対面営業・商談
水道屋の集客|一度呼ばれた家から、次も指名される形にする
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
水道屋の集客は「新しい家を探すこと」ではなく「呼ばれた家に覚えてもらうこと」
修理を終え、代金をもらい、「ありがとうございました」と言って玄関を出る。次にその家から電話が来るかどうかは、正直分かりません。多くの水道屋さんは、ここで1件の仕事が終わったと考えています。
でも、集客が細っていく原因は、チラシが足りないからでも、検索で上位に出ないからでもありません。一度呼ばれた家との関係が「直して終わり」でぷつりと切れていることが原因です。
水道の修理は、同じ家で数年おきに起こりやすいものです。蛇口のパッキン、トイレの詰まり、給湯器の寿命、排水の詰まり。次の不具合が出たとき、相手の頭に自分の名前が残っていなければ、その家はまた一から検索して別の業者を探します。近所に水道屋は何軒もあり、探せば同じような料金の業者はいくらでも見つかります。だから「名前が残っているかどうか」が分かれ目になります。料金表や工事の丁寧さでは大きな差がつきにくい分野だからこそ、名前を覚えてもらっているかどうかが次の電話を左右します。
腕は悪くないはずなのに次が来ないのは、自分が営業向きじゃないからだ——そう感じている方もいるかもしれません。ですが、それは向き不向きの問題ではなく、やって終わり型かもしれません。納めたら仕事は終わりだと思っていて、次につなぐ頼み方を知らない型です。腕とは別の話として、いったん切り分けて考えてみてください。
水回りや鍵の修理、害虫駆除などの暮らしのレスキューサービスに関する相談件数は、2016年度の2,437件から2020年度には5,882件まで増えています。夜間のトイレ詰まりで「料金390円から」という表示を見て業者に連絡したところ、複数回の追加作業を提案され、約55万円の契約書を渡された例も報告されています。家の人は、業者を選ぶこと自体を怖がっています。だからこそ、一度顔を見て「この人は大丈夫だった」と分かった業者は、次も指名される側に立てます。
新規のお客さんを追い足すより、すでに呼ばれた1軒を「次も呼ぶ家」に変えるほうが、早くて費用もかかりません。ここから先は、そのための手順を、作業前・作業中・作業後・半年後・紹介の場面ごとに1つずつ書いていきます。チラシを増やす、ホームページを整える、口コミサイトに登録する——どれも悪くはありませんが、まずは今すでに手元にある関係を活かすほうが早く動けます。
『直して帰る』と『次も呼ばれる』の差は、玄関を出るまでの10分で決まる
作業前の一言
「今日は◯◯を直します。ついでに他の水回りも目で見ておきますね」と、作業に入る前に伝えます。水回り修理の高額請求トラブルは国民生活センターに相談が寄せられており、家の人も追加請求を警戒していると考えられます。だから「見ますが、今日は直しません。費用も発生しません」とはっきり言っておくことが大事です。
作業中の見せ方
外した部品は袋に入れて、「これがすり減っていました」と現物で見せます。説明は1分以内。ここで長く話すと、直した内容の説明ではなく売り込みに聞こえてしまいます。
作業後の3点セット
作業後に伝えるのは次の3つです。
- 今日やったこと
- 次に不具合が出そうな場所と、その目安の時期
- 「そのときはこの番号に」の一言
この3点を、紙1枚に手書きで残します。口頭だけだと、家の人は数日で忘れてしまいます。
NG例を1つ挙げます。作業後に「他にも直した方がいい所がありますよ」と言うのはやめたほうがいいです。これは追加請求の入り口として受け取られ、国民生活センターが報告しているようなトラブル業者と同じ見え方になります。「今日は見るだけです」と線を引くことが、逆に信頼につながります。
たとえば、トイレのタンク修理で呼ばれた家で、洗面所の止水栓が固着しているのに気づいたとします。その場で直さず、「今日は触りません。次に洗面の水が止まりにくくなったら、それが原因です」とだけ伝えて帰ります。数か月後に実際その症状が出れば、電話はあなたに来ます。
高齢のお客さんには、紙に加えて口頭でもう一度同じ内容を伝えると安心されます。急いで説明を終わらせず、相手がうなずくのを待ってから次の話に移ります。
『また何かあったら』を、相手が本当に電話できる形に変える
名刺と請求書だけでは足りません。名刺は財布の奥に、請求書は書類の山に埋もれます。次に水が漏れるのは深夜か休日で、家の人が探すのは「すぐ見える場所」にあるものだけです。
冷蔵庫マグネット1枚の設計
書くのは3つだけにします。屋号、電話番号、そして「◯年◯月 トイレ修理」の作業記録欄です。作業記録が入っていることで、「前に来てくれた人」として思い出してもらえます。宣伝文句やキャッチコピーは入れません。
渡し方の一言
「次に何かあったとき、探す手間がないように」と用途を伝えて渡します。「宣伝させてください」ではなく「あなたの手間を減らすため」という形で言うと、家の人は受け取りやすくなります。マグネットのサイズは名刺より少し大きい程度で十分です。大きすぎると邪魔にされて外されてしまいます。予備は車のダッシュボードや工具箱にも入れておくと、渡し忘れを防げます。
| 名刺 | 作業記録つきマグネット | |
|---|---|---|
| 行き先 | 財布の中で埋もれる | 水回りの近くに残る |
| 内容 | 自分の宣伝 | 相手の記録 |
同じ紙1枚でも、「誰のためのものか」が違います。1件あたりの原価は数十円〜百円程度で済むもので十分です。凝ったものを作るより、全件で必ず渡すことのほうが効きます。※単価や効果は自社で計測してください。業界の平均値は公的には出ていません。
修理から半年後に1回だけ連絡する——『点検の案内』ではなく『前に見た所の確認』
何を送るか
「◯月に洗面の止水栓が固めだとお伝えした件、その後どうですか」。この1文だけです。売り込みではなく、前回言い残したことの続きとして送ります。これが相手の記憶を呼び戻します。
いつ送るか
修理から3〜6か月後を目安に1回だけ。年賀状やDMのように全員一斉に送るのではなく、その家の作業内容に紐づけて送ります。だから作業記録を残しておくことが必要になります。
手段
はがき1枚、または作業時に許可をもらったLINEやSMSを使います。電話は相手の時間を取ってしまうので使いません。返事がなくても追いかけないこと。目的は「思い出してもらう」ことで、「注文をもらう」ことではありません。
似たようなことは紹介でも起きます。いい仕事をすれば紹介は出ると思って何もしないでいると、家の人は満足していても半年もすれば名前を忘れてしまいます。腕のせいではなく、思い出してもらう働きかけがないだけです。
文面の例を2パターン出します。
- 不具合を伝えていた場合:「◯月にお伝えした洗面の止水栓、その後の調子はいかがですか。気になる際はご連絡ください」
- 特に伝えることがなかった場合:「◯月にトイレ修理でお伺いした者です。半年ほど経ちましたが、水回りで気になる所があればお気軽にどうぞ」
汎用の「お元気ですか」は書きません。必ずその家の作業内容とセットにします。
月に一度、台帳を見返して「そろそろ半年になる家」を洗い出す時間を10分だけ取ります。作業の合間にまとめてやれば、特別な時間は要りません。
『ご近所にも紹介してください』は言わなくていい——代わりに『同じ症状の家』を想像させる
紹介を直接頼むと、家の人は「誰に言えばいいか」を考えることが負担になり、その場で「はい」と言って終わってしまいます。頼んだ側も借りができた気がして、次から言いづらくなります。
症状で想像させる言い方
「この型のトイレは、築15〜20年くらいの家で同じ不具合がよく出ます。同じ時期に建ったお宅で困っていたら、その番号でどうぞ」。紹介先を指定せず、症状と時期だけを伝えます。家の人は自分の頭で「隣の◯◯さんの家も同じ頃だ」とつなげてくれます。
紹介が来たときの返し方
紹介元の家には、「◯◯さんからのご紹介で伺いました。ありがとうございました」とはがき1枚を送ります。品物を送ると、相手は次に紹介するとき気を遣うようになります。言葉だけで十分です。
NG例として、「紹介いただければ次回◯%引き」のような見返りの提示は避けます。値引きで動く紹介は、値引き前提のお客さんを連れてきてしまい、単価が下がり続けます。
たとえば給湯器交換で呼ばれた家では、「この給湯器は10年前後で同じ症状が出ます。ご近所で同じ頃に建った家があれば、同じ時期に来ますよ」と伝えて帰ります。
何年も取引が続いているお客さんには、症状の話に加えて「長いお付き合いですね」と一言添えるだけでも、紹介を思い出すきっかけになります。値引きや特典は付けません。
『指定工事店です』を、家の人に伝わる言葉に直す
指定給水装置工事事業者の指定は、平成30年12月の水道法改正で、5年ごとに更新を受けなければ失効する制度になりました。つまり「今も指定を保っている」ことは、5年ごとの確認を通っている証になります。
ただし、「指定給水装置工事事業者です」とそのまま言っても、意味が分かる一般家庭はほとんどいません。言い換えるなら、「市の水道局に登録している業者で、5年ごとに更新の確認を受けています」という1文です。とっさに言えるように、あらかじめ準備しておきます。
置き場所は、マグネット・作業後の紙・車のドアの3か所で十分です。「◯◯市指定工事店」と短く入れておきます。長い説明はいりません。国民生活センターが注意喚起しているような高額請求のトラブルがある中で、家の人は「どこかに登録されている業者か」を見ています。
ここで一つ注意点を添えます。指定の有無は信頼の材料の1つであって、腕や料金を保証するものではありません。誇大に見せないこと。制度の詳細や自社の指定状況については、各自治体の水道局や専門家に確認してください。
伝えるタイミングは、作業前の自己紹介の中がいちばん自然です。作業後にあらためて言うと、取ってつけた印象になります。最初の一言に混ぜ込んでおきます。
今日から使える『1軒を次も呼ぶ家にする』チェックリスト
- 作業前: □「今日直す所」と「見るだけの所」を先に分けて伝えた
- 作業中: □ 外した部品を現物で見せた(説明1分以内)
- 作業後: □ 3点セット(やったこと/次に出そうな不具合と時期/連絡先)を紙で残した □ 作業記録欄つきマグネットを「探す手間を減らすため」と言って渡した
- 帰社後: □ 顧客台帳に住所・作業内容・次に出そうな不具合・連絡予定月を1行書いた(表計算ソフト1枚で足りる)
- 3〜6か月後: □ 前回伝えた不具合の「その後どうですか」を1回だけ送った
- 紹介: □「同じ症状の出る家」の話をして帰った □ 紹介が来たら紹介元にはがき1枚
台帳の列見本はこの6つで足ります。実際に書き込むとこんな形になります。
| 日付 | 住所 | 作業内容 | 見ただけの箇所 | 次の連絡月 | 連絡済み |
|---|---|---|---|---|---|
| 3/12 | ◯◯様 | トイレ排水詰まり | 洗面の止水栓が固め | 9月 | □ |
表計算ソフトのシート1枚あれば足ります。特別なソフトは要りません。従業員がいる場合は、現場から戻ったらその日のうちに台帳へ記入するルールにしておきます。日をまたぐと記憶があいまいになり、次の連絡が抜けやすくなります。
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫です。まず「作業後の紙1枚」だけ、今週から始めてみてください。それだけで、「直して帰った業者」から「前に来てくれた人」に変わります。
こうした1軒との関係の作り方は、フリーランスの営業のやり方全体の考え方とも重なります。まずは目の前の1軒から手をつけてみてください。
よくある質問
水道屋はチラシとホームページ、どちらから集客を始めるべきですか?
どちらも先ではありません。一度呼ばれた家に作業記録を残し、半年後に1回連絡するほうが費用がかからず早く始められます。新規の手段は、その型ができてから足してください。
修理のあとに他の不具合を見つけたとき、その場で提案してもいいですか?
「今日は見るだけで直しません、費用も発生しません」と線を引いてから伝えます。作業後に追加を勧めると、高額請求業者と同じに見られてしまいます。
お客さんに紹介をお願いするのは失礼ですか?
直接頼むと相手の負担になるので、頼まなくて大丈夫です。「この症状は同じ時期に建った家でよく出ます」と伝えるだけで、相手が自分で思い当たります。
リピートの連絡はどのくらいの頻度で送ればいいですか?
修理から3〜6か月後に1回だけです。前回伝えた不具合の「その後どうですか」の形で送ります。返事がなくても追いかけないでください。
指定給水装置工事事業者であることは集客に効きますか?
そのまま言っても一般家庭には伝わりません。「市の水道局に登録し、5年ごとに更新を受けている業者」と言い換えて、マグネットや作業後の紙に短く入れてください。
参照した情報源
- 指定給水装置工事事業者の指定の更新について(神奈川県)・確認日 2026-09-16
- 水回り修理「950円〜」のはずが…数十万円の高額請求に!−水回り修理、解錠、害虫駆除などの緊急対応で事業者とトラブルにならないためには?−(独立行政法人国民生活センター)・確認日 2026-09-16
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