に電話か対面で伝えるのが礼儀に近いと思います。そのあとで、同じ内容をメールでも送ってください。「先ほどお電話でお伝えした件を、念のため文面でもお送りします」の一文で十分です。
引き止められたとき、条件を変える提案が来たとき
その場で即答しない
「単価を上げるので続けてもらえませんか」と言われると、断る理由がなくなったように感じて、その場で受けてしまいがちです。ここは期限つきで持ち帰ります。
ありがとうございます。一度持ち帰って、◯日までにお返事します。
期限を自分で言えば、相手も待てます。
続けるなら、条件を先に言う
続ける気持ちが少しでもあるなら、何が変われば続けられるかを具体的に返します。単価、作業量、連絡の頻度のうち、どれをどう変えたいのか。「安くしとく」方向で折れると、同じ理由で、また半年後に同じ話をすることになります。
それでも終えると決めたら、二度目ははっきり書く
ご提案いただいたうえで申し訳ないのですが、予定どおり◯月末で終了とさせてください。最終日まで、引き継ぎを含めて責任を持って対応します。
二度目に迷う文面を送ると、相手はまだ交渉できると受け取ります。お礼は添えて、結論はそのまま変えないでください。
終わらせ方が、次の仕事を連れてくる
引き継ぎ資料を1枚渡す
進行中の作業、ファイルの場所、注意点。これを1枚にまとめて渡しておくと、「最後まで丁寧だった人」として相手の記憶に残ります。終わり方がきれいな人は、思い出してもらいやすい。これは私の見立てです。
最後の挨拶で、次の接点を残す
今後、単発でお役に立てることがあれば、いつでもご連絡ください。
この一言があるだけで、「切れた関係」ではなく「いったん区切った関係」になります。
空いた時間で何をするかを先に決める
断れない型から抜ける最小行動は、更新しないと伝えた週のうちに、空いた枠で声をかけたい相手を1人書き出すことです。断るのは、いい話が来たときに手を空けておくため。断ることを、次の仕事を取るための手順として使います。
今日やれること
契約書の解約条項を確認し、満了日から30日前の日付をカレンダーに入れてください。それだけで、「いつか言わなきゃ」が「この日までに言う」に変わります。
契約の個別の判断が必要なときは、弁護士など専門家に相談してください。
よくある質問
業務委託の契約を更新しないときは何日前に伝えればいいですか?
まず契約書の解約条項を確認します。条項がなければ、満了日の30日以上前が目安です。法律の30日前予告は、発注側が更新しない場合に課されるルールで、自分から更新しない場合は対象になりません。ただ、同じ日数を目安にすると、相手が次を探す時間を取れます。個別の判断は専門家に相談してください。
更新しない理由は正直に言わないといけませんか?
すべて言う必要はありません。相手に伝えて役に立つ部分を一言で伝え、嘘の理由は作らないでください。条件が合わないなら、自分側の事情として伝えます。
契約を更新しないことはメールで伝えてもいいですか?
長く続いた相手なら、電話か対面で先に伝え、同じ内容をメールでも送ると、言った・言わないを防げます。短い取引ならメールだけでもかまいません。
発注側から契約を更新しないと言われたら、理由を聞けますか?
受ける側が法律上のフリーランスに当たり、6か月以上の期間で行う業務委託でフリーランス法の対象なら、予告を受けた日から満了までの間に理由の開示を求められ、発注側は例外を除いて遅滞なく開示する必要があります。更新を重ねて通算6か月以上になる場合の扱いなど、個別の判断は専門家に相談してください。
単価を上げるから続けてほしいと言われたらどうすればいいですか?
即答せず、期限を切って持ち帰ります。何が変われば続けられるかを事前に決めておき、条件が合えば続け、合わなければ予定どおり終了と改めて伝えます。
参照した情報源
- フリーランス・事業者間取引適正化等法 ここからはじめる 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 パンフレット(中途解除等の事前予告・理由開示義務(第16条))(公正取引委員会)・確認日 2026-10-01
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