対面営業・商談
着手金をもらう伝え方|前金をお願いしても嫌がられない順番
このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える
着手金を言えないのは、図々しいからではない
「まだ何もしていないのに」が口を止める
見積書を作っていて、支払条件の欄で手が止まったことはないでしょうか。「着手金」と書こうとして、指が止まる。まだ何も納品していないのに先にお金をくださいと書くのは図々しい気がして、結局「納品後にご請求します」とだけ書いて送ってしまう。
そのあと材料を先に仕入れ、外注先にも先に支払います。自分の手元のお金は案件が進むほど減っていくのに、請求書は納品後にしか出せません。入金が翌々月になることも珍しくなく、気づけば案件が終わるまでずっと自分の財布だけが先に減っている状態になっています。
着手金は信用の話ではなく、段取りの話
まだ何もしていないのに先にお金をくださいと言うのは、相手を疑っているみたいで、自分からは言えない。そう感じている人は多いと思います。
値段が言えない型かもしれません。金額を言うことが、自分の値打ちを言うことになっている気がして、口に出せない型です。
でも着手金が言えないのは、相手を疑っているように聞こえるからではありません。信用してもらえているかどうかの試験のように感じているからです。着手金は、信頼の点数ではなく、仕事を始めるための条件のひとつです。いつ、いくら、何のために払ってもらうか。それだけの話で、相手を疑っているかどうかとは関係ありません。
結論:値段と一緒に「支払い条件」として最初から書く
着手金は、交渉して勝ち取るものではありません。見積書の支払条件欄に、最初から書いておくものです。「総額○円、着手時に○円、納品時に残額」というように、金額と同じ紙、同じタイミングで出します。
ここから先は、着手金が嫌がられる場合とそうでない場合の違い、金額の決め方、そのまま使える文面、断られたときの返し方、すでに取引がある相手に今から入れる方法まで、順番に書いていきます。
嫌がられる着手金と嫌がられない着手金の差は、金額ではなく順番
NG:総額で合意したあとに「ところで着手金を」

よくあるのが、総額の話がまとまったあとに着手金を切り出すケースです。
クライアント「総額いくらかで進めましょう」 あなた「ありがとうございます。あ、そういえば着手金として先にいくらかいただけますか」 クライアント「え……そういう話でしたっけ。ちょっと確認します」
相手はすでに社内に「いくらかで発注」と伝えてしまっているかもしれません。そこに着手金の話が後から乗ると、金額の話が蒸し返されたように受け取られます。嫌がられているのは着手金そのものではなく、後出しで条件が増えたことです。
OK:最初の見積書に支払条件として入っている
同じ内容でも、最初の見積書にこう書いてあればどうでしょうか。
お支払い:ご発注時に着手金いくらか、納品後に残額いくらか
相手は総額と支払時期をセットで見て検討できるので、社内の稟議や相談も一度で済ませられます。あとから条件が増える心配がないぶん、むしろ検討しやすくなります。
発注側から見ると、着手金は「段取りが決まっている人」のサイン
発注する側は、金額だけでなく「この人は仕事の始め方・進め方・終わり方を決めているか」も見ています。支払条件まで書けている見積書は、納期や成果物の区切りもきちんと決まっていそうに見える、と受け取る発注者が多いようです。逆に支払条件の欄が空欄のままだと、「あとで話が変わるかもしれない」「途中で揉めそう」と感じられやすくなります。着手金は、相手に警戒されるための項目ではなく、むしろ安心材料になり得るということです。
着手金の額は、割合ではなく「自分が先に出すお金」から決める
立て替えが出る仕事は、その分を着手金にする

材料費、外注費、撮影のロケ代、印刷代、サーバー代など、自分の財布から先に出ていくお金を書き出してみてください。着手金は、その金額を土台に決めます。
「着手金は総額の何割にするのが普通か」という相場を探している方も多いと思いますが、それを示す公的な統計は見つかりませんでした。割合から決めるのではなく、実際に自分が先に出すお金がいくらかから逆算するほうが、金額に根拠を持って説明できます。
立て替えがなくても、工数を先に使う仕事は着手金を入れていい
設計、デザイン、執筆のように材料費がかからない仕事でも、着手した時点で自分の時間は使われています。途中で案件が止まったとき、時間だけ持ち出しになるのを防ぐのが着手金の役目です。着手時・中間確認時・納品時の3回に区切って払ってもらう形も選べます。材料費がない仕事ほど着手金は要らないと思われがちですが、実際に減っているのは時間という自分のコストです。
国の資料でも「着手にかかる費用を前払いで」という考え方に触れている
フリーランス・事業者間取引適正化等法のパンフレットでは、再委託で例外的な支払期日を定めた場合に、発注事業者が元委託者から前払金の支払を受けたときには、発注事業者は、フリーランスに対して、フリーランスが資材の調達などの業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう、適切な配慮をする必要があるとされています。
これは再委託という特定の場面についての考え方で、クライアントから直接受ける仕事の着手金を定めた規定ではありません。「請求できる権利がある」という話ではなく、「着手にかかる費用を先に払うという考え方は、国の資料でも触れられている」という背景として受け止めてください。個別の契約でどう扱うかは、専門家に相談することをおすすめします。
持ち帰り用:着手金を入れるかどうかの判断表
| 初回の取引 | 2回目以降の取引 | |
|---|---|---|
| 立て替えあり | 入れる。材料費・外注費が止まった時点で自分の損になるため | 入れる。関係が続いていても実費は別扱いにする |
| 立て替えなし | 区切り払いにする。工数が持ち出しになるのを防ぐため | 後払いでも可。ただし高額・長期の案件は区切り払いを検討する |
伝える順番は3ステップ。そのまま使える文面つき
ステップ1:見積書の支払条件欄に書く(先に紙)

支払条件欄には、こう書いておきます。
お支払い:ご発注時に着手金○円、納品後に残額○円(それぞれ請求書発行日から○日以内)
備考欄ではなく、「支払条件」という名前の欄を作ってそこに書きます。口頭で伝える前に、まず紙に載せておくことが大事です。紙に書いてあれば、口頭で切り出すときの緊張もかなり減ります。
ステップ2:口頭で一言添える(説明しすぎない)
見積書を渡すとき、一言添えます。
お支払いは着手時と納品時の2回に分けています。材料の手配を先に進めるためです。
理由はひとつだけ伝えれば十分です。
NG例:「すみません、図々しいのですが、着手金をいただけたらありがたいなと思っておりまして……先に材料費もかかりますし、もしご迷惑でなければで結構ですので……」
OK例:「お支払いは着手時と納品時の2回に分けています。材料の手配を先に進めるためです。」
謝りながら長く説明するほど、相手には「無理を言っている」ように伝わります。理由を短く言い切るほうが、条件として自然に受け取られます。
ステップ3:着手金の請求書は発注の返事をもらった当日に出す
着手金は、言っただけでは入ってきません。発注の返事が来たら、その日のうちに請求書を出します。品名は「着手金(○○制作 一式)」とし、着手予定日も明記します。
請求書を出すタイミングが遅れると、「着手金は形だけで、結局あとでまとめて払えばいい」と受け取られ、後払いに戻りやすくなります。返事をもらってから日が空くほど、この扱いは崩れていきます。
「着手金は難しい」と言われたときの返し方
まず理由を聞く。断りの中身は3種類

「着手金は難しい」と言われたときの理由は、だいたい次の3つのどれかです。
- 社内ルールで前払いができない
- 初めての相手に先払いは不安
- 資金繰りの都合で今すぐは出せない
理由が違えば、こちらの返し方も変わります。まず聞きます。
着手金が難しいのは、社内の決まりですか、それとも今回のご判断ですか。
社内ルールが理由なら区切り払いへの変更で対応できることが多く、初回の不安が理由なら実績や進行の見せ方で不安を減らせます。資金繰りが理由なら、着手金の金額自体を見直す余地があります。理由を聞かずに代案を出すと、的外れな提案になりやすいので、ここは飛ばさないほうがいいです。
代案は「減らす」ではなく「区切る」
着手金をゼロにして後払いに戻すのではなく、区切りを増やす方向で代案を出します。着手時・中間確認時・納品時の3回払いにする、今回だけ納品時に寄せて次回から着手金を入れる、といった形です。値引きと同じで、一度ゼロにすると、次の案件で言い出すハードルがまた上がります。
引かないほうがいい線:立て替えが出る分だけは残す
材料費や外注費の立て替えは、途中で案件が止まったときにそのまま自分の損になります。ここだけは「着手金」ではなく「実費の先払い」として残しておきます。それも通らない場合は、受けないという選択肢もあります。無理に受けて損を抱え続けるより、条件が合う相手と仕事をするほうが、結果として長く続けられます。
知り合いからの仕事や、続いている相手に今から着手金を入れる方法
今の案件ではなく、次の見積から変える
進行中の案件の途中で条件を変えるのは、一番嫌がられます。次の案件の見積書から支払条件欄を入れ、渡すときに一言添えます。
今回から、お支払いの区切りをこのようにさせていただきます。
NG例:納品直前になって「やっぱり半分先にいただけますか」と言う。これは条件の後出しと同じに受け取られ、これまで積み上げた信頼を削ってしまいます。
知り合いの依頼ほど、条件を紙に書く
知り合い経由の仕事は「言いにくい」が先に立ち、口約束のまま進みがちです。条件を紙に書くのは、相手を疑うためではなく、関係を守るためです。「友だちだから条件はゆるく」が、あとで一番揉める原因になります。
知り合いだからこそ、お金のことは先に紙にしておきますね。
この一言があるだけで、紙に書く行為が「よそよそしさ」ではなく「丁寧さ」として伝わります。
切り出し方の一言テンプレ
メール用:
いつもお世話になっております。事務のやり方を整えていまして、今後の案件は着手時と納品時の2回払いにさせてください。
口頭用:
今後は、着手時と納品時の2回に分けてお支払いいただく形にしています。
相手のせいにも、自分の不安のせいにもしない言い方です。理由は「事務を整えた」というだけで十分で、それ以上の説明はいりません。
今日やること:次の見積書に支払条件を1行足す
支払条件の1行テンプレ(コピペ用)
立て替えあり用:
お支払い:ご発注時に着手金○円(材料費相当分)、納品後に残額○円
工数先行用:
お支払い:着手時○円、中間確認時○円、納品時○円の3回払い
区切り払い用:
お支払い:ご発注時に○円、納品後に残額○円(請求書発行日から○日以内)
着手金の請求書に入れる項目
宛名、品名「着手金(案件名)」、金額、着手予定日、支払期日、振込先。請求書は発注の返事をもらった当日に出すことを、もう一度確認しておいてください。
送る前のチェックリスト5項目
- 支払条件が見積書に書いてある
- 着手金の理由がひとつ言える
- 謝る前置きがない
- 請求書を出す日を決めてある
- 断られたときの代案(区切り払い)を用意した
着手金の話は、お金の伝え方の中でも、特に言い出しにくい部類に入ります。それでも、着手金を言えるようになるのは性格が変わったからではなく、順番を決めたからです。
よくある質問
着手金は総額の何割にするのが普通ですか?
割合の相場を示す公的な統計は見つかっていません。割合から決めるのではなく、材料費・外注費など自分が先に出すお金と、着手時に使う工数から決めます。立て替えがある仕事はその分を着手金にし、ない仕事は着手時・納品時の2回に分けるなど区切りで決めるのがおすすめです。
着手金をお願いしたら断られました。その仕事は受けないほうがいいですか?
まず理由を聞いてください(社内ルール/初回の不安/資金繰り)。代案は着手金をゼロにするのではなく、中間金で区切る、次回から入れる、という形にします。ただし材料費などの立て替えが出る分は実費の先払いとして残し、それも無理なら受けないという選択もあります。
着手金の請求書はいつ出せばいいですか?
発注の返事をもらった当日です。品名は「着手金(案件名)」とし、着手予定日と支払期日を書きます。請求書が遅れると着手金が形だけのものになり、後払いに戻りやすくなります。
知り合いからの依頼でも着手金をもらっていいですか?
もらってかまいません。知り合いの依頼ほど口約束になりやすく、あとで揉めやすいものです。「知り合いだからこそお金のことは先に紙にする」と一言添えて、見積書の支払条件欄に書きます。進行中の案件ではなく、次の案件の見積から入れてください。
着手金は返金しないと決めていいですか?
返金の扱いは、最初に見積書か契約書に書いておくのが基本です。途中で相手の都合で止まった場合にどうするかを決めておきます。ただし返金の可否は個別の契約内容によるので、法的な判断は専門家に相談してください。
参照した情報源
- ここからはじめる フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレット)(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)・確認日 2026-09-12
本記事は、当編集部の制作基準——出典との照合・表現・重複の多段検証——を通過したものだけを公開しています(下書きにはAIを活用)。 仕組みの詳細は編集プロセスの開示をご覧ください。