対面営業・商談
単価の安い仕事を断るとき|今の売上を落とさずに、少しずつ入れ替える順番
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
単価の安い仕事を断れないのは、気が弱いからではない
「安い仕事を断ったら、もう次は来ない気がする」。そう感じている人は多いと思います。今の仕事に不満があっても、代わりの当てがないまま断ると、その分がまるごと空白になる。空白が怖いから、今の金額のまま受け続けてしまいます。

これは性格の問題ではありません。仕事を取ってくる手順を、今の取引先以外に持っていないからです。紹介や口コミだけで仕事が回ってきた人ほど、「自分から声をかけて仕事を作る」手順を持っていません。手順がないところに空白を作れば、不安になるのは当然です。強く出られないことと、順番を知らないことは別の話です。
直球の答えを先に言います。いきなり全部を断らないことです。
① 新しい相手を1件入れる ② 安い仕事の条件を1つ変える ③ それでも合わなければ手放す
この順番で、少しずつ入れ替えます。売上を落とさないために必要なのは、先に空きを作ることではなく、先に入口を作ることです。断ることを1回の大きな決断にせず、1件ずつ回す作業に分けてしまえば、断るのが苦手な性格のままでも進められます。
NG例です。「今月から最低単価を上げます」と全取引先に一斉に知らせて、翌月の売上が半分になるパターン。あるいは、一番安い取引先1件だけをいきなり切って、代わりが決まらないまま数か月を過ごすパターンもあります。どちらも、断る勇気の問題ではなく、順番の問題です。一度にまとめて動くから、売上も一度に落ちます。
長く付き合っている取引先から「いつもの感じで、今回もお願いできますか」と連絡が来たときほど、金額の話を切り出しにくくなります。相手が悪気なく言っているだけに、こちらから条件を変える話を持ち出すのは気が引けます。ここで慌てて結論を出す必要はありません。今回はそのまま受けて、次の依頼までに②の条件変更を準備しておく、という進め方でかまいません。
どの仕事が「安すぎる」のか、時給に直して並べる
金額だけを見ていると、どの仕事が本当に割に合わないのか分かりません。見積額だけを比べると、金額が大きい仕事のほうが良く見えます。しかし、その仕事に打ち合わせ・修正・連絡・移動でどれだけ時間を取られているかは、見積額には出てきません。かかった時間をすべて足し、金額をその時間で割って、1時間あたりいくらになるかを出します。

次の7列で、今抱えている仕事を全部並べてみてください。数字は自分の実績を入れる欄なので、ここには書き込みません。
| 取引先 | 1件の金額 | 実際にかかった時間 | 1時間あたり | 修正の回数 | 支払いまでの日数 | この先の広がり |
|---|---|---|---|---|---|---|
| (記入欄) |
「実際にかかった時間」には、作業だけでなく、返信を考えていた時間や移動の時間も含めます。「この先の広がり」には、この取引先からまた仕事が来そうか、他の人を紹介してもらえそうか、を一言でメモしておきます。金額と時間だけでなく、この先につながるかどうかも並べて見ることで、目先の金額だけで判断しにくくなります。
1時間あたりが低い仕事ほど、見直しの優先度が高くなります。ただし、安いから即手放す、という単純な話でもありません。
安いけれど残していい仕事もあります。紹介元になっている、実績として見せられる、支払いが早い。こうした理由があるなら、時間あたりが低くても残す判断は成り立ちます。安い=悪い、ではありません。表に並べたうえで、「安いけれど残す理由がある」欄外メモを1行添えておくと、あとで見返したときに迷いません。
NG例です。感覚で「この人は面倒だから切る」と決めると、実は時間あたりでは悪くない相手を手放してしまうことがあります。逆に「昔からの付き合いだから」という理由だけで、時間あたりが一番低い仕事を残し続けてしまうこともあります。どちらも、表に書き出してから判断したほうが、見落としが減ります。
断る前に、新しい相手を1件だけ入れる
安い仕事を手放す前に、同じくらいの時間が埋まる新しい相手と、1件話を進めておきます。売上が一度ゼロになる期間を作らないためです。先に空きを作ってから探し始めると、空白の間の不安が大きくなり、結局また安い仕事を受けてしまいます。
入口の作り方は、いつもの営業でかまいません。過去の取引先への近況連絡、紹介してくれた人へのお礼と近況報告。特別な売り込みの言葉を用意する必要はなく、「最近どうですか」から始めて、今できることを一言添えるだけで十分です。今日出せる連絡を1本、まず決めてください。連絡の出し方そのものはフリーランスの営業の仕方にまとめています。
目安は「1件入ったら1件見直す」です。一度に何件も入れ替えようとすると、手元の売上の上下が大きくなります。1件ずつ回すほうが、変化は小さくて済みます。新しい相手が1件決まって初めて、安い仕事のうち1件を見直す。この順番を崩さないことが、売上を落とさないための一番の条件です。
具体的な動きとして、今週中に連絡する相手を1人だけ選び、送る文面を下書きしておきます。下書きがあれば、あとは送るだけの状態になります。「誰に送るか」で迷って手が止まる人が多いので、迷ったら一番最近やり取りした相手を選んでください。
連絡できる相手が今すぐ思い浮かばない場合は、無理に新規開拓から始めなくてかまいません。過去に一度でも仕事をした相手、名刺交換だけで終わっている相手から、近況を伝えるところまで戻ります。ここでの目的は仕事を取ることそのものではなく、「話を進めている状態」を1件作っておくことです。話が進んでいる、という事実があるだけで、安い仕事を見直すときの不安は小さくなります。

いきなり断らず、条件を1つだけ変えてみる
断るか受けるか、の二択にする必要はありません。金額を上げる、納期を延ばす、修正回数を決める、作業範囲を減らす。このどれか1つだけを変える提案をします。全部を一度に変えようとすると、相手も受け止めきれず、結局話が流れてしまいます。
そのまま使える言い方です。
次回の分から、修正は2回までとさせてください。それ以上は別にお見積りします。
今の金額で続けるなら、納期を〇日いただけると助かります。
ここから先の作業は、範囲を絞らせてください。追加の部分は別途ご相談という形にできますか。
条件を1つだけ伝えるほうが、相手も判断しやすくなります。値上げをするなら「次回から」と区切り、理由は短く添えます。今動いている案件の途中では変えません。作業の中身が増えたことを、1文で説明すれば十分です。長く事情を説明するほど、言い訳のように聞こえてしまいます。
申し訳なさから長い言い訳を書き、最後に「無理でしたら今のままで大丈夫です」と自分で逃げ道を作ってしまう文面は避けてください。せっかく条件を変える話をしても、これでは伝わりません。伝えると決めたら、最後まで条件を1つ提示したままで終える。それだけで、相手の受け取り方は変わります。
それでも合わない仕事を手放すときの伝え方
条件を変えても合わない仕事は、手放します。断る理由は、相手のせいにしません。「この金額では割に合わない」ではなく「今の体制では、これまで通りの質でお受けするのが難しくなりました」と、自分の事情として伝えます。
時期には余裕を持たせ、区切りをはっきりさせます。「〇月納品分までは責任を持って対応します」と、終わりの日を先に言います。急に止めると相手が困り、評判にも響きます。区切りを先に言うことで、相手も次の準備をする時間が持てます。
知り合いで合いそうな人がいれば、紹介を申し出ます。関係を切るのではなく、形を変えて残す形です。紹介できる相手がいない場合は、無理に探さず、お礼の言葉だけで締めてかまいません。
そのまま使えるメール文面です。
件名: 今後のお取引についてのご相談
いつもお世話になっております。 突然のご相談で恐縮ですが、今の体制では、これまで通りの質でお受けするのが難しくなってまいりました。 つきましては、〇月納品分までは責任を持って対応させていただき、それ以降は一区切りとさせていただければと存じます。 もしよろしければ、同じ分野で対応できる知り合いをご紹介することも可能です。 これまで機会をいただき、ありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
このメールに、これ以上の説明は要りません。理由を重ねて書くほど、相手は「何かあったのか」と勘ぐってしまいます。事情は1文、区切りの日付は明確に、これが基本の形です。
送るタイミングも見ておきます。相手が繁忙期に入っている時期や、月末の締め作業で慌ただしいタイミングは避け、区切りの日付までにできるだけ余裕を持って送ります。急かされて出したメールは、文面が整っていても急いだ印象が伝わってしまいます。
断ったあとに起きがちなことと、戻り方
断った翌週に不安になることがあります。「やっぱり受けておけばよかった」と感じるのは自然なことだと思います。その不安から、また安い仕事を受けてしまうのが、よくある戻り方です。せっかく順番どおりに進めても、この不安に負けて元に戻ってしまうと、また同じところからやり直しになります。
そうならないために、空いた時間の使い道を先に決めておきます。半分は新しい相手への連絡に、残り半分は今の良い取引先の仕事の質に回す、というように割り振っておきます。空いた時間を「何に使うか決めていない」状態にしておくと、不安に押されて安い仕事を埋め合わせに受けてしまいます。
手放した後の1か月の予定を、週ごとに1行だけ決めておくと動きやすくなります。
1週目: 新しい相手への連絡を送る 2週目: 返事をもらい、条件をすり合わせる 3週目: 今の取引先の仕事に手をかける 4週目: 次の入れ替え候補を表に足す
1行ずつでかまいません。細かい計画を作り込む必要はなく、「今週は何をする週か」が分かればそれで十分です。予定表は紙でもスマホのメモでも構わないので、目につく場所に置いておきます。
相手から「やっぱり条件をのむので続けてほしい」と言われることもあります。その場合は、変えた条件のまま受けてかまいません。元の条件に戻さないことだけ、先に決めておいてください。ここで元の金額に戻してしまうと、次に同じ話をするときにまた一から言い出さなければならなくなります。
入れ替えの順番チェックリスト
断る前に、次の5項目を確認してください。

① 全部の仕事を時間あたりで並べたか ② 残す理由がある安い仕事を分けたか ③ 新しい相手と1件話が進んでいるか ④ 条件を1つ変える提案をしたか ⑤ 終わりの日を決めて伝えたか
この5つが揃ってから動く必要はありません。①と③の2つが揃った時点で、次の一歩には進めます。揃っていない項目があるなら、それが今やるべきことです。表を作っただけで止まっている人は②へ、話す相手はいるのに連絡していない人は③へ、条件を変える言葉が思いつかない人は④の言い方をそのまま使ってみてください。
今日やれることは1つです。今の仕事を表に書き出し、いちばん時間あたりが低い1件に印をつけてください。断るのは、まだ先でいいです。印をつけるところまでで、今日は十分です。それだけでも、頭の中にあった「なんとなく安い気がする仕事」が、はっきりした1件に変わります。
強く言える人になる必要はありません。順番どおりに1件ずつ入れ替えれば、断るのが苦手なままでも、仕事の中身は変えられます。
よくある質問
単価の安い仕事を断ると、売上が下がりませんか?
一度に断ると下がります。先に新しい相手を1件入れてから1件見直す順番にすれば、売上の上下を小さくできます。
長く付き合っている取引先に値上げを言い出せません
いきなり金額を上げず、修正回数や納期など条件を1つだけ変える提案から始めます。「次回の分から」と区切り、理由は1文で添えます。
安い仕事を断るときのメールはどう書けばいいですか?
相手のせいにせず自分の事情として伝え、終わりの日をはっきり書きます。合いそうな人がいれば紹介を申し出ます。
どのくらいの単価なら断っていいのか分かりません
金額ではなく、打ち合わせや修正も含めた時間で割って1時間あたりを出し、仕事どうしを比べます。安くても紹介元や実績になるものは残してよいです。
断ったあと、やっぱり続けてほしいと言われたら?
変えた条件で受けてかまいません。元の条件に戻さないことだけ先に決めておきます。
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