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このシリーズの全体像 対面営業のコツ完全ガイド — 会って、信頼で売る技術の全体像
「社内で検討します」を断りと決めつけない
見積を出した直後、相手が「社内で検討します」と言った。こちらは「よろしくお願いします」と笑顔で返し、その場を出た。それから連絡は来ない。
多くの人がここで「断られた」と結論を出します。でも、断りだと決めつけると、次に打てる手がなくなります。実際には、相手の中でまだ決まっていないだけのこともあります。
商談が終わったのではありません。こちらが見えない場所で、商談が続いています。その場に自分の代わりに立つのが、目の前にいた担当者です。担当者は、自分が聞いた説明を、自分の言葉で社内の別の人に説明し直さなければいけません。これはあくまで自分が見てきた範囲の話ですが、こちらが1時間かけて話した内容を、担当者は5分で伝えなければならないこともあります。専門用語や細かい条件は抜け落ち、金額と一番印象に残った一言だけが社内に伝わることも珍しくありません。
B2Bの購買グループの74%が意思決定プロセスの中で「不健全な葛藤」を抱えており、77%の購買担当者が直近の購買活動を「複雑だった」「困難だった」と回答している、という調査があります。少なくとも、購買側の判断が一人で完結する単純な作業ではないことは示されています。目の前の担当者が決めきれていない可能性は、想定しておいて損はありません。
ここからは自分の商談を振り返っての整理です。飛び込み営業で断られることのほうが多かった頃、自分は「検討します」を全部断りだと数えていました。断りだと思った瞬間、次に何をするかを考えなくなります。持ち帰られた案件をただ待つ人と、その場で3つだけ確認して帰る人とでは、そのあとの連絡の取りやすさがまったく違います。待つ人は「相手から連絡が来るはず」という前提で動くので、来なかった時点で手が止まります。確認して帰った人は、次に自分から連絡していい日をすでに知っています。
これは「相手の番型」かもしれません。出したあとに何をすればいいか習っていないので、「あとは相手の番」で止まる型です。返事が来ないのがつらいのではなく、金額を見て黙られたのがつらいんだと思います。
高いと思われたのではなく、決められないだけかもしれません。
対面営業の極意の基本は、目の前の相手だけでなく、その先で意思決定に関わる人まで見て動くことです。持ち帰りへの対応も同じで、見えない場所で続いている商談に、こちらから手を伸ばせるかどうかで結果が変わります。
その場で確認する3つ — 誰が・何を・いつまでに
持ち帰り後の追いかけ方を工夫するより、帰る前の30秒のほうが効きます。「検討します」と言われたその場で、3つだけ確認して帰ります。難しいことを聞くわけではありません。聞く順番と言葉を決めておくだけです。

誰が
「差し支えなければ、検討は◯◯様お一人で進める形でしょうか」。決裁権を持つ相手が誰かを把握し、直接アプローチしたほうが成功率が上がる、というのがBANTの「Authority」の考え方です。担当者一人で決まるのか、上司や他部署が絡むのかで、このあとの動き方が変わります。一人で決まるなら、次に聞くのは純粋に中身の話です。他の人が絡むなら、その人にどう伝わるかまで考える必要があります。
何を
「検討の観点として、価格・導入時期・運用体制のうち、特に大きいのはどれでしょう」。3つの選択肢で聞くと、「総合的に」で流れにくくなります。漠然と「気になる点はありますか」と聞くより、選ばせたほうが答えが返ってきます。人は白紙で聞かれると答えを作るのに時間がかかりますが、選択肢があれば選ぶだけで済みます。
いつまでに
「いつ頃までに方向性が決まりそうでしょうか。こちらからの確認は、来週火曜の午前と木曜の午後だとどちらが都合いいですか」。日付を相手に考えさせず、2択で置きます。「またご連絡します」で終わらせず、次に自分から連絡していい日をその場で決めてしまいます。
NG例は次の2つです。
- 「では、ご検討よろしくお願いします」
- 「何かあればいつでもご連絡ください」
この2つで終わると、次の接点を作る役目が全部相手に渡ります。相手は忙しい中で、自分から連絡する理由を持っていません。悪気があって連絡しないのではなく、優先順位が上がらないだけです。
独立者同士の商談なら、「誰が」は省いていいことが多いです。相手が一人社長や個人事業主なら、「奥さんや現場の方にも見てもらいますか」程度で十分です。組織の稟議を想定した聞き方をすると、かえって不自然になります。
この3つは、見積の最終ページの余白にメモしておきます。商談の空気の中で急に思い出すのは難しいので、その場で目に入る形にしておきます。メモがあるだけで、聞ける確率は上がります。3つ全部を一度に聞く必要もありません。「誰が」だけ聞いて帰る日があってもいいので、まずは1つだけでも口に出す練習から始めます。
3つを聞かないまま帰ってしまったときの立て直し
現実には、その場で聞けずに帰る日のほうが多いです。話が盛り上がって、気づいたら「では検討お願いします」で終わっていた。よくあることです。聞けなかったこと自体を責める必要はありません。後から取り返す手が残っています。

翌日、メール1通で残りを取りに行きます。メールでは「誰が」は聞きにくいので、「何を」と「いつまでに」の2つに絞ります。件名は「先日の件、確認2点だけ」。件名に点数を入れておくと、相手は開く前に負担の大きさを予想できます。本文では次の2つを聞きます。
- 社内で見ていただく際、価格・時期・運用のどこが論点になりそうか
- ◯日ごろに一度ご状況だけ伺ってよいか
日を空けるほど出しづらくなります。これは相手の問題ではなく、こちらの気持ちの問題です。自分の場合は、3日空くと文面が長くなり、10日空くと送れなくなりました。長くなるのは、間が空いた分だけ言い訳や気遣いの言葉を足そうとするからです。
NG例は「その後いかがでしょうか」だけの一行メールです。相手に返信の材料がなく、返す手間がかかる分だけ後回しにされます。
代わりに、相手が社内で使える材料を1つ添えます。見積の内訳を分けた表、他社事例の1枚、質問されそうな点への回答メモ。返事を催促するのではなく、相手の作業を減らします。相手が社内で説明するときに、そのまま見せられる資料を渡すイメージです。
自分の経験として、出した見積を相手が社内で説明し直している、と気づいてから文面が変わりました。宛先は目の前の担当者ではなく、その人が社内で説明する相手だと思って書くようになりました。担当者を「決める人」ではなく「社内に運ぶ人」として見ると、渡すべきものが自然と変わります。電話が苦手なら、最初からメールで構いません。声のトーンより、相手が読んですぐ動ける材料になっているかのほうが大事です。
持ち帰りが止まる4つの型と、それぞれの手当て
持ち帰りが進まない理由は1つではありません。理由が違えば、手当ても正反対になります。表にまとめます。

| 止まる理由 | 手当て |
|---|---|
| ①決める人に届いていない | 担当者に説明を任せきりにせず、同席の場を作る。「次回、◯◯様にも15分だけご同席いただけますか」 |
| ②社内で意見が割れている | 反対しそうな人の立場で書いた材料を渡す |
| ③投資対効果を説明できていない | 金額ではなく、やらなかった場合に何が続くかを書いて渡す |
| ④そもそも時期が来ていない | 追わずに、次に動く時期を聞いて連絡日を決める |
キーパーソンにアプローチできていないこと、投資対効果を説明できていないこと、購買時期に合わないタイミングでの提案は、いずれも失注を招く要因として挙げられています。購買グループの74%が意思決定の中で葛藤を抱えている、という数字も、②のような社内対立が珍しくないことを示しています。
見分け方は単純です。その場で聞いた「何が論点か」の答えが①〜④のどれに当たるかで振り分けます。分からないときは②として扱うと外しにくいです。社内で意見が割れているケースは、担当者自身も本当の理由を把握していないことが多いからです。担当者は味方であっても、社内の反対意見まではコントロールできません。
①は、担当者がどれだけ好意的でも、決める人に話が届いていなければ進みません。同席が難しければ、決める人が読む前提で資料を作り直します。担当者向けの言葉で書いた資料を、決める人向けに書き換えるだけでも通りやすさが変わります。③は、値段の話に見えて実は説明不足のことが多いです。金額だけを見せるのではなく、やらなかった場合に何が起き続けるかを添えると、判断材料が変わります。④は焦って追いかけても意味がありません。時期が来ていないものは、時期が来るまで待つほうが早いです。
NGは、4つ全部に手を打とうとして材料を送りすぎることです。1回で渡すのは1つにします。あれもこれも送ると、相手はどれを見ればいいか分からなくなり、結局どれも読まれません。
「総合的に判断して」と言われたら何を聞くか
失注の理由を聞いても、「総合的に判断して」とお茶を濁されることが多いです。これは相手が意地悪なのではなく、正直に言うと角が立つと思っているだけです。本当の理由が1つに絞れないから「総合的に」と言っているケースも少なくありません。
聞き方を変えます。理由を聞くのではなく、順番を聞きます。
「差し支えなければ、決め手になったのはどのあたりでしたか」
もう1つ。
「次に同じような話があるとき、どこを直せばご検討いただけそうですか」
過去の否定ではなく、次の依頼の条件を聞く形にすると、答えが返ってきやすくなります。相手も、過去を責める質問には答えにくくても、未来の条件を聞かれると答えやすいものです。
NG例は「何が悪かったですか」「価格ですか」です。悪かった点を認めさせる質問になっていて、相手が答えにくくなります。
答えが返ってこなくても記録します。日付・相手・何を出したか・何と言われたか。1件ずつでは分かりませんが、10件たまると、自分の詰まりどころが1か所に寄っていることが分かります。値段の話ばかりで止まっているのか、決める人に届く前で止まっているのか。記録を並べて初めて見えてきます。
振り返ってみると、7ヶ月で5億を売った時期にやっていたのは、うまくいった商談を振り返ることではなく、止まった商談を書き残すことでした。うまくいった話は覚えていられますが、止まった話はすぐ忘れます。忘れると同じところで何度も止まります。書き残しておけば、次に同じパターンが来たときに気づけます。
止まった案件を切らさずに置いておく
持ち帰りが長引いた案件を「失注」に入れて忘れると、次の当てが毎回ゼロから始まります。手元に案件が何もない状態から営業を始めるのと、止まっている案件が10件ある状態から始めるのとでは、気持ちの余裕がまったく違います。

置き方は単純です。案件を消さず、「次に連絡する日」だけを決めて残します。日付が決まっていない案件は、そのまま切れます。
連絡の口実は近況で十分です。
「先日お話しした件と近い内容で、別のところで◯◯を作りました」
頼まずに近況を伝えるだけの連絡を、1回はさみます。売り込みではなく、「まだ動いています」という合図です。
3ヶ月後の再連絡が通ることがあるのは、相手の社内事情(予算期・担当替え・体制変更)がこちらから見えないからです。見えないものは待つのではなく、決めた日に確認します。待つのは受け身、確認するのは能動的な動きです。同じ「連絡しない期間」でも、日付が決まっているかどうかで意味が違います。
NG例は、半年空けてから送る「その後いかがでしょうか」です。空いた期間の分だけ、相手はこちらを思い出す作業から始めることになります。
持ち帰り可能なシートは、次の5列だけで十分です。
相手/出した金額/論点(①〜④)/次に連絡する日/その日に送るもの
表計算ソフトでもノートでもかまいません。大事なのは列の数を増やさないことです。項目を増やすほど更新が面倒になり、結局書かなくなります。
今日やること — 止まっている1件に日付を入れる
今日やるのは1つだけです。返事待ちのまま止まっている案件を1件選び、次に連絡する日をカレンダーに入れます。案件が複数あるなら、一番古いものから選びます。古いものほど、こちらから動かないと永遠に動きません。
その日に送る文面の1行目だけ、今のうちに書いておきます。当日ゼロから考えると、結局出せません。1行あるだけで、当日の自分は続きを書くだけで済みます。
次の商談では、帰る前に3つ聞きます。誰が・何を・いつまでに。全部言えなくてもかまいません。「いつ頃までに方向性が決まりそうですか」の1つだけでも、次の接点が残ります。
止まった案件が多いのは、腕が落ちたからではありません。出したあとに何をするかを、誰にも教わっていないだけです。
よくある質問
「社内で検討します」と言われたら、脈なしですか?
断りの遠回しとは限らない。相手の中でまだ決まっておらず、決められる人に持っていく作業がそこから始まる場合が多い。その場で「誰が・何を・いつまでに」の3つを確認できていれば、次の接点は残る。
持ち帰り後、何日後に連絡するのが正解ですか?
日数の正解より、その場で相手と決めた日付が優先。決めていない場合は、翌日に「確認2点だけ」のメールを送り、そこで次の連絡日を2択で置く。日が空くほど自分が送りづらくなる。
「その後いかがでしょうか」以外に、何を送ればいいですか?
返事を催促するのではなく、相手が社内で使える材料を1つ添える。見積の内訳を分けた表、想定質問への回答メモ、近い事例の1枚など。1回に渡すのは1つまで。
決裁者に会わせてもらえないときはどうしますか?
担当者に社内説明を任せきりにせず、その人が説明するための材料を渡す。「次回15分だけご同席いただけますか」と一度だけ頼んでみて、断られたら材料提供に切り替える。
何回まで追いかけていいですか?
回数で決めず、連絡する日を決めて残す形にする。用件のない催促を重ねるのではなく、近況を伝えるだけの連絡を1回はさむと再開しやすい。
参照した情報源
- Gartner Sales Survey Finds 74% of B2B Buyer Teams Demonstrate "Unhealthy Conflict" During The Decision Process(Gartner調査の引用記事)(primeNumber株式会社(出典:Gartner, 2025年5月7日発表))・確認日 2026-09-07
- バイヤーイネーブルメント(Buyer Enablement)とは?BtoB営業の最新トレンド(株式会社マツリカ(Mazrica)(出典:Gartner調査データを引用))・確認日 2026-09-07
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