対面営業・商談
打ち合わせの議事録を武器にする|相手が社内で使える形にする
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
打ち合わせのあと進まないのは、話が弱かったからではない
「持ち帰って検討します」のあとに起きていること

打ち合わせは弾んでいました。相手もうなずいていたし、手応えもあった。なのに1週間経っても連絡がありません。
このとき相手の中で何が起きているか、営業する側からは見えません。相手は会社に戻り、上司や一緒に決める家族・共同経営者から「で、何をいくらでやってくれるの?」と聞かれます。そこでうまく答えられず、そのまま止まっていることがあります。
打ち合わせで話した内容は、相手の頭の中にしか残っていません。その場の空気や熱量、話の流れまでは、相手は自分の言葉で再現できないのです。覚えているのは「いい人だった」「良さそうだった」という印象だけ、ということも珍しくありません。
上司から「資料は?見積もりは?」と聞かれて、担当者が「口頭で聞いただけで…」としか答えられない場面は、想像しやすいはずです。そこで話が止まっても、担当者のせいでも、こちらの話のせいでもありません。手元に渡す紙がなかっただけです。
「あとは相手の番」で止まる型
出したあとに何をすればいいか習っていないだけで、「あとは相手の番」だと思い込んで止まってしまうことがあります。
自分の話に決め手がなかったからではありません。相手が社内で説明する材料を、こちらが渡していないから止まっているのです。
打ち合わせが終わった瞬間は、相手の番ではありません。まだ自分が動ける最後の番です。ここで動けるかどうかで、その後の展開が変わります。
話し方ではなく、渡す紙を変える
口下手を直す必要はありません。説明を上手にする必要もありません。
足すのは、相手が社内でそのまま使える一枚だけです。話し方という土台に手を入れなくても、渡すものを変えるだけで結果は変わります。
営業の流れ全体を一から見直したい場合は、フリーランスの営業のやり方にまとめています。この記事では、その中の「打ち合わせのあと」という1つの場面だけを扱います。
営業の議事録は、自分の記録ではなく相手の説明資料
読むのは打ち合わせにいなかった人
議事録を読むのは、打ち合わせに同席した担当者だけではありません。その上司、共同経営者、場合によっては家族や顧問税理士など、打ち合わせの場にいなかった人です。
その人が3分ほどで「何の話で、いくらで、次に何を決めるのか」をつかめるかどうか。これが合格ラインです。担当者がどれだけ理解していても、それを社内で再現できなければ話は止まります。
相手が一人で決める小さな会社でも同じです。後日、本人が見返すときには、打ち合わせの熱量や細かいやり取りを覚えていない「いなかった人」と同じ状態になっています。家族に相談してから返事をするつもりだった、というケースであれば、その家族もまた「いなかった人」です。
社内の記録用議事録との違い
一般的な社内向けの議事録と、営業で使う議事録は、目的からして違います。
| 項目 | 社内の記録用議事録 | 営業で使う議事録 |
|---|---|---|
| 読む人 | 出席者 | 欠席者(上司・共同経営者など) |
| 目的 | 証拠を残す | 相手の社内説明を代行する |
| 書く順番 | 時系列 | 相手の困りごとが先 |
| 長さ | 発言をほぼ全部 | A4一枚 |
| 主語 | 自分(自社) | 相手 |
同じ「議事録」という言葉でも、目的が違えば作り方はここまで変わります。時系列で発言を並べる書き方は、証拠を残すには向いていますが、社内で説明を代行する役には立ちません。
やりがちなNG例3つ
1つ目は、発言を時系列に並べただけのもの。「まず挨拶があり、次に自己紹介があり…」と続くと、読む人が結論を自分で探すことになります。途中で読むのをやめられて終わりです。
2つ目は、自分の商品説明や実績を貼り付けたもの。「弊社は◯◯業界で多数の実績があり…」と書くほど、実績並べに寄っていきます。相手の社内では、それは他人事として読まれます。
3つ目は、「ご検討のほどよろしくお願いします」だけで締める送信文。何を決めればいいかが書かれていないので、相手は動きようがありません。丁寧ではありますが、丁寧なだけでは相手は動けないのです。
相手が社内で使える議事録の5項目(テンプレ)
5項目と順番

順番は決まっています。相手の困りごとが先、自分の話は最後です。
| 順番 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | 相手の困りごと | 相手の言葉のまま1〜2行 |
| ② | 今回やること・やらないこと | 範囲をはっきり分ける |
| ③ | 金額と内訳 | 打ち合わせで出た範囲。未確定なら「概算」と明記 |
| ④ | 次に決めること | いつまでに・誰が |
| ⑤ | 想定質問と答え | 相手が社内で聞かれそうなこと |
①を自分の言葉に直さず、相手が言った通りに書くのがいちばんのポイントです。ここを整えた言葉に変えてしまうと、以降の項目がどれだけ良くても他人事に読まれます。
記入例:一件分をそのまま見せる
デザイナーが、従業員10名の製造業の会社から会社案内を頼まれた場面で考えます。
①相手の困りごと:「展示会で渡せる紙がない。今のはワードで作った10年前のもの」
②今回やること・やらないこと:A4三つ折り1種を新規で作成。撮影は今回の範囲に含めない
③金額と内訳:概算◯〜◯万円。撮影を足す場合は別途見積もり(ここでの金額は書き方の例示であり、実際の相場を示すものではありません)
④次に決めること:原稿に載せる情報の担当者を、相手側で来週◯日までに決める
⑤想定質問と答え:「社長はなぜ紙にこだわるのか」→展示会で名刺と一緒に渡す用途だから
この5行が手元にあれば、上司から急に聞かれても、相手は自分の言葉で答えられます。逆にこれがないと、担当者は「良さそうでした」としか言えません。
一枚に収める削り方
削るのは、雑談・自分の説明・打ち合わせに至った経緯です。残すのは、相手が上司に聞かれる順番、つまり何を・いくら・いつです。
迷ったときの基準は1つだけです。「この行がなくても、相手の上司は判断できるか」。できるなら、その行は削って構いません。丁寧に書こうとするほど行が増え、A4一枚から遠ざかっていきます。
打ち合わせの経緯や、これまでのやり取りの丁寧な振り返りは、書いている本人には意味があります。ですが相手の上司にとっては、結論にたどり着くまでの遠回りでしかありません。経緯は自分の記憶のためのメモに留め、議事録には入れないようにします。
相手の言葉で書く。自分の言葉に直さない
打ち合わせ中に取るメモは3つだけ
打ち合わせ中に発言を全部書き取ろうとすると、手元ばかり見て相手の顔を見なくなります。書き留めるのは3つだけにします。
①困りごとの言い回し(相手が実際に使った言葉そのもの) ②相手が気にしていること(納期・見た目・上司の反応など) ③誰が決めるか。
「気にしていること」は、たとえば「来月の展示会に間に合うか」「見た目が今どきかどうか」「値段より先に社長の反応が気になる」といった、金額以外の判断材料です。ここを聞き取れているかどうかで、⑤の想定質問の質が変わります。
5項目に並べ直す作業は、帰ってからで十分です。打ち合わせ中は聞くことに集中します。
「課題」「ご提案」に直した瞬間、他人事になる
相手が「今の業者は返事が遅くて困ってる」と言ったとします。これを議事録で「現行体制における対応速度の課題」と書き換えた瞬間、相手の言葉ではなくなります。
整えた言葉ほど、相手の社内では浮きます。逆に、相手の口調がそのまま残っていると、担当者が自分で言ったであろう言葉として、上司に通りやすくなります。きれいな日本語に直したい気持ちはわかりますが、ここでは我慢のしどころです。
決める人が誰かを聞き逃さない
打ち合わせ中に一度、「最終的にはどなたが決められますか」と聞いておきます。聞きにくい質問ではありません。むしろ聞かないほうが、後で困ります。
答えが「社長」なら、議事録の本当の読者は社長です。答えが「私です」だったとしても、⑤の想定質問は入れておきます。本人が後で一人で迷ったときの支えになるからです。
送るタイミングと送り方|当日中、質問を1つ添える
当日中に送る理由

相手が社内で話す前に一枚が届いていれば、それがそのまま説明資料になります。相手は自分の言葉を用意する手間が減ります。
翌日以降になると、相手はすでに自分の言葉で報告し終えています。そこに一枚を送っても、もう使われません。目安は当日中、遅くとも翌朝です。
文面は短く。前置きとお礼の重ね書きは削る
長い前置きやお礼の重ね書き、自分の熱意の表明は入れません。短いほど、相手はそのまま転送しやすくなります。
金額が未確定の場合は、「概算」の一言を必ず入れます。書かずに数字だけを送ると、相手はその金額を確定額として上司に伝えてしまい、後で金額が動いたときに信頼を落とします。
そのまま使える送信文の型は、議事録メール例文にまとめています。
質問を1つ添えて返事の口実を作る
「ご検討ください」だけでは、相手に返事の義務が生まれません。次に決めることのうち1つを、質問の形にして送ります。
「原稿のご担当は◯◯さんで進めてよいですか」のように。同じメールに次の連絡日も書いておきます。「来週◯日に一度ご連絡します」。これで「あとは相手の番」のまま止まらずに済みます。
送ったあとの使い方|返事が来ないときの2回目の連絡
2回目の連絡の用件を議事録から作る

議事録が手元にあれば、「先日の一枚の④の件、日にちが近づいてきたのでご連絡しました」という用件ができます。
用件があれば催促にはなりません。用件がないから、「しつこいと思われるかもしれない」で手が止まるのです。議事録は、この用件そのものを作ってくれます。
「ご検討状況はいかがですか」だけの連絡と、「④の期限が近いのでご連絡しました」という連絡は、文字数はほとんど変わりません。それでも受け取る側の印象は変わります。前者は返事を求める連絡ですが、後者は約束を確認する連絡だからです。
「追記します」で相手の社内を手伝う
返事がないのは、金額が高いと思われたからとは限りません。相手が社内で聞かれて答えられず、そこで止まっていることもあります。
「社内で聞かれていることがあれば、その分を追記してお送りします」。これは売り込みではなく、相手の仕事を減らす申し出です。相手にとっては、断りにくい話ではなく、助かる話になります。
返事を急かす連絡は相手に負担を与えますが、資料を足す申し出は相手の負担を減らします。同じ「連絡する」でも、この違いで受け取られ方は変わります。
次回の打ち合わせは前回の一枚から始める
2回目の打ち合わせは、「前回のこの一枚で、変わった点はありますか」から入ります。自分の説明から入らずに済み、相手側で何が動いたかを先に把握できます。
一度断られた案件でも、一枚が残っていれば半年後に「あのときの困りごと、その後いかがですか」と連絡できます。断られた時点で終わりにしなくてよくなります。
送る前のチェックリスト(7項目)と今日やること
送る前に見る7項目
- 相手の困りごとが、相手の言葉で1行目にあるか
- 金額が書いてあるか(未確定なら概算と明記してあるか)
- やらないことが書いてあるか
- 次に決めること・期限・誰がの3つがそろっているか
- 自分の実績・強みの段落がないか(あれば削る)
- A4一枚に収まっているか
- 質問が1つと、次の連絡日が添えてあるか
7つとも◯になってから送ります。1つでも×があれば、送る前に直せます。
今日やれる形
直近の打ち合わせを1件選び、5項目で書き直して送ってみます。数日経っていても、「先日の内容を一枚に整理しました」で送れます。
過去に返事が止まったままの案件も、同じ形で送り直して構いません。1件だけで十分です。全部の案件を一気にやり直す必要はありません。
うまくいった一枚は残す
送った議事録はフォルダにためておきます。次の案件で⑤の想定質問がそのまま使えることがあります。
毎回いちから考える必要はありません。型を手元に残しておけば、次からはそこに当てはめて書くだけで済みます。
打ち合わせの中身がどれだけ良くても、それを相手が社内で再現できなければ、話はそこで止まります。話し方を変える前に、まず渡す一枚を変えてみてください。
よくある質問
営業の打ち合わせの議事録には何を書けばいいですか?
相手の困りごと・やること/やらないこと・金額と内訳・次に決めること(いつまでに誰が)・相手が社内で聞かれそうな質問と答え、の5項目をA4一枚に。相手の困りごとを先に、自分の話は最後に書く。
議事録は打ち合わせの何日後までに送ればいいですか?
当日中、遅くとも翌朝。相手が社内で報告する前に届いていれば、そのまま説明資料として使われる。翌日以降だと相手はもう自分の言葉で報告し終えている。
打ち合わせ後に議事録を送ると、しつこいと思われませんか?
売り込みの文面を入れなければ思われにくい。相手が上司や一緒に決める人に説明する手間を減らすための一枚なので、相手の仕事を軽くする側の行動になる。自分の実績や熱意は書かない。
相手が一人で決められる小さな会社でも議事録は必要ですか?
必要。本人が後日見返すときは『その場にいなかった人』と同じ状態になる。家族や税理士に相談することも多く、その相手に見せられる形になっていると話が進みやすい。
議事録はメール本文とPDF添付、どちらがいいですか?
メール本文で十分。相手がそのまま転送しやすい。一枚に収まらないときだけPDFを添付し、本文には5項目の要点だけを書く。
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