対面営業・商談
塗装屋の集客|一度塗った家の近所から、次の依頼が来るまで
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
塗った家の近所から声がかからないのは、仕上がりのせいではない
塗装屋の集客で一番手堅いのは、チラシでもポータルサイトでもなく、一度塗った家の近所から次の依頼が来る形です。遠くの見込み客より先に、すでに足場を組んだことのある場所を固めるほうが早く、費用もかかりません。
チラシは読まれるかどうか分からず、ポータルサイトは相見積もりの1社として比較されるだけです。すでに一度信頼して塗らせてくれた家の近所なら、工事の様子を実際に見ているぶん、最初から警戒心が薄い状態で話が始まります。
丁寧に塗った。色も施主さんに喜んでもらえた。それなのに、工事が終わって数か月たっても、隣も向かいも別の業者に塗ってもらっている。そんな場面に心当たりがあるかもしれません。
そのとき自分に言い渡す判決は、たいていこうです。「うちの仕上がりは、まだ目立つほどじゃなかったんだ」。もっと丁寧に、もっときれいに塗れば、いずれ近所からも声がかかるはずだと。
近所の人は壁を見ていない
声がかからないのは、腕が足りないからではありません。近所の人は、塗り上がった壁をそんなに見ていません。見ているのは、足場が立っていた間に「どんな人が来ていたか」と、足場を外したあとに「思い出す機会があったか」の2つだけです。
塗装は、完成してしまえば壁が静かすぎる商売です。工事中は毎日目に入るのに、終わった瞬間から風景の一部になります。放っておくと、近所の記憶の中では「いつの間にか終わってた」で流れていきます。仕上がりの良し悪しが伝わる前に、記憶から消えてしまうということです。
紹介待ち型かもしれません
紹介待ち型かもしれません。いい仕事をすれば紹介は自然に出るはずだと思っていて、近所や施主に思い出してもらうための働きかけを、特にしていない型です。
仕事が減ったのではなく、思い出してもらえなくなった。近所で起きているのは、たぶんそういうことだと思います。腕のせいではありません。
抜ける方法はシンプルです。一軒塗るごとに、近所に自分を思い出してもらう場面を、2回だけ自分で作ります。この2回がどこなのか、ここから具体的に見ていきます。
近所の人が見ているのは、足場が立っている間の「人」
見られているもの
近所の人が実際に見ているのは、工事の中身ではなく、工事の間の振る舞いです。
- 朝、車をどこに停めているか(近所の家の前をふさいでいないか)
- 養生の切れ端や高圧洗浄の水が、道路や隣の敷地に流れていないか
- 職人が塀に寄りかかって、だらだらと昼休みを過ごしていないか
- 大声、ラジオの音量、タバコの吸い方
- 夕方、片付けが早いか、道具を出しっぱなしで帰らないか
- 施主の奥さんと職人が話しているときの空気
これは全部、「うちに来たらどうなるか」の予行演習として見られています。近所の人にとって、この工事は他人事ではなく、次に自分の家を塗るときのシミュレーションです。
見られていないもの
一方で、塗料のグレード、塗り回数、保証年数、下地処理の丁寧さは、ほとんど見られていません。見ても分からないからです。
ここに力を入れて「あれだけ丁寧にやったのに、なんで分かってもらえないんだ」と落ち込むのが、ズレの正体です。技術の話は施主には伝わっても、近所には伝わりません。近所に伝わるのは、振る舞いだけです。
NG例:挨拶回りを営業の場にする
やりがちな失敗が、工事前の挨拶回りで名刺とチラシを一緒に配り、「うちもぜひ」と切り出すことです。
このひと言で、近所の人の中の自分の立場が変わります。「工事の迷惑のお詫びに来た人」から、「売り込みに来た人」に変わってしまうということです。
塗装屋は工事の間、近所に対して迷惑をかける側にいます。この立場を忘れて売る側に回ると、腕がどれだけ良くても声がかからなくなります。
挨拶回りで名刺を渡すこと自体は問題ありません。渡すタイミングと、そこに何を添えるかだけの話です。
声がかかるまでの流れは4つの場面に分かれる
一軒の工事には、近所の人の気持ちが動く場面が4つあります。
| 場面 | 近所の人が思っていること | 塗装屋がやりがちなこと | 実際に効くこと |
|---|---|---|---|
| 工事前の挨拶 | これからどれくらいうるさくなるのか | 名刺とチラシを一緒に配る | うるさい日と連絡先だけ伝える |
| 工事中 | どんな人たちが出入りしているのか | とにかく丁寧に塗ることだけ考える | 車の停め方・片付け・挨拶を徹底する |
| 足場を外した日 | ああ、もう終わったんだ | そのまま次の現場に移動する | もう一度顔を出してお礼を言う |
| 塗ってから数か月後 | あの工事、もう忘れかけている | 何もしない | 点検の口実で連絡し、近所にも一言 |
依頼は塗装屋ではなく施主に来る
近所の人が外壁の話を聞きたくなったとき、最初に聞くのは塗装屋ではなく施主です。「外壁いくらだった?」「どこに頼んだの?」と、まず声をかけるのは隣の家の人にです。塗装屋に直接電話をかけてくる近所の人は、ほとんどいません。
つまり、集客の相手は近所の人そのものではなく、「近所から聞かれたときに答える施主」です。施主が答えやすい状態を作っておくことが、塗装屋の仕事になります。
この前提を知らないと、近所への営業を頑張るほど空回りします。営業する相手を、近所の人から施主に切り替えるだけで、やることは驚くほど減ります。
自分が動く場面は2つだけ
4つの場面のうち、工事中は職人の振る舞いでほぼ決まります。工事前の挨拶は迷惑のお詫びであって、営業の場ではありません。
自分から動いて次につなげる場面は、「足場を外した日」と「塗ってから数か月後」の2つだけです。ここを先に決めておかないと、工事をやって終わり、で止まってしまいます。
タイミングを外した例
塗ってから1年後に、急に近所へチラシを入れる。施主も近所も、もうどこの業者が塗ったか覚えていません。工事中に、隣の家の壁を勝手に「ここ、浮いてますね」と指摘する。頼んでもいないのに見られたくない場所を見られた、という不快感だけが残ります。
工事の前後だけでなく、営業そのものの基本の順番を確認したいときは、フリーランスの営業のやり方にまとめてあります。
工事前の挨拶回りで言うこと・言わないこと
言うのは3つだけ
工事前の挨拶で言うことは、次の3つで十分です。
- 工期(いつからいつまでか)
- 特にうるさい日、臭いが出る日(高圧洗浄、足場の組み立てと解体)
- 困ったときに、その場で言える連絡先
範囲は両隣・向かい・裏の4軒が目安です。粗品を持っていくかどうかより、「何かあればすぐ言ってください」のひと言が相手の中に残るかどうかのほうが大事です。
口頭で伝えるときは、「ご迷惑をおかけしますが、何かあれば遠慮なくおっしゃってください」のひと言で締めます。長い説明より、この一言のほうが記憶に残ります。
言わないこと
この場で言わないほうがいいのは、次のようなひと言です。
「うちも塗りませんか」 「見積もり、無料でやりますよ」 「今なら足場代が浮きますよ」
足場を共有する話は、相手から出たときだけ受けます。こちらから先に出すと、「迷惑をかける側」から「売る側」に立場が変わってしまいます。
留守だった家への置き手紙の文面例
留守の家には、営業文言を入れない置き手紙を入れておきます。
○月○日より、お隣の○○様邸の外壁塗装工事を行います。 工事期間は○月○日〜○月○日を予定しています。 特に○日と○日は、高圧洗浄と足場の組み立てで音が出ます。 ご迷惑をおかけしますが、何かお気づきの点がございましたら、下記までご連絡ください。 ○○塗装 ○○ 電話:○○○-○○○○-○○○○
NG例は、この手紙に自社のチラシを同封することです。お詫びのつもりが、営業のつもりに見えてしまいます。
足場を外した日の「お礼回り」が次の依頼の入口になる
なぜもう一度回るのか
工事前の挨拶は「これから迷惑をかけます」、足場を外した日の挨拶は「ご迷惑をおかけしました」です。同じお詫びでも、意味が違います。
2回目に顔を出して初めて、近所の人の中で「あの家を塗った人」として名前と顔がつながります。1回目の挨拶だけで終わると、いつまでも「工事の人」のまま記憶に残ります。ここが、「やって終わり」と「次につながる」の分かれ目です。
施主に渡す「聞かれたときに答えられる紙」
近所の人は施主に聞きます。だから、こちらから施主に渡しておくものが3つあります。
- 名刺を3枚ほど
- 「いくらだったの?」と聞かれたときの答え方(総額ではなく「うちは○坪でこの範囲でした。家によって違うので、見てもらうのが早いです」と言える形)
- 点検の連絡がいつ頃くるかの目安
施主に頼んでいるのは「紹介してください」ではなく、「聞かれたら答えられる」状態にしておくことだけです。ここを分けておくと、施主に借りを感じさせずに済みます。
NG例
足場を外したら、そのまま次の現場へ移動する。お礼回りの代わりに、チラシだけポストに入れる。施主に「どなたか紹介してください」と正面から頼む。
正面から頼まれると、施主のほうが困ります。頼まれた側は断りにくく、断れないまま気まずさだけが残ることもあります。
塗って数か月後、思い出してもらう場面を自分で作る
紹介待ち型から抜けるための、最小の行動です。「いい仕事をしてもらった」という記憶は、数か月で薄れていきます。薄れきる前に、もう一度、施主と近所の目に入っておきます。
施主への「塗ってから半年後の点検」
塗膜の様子を見に行く、という口実で連絡します。
「塗ってから半年になるので、一度様子を見に伺ってもいいですか。10分ほどで終わります」
当日は、壁を見てひと言報告するだけで、営業はしません。帰り際に、「近所で気になっている家があれば、見るだけでもしますよ」とひと言添えます。頼むのではなく、聞かれたときの受け皿をそこに置いておくだけです。
早すぎても遅すぎても効果は薄れます。3か月ではまだ記憶が新しすぎて口実として不自然に見え、1年を過ぎると相手にも忘れられています。半年前後がちょうどいい間合いです。
近所には「あの家を塗った者です」のひと言
点検で訪ねた日に、工事中に顔を合わせた両隣にも、「先日はありがとうございました。半年点検で伺いました」と声をかけます。それだけです。
ここで、近所の人の側から「うちも実は…」という話が出ることがあります。出なくても構いません。名前と顔が、もう一度つながるだけで十分です。
頼まなくていい
「紹介してください」と言えない人は、言わなくていいです。近況を伝えて顔を見せるだけで、聞かれたときに思い出される相手になれます。
性格を変える必要はありません。変えるのは、「いつ顔を出すか」を自分で決めておくことだけです。
一軒塗るたびに使う「近所集客チェックリスト」
ここまでの流れを、一軒ごとに使えるチェックリストにまとめます。工程表の横に貼っておける粒度です。
| 場面 | やること | やらないこと |
|---|---|---|
| 工事前 | 両隣・向かい・裏へ挨拶(工期・うるさい日・連絡先)。留守宅には置き手紙 | チラシ配布、「うちも塗りませんか」の声かけ |
| 工事中 | 車の停め方・道路の養生・昼休みの過ごし方・片付けの早さを徹底 | 隣家の壁の指摘、大声・ラジオ・喫煙マナー違反 |
| 足場を外した日 | お礼回り、施主に名刺と答え方の紙を渡す | そのまま次の現場へ移動、チラシだけ投函 |
| 半年後 | 施主に点検の連絡、両隣にひと言挨拶 | 「紹介してください」と正面から頼む |
やらないことも先に決める
挨拶回りでの売り込み、隣家の壁の欠点の指摘、足場共有の押し売り、施主への紹介の直談判、1年後の突然のチラシ。この5つは、やらないこととして先に決めておきます。
「やらないこと」を書いておくと、現場で迷ったときに職人にもそのまま共有できます。忙しい現場では、やることより、やらないことを決めておくほうが実際には効きます。
一軒ごとに記録を残す
塗った家、施主の名前、工事中に話した近所の人、点検の予定日を、1枚にまとめておきます。
○○様邸/塗装完了:○月/両隣:○○様(在宅時間帯:午前)/点検予定:翌年○月
これだけの記録でも、毎回いちから思い出さずに済みます。件数が増えるほど、点検の連絡を忘れなくなる効果のほうが大きくなります。
一軒だけなら記憶でも足りますが、月に数軒を塗っていると、半年後の点検はあっという間に重なって抜け落ちます。紙1枚の手間で、それを防げます。
近所からの依頼は、腕の証明ではなく、思い出してもらう回数で決まります。一軒塗るたびに、この2回を自分で作っていくだけです。
よくある質問
塗装屋の集客はチラシとネットとどっちを先にやるべき?
どちらも塗った家の近所より遠い相手に向けたもの。まず直近で塗った家の近所と施主に「思い出してもらう場面」を作るほうが早く、費用もかからない。チラシやネットはその型ができてから足す
工事前の挨拶回りはどこまで回ればいい?
両隣・向かい・裏の、音と臭いが届く範囲。粗品の有無より「うるさい日」と「困ったときの連絡先」が伝わることが大事。留守なら営業文言のない置き手紙を入れる
施主に「誰か紹介してください」と頼むのは失礼?
正面から頼むと施主が困り、次から気まずくなる。頼む代わりに、近所から「いくらだった?」と聞かれたときに答えられる名刺と言い方を渡しておく。施主が「紹介する」のではなく「聞かれたら答えられる」だけにする
工事中に隣の人から「うちも見てほしい」と言われたらどうする?
その場で見積や営業に入らない。「今の現場が終わってから改めて伺います」と日を決めて、足場を外したあとに訪ねる。工事中に隣家の営業を始めると、施主にも近所にも「売りに来た人」に見える
塗ってから何か月後に連絡すればいい?
半年を目安に「塗膜の様子を見に行く点検」として連絡する。施主が忘れる前で、かつ「まだ何も起きていない」時期。点検の日に両隣にも一言あいさつすると、近所の記憶がもう一度つながる
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