対面営業・商談
個人事業主の飛び込み営業|迷惑がられにくい顔の出し方
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
個人事業主の飛び込み営業は「売りに行く」より「近所にいる人として顔を覚えてもらう」と迷惑がられにくい
足が止まるのは、断られるのが怖いからだけではない
近所の店の前まで行って、ガラス戸の手前で引き返す。名刺を財布に入れたまま、一度も出さずに帰ってくる。帰り道で「今日は時間帯が悪かった」と自分に言い聞かせる。こういう日が続いている人もいます。たとえば、紹介で回っていた仕事が細ってきた工務店の社長を想像してください。腕はあるのに、自分から声をかける場面だけ手が止まる人もいます。
足が止まる理由は、断られるのが怖いことだけではないようです。その手前に、次のような思い込みがある人もいます。
- 飛び込みなんてしたら、仕事に困っている人だと思われる
- 頭を下げて仕事をもらいに行くのは、自分の腕を安く見せることになる
この思い込みが正しいと決まっているわけではありません。ただ、そう感じているあいだは、腕があっても足が前に出にくくなります。腕の問題というより、気持ちの置き場の問題であることが多いようです。
迎える側が嫌がるのは訪問そのものより、誰が何の用で来たのか分からない時間
自分の仕事場に、知らない人がふらっと入ってきた場面を思い浮かべてください。手を動かしている最中に「すみません」と声をかけられる。何の用か分からないまま、相手は話し始める。こちらは手を止めるべきか、聞き流すべきか迷う。このとき困るのは、相手が来たことではなく、いつまで続くか見えないことです。
店や事務所の人を困らせるのは、主に3つです。名乗りが遅い、用件が見えない、終わりが見えない。詳しくは次の章で見ます。
訪問の順番を習う機会がなかっただけ、という人が多いようです。会社員のころは営業担当が代わりにやっていた、という人もいます。
近所に店はあるのに、仕事の話が出せない
近所に何年も店を構えている人がいる。毎日のように前を通っている。それでも、まだ一度も仕事をしたことのない相手には、仕事の話を出せない。この状態を、私は「切り出せない型」と呼んでいます。
この型の中にいる人は、頼んだ瞬間、対等じゃなくなる気がする、という人もいるようです。だから足が止まる。そう感じる人もいます。
ここで渡したい許可があります。頼まなくていい。近所でこういう仕事をしています、と伝えるだけでもいい。仕事をください、とは言わなくていいのです。
この記事の結論は短いです。30秒で名乗って、紙を1枚置いて帰る。 これだけです。売り込みではなく、近所への挨拶として成り立つ長さと中身にします。飛び込みは、仕事の取り方の入口の1つにすぎません。入口を軽くしておけば、2回目、3回目の接点で話が動きます。
迎える側が困るのは「名乗りが遅い」「用件が見えない」「終わりが見えない」の3つ
名乗る前に話し始める
NG例です。
「お忙しいところすみません、ちょっとだけいいですか。実はですね、最近いろいろありまして……」
相手は、この人が誰で、何屋で、なぜ自分のところに来たのかが分からないまま、話を聞き続けることになります。最後まで名乗らない人もいます。
OK例は、最初のひと言に全部入れる形です。
「突然すみません。〇丁目でデザインの仕事をしている〇〇です」
近所のどのあたりの、何の仕事をしている、誰なのか。ここまで言えば、相手は「ああ、近所の人か」と受け取れます。警戒が少し下がるのはこの瞬間です。
何を返せばいいか分からない
NG例は、いきなり「何かお困りごとはありませんか」と聞くことです。店の人は、いきなり聞かれても答えようがありません。答えようがないと、断るしかなくなります。
返事を求めない形にすると、相手は「はい」と受け取るだけで済みます。「こういうことをしています、という紙だけ置かせてください」なら、返す言葉は「はい、どうぞ」の一言です。相手に宿題を渡さない。ここが、迷惑がられない最大の分かれ目だと私は考えています。
いつ終わるか分からない
立ち話が延びるほど、相手は次から避けるようになります。長居された記憶は、残りやすいものです。
だから「1分で失礼します」と先に言って、そのとおりに帰ります。実際は30秒で終わるのが理想です。言った時間を守ると、「あの人は約束を守る人だ」という印象が残りやすく、次も話を聞いてもらいやすくなります。腕を見せる前に、時間の約束で信頼を少し積むわけです。
行く前に決めておく3つ ― 回る範囲、時間帯、置いていく1枚
回る範囲は「歩いて行ける近所」から
自分の仕事場や家から歩いて行ける範囲に絞ります。理由は2つあります。
1つめは、近所であること自体が名乗りの一部になることです。「近くで仕事をしている者です」は、遠くから来た営業とは違う安心感になりやすいです。2つめは、2回目に顔を出す口実が作りやすいことです。通りがかりに会釈できる距離なら、仕事の話をしなくても顔を出せます。
1日に回る件数は少なめに決めます。たとえば5件までと決めておくと、断られた日の負担が小さく、続けやすくなります(決まった数があるわけではありません)。5件で終えて、記録を書いて帰る。そのほうが続きます。
相手が忙しくない時間帯を選ぶ
避けたい時間は業種で違います。数字ではなく、一般に混みやすい時間として整理します。
| 業種 | 避けたい時間 | 理由 |
|---|---|---|
| 飲食店 | 昼と夜の営業中、仕込みの時間 | 手が離せない |
| 美容室・治療院 | 予約が詰まりやすい時間 | 目の前のお客さんが最優先 |
| 小売店 | レジが混みやすい時間 | 話しかけると接客の邪魔になる |
| 事務所 | 朝一番、夕方の締めの時間 | 段取りと片付けで余裕がない |
迷ったときは、自分が客としてその店に行ったとき、空いていた時間を思い出します。それが手軽で使いやすい目安です。
置いていく1枚に書くこと
名刺だけでは、何を頼めるかが伝わりません。置いていくのは、A4かはがきの大きさ1枚です。書くことは4つです。
- 何ができるか(例を3つ)
- 近所であること(〇丁目で仕事をしている、など)
- 連絡先
- 気軽に頼めそうな小さな仕事の例
NG例は、実績をぎっしり並べたパンフレットです。読む人が「これは自分の店のことだ」と思えません。詰め込むほど、相手は自分を重ねられなくなります。小さな仕事の例を1つ入れておくと、「これくらいなら頼んでもいいのか」と相手が想像できます。
30秒で終わる挨拶の台本 ― 名乗る、近所だと言う、1枚渡す、帰る
そのまま使える台本
基本の形です。
「突然すみません。〇丁目でデザインの仕事をしている〇〇です。近所の方にご挨拶して回っていまして、こういうことをしています、という紙だけ置かせてください。お忙しいところありがとうございました」
業種を入れ替えるだけで使えます。
- カメラマン:「〇丁目で写真の仕事をしている〇〇です。お店の写真や商品の写真を撮っています、という紙だけ置かせてください」
- ライター:「〇丁目で文章の仕事をしている〇〇です。チラシやホームページの文章を書いています、という紙だけ置かせてください」
- 施術者:「〇丁目で整体をしている〇〇です。近所の方にご挨拶して回っています。こういう店です、という紙だけ置かせてください」
- 職人:「〇丁目で内装の仕事をしている〇〇です。小さな修理も受けています、という紙だけ置かせてください」
声に出して1回言ってから行くと、本番で言葉が詰まりにくくなります。30秒より短くなっても問題ありません。
その場で売り込まない、困りごとを聞き出さない
初回の目的は、覚えてもらうことだけです。ここに線を引きます。
やってしまいがちなNG例です。
- 料金の説明を始める
- 相手の店の看板やチラシに意見を言う
- 「このチャンスを逃さないでください」のように、期限をつけて決断を迫る
看板への意見は、良かれと思って言うほど嫌がられます。まだ何も頼まれていない相手に、評価されたいと思う人は少ないはずです。
相手から話しかけられたときだけ広げる
「どんなことをしてるの?」と聞かれたら、そこで初めて話を広げます。近所の店を手伝った例があれば、1つだけ話します。作り話はしません。まだ例がなければ、「こういうことができます」で十分です。
相手が手を止めて話してくれているあいだも、区切りはこちらで作ります。「長くなってしまうので、このへんで失礼します。ありがとうございました」と言って帰ります。相手が引き止めるくらいで帰るのが、次につながると私は考えています。
断られた・留守だったときの引き方 ― 次に来づらくならない帰り方
「うちは大丈夫です」と言われたら
返し方の例です。
「ありがとうございます。近所にいますので、何かのときに思い出していただければ十分です」
理由を聞き返さない。食い下がらない。断られたのは、今の相手の都合であって、腕の評価ではありません。この帰り方ができると、「あの人は引き際がいい」という印象が残りやすくなります。次に顔を合わせたときの空気が変わります。
担当の人がいない、店主が手を離せないとき
対応した人に1枚を預けて、名前を添えます。
「〇〇さんによろしくお伝えください。〇丁目の〇〇が寄りました、とだけお願いします」
いつ戻るかを聞いて、その日に出直すのはやめます。追いかけられている感じがするからです。1枚を渡せたなら、その日の目的は果たせています。
「営業お断り」の貼り紙がある、明らかに嫌がられたとき
その店はもう回らない、と先に決めておきます。迷ったときの基準は3つです。
- 貼り紙がある
- はっきり断られた
- 営業中で手が離せないのに、話しかけてしまった
3つめは、断られたのではなく、こちらが場面を外した例です。この場合は、その場で頭を下げて引き、日を改めて客として行くのが無難です。
1回で終わらせない ― 2回目に顔を出す口実を先に用意しておく
問い合わせを待つだけでは、近所の人にも思い出してもらえない
1回挨拶して、あとは連絡が来るのを待つ。この行動は、よくある流れです。待つ間、紙は引き出しの中に入ったままで、相手は自分の仕事で忙しい。待つだけの状態だと、思い出してもらう機会は生まれません。
変えるといっても、大きなことは要りません。2回目に顔を出す口実を、1回目の前に決めておくだけです。
2回目の口実の例
- 客としてその店を使う(買い物・食事・施術を受ける)
- 季節の変わり目に、一言だけ挨拶する
- 近所で手伝った仕事が形になったときに、見せに行く
仕事の話をしない2回目があると、3回目に仕事の話が出しやすくなります。客として行くのは、売り込みと違って相手に負担がかからず、こちらの気持ちも軽いままです。
回った店を1行ずつ残す
数件たまると、どの業種・どの時間帯で話を聞いてもらえたかが見えてきます。表の例です。
| 店名 | 行った日 | 会えた人 | 言われたこと | 次に行く口実と日にち |
|---|---|---|---|---|
| 〇〇パン店 | 10/5 | 店主 | 「ありがとう、見ておくね」 | 客としてパンを買う・10/12 |
| △△美容室 | 10/5 | スタッフ | 「店長に渡しておきます」 | 季節の挨拶・11/上旬 |
長く書く必要はありません。1店1行で十分です。書いておけば、2回目に「前回はこう言われた」から会話を始められます。
飛び込みの前と後に見るチェックリスト
行く前のチェック(5項目)
- 回る範囲を決めた
- 相手が忙しくない時間か確かめた
- 置いていく1枚に「何ができるか・近所であること・連絡先」がある
- 30秒の台本を声に出して1回言った
- 断られたときのひと言を決めた
帰ってきてからのチェック(4項目)
- 記録を1行残した
- 2回目の口実と日にちを書いた
- 嫌がられた店に印をつけた
- 何を言ったら相手の表情がやわらいだかを1つメモした
今日やれること
歩いて行ける範囲で、まず1件だけ回ります。最初の1件は、もう客として行ったことのある店を選びます。顔を知られている店なら、「近所で仕事をしている者です」の一言が、いちばん自然に出ます。
仕事を取りに行く、と考えると足が重くなります。近所の人に、自分がここにいることを知らせに行く。それくらいの気持ちで、最初の1件から始めれば十分です。
よくある質問
飛び込み営業は何時ごろに行けばいい?
相手が忙しくない時間を選びます。飲食店は営業中と仕込みの時間、事務所は朝一番と夕方を避けます。自分が客として行ったときに空いていた時間が目安になります。
名刺だけ置いて帰っても意味はある?
名刺だけでは、何を頼めるかが伝わりません。何ができるか(例を3つ)、近所であること、連絡先をのせた1枚を、名刺と一緒に置くのがおすすめです。
飛び込みで手土産は持って行くべき?
初回はなくて構いません。相手にお返しの気づかいをさせることもあります。気持ちを伝えたいなら、客としてその店を使うほうが自然です。
一度断られた店にもう一度行ってもいい?
「今は大丈夫です」程度なら、仕事の話をしない形(客として行く、季節の挨拶)で顔を出して構いません。貼り紙がある店や、はっきり断られた店には、もう行かないと決めておきます。
個人事業主でも飛び込み営業で仕事は取れる?
1回の訪問で仕事になることを目当てにしないほうが続きます。近所に頼める人がいると覚えてもらい、2回目・3回目の接点で声がかかる形を目指します。取れるかどうかは、相手と時期によるため断定できません。
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