対面営業・商談
短納期の依頼の断り方|全部を断らずに、条件を出して返す言い方と例文
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
短納期の依頼は「全部受ける」か「全部断る」かで考えなくていい
夕方に取引先から連絡が来ます。「来週の水曜までにお願いできませんか」。今週の予定は、すでに埋まっています。それでも「大丈夫です」と返して、夜と週末を削って間に合わせる。終わったころには、後ろにずらした別のお客さんの仕事が遅れていて、そちらにお詫びの連絡を入れている。こういう流れに心当たりのある人は多いと思います。

受けてしまうときの心の中を聞くと、「ここで断ったら、もう次は頼まれない」という言葉が出てくることがよくあります。腕に自信はあるのに、一度断っただけで仕事が途切れる気がして、頭の中でその場面ばかり先に想像してしまう。そう感じるのは自然なことだと思います。
ただ、急ぎの依頼を出した側の事情を、少し違う角度から見てみます。相手が困っているのは「その日までに何かが手元にない」ことです。「この人に全部をやってほしい」とまでは決めていない場合も、実際には多いのではないか、というのが私の見立てです(仮説です。相手によります)。たとえば、全部は無理でも骨子だけ先に出す。日にちを少しずらす。そういう案が、相手にとって実際に助けになることもあります。
なので、短納期の断り方の答えは「断るか、受けるか」の二択ではありません。「この形ならできます」と条件をつけて返すことです。この記事では、その言い方をそのまま使える例文で渡します。
返事を書く前に決める3つ:どこまで・いつまで・何があれば
返事の文面を考える前に、頭の中で3つだけ決めます。ここが決まっていれば、文面は日付と範囲を入れ替えるだけで書けます。

全部・一部・後ろ倒しのどれなら出せるか
まず、依頼を丸ごとの1個として見ずに、分けて考えます。「全部」「一部」「納品日を後ろに延ばせば全部」の3つに分けて、どれなら出せるかを見ます。職種ごとに、分け方の例を挙げます。
- デザイン:全部は難しくても、ラフ案や構成案だけ水曜に出し、仕上げは翌週にする
- ライティング:構成と見出しだけ先に出し、本文は後日にする
- 撮影:撮影日は受けて、仕上げ(補正・納品)の日にちを延ばしてもらう
- 士業の書類:まず提出に必要な部分だけ整えて出し、補足資料は後で追加する
- 資料づくり:表紙と骨子だけ水曜に出し、残りは翌週にする
「相手は何のために、その日までに必要なのか」が分かると、分け方が決まりやすくなります。会議で使うのか、社内で確認を回すのか、先方に出すのか。分からないときは、返事の中で一言聞いてしまって構いません。
今ある仕事と並べて、何を後ろにずらすことになるか見る
次に、手帳やカレンダーに入っている予定の横へ、短納期の作業を書き込みます。時間数を厳密に出す必要はありません。「これを入れると、どのお客さんの何が後ろにずれるか」が見えれば十分です。
やってはいけないのは、確認しないで「大丈夫です」と返すことです。あとで予定と突き合わせて足りないと気づき、すでにお約束しているお客さんに遅れの連絡を入れることになります。新しく受けた1件のために、前から付き合いのあるお客さんを待たせる形です。これは、断るより相手を困らせることが多いです。
ずらせる予定と、ずらせない予定を分けておくのもコツです。他のお客さんの納期、すでに日時が決まっている打ち合わせ、自分の休む時間。ずらせないものが先に見えていれば、「ここなら動かせる」という場所が自然に決まります。
急ぎの分を料金に乗せるかを先に決めておく
急ぎの対応を、特急分として料金に乗せる選択肢があります。乗せるかどうかは人によって考え方が違い、ここに正解はありません。大事なのは、いくら上げるかよりも、返事を書く前に「上げるか、上げないか」を決めておくことです。
決めていないまま返事を書くと、「ひとまず通常の金額で……」と流れてしまい、あとから言い出せなくなります。上げると決めたなら、受ける条件として最初の返事に入れます。上げないと決めたなら、それはそれで構いません。ただ、その場合も「今回は急ぎの対応として受けます」と書いておくと、次に同じ依頼が来たときの話がしやすくなります(理由は「やりがちなNG返事と、その直し方」の章で書きます)。金額や割合の目安は、取引先との関係や業界で変わるため、ここでは書きません。
この3つを決める時間は、短くていいです。長く迷うほど、返事が遅れます。返事が遅れると相手が困る、という話は、次の章で書きます。
条件を出して返す言い方と例文(場面別に3パターン)
ここからは、そのまま使える返事の例文です。日付や曜日は、書き換えやすいように置いた例です。実際の日数の目安を示すものではありません。自分の仕事の言葉に直して使ってください。

一部なら間に合うとき
ご連絡ありがとうございます。水曜までに全部は難しいのですが、◯◯の部分だけなら水曜にお出しできます。残りは翌週の金曜でよろしければお受けできます。この形でいかがでしょうか。
最初に「できること」を言っている点が大事です。難しい理由から入ると、読む側は「断られるのかな」と身構えます。先に「◯◯だけなら水曜にお出しできます」と見せると、相手は「今回はこれで足りるか」を考え始めます。相手に考えてもらう材料が最初から手元に届いている形です。
日にちをずらせば全部受けられるとき
今週は先にお約束しているお仕事があり、水曜は間に合いません。来週の月曜であれば、全部まとめてお出しできます。いかがでしょうか。
理由は一文だけで足ります。「先にお約束しているお仕事がある」と書けば、相手には十分伝わります。他のお客さんの名前や、忙しさの詳しい中身まで書くと、読む側の負担が増えます。長い事情を書くより、代わりの日にちを先に出したほうが、相手は決めやすくなります。
今回はどうしても受けられないとき
せっかくお声がけいただいたのに申し訳ありません。今回の日程ではお受けできません。次に同じようなお仕事があるときは、◯日前くらいにご相談いただければ、時間を空けてお待ちします。
断る場合でも、次の頼み方を相手に渡して終わるのがポイントです。「できません」だけで終えると、相手には次に頼む方法が残りません。「◯日前までに」と目安を渡しておけば、相手は次回から、余裕を持って連絡を入れやすくなります。
3つの例文に共通する組み立て
3つの例文は、どれも同じ4つの順番でできています。
| 順番 | 中身 | 例文での表れ方 |
|---|---|---|
| ① | お礼 | 「ご連絡ありがとうございます」「お声がけいただいたのに」 |
| ② | できない部分をひと言 | 「全部は難しい」「水曜は間に合わない」「今回の日程では」 |
| ③ | できる形(範囲・日にち・条件) | 「◯◯だけなら水曜」「来週の月曜なら全部」「◯日前なら空ける」 |
| ④ | 相手に選んでもらう問いかけ | 「この形でいかがでしょうか」 |
②は、ひと言で済ませます。③に字数を使います。④で、決める役を相手に戻します。この4つの順番を覚えておけば、場面が変わっても、文面を毎回いちから考えなくて済みます。
返事は早く、最初の一文で「できる・できない」を言う
迷っているあいだも相手は待っている

依頼した側から見ると、返事が来ないあいだは、別の人を探すこともできません。「受けてもらえるのか」がはっきりしないまま時間だけが過ぎるのは、相手にとってかなり困る状態です。
だから、条件つきでも、早く返したほうが相手は動きやすくなります。「全部は難しいが、一部なら」という返事でも、早く届けば、相手は「では一部だけお願いして、残りは別の人に」と組み替えることができます。受けるかどうかを一晩考えて、朝になって断るより、夕方のうちに条件を出して返したほうが、相手のためになることが多いと私は思います。
最初の一文に結論を置く
次の2つを並べて見てください。
NGの例
ご連絡ありがとうございます。実はいま◯◯の案件が立て込んでおりまして、先週からも別件が重なっており、なかなか時間が取れない状況なのですが……
事情から書き始めると、受けてもらえるのかどうかが、最後まで分かりません。読む側は、最後まで読んでようやく結論に着きます。
直した例
水曜までに全部は難しいのですが、一部ならお出しできます。◯◯の部分を水曜に、残りを翌週の金曜にお出しする形ではいかがでしょうか。
先頭に「できる・できない」を置きます。事情が必要なら、そのあとに一文だけ足します。迷ったときは、「相手が最初の一行だけ読んだとして、何が分かるか」を基準にします。最初の一行で可否が分かれば、文面は成立しています。
電話かメールか
急ぎの依頼は、相手も急いでいます。電話やチャットで、先に可否だけ伝える。そのあとで、受ける範囲と日にちをメールで文字に残す。私は、この順番がいちばん安全だと考えています。
メールだけだと、読まれるまでに時間がかかることがあります。逆に、口頭だけで済ませると、どこまで受けたのかがあとで食い違います。「一部を水曜」と言ったつもりが、相手は「全部を水曜」と受け取っていた、ということが起こり得ます。電話のあとで「先ほどお話しした内容を、念のためメールでお送りします」と一言添えて、文字に残しておくと、お互いに安心です。
やりがちなNG返事と、その直し方
先に、持ち帰れる表で全体を見ておきます。
| NGの返事 | 相手にどう届くか | 直した言い方 |
|---|---|---|
| 「頑張ってみます」 | 受けたのか、受けていないのかが分からない | 「◯日なら確実にお出しできます」 |
| 「申し訳ありません、本当に申し訳ありません……」と何度も謝る | 無理を言ったと気をつかい、次に頼みづらくなる | お詫びは1回、理由は一文、あとは「できること」 |
| 何も言わず、言われた日程と金額で受ける | 今回の条件が、そのまま普通の条件になりやすい | 「今回は急ぎの対応として承ります」と一言添える |
| 理由を長く書き、可否が最後に出てくる | 結論が分からず、読むのに時間がかかる | 最初の一文に「できる・できない」を置く |
| 返事をせずに、予定を見てから連絡する | 待たされるあいだ、相手は動けない | まず「◯時までにお返事します」と一言返す |
「頑張ってみます」で受けてしまう
この返事は、優しさから出ることが多いです。ただ、相手には、受けたのか受けていないのかが伝わりません。間に合わなかったときに、いちばん困らせる返事になりやすいです。「頑張る」は、結果の約束ではなく、気持ちの表明だからです。
直し方は、できる日を言い切ることです。「◯日なら確実にお出しできます」と書きます。言い切れる日が水曜でなければ、それで構いません。その日が相手の希望に合うかどうかは、相手が決めます。
理由を長く書いて謝り続ける
丁寧に書こうとして、お詫びを何度も重ねてしまうことがあります。すると、相手は「無理を言って悪かった」と気をつかい始めます。次に急ぎの依頼があっても、「前に困らせたから、頼むのはやめておこう」となるかもしれません。それは、お互いにとって損です。
直し方は、お詫びを1回に絞ることです。理由は一文。あとは、「できること」の説明に字数を使います。私は、お詫びの回数を減らしても誠実さは減らないと考えています。具体的な代案を出すことのほうが、相手には誠実に映ると思います。
黙って安く受ける・徹夜で埋める
言われた日程と金額のまま、睡眠や他のお客さんの時間を削って間に合わせる。これは、一度なら乗り切れます。ただ、相手から見ると、「この日程と金額で受けてもらえた」という記録だけが残ります。次の依頼も同じ条件で来やすくなります。
「次から短納期が当たり前になる」と言い切るつもりはありません。ただ、そうなりやすい構造がある、ということです。どうしても受けるなら、受けるときに「今回は急ぎの対応として承ります」と一言添えておくだけで、相手の受け取り方が変わります。
短納期の依頼をくり返さないために、受けたあとにやること
次から頼むときの目安を先に伝えておく
短納期の依頼を受けて、無事に納品できたときが、いちばんいいタイミングです。納品のメールに、次のように一言添えます。
今回はお声がけいただき、ありがとうございました。次に同じようなお仕事があれば、◯日前にご連絡いただけると、より丁寧に仕上げられます。
断るときに言うと、きつく聞こえやすい内容でも、喜ばれているときに言えば、相手は素直に受け取りやすいです。「断る」ではなく「より良い仕事のための目安」として渡せるからです。
短納期を受けた回だけ、何を削ったかを書き残す
短納期を受けたあとに、メモを残します。ずらした予定、削った作業、かかった時間。それだけで十分です。
次に同じ依頼が来たとき、その場の気分で返事を決めずに、このメモを見て決められます。「前回は、これを後ろにずらして、これだけ時間がかかった」と分かっていれば、今回は受けるか、条件をつけるか、見送るかを落ち着いて選べます。毎回いちから考えるより、返事が早くなります。
今日やる一つ
例文3つのうち、自分がいちばん言いにくい場面を1つ選びます。それを、自分の仕事の言葉に書き直して、メモ帳かメールの下書きに保存しておきます。
次に急ぎの依頼が来たら、それを開いて、日付と範囲を書き換えるだけで返事が出せます。言いにくい文面は、急ぎの場面でいちから作ろうとすると、時間もかかり、迷いも増えます。先に作っておけば、迷う時間が減ります。
断れない仕事が続くとき、見直すこと
最後に、もう一つだけ書いておきます。断れない仕事が続くのは、次の仕事の当てが少ないときに起きやすい、と私は見ています。次が見えていないと、目の前の1件を手放すのが怖くなるからです。
条件をつけて返す言い方は、その場の対処として使えます。そのうえで、仕事を切らさない動き方そのものを整えると、「断ったら次が来ない」という感覚が少しずつ弱まります。全体の考え方は、フリーランスの営業の仕方の全体像にまとめています。
なお、金額や契約の扱いなど、個別の判断が必要な場面では、専門家に相談することをおすすめします。この記事は、一般的な考え方の説明です。
よくある質問
短納期の依頼を断ると、次から仕事が来なくなりませんか?
そうなるとは言い切れません。全部を断るのではなく、「この形ならできます」と条件をつけて返し、次に頼むときの目安も伝えれば、相手は次の頼み方が分かります。断る場合も、次につながる一文で終えるのがおすすめです。
短納期の依頼に特急料金を上乗せしてもいいですか?
上乗せするという選択肢はあります。大事なのは金額より、返事の前に「上げるかどうか」を決めておき、受ける条件として最初に伝えることです。黙って通常の金額で受けると、それが普通の条件になりやすくなります。
短納期を断るとき、理由はどこまで書けばいいですか?
一文で十分です。長く説明して何度も謝ると、相手が気をつかい、次に頼みづらくなります。お詫びは1回にして、残りの字数は「できること」に使います。
取引先からの無理な納期を断るメールの例文はありますか?
本文の3パターン(一部なら間に合う/日にちをずらせば受けられる/今回は受けられない)が使えます。どれも、①お礼、②できない部分をひと言、③できる形、④相手に選んでもらう問いかけ、の順で書きます。
短納期の依頼には電話とメールのどちらで返すべきですか?
急ぎの依頼は相手も急いでいるので、電話やチャットで先に可否だけ伝え、受ける範囲と日にちはメールで文字に残すのが安全です。口頭だけだと、どこまで受けたかがあとで食い違いやすくなります。
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