対面営業・商談
司法書士の独立後の集客|紹介元を1つに頼らない、依頼の取り方
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
司法書士の独立後に依頼が来ないのは、腕が足りないからではない
独立して1年。不動産会社1社から登記の依頼をもらい、それで事務所は回っていました。ところがその会社の担当者が異動してから、月の依頼が半分に減りました。開業のときの名刺配りはひと通り済ませてあります。あとは電話が鳴るのを待つ日が続いています。
開業前、先輩の司法書士からは「まじめにやっていればそのうち声がかかるようになるよ」と言われていました。まじめにはやっています。それでも声はかかっていません。まじめさと、思い出されることは別の話だからです。
依頼が減ったのは、仕事が雑だったからではありません。事務所の立地が悪いからでもありません。紹介元が「次に頼む司法書士」を選ぶとき、腕を比べてはいないからです。最近顔を見た人、最近役に立った人を思い出して、その人に頼んでいるだけです。
つまり、仕事が減ったのではなく、思い出してもらえなくなっただけです。紹介元は他にも司法書士を知っています。付き合いが途切れていなければ、名前は浮かんでいたはずです。
これは紹介待ち型かもしれません。いい仕事をすれば紹介は出ると思っていて、思い出してもらう働きかけをしていない型です。腕のせいではありません。付き合い方の順番を知らなかっただけです。
この記事で渡す方法は1つです。紹介元を1本から3本に増やし、それぞれに「近況」を届け続けること。独立後の営業のやり方の中でも、司法書士のように紹介料を払えない業種には特に効きます。ホームページはこの動きを補助する道具として位置づけます。集客の主役ではありません。
司法書士は紹介料を払えない。だから『思い出される回数』で決まる
司法書士倫理第13条(不当誘致等)は、こう定めています。「司法書士は、不当な方法によって事件の依頼を誘致し、又は事件を誘発してはならない。」「司法書士は、依頼者の紹介を受けたことについて、その対価を支払ってはならない。」「司法書士は、依頼者の紹介をしたことについて、その対価を受け取ってはならない。」
平たく言うと、紹介してもらったお礼にお金を払うことも、紹介したお礼にお金を受け取ることも禁じられています。名目を変えても同じです。
他の業種なら、紹介1件につき謝礼を払う仕組みで紹介元をつなぎ止められます。司法書士はそれができません。お金で紹介の経路を守れない以上、残る手段は「思い出される回数」を自分で作ることだけです。これは依存が危ない理由でもあり、逆に言えば、お金をかけなくても逆転できる理由でもあります。
たとえば紹介してくれたお礼にと、商品券や金券を渡すのも避けたほうが安全です。金額の大小にかかわらず、紹介の対価と受け取られる行為そのものが問題になり得るからです。感謝は言葉と、次に会うときの近況で伝えます。「誘発してはならない」とは、まだ起きていない相談ごとを、こちらから作り出すような働きかけを指すと考えられます。近況を届けることと、相談ごとを作り出そうとすることは別の話です。相手の役に立つ情報を渡すところまでにとどめます。
紹介元によって、思い出されなくなる理由は違います。
| 紹介元 | 思い出されなくなる理由 |
|---|---|
| 不動産会社 | 担当者が異動すると関係がゼロに戻る |
| 金融機関 | 支店ごとに付き合いが決まり、本部では動かない |
| 税理士 | 相続や会社設立のときだけ必要になり、頻度が低く名前が消えやすい |
| 士業仲間 | お互い紹介し合う前提なので、自分から出さないと止まる |
紹介元との食事の席で「今後もぜひよろしくお願いします」と頭を下げるだけでは足りません。対価には当たりませんが、相手の記憶に残るのは「頼まれたこと」だけです。何を頼めばいいかは残りません。
どこまでが「不当な方法」に当たるかの線引きは、所属する司法書士会の判断によります。個別の付き合い方に迷ったときは、所属会や専門家に確認してください。
依頼経路を3本にする——最初に書く『依頼経路の地図』
まず、直近1年の依頼を「どこから来たか」で分けて紙に書き出します。作る表はこの4列です。
| 経路 | 依頼の割合(おおよそ) | 最後に連絡した日 | 次に届ける近況 |
|---|---|---|---|
| 不動産会社A社 | 依頼の大半を占めている | 3か月前 | 相続の名義変更の近況 |
| 金融機関の支店 | ごくわずか | 半年以上前 | 会社設立の相談窓口の案内 |
| 知人紹介 | ごくわずか | 記録なし | 近況メールの仕組み自体をまだ試していない |
書き出してみると、1本への偏りが見えてきます。たとえば依頼のほとんどが1社経由に偏っていて、金融機関や知人紹介はごくわずか、ということがよくあります。「そのA社の担当者が変わったら」と想像すると、動く理由が出てきます。
経路の候補は、扱う業務ごとに分けて考えます。
- 登記:不動産会社・金融機関・工務店
- 相続:税理士・葬儀社・ケアマネジャー・地域の相談窓口
- 会社設立:税理士・創業支援の窓口・コワーキングスペース
- 後見:地域包括支援センター・ケアマネジャー・病院の相談員
いま持っていない経路が、そのまま「空いている席」です。2本目に何を選ぶか迷ったら、今の1本目と業種が違う経路を選ぶことを基準にします。不動産会社が1本目なら、2本目は税理士や葬儀社にします。同じ業種を重ねると、同じ理由で同時に止まるリスクが減らせません。
経路がまだ1本もない場合も、考え方は同じです。扱いたい業務ごとに候補を書き出し、点のついていない経路から1つずつ会いに行きます。いきなり複数の経路を同時に開拓しようとすると、どの経路にも近況を届けきれなくなります。まずは1本、関係を作るところから始めます。
今ある1本を捨てる必要はありません。2本目、3本目を細く足していきます。目標は、どれか1本が止まっても月の依頼が半分にならない状態です。3本という数字に厳密な根拠はなく、実務の中で「これなら1本が急に止まっても持ちこたえられる」と感じてきた経験則です。
やってはいけないのは、とりあえず全部の経路に名刺を配ることです。経路が増えるほど1本ごとの連絡が薄くなり、結局どこにも思い出されなくなります。まずは1本足すことを、3か月続けてください。
紹介元に『近況』を届ける——頼まずに、思い出される型
紹介を頼む必要はありません。「最近こういう相談が増えています」と近況を伝えるだけで、相手の頭の中に名前が戻ります。頭を下げて仕事をもらうのが嫌で動けずにいた人にこそ、頼まない形を持っておいてほしいです。
やり方は、3か月に1度、紹介元1社ごとに「相手の仕事に関係する近況」を1通送ることです。相手が自分の客にそのまま話せるネタを選びます。
不動産会社向けの文例です。
件名:相続の名義変更でご相談が増えています
いつもお世話になっております。〇〇司法書士事務所の△△です。最近、相続した実家を売却する前の名義変更のご相談が増えています。売却の前に確認しておくとスムーズな点をまとめてみました。もしお客様の中で名義のことでお困りの方がいらっしゃれば、最初のご相談は無料でお受けしています。今後ともよろしくお願いいたします。
締めは「何かあればよろしくお願いいたします」で終わらせず、「この件でお困りの方がいれば、最初の相談は無料でお受けしています」のように具体的な一文にします。「その後いかがでしょうか。何かあればよろしくお願いいたします」だけのメールは、相手にとって返しようがなく、何を頼めばいいかも分からないまま、記憶に残りません。
紹介元3社に同じ文面を一斉に送るのもやめたほうがいいです。近況の話題は紹介元の業種によって変わります。不動産会社に送る話題を税理士にそのまま送っても、相手の客には結びつきません。1社ずつ、相手の客を思い浮かべながら書きます。文面は丁寧すぎる必要もありません。堅苦しい言い回しより、いつもの言葉遣いに近いほうが「らしさ」が伝わり、記憶に残りやすくなります。
付き合い方にも線引きが必要です。相談料をいつも無料にする、食事をおごり続ける、といった対応は対価と見られる線に近づきます。近況・情報・段取りの手伝いで返すようにしてください。司法書士倫理第13条(不当誘致等)は紹介の対価の授受を禁じています。
司法書士のホームページ集客で現実に起きること
ホームページには2つの役割があります。ひとつは検索して探している人が来る入口。もうひとつは、紹介元が「この人に頼んで大丈夫か」を確かめる証拠です。独立直後は、証拠としての役割のほうが効くと考えられます。紹介元は、依頼者に事務所名を伝える前にホームページを見ていることが多いからです。
載せるものは、相談例(「実家の名義が亡くなった祖父のままになっている」など、読者が自分を重ねられる場面)、相談から完了までの流れと日数の目安、料金の目安(総額だけでなく内訳)、本人の顔写真と経歴です。紹介元は依頼者から「どんな人か」を聞かれることがあります。顔写真と経歴があれば、紹介元はその場で画面を見せながら説明できます。流れは、たとえば「①初回相談で状況と必要書類を確認」「②書類がそろい次第、申請の準備に入る」「③申請後、完了まで報告を入れる」「④完了書類を案内する」のように、段取りが具体的に見える形で示します。段取りが見える事務所は、紹介元にとって客に説明しやすい相手になります。料金の目安も、総額だけでなく、実費にあたる分と司法書士報酬にあたる分を分けて示すだけで、依頼者にとっての分かりやすさが変わります。
載せすぎないほうがいいのは、取扱業務の羅列と資格の列挙です。実績と情報を足し続けるほど、読む人が自分を重ねる場面はなくなっていきます。
近況メールとホームページはつなげて使います。近況で触れた話題を、ホームページの「相談例」ページにも1本足します。メールにそのURLを添えれば、紹介元は客にそのまま転送できます。思い出されたときに、そのまま動いてもらえる形になります。
やってはいけないのは、ホームページを作ったら問い合わせが来ると思って、公開後に何も更新しないことです。相談例がほとんど増えていないホームページと、少しずつ積み重なっているホームページとでは、紹介元に与える安心感が違います。
制作を業者に頼むときは、「問い合わせが来ます」と件数を約束してくる業者より、「相談例のページを自分で足せる作りにしてくれる」業者を選んでください。集客の数字を約束できるだけの根拠は、今回のソースからは確認できていません。
依頼を切らさないための『月1回の営業日』
問い合わせが来るのを待つのが前提になっていると、自分から相手を探す時間はいつまでもゼロのままです。そこで「月1回、午前だけ営業日」を先にカレンダーへ入れてしまいます。依頼が入っていても、その時間だけは動かしません。
営業日にやることは3つに固定します。
- 依頼経路の地図を見直す。最後に連絡した日が3か月を超えた紹介元に印をつける
- 印がついた紹介元に、近況を1通送る
- ホームページに相談例を1本足す
これで半日です。あわせて、月・連絡した紹介元・届けた近況の話題・返事の有無・その後の依頼、を記録する表もつけておきます。3か月分たまると、どの近況が効いたかが見えてきて、毎回いちから考えなくて済むようになります。続けるほど、どの近況が反応につながりやすいかのパターンが手元にたまっていきます。
「今月は忙しいから来月でいいや」と営業日を後ろに送ると、次の月も同じ理由で送ることになります。忙しい月ほど、紹介元への連絡が止まりやすい月です。半日だけと決めて動かさないことが、仕組みとして効きます。
今日やれる最小の行動はこれです。紹介元を1社選び、相手の客に役立ちそうな話題を1つ決めて、近況メールを1通送ります。返事は求めません。送った日を地図に書き込みます。ここまでやれば、型から一歩出ています。
性格を変えて、押しの強い営業マンになる必要はありません。頼まず、近況を届け続けるだけで、思い出される順番は変わっていきます。近況を送っても、返事がない月が続くこともあります。返事の有無で一喜一憂せず、次の月も同じ手順を繰り返します。効果が見えるのは、数か月分の記録がたまってからです。
あとは、動くかどうかだけです。
よくある質問
司法書士が紹介料を払って依頼を増やすのは違反ですか?
司法書士倫理第13条(不当誘致等)は、依頼者の紹介を受けたことの対価を支払うこと、紹介したことの対価を受け取ることを禁じています。紹介元との付き合いは近況や情報の提供で返すようにします。どこまでが対価に当たるかの個別判断は所属の司法書士会に確認してください。
不動産会社からの紹介が減ったとき、何から手を付ければいいですか?
担当者の異動で関係がゼロに戻っていることが多いです。まず新しい担当者に近況を1通送ります。同時に依頼経路の地図を書き、2本目の経路(税理士・葬儀社・創業支援窓口など)を細く足していきます。
司法書士はホームページだけで集客できますか?
独立直後はホームページ単体より、紹介元が依頼者に見せる証拠としての役割が大きいと考えられます。相談例・流れ・料金の目安・顔写真を載せ、近況メールとつないで使います。ホームページだけに賭けず、経路を3本にすることを優先してください。
独立直後で紹介元がゼロのときはどうすればいいですか?
扱いたい業務ごとに経路の候補を書き出します(登記なら不動産会社・工務店、相続なら税理士・葬儀社・ケアマネジャーなど)。1本ずつ会いに行き、頼まず、相手の客に役立つ話題を持っていきます。月1回の営業日を先にカレンダーへ入れておきます。
紹介元に営業メールを送るのが気が引けます。何を書けばいいですか?
紹介を頼む必要はありません。「最近こういう相談が増えています」と、相手の仕事に関係する近況を4〜5文で送ります。閉じ方は「何かあれば」ではなく、「この件で困っている方がいれば最初の相談は無料で受けています」のような具体的な一文にします。
参照した情報源
- 司法書士倫理(詳細)第13条(不当誘致等)(大阪司法書士会)・確認日 2026-09-18
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