対面営業・商談
中小企業診断士の仕事の取り方|独立してから、紹介で顧問先が続くまで
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
診断士の仕事の取り方は「営業の才能」より、思い出してもらう回数で決まる
独立して半年、紹介が止まった時期に頭をよぎること
たとえば、こんな流れです。試験に受かり、登録も済ませて独立した。最初の数か月は、先輩や知人が声をかけてくれて、補助金の相談や事業計画づくりの仕事が入った。ところが半年ほど経つと、ぱたりと連絡が来なくなる。
そんなとき、「紹介が来なくなったのは、自分の診断の腕が足りないからではないか」と考えてしまう人がいます。勉強し直そうとして、講座や本に時間を使う。それでも相手からの反応は増えません。
診断士の勉強では経営の見方を学びます。一方で、独立してから仕事をどう取るかを学ぶ機会は、あまり多くないように私は感じています。診断の力はあっても、取り方が決まらないまま走り出している人は少なくないと私は感じています。まず、そこを押さえてください。
診断士以外の独立の方は、こちらの全体像から読んでください。
紹介が止まる理由は、腕より「思い出してもらう場面」が減ったこと
前に仕事をした顧問先も、名刺交換をしただけの社長も、困ったことが起きたときに、頭に浮かんだ人へ声をかけます。浮かぶ回数が減れば、声がかかる回数も減ります。紹介が止まった時期は、診断の質が落ちた時期というより、会わなくなった時期と重なっている。私はそう見ています。
仕事の取り方の土台はここにあると考えています。腕を磨くのは大事ですが、相手の頭に浮かばない状態では、腕は見てもらえません。
この記事の答えを先に出す
先に答えを書きます。やることは3つです。
- 相手を自分から探す時間を、週のカレンダーに決めて入れる
- 一度会った社長に、3か月に1回、近況を送る
- 顧問契約の区切りで、次につなぐひと言を言う
以下、この順に説明します。どれも、何曜日に何をするか、何と書くかまで落とします。性格を変える必要はありません。話がうまくなくても、愛想がよくなくても、決まった順番で動けば足ります。
独立直後に「来た仕事を受ける」だけだと、なぜ半年で止まるのか
最初の紹介は「ご祝儀」に近い
独立の知らせを聞いた先輩や知人が、仕事を回してくれる。ありがたい話です。ただ、これは「独立おめでとう」という気持ちが乗った、最初だけの動きである場合が多いと思います。これは私の仮説です。数字で裏付けたものではありません。
だから、初めのうちの紹介が続く前提で予定を組まないほうがいい。続けばありがたい、くらいに置いておくと、慌てずに済みます。
月曜に追われて、気づけば3か月、新しい人に会っていない
場面を一つ挙げます。月曜に、紹介で来た補助金の相談が入る。申請の締切に向けて、資料集め、事業計画の下書き、先方との打ち合わせが続く。ひと段落したら次の相談が来て、それにも追われる。
ふと手帳を見ると、この3か月、新しい社長には一人も会っていない。仕事は忙しいのに、来月の分が見えない。
独立して間もない人が、こうなりやすいと私は見ています。問い合わせが来るのを待つ前提で動いていて、自分から相手を探す時間を予定に入れていない。目の前の仕事が忙しいほど、探す時間は後ろに回ります。
ここで大事なのは、忙しいのは悪いことではないという点です。仕事があるのは事実だからです。ただ、仕事が入っている間に次の種をまいておかないと、案件が終わった月に、予定表が空になります。
抜け出す最小の行動は、カレンダーに「探す時間」を入れること
気合いも、新しい人脈術も要りません。カレンダーに、週に1枠だけ「探す時間」を入れます。たとえば金曜の午前90分。補助金の締切が近くても、この枠は動かさない。
私は、予定表に入っていないことは、ほぼやらないと思っています。意志の強さの問題にしないほうがいい。予定として入れてしまえば、やるかやらないかを毎週悩まずに済みます。
この90分に何をするかは、次の章で渡します。
最初の顧問先をつくるまでの順番——知り合う、話を聞く、提案する
探す時間に何をするか。順番は、知り合う、話を聞く、提案する、の3つです。
1. 知り合う場所は「社長が集まる場」に絞る
診断士の相手は、多くの場合、経営の判断をする人です。会社の社長か、事業の責任者。だから、そういう人が自然に集まる場に出ます。地元の経営者の集まり、金融機関の担当者とのつながり、税理士など別の士業とのつながり。社長に会う機会を持っている人と知り合っておくと、会える社長の数が増えます。
広く浅く名刺を配る必要はありません。1回の集まりで、あとから連絡が取れる関係を1人つくれれば十分です。名刺交換だけで終わらせず、帰ったその日のうちに「今日はありがとうございました」と一通送る。この一通が、次に会う口実の入口になります。
2. 初回の面談は「説明」より「聞く順番」
会えることになったら、面談です。ここで自分の資格や実績の説明から入る人がいますが、おすすめしません。多くの場合、社長が話したいのは診断士の経歴より、自分の困りごとです。
聞くことは、次の3つに絞ります。
- いま、一番困っていること
- それを、いつまでに何とかしたいか
- これまで、誰かに相談したか
3つ目が大事です。すでに税理士や金融機関に相談していて、答えが出ていないのか。誰にも話していないのか。それで、診断士が入る余地が変わります。
NG例を出します。
「私は中小企業診断士として、これまで補助金の申請支援や経営改善計画の策定に携わってきまして……」
悪い話ではありませんが、これで長く話すと、社長が話す時間がなくなります。口下手だからではありません。何をどの順で聞くかを決めていないだけです。話がうまい必要はなく、聞く順番が決まっていればいい。
そのまま使える入口の一言も置いておきます。
「今日は私の話は少なめにして、いま一番気になっていることから聞かせてください」
3. 提案は、単発の支援と継続の顧問を分けて見せる
話を聞いたら、提案です。ここで総額だけを出すと、相手は値段が高いか安いかしか判断できなくなります。そして、値段の話しかできなくなります。
分けて見せてください。たとえば次のような形です。
- 単発:今回の困りごとに合わせた計画書づくり(期間と成果物を決めて)
- 継続:月1回の面談で、進み具合の確認と次の一手の相談
相手が「まず単発だけ」を選んでもかまいません。単発で信頼を作って、継続は後から決めてもらえばいい。選べる形にしておけば、断るか受けるかの二択を迫らずに済みます。金額は、自分の仕事の条件として決めます。相場は、この記事では書きません。根拠を示せないからです。
金額を口に出す瞬間、自分の値打ちを言っている気がして言いづらい、という人もいます。値段は点数ではなく、仕事の条件です。条件として、淡々と伝えてください。
紹介が続く人は、紹介を待っていない——思い出してもらう3つの仕掛け
仕事を取ったあとが本題です。紹介が続く人は、紹介を待っていません。思い出してもらう仕掛けを持っています。
仕掛け1:一度会った社長への、3か月に1回の近況連絡
過去1年に会った社長を、一覧にします。名前、会社名、最後に連絡した日。それだけで構いません。そのうえで、3か月に1回、一文だけ近況を送ります。売り込みではなく、「最近こういう相談が多い」という情報です。
文面の例です。
○○さん、ご無沙汰しています。先月、事業の引き継ぎの相談が続きました。○○さんの会社では、話に出ていますか。返信は不要です。近いうちにまたお会いできればうれしいです。
営業色はありません。それでも、相手の頭に「そういえばあの診断士さん」が浮かびます。返信が来なくても、まったくかまいません。浮かぶ回数を増やすのが目的なので、返事は成果ではありません。
NG例は、年賀状とお中元だけで済ませることです。年に2回では、思い出してもらう回数として足りないと私は見ています。また、毎月メルマガを一方的に送るだけの形も、相手ごとの顔が見えないので、読み飛ばされやすいと思います。1通ずつ、その人に向けた一文を足してください。
仕掛け2:紹介をくれた人への結果報告
誰かが紹介をくれたら、その後どうなったかを、相手の許可の範囲で短く伝えます。
ご紹介いただいた○○社の件、先週から月1回の面談で動き始めました。ありがとうございました。
これだけです。報告がないと、紹介した側は「その後どうなったのだろう」と気になったままになりやすい、と私は見ています。次の紹介も出しにくくなると思います。詳しい内容は話さなくて大丈夫です。相手の会社の事情は、許可の範囲を守ってください。
仕掛け3:「いい仕事をしていれば紹介は出る」と思っている状態を外す
ここで、読んでいる人の中に、こう考えている人がいるかもしれません。いい仕事をしていれば紹介は自然に出る。だから、自分から何かするのは違う気がする。
顧問先の満足度が高くても、思い出してもらう働きかけをしていなければ、紹介は出にくいと私は見ています。紹介は、相手の頭に浮かんだときに出ます。浮かぶ機会がなければ、仕事の出来とは関係なく止まることがあります。この記事では、いい仕事をすれば紹介は出ると思って待つこの状態を「紹介待ち型」と呼んでいます。
冒頭の問いに戻ります。紹介が減ったのは、腕が足りなかったからとは限りません。思い出してもらう場面が減ったことが大きい、と私は見ています。紹介が止まった時期に、自分の診断が通用しなくなったと結論づける前に、まず会う場面が減っていないかを見てみてください。場面を作ることが、流れを戻す一歩になると私は考えています。
顧問契約の区切りで、次につなぐひと言
契約の終わりは「卒業」ではなく、次の相談の入口
顧問契約が終わる月は、仕事が終わる月ではありません。次の相談の入口を作る月です。
終わる月の面談で、「次に気になりそうなこと」を、一緒に1つ挙げておきます。
「この半年で計画は形になりましたね。次に気になりそうなのは、資金繰りの見直しか、後継者の話か、どちらでしょうか」
答えは決まらなくていい。挙げておくだけで、あとで連絡する理由ができます。「前に話に出ていた件、いかがですか」と、売り込みではなく続きの話として送れます。
紹介を頼む言い方
紹介を頼むとき、「誰か紹介してください」は避けたほうがいいです。相手は、誰を思い浮かべればいいか分かりません。頼まれた側が負担に感じることもあります。
相手の顔が浮かぶ形で言います。例を2つ置きます。
例1:「同じようなことで悩んでいる社長がいたら、話だけでも聞けます。お名前を出さなくて大丈夫です」
例2:「今回やった計画づくりは、同じ業種の方にも役に立つと思っています。身近にいらっしゃれば、一度お声がけください」
「紹介してほしい」ではなく「話だけでも聞ける」と言うことで、相手は気軽に思い出せます。
頼んだら借りができる気がする人へ
仕事をした相手にまで、紹介を頼むと借りができる気がして言い出せない。そう感じる人もいると思います。
頼まなくてもかまいません。頼まずに、近況を伝えるだけでも思い出してもらえます。仕掛け1の一文を、3か月に1回送る。それで十分に始められます。紹介を頼む言い方は、慣れてから使えばいい。
区切りで何も言わない場合と、ひと言添えた場合
| 区切りで何も言わない | ひと言添えた | |
|---|---|---|
| 契約が終わった後 | 連絡する理由がなくなる | 「前に出た件」を理由に連絡できる |
| 3か月後 | 連絡が出しづらくなる | 近況を送る流れができている |
| 相手が困ったとき | 思い出してもらえるか、運次第 | 次の相談先として思い浮かびやすい |
| 紹介の場面 | 頼む材料がない | 頼む言い方を一度伝えてある |
今週やる仕事の取り方チェックリスト
印刷して、手帳に挟んで使ってください。全部を今週やる必要はありません。1つ目から順に、できたものにチェックを入れます。
探す時間
- □ カレンダーに、週1回の「探す時間」(例:金曜の午前90分)を入れた
- □ 今月会う予定の新しい社長の人数を、自分で決めた(例:2人)
思い出してもらう
- □ 過去1年に会った社長を、名前・会社・最後に連絡した日で一覧にした
- □ 3か月以上連絡していない人に、近況を1通送った
- □ 紹介でつながった顧問先の結果を、紹介してくれた人に伝えた
区切りのひと言
- □ 今月で区切りになる顧問先に、次に気になりそうなことを1つ挙げてもらった
- □ 紹介を頼む言い方を、自分の言葉で1つ書き出した
- □ 契約が終わった顧問先に、次の連絡をいつ出すかを手帳に書いた
独立してからの営業全体の順番は、別の記事でまとめています。独立してからの営業の進め方もあわせて読んでみてください。
なお、診断士の業務範囲や契約内容、報酬の取り決めについては、一般的な考え方を書いています。個別の判断は、専門家や所属の団体に相談してください。
よくある質問
中小企業診断士は独立してすぐ仕事がありますか?
人によって違うため、一般的な見込みは書けません。初めのうちの紹介を前提にせず、独立した週から、自分で探す時間を予定に入れることをすすめます。
中小企業診断士の営業方法で、まず何から始めればいいですか?
新しい人を探す前に、これまでに会った社長を一覧にして、3か月以上連絡していない人に近況を1通送ってください。いちばん早く反応が返りやすい動きだと私は見ています。
紹介をお願いするのは失礼になりませんか?
「紹介してください」と頼まなくても大丈夫です。「同じことで悩んでいる社長がいたら、話だけでも聞けます」と伝えるか、近況を送るだけでも思い出してもらえます。
顧問契約が終わった会社には、もう連絡しないほうがいいですか?
区切りの面談で、次に気になりそうなことを1つ挙げておけば、あとで連絡する理由ができます。売り込みではなく、近況として送れば問題ありません。
営業が苦手でも診断士として独立してやっていけますか?
話がうまいかどうかより、聞く順番と連絡する時期を決めているかのほうが効くと見ています。性格はそのままでいいです。収入の見込みについては、断定できません。
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