対面営業・商談
Webデザイナーの営業方法|作品を見せる前に、相手の困りごとを聞く順番
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
Webデザイナーの営業方法は「作品を見せる」より「困りごとを聞く」が先
作品を見せても反応が薄いのは、腕が足りないからではない
打ち合わせでノートパソコンを開き、ポートフォリオを一通り見せた。相手は「すごいですね」とだけ言って、話は世間話に流れた。帰り道に頭に浮かぶのは「まだ実績が足りないからだ」という一言かもしれません。
でも、原因はそこではないことがあります。実績並べ型というものです。分かってもらおうと実績や情報を足し続け、見る人が自分を重ねる場面がない、という型です。実績が足りないのではなく、実力を証明しようとして、相手の話をしていないだけです。
「もっと実績を積まないと」と思って、次の打ち合わせまでに制作実績のスライドを増やす人もいます。数を増やす方向に進むほど、逆効果になることがあります。相手が見るべきものが増えるほど、自分に関係あるものを探す負担も増えるからです。
腕が足りないのではなく、見せる順番が違うだけです。このままだと営業が苦手なままだと感じることもあるかもしれませんが、変えるのは性格ではなく順番です。この記事では、作品を見せる前に何を聞くか、その順番を具体的に書きます。
相手が見ているのは「きれいか」ではなく「自分の困りごとが片づくか」
飲食店の店主に、配色やフォントの良し悪しは判断できません。店主が見ているのは「これで予約が増えるか」「求人を出したら応募が来るか」だけです。士業の先生も、小さな製造業の社長も同じです。デザインの技術を評価する物差しを持っていません。
だから作品を先に見せても、返ってくるのは「すごいですね」だけになります。作品が悪いわけではありません。相手が自分の状況を重ねる材料が、まだそこに無いだけです。
順番を入れ替えるだけで、同じ作品が違って見える
結論を先に書きます。①困りごとを聞く→②困りごとに近い作品を1つだけ見せる→③提案する。この順番だけで、同じ作品でも相手の受け取り方が変わります。作品を増やす必要はありません。
「Webサイト制作、ロゴ、バナー、LP…」とできることの一覧から話し始める行動も、根っこは同じ構造で起きています。ただ、1つの記事で扱う型は1つに絞ります。ここでは実績並べ型として話を進めます。
営業を1件の案件が進む順番で見たとき、聞く→見せる→提案の並びはその入り口にあたります。営業の全体の流れを先に押さえておくと、この記事の位置づけが分かりやすくなります。
実績並べ型がやりがちな3つの入り方(受け手にはこう聞こえている)
NG1: ポートフォリオを最初から最後まで見せる
見せた作品が、相手の記憶にほとんど残らないことがあります。相手からすれば「このうちどれが自分に関係あるのか」を自分で探す作業を押しつけられているのと同じです。
「すごいですね」は褒め言葉ではなく、次に何を言えばいいか分からないときの合図だと考えた方が近いです。作品数を増やすほど、この合図が返ってくる回数も増えます。
なぜ全部見せてしまうのか。「たくさん見せた方が、自分の実力が伝わる」と思っているからです。実力は量では伝わりません。相手の状況に近い1点だけが伝わります。
NG2: 「Webサイト制作、ロゴ、バナー、LP…」とできることを列挙する
「うちは制作からロゴ、バナー、LPまで一通りできます」 「……そうなんですね」
このとき相手の頭の中にあるのは「で、うちに何をしてくれるの?」という一言です。できることの列挙は、相手に選ばせる行為になっています。相手は選べません。何が必要か自分で分かっているなら、そもそも自分から具体的に頼み方を決めているはずだからです。
「検討しておきます」で終わるのは、相手が比較する材料だけを渡されているからです。列挙をやめて困りごとを聞く方に回るだけで、この返事は減ります。
NG3: 相手のサイトを見て、聞く前に「ここを直した方がいい」と言う
良かれと思って出した改善提案が、相手には「今のサイト(自分や知人が作ったもの)へのダメ出し」に聞こえることがあります。中身が正しくても、順番が先だと角が立ちます。
先に聞くのは「このサイトは何のために作りましたか」の一言です。
「このサイトは何のために作りましたか」 「知り合いに頼んで、5年前に作りました」 「今、困っていることはありますか」
このやりとりを経てから「実は求人ページを目立たせると、応募が増えるかもしれません」と伝えると、同じ提案でも「一緒に考えてくれている」と受け取られます。同じ改善案でも、聞いたあとに言うのと、聞く前に言うのとでは、相手の受け取り方がまったく変わります。
作品を見せる前に聞く順番(3ステップ)
ステップ1: 今のサイトと集客で困っていることを聞く
そのまま使える質問を3つ置いておきます。
- 「今のホームページ、何のために作ったものですか」
- 「お客さんは今、どこから来ることが多いですか」
- 「サイトを見た人に、本当はどうしてほしいですか」
答えている途中で遮らないこと、そしてメモを取ることの2つだけ意識すれば十分です。ここで作品の話をする必要はまだありません。3つとも答えてもらえたら、次のステップに進む合図です。まだ表面的な答えしか返ってこないと感じても、ここで畳みかける必要はありません。
ステップ2: 「それで何が困るか」をもう一段聞く
「サイトが古いんですよね」 「古いと、何が困りますか」 「求人を出しても、応募がまったく来なくて」
最初に返ってくる言葉は、たいてい表面の理由です。「それで何が困りますか」ともう一段聞いて、初めて本当の困りごとが出てきます。この例では「古い」ではなく「求人に応募が来ない」が本当の困りごとです。
士業の相談でも同じ形が使えます。「問い合わせフォームが分かりにくくて」と言われたら、「分かりにくいと、どうなりますか」と聞きます。「本題と関係ない相談ばかり来て、対応に時間を取られる」という答えが出れば、直すべきはフォームの見た目ではなく、先に聞く項目の方だと分かります。
ここまで聞けて、ようやく提案の軸が決まります。1回聞いて止めず、2回目の「それで」を聞くところまでが型になります。
ステップ3: 聞いた困りごとに一番近い作品を1つだけ選んで見せる
「先ほどの求人の話に近い案件があります」と理由を一言添えてから開きます。3つ以上は見せません。
近い作品が手元になければ、無理に見せる必要はありません。「似た状況なら、こう考えます」と口で伝える方が、無理やり近い作品を探して見せるより伝わります。
業種別「最初に聞くひと言」と見せる作品の選び方(一覧表)
困りごとは業種ごとの一例です。実際にどの困りごとを抱えているかは、必ず聞いて決めます。この表は「何を聞けばいいか分からない」ときの出発点です。業種名で決めつけず、返ってきた答えに合わせて次の質問を選んでください。
| 業種 | よくある困りごと | 最初のひと言 | 見せる作品の選び方 |
|---|---|---|---|
| 飲食店 | 予約・新規客が増えない | 「お客さんはどこで店を知ることが多いですか」 | メニューや予約導線が見える作品 |
| 士業 | 問い合わせの質がそろわない | 「どんな相談が来ると一番助かりますか」 | 相談内容を絞った作品 |
| 小さな製造業 | 求人に応募が来ない | 「応募が来ないのはどの職種ですか」 | 募集ページのある作品 |
| 美容室 | リピートにつながらない | 「2回目に来てもらうために何かしていますか」 | 予約・LINE導線の作品 |
| 教室・講師 | 体験申込みで止まる | 「体験に来た人はどこで迷いますか」 | 申込みまでの流れが見える作品 |
具体的な数字が返ってこなくても構いません。「応募がどの職種で止まっているか」のように方向感が掴めれば、見せる作品は選べます。
質問を自分で作るときの4つの軸
業種が変わっても、次の4つを埋めれば質問は作れます。
- 何のために作ったか
- 誰に来てほしいか
- 今どこから来ているか
- どこで止まっているか
相手の業種に詳しくなくても、この4つを順に聞けば会話は進みます。
「特に困ってない」と言われたときの返し方
「では今のままで大丈夫ですね」と返すと、そこで会話が終わります。
代わりに「今のサイトを見た人が、何をしてくれたら一番うれしいですか」と聞き直します。困りごとが無くても、「してほしいこと」は出てくることがほとんどです。
作品の見せ方:「ここが得意」ではなく「こう困っていて、こう変えた」
作品の語り方を「相手の話」に置き換える
「この案件はデザインにこだわりました」ではなく、こう語ります。
「この会社は求人に応募が来なくて困っていて、募集ページを一番上に置きました。◯◯さんの話と似ていると思います」
困りごと→やったこと→相手との共通点、の3文で語ると、相手は自分の状況と重ねやすくなります。士業の場合も同じ形が使えます。「相談内容ごとに資料をまとめました」ではなく、「相談の入り口で迷う方が多いと伺ったので、最初の一問一答だけのページを作りました。同じ悩みを抱える方が多いと思います」のように、聞いた困りごとを起点に語ります。
数字がない作品を盛らずに語る方法
「問い合わせが増えた」と言い切れる数字が無いなら、数字は作りません。代わりに、相手から実際に聞いた事実だけで語ります。
「更新を自分でできるようになった、と言われました」 「電話での説明が減った、と言われました」
数字を盛ると、次の案件で聞かれたときに自分の首を締めることになります。言える数字が無いなら、聞いた言葉をそのまま使う方が安全です。
作品がまだ少ないときにどうするか
架空の案件は作りません。代わりに、相手のサイトを見て「もし自分ならここを一つ変える」というたたき台を1枚だけ持っていきます。
たたき台には、現状のスクリーンショットと「ここを変えると、応募ページへの導線が今より短くなります」のような一言を添えるだけで十分です。「まだこの業種の実績はありませんが、もしこのサイトを担当するなら、まずここを直します」と伝えれば、実績の少なさより準備の姿勢が伝わります。全部の改善案を並べる必要はありません。聞いた困りごとに直結する1つだけに絞ります。
提案書と見積を出す前のチェックリスト4項目
出す前に、次の4つを確認します。
- □ 相手の困りごとを自分の言葉で一文にできる
- □ 提案の中身がその困りごとに直接つながっている
- □ 見せる作品は1つに絞った
- □ 見積の内訳が困りごとに対応している(「トップページ改修」ではなく「求人応募につなげる募集ページ」)
この4つを飛ばすと、出したあとに「思っていたのと違う」と言われ、作り直しのやりとりが増えます。1つでも空欄が残るなら、出す前にもう一度聞く方が、結局は早く終わります。
提案書の一行目は「相手の困りごと」にする
自己紹介や制作実績から始まる提案書は、読む人にとって自分に関係のあるページがどこにも無い状態です。
「◯◯様の困りごと:求人を出しても応募が来ない」から始め、実績は最後に回します。読む人は、自分のことが書いてあるページしか読みません。1ページ目に自分の名前が出てこないだけで、最後まで読んでもらえる確率は変わります。
見せたあとに聞く一言
見せたあとに「いかがですか」と聞くと、相手は答えに困ります。
代わりに「このうち、一番ご自身の状況に近いと思ったのはどこですか」と聞きます。答えがそのまま次の提案の材料になります。その場で答えが出れば、次に会う日をその場で決めてしまいます。「あとはこちらで検討します」で終わらせないための一言でもあります。
今日やること:次に会う前に「聞くこと」を3つ書き出す
打ち合わせ前の5分でやること
相手のサイトを見て、4つの軸(何のために/誰に来てほしいか/今どこから来ているか/どこで止まっているか)から質問を3つだけメモします。作品はその場では選びません。聞いたあとに1つ選びます。
ポートフォリオは持っていきますが、最初から開かないことだけ決めておきます。この一手間だけで、次の打ち合わせの進み方が変わります。
性格は変えなくていい。減らすだけでいい
実績並べ型から抜ける最小の行動は、「見せる作品を1つに減らす」ことです。話がうまくなる必要はありません。聞く質問さえ決まっていれば、口下手でも会話は相手が進めてくれます。
詰め込むほど、相手は自分を重ねられません。減らす方が伝わります。この先どう動くかは、あなたが決めることです。
よくある質問
Webデザイナーの営業は何から始めればいいですか?
作品を見せる前に相手の困りごとを聞きます。「何のために」「誰に来てほしいか」「今どこから来ているか」「どこで止まっているか」の4つを聞き、一番近い作品を1つ選んで見せます。
ポートフォリオは何点くらい見せればいいですか?
打ち合わせで開くのは1点です。聞いた困りごとに一番近いものだけを見せます。一覧は求められたら渡します。全部見せると相手はどれが自分に関係あるか分からず「すごいですね」で終わりやすくなります。
実績がほとんどない状態でも営業できますか?
できます。架空の実績は作らず、相手のサイトを見て「一つだけ変えるならここ」というたたき台を1枚持っていく方が、実績の数より伝わります。
話すのが苦手でもWebデザイナーの営業はできますか?
話す力より聞く順番です。質問を3つ決めて行けば会話は相手が進めてくれます。性格を変える必要はなく、見せる作品を減らすだけでいいです。
相手のサイトの改善点をその場で言ってもいいですか?
聞く前には言いません。「何のために作ったか」「どこで困っているか」を聞いてから、困りごとにつながる1点だけ伝えます。順番が逆だとダメ出しに聞こえます。
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