対面営業・商談
個人事業主の顧客管理はエクセルで足りるか|ひとりでも続く記録の作り方
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
個人事業主の顧客管理はエクセルで足りる。足りなくなる理由はエクセルにない
続かないのはマメじゃないからではない。書く項目が決まっていないからだ
半年前に交流会で会った人の名前が出てこず、名刺の束を端から順にめくったことはないでしょうか。前回いくらで仕事を受けたか思い出せず、メールの検索窓に相手の名前を打ち込んで探す。「そういえばあの人に連絡しようと思ってた」が3か月続く。
こういう場面が続くと、「自分はマメじゃないから顧客管理が続かない」という判決を自分に下しがちです。毎回いちから型かもしれません。毎回いちから考えていて、うまくいったやり方が手元に残っていない型です。
でも続かないのは性格の問題ではありません。何を書くかが決まっていないから、開くたびに「今日は何を書けばいいんだっけ」と迷い、迷うから開かなくなる。それだけです。性格はそのままでいいので、決めるのは項目だけです。
打ち合わせの場で「前回どこまで話しましたっけ」と聞き返して、気まずくなった経験がある人もいるはずです。これも同じ理由です。記録の場所がないのではなく、何を残すかが決まっていないだけです。
システム会社が挙げるエクセルの弱点は、ひとりにはほぼ当たらない
顧客管理システムを売る会社のコラムを読むと、エクセルの弱点として大体3つが挙がります。
- エクセルは2人以上で同時にファイルを開いて作業することができない
- USBメモリや外付けHDDへのコピー・移動が簡単にできてしまい、外部への持ち出しや盗難のリスクがある
- 他の人や部署と共有する際は、ファイルをメールやチャットに添付して送る作業が必要になる
これは複数人で使う前提の弱点です。自分しか触らないなら、同時に開く人も、共有相手もいません。ひとりの個人事業主に当てはまるのは、持ち出しと盗難のリスクの1点だけです。この点は後の章で対策を書きます。
足りなくなる境目は人数ではなく「次の連絡」が見えなくなったとき
連絡先を貯めるだけなら、何人分でもエクセルで足ります。エクセルが足りなくなる合図は、人数が増えたときではありません。「今週誰に連絡すべきか」がシートを開いても分からなくなったときです。
つまり足りる・足りないを決めるのは道具の性能ではなく、シートの中身です。シートが「連絡先の台帳」なのか、「次の連絡の台帳」なのか。この違いで決まります。
顧客が3人でも、次の連絡が見えていなければ足りていません。顧客が何人いても、次の連絡が上から出てくるなら足りています。人数は目安にすらならないと考えたほうがいいです。
ひとりの顧客管理で残す項目は7つだけ
名刺の情報より「次に連絡する口実」を書く

ひとりで回すなら、残す項目は7つで足ります。
| 列 | 項目 | 内容の例 |
|---|---|---|
| ① | 名前・屋号 | 山田太郎(山田デザイン事務所) |
| ② | 連絡手段 | LINE(返信が一番早い) |
| ③ | 初めて会った場面 | 〇〇さんの紹介で交流会 |
| ④ | 頼まれた仕事と金額 | チラシ両面デザイン いくらか |
| ⑤ | 最後に連絡した日 | 2026-08-20 |
| ⑥ | 次に連絡する日 | 2026-10-01 |
| ⑦ | 次に連絡する口実 | 増刷の時期を聞く |
一番大事なのは⑦です。名刺に書いてある情報を写すより、次に何を口実に連絡するかを書きます。⑦の記入例を3つ挙げます。
- 前に話していた新店舗の開店時期を聞く
- 納品した名刺の増刷が要る頃
- 先方が言っていた採用が決まったか
③の「初めて会った場面」も軽く見えて重要です。半年ぶりに連絡したとき「〇〇さんの紹介でしたね」と一言添えられるかどうかで、相手の受け取り方が変わります。場面を覚えていない相手より、覚えている相手に仕事を出したくなるのは自然なことです。
増やしすぎると書かなくなる。NG項目の例
業種、従業員数、誕生日、売上規模、SNSアカウント。「あとで使うかも」で列を足したくなりますが、増やすほど空欄が増えます。空欄が多いシートは、開くのが嫌になります。
NG例として多いのが、ネットで拾った項目数の多いテンプレートをそのまま使い始めるパターンです。埋めきれない欄が増えて開かなくなります。列は7つで固定し、それ以上足すのは3か月使ってからにしてください。
迷ったときの基準は「この列がないと次の連絡ができないか」です。誕生日を知らなくても連絡はできます。次に連絡する日を知らなければ連絡できません。この違いで、残す列と削る列が決まります。
金額は言われた額でも書く。記録が次の見積の根拠になる
単価を相手の言い値で受けている場合こそ、金額は書いてください。10件たまると、自分が同じような仕事をいくらで受けているかが初めて見えてきます。
次に金額を聞かれたとき、シートの過去の額を見れば、その場で迷わず答えられます。記入例は「チラシ両面デザイン いくらか(先方指定)」のように、誰が決めた額かも一語添えておくと、後で見返したときの判断材料になります。
5分で作れるエクセル顧客管理の手順
シートは1枚。1行1人で作る

作り方は4つの手順だけです。
- 新規ファイルを開き、1行目に7列の見出しを打つ
- 2行目から1行1人で入れていく
- 見出し行を選択し、「データ」タブから「フィルター」を付ける
- ファイル名を「顧客一覧」にして保存する
3の操作を1回やっておけば、あとは見出しの矢印から並べ替えや絞り込みができるようになります。関数もマクロも要りません。
NG例は、案件ごとに行を分けることです。同じ人の依頼が5件あると5行に散り、その人に最後に連絡したのがいつか分からなくなります。案件が増えたら、④の欄に追記していく形にしてください。
「次に連絡する日」で並べ替えると、今週やることが上から出る
⑥の列を基準に、日付が近い順に並べ替えます。月曜の朝にシートを開いて、上から3人に連絡する。これだけで、営業の予定表として機能します。
並べ替えを毎回するのが面倒なら、見出しのフィルターで「今週の日付だけ」に絞り込む方法もあります。どちらでも構いません。開いてすぐ「誰に連絡するか」が分かる状態を作ることが目的です。
色を付けるなら1色だけ。連絡日が過ぎた行に
条件付き書式を使って、⑥の日付が今日より前になっている行にだけ色を付けます。凝った書式や関数、別シートへの集計は作らないでください。
作り込むほど、あとで直すのが面倒になります。直すのが面倒だから開かなくなる。5分で作れる形が、そのまま5分で直せる形です。
続かない原因は「書くタイミング」が決まっていないこと
書く時間ではなく書く場面を決める

「毎日5分入力する」というルールは続きません。入力する内容がない日に、習慣ごと途切れるからです。時間ではなく、場面にくっつけてください。
- 見積を送った直後
- 打ち合わせから帰る電車の中
- 請求書を出した日
- 相手から返信が来た直後
- 仕事が完了して納品した日
電車の中でエクセルを開けない場合は、スマホのメモに3行だけ残しておき、パソコンを開いたときにシートへ写す形でも構いません。ただし写す作業を後回しにすると、メモがメモのまま溜まっていきます。その日のうちに写してください。
打ち合わせ直後に書くのは3行だけ
打ち合わせのあとに書くのは、次の3行だけで十分です。
- 何の話をしたか
- 次に自分が何をするか
- いつ連絡するか
記入例です。「ホームページの写真が古いと気にしていた。月末までに参考サイトを3つ送る。10月1日に送ったか確認の連絡」。これで1分もかかりません。これ以上は書かなくていいです。
1か月空いたら「埋め直す」ではなく「今日から」でいい
1か月ほど間が空くと、空白期間を思い出して埋めようとして、それだけで止まってしまう人が多いです。空欄は空欄のままで構いません。今日会った人から再開してください。
空白があっても、⑥の「次に連絡する日」さえ埋まっていれば、台帳として動きます。毎回いちから型から抜ける最小の行動は、「続けること」ではなく「再開のハードルを下げること」です。
「1か月分をまとめて埋めよう」と考えた時点で、また開かなくなる可能性が高くなります。空いた期間は取り戻そうとせず、そのまま流してください。
ひとりでも当てはまるエクセルの弱点は持ち出しリスクだけ
USBやノートPCと一緒に顧客の情報が外に出る
エクセルはUSBメモリや外付けHDDへのコピー・移動が簡単にできてしまうため、外部への持ち出しや盗難のリスクがあります。ノートパソコン1台で仕事を回している個人事業主にとって、これは他人事ではありません。
パソコンを1台なくすことが、そのまま取引先全員の連絡先と取引額の流出につながります。ひとりだから被害が小さいわけではありません。
置き場所は1か所、ファイルにはパスワード
やることは3つです。
- ファイルはPC内の1つのフォルダに置き、コピーを増やさない
- ファイル自体にパスワードを付ける
- USBに入れて持ち歩かない
NG例は、自分宛てにメールで送って別のPCで開くやり方です。どちらが最新版か分からなくなり、古い情報のまま連絡してしまう原因になります。出先で確認したい場合も、クラウドの同期フォルダに置く1つの方法に絞り、コピーを作らないようにしてください。
情報を預かっている自覚が、そのまま信頼になる
取引先から「顧客情報どう管理してる?」と聞かれたときに、「このフォルダにパスワード付きで1つだけ置いています」と即答できる状態を作っておく。それだけで印象が変わります。
個人情報の扱いについて細かい判断が必要な場合は、専門家に相談してください。
エクセルからツールに移る合図と、移らなくていい場合
移る合図は3つ

移ってもいいタイミングは3つです。
- 誰かと一緒にシートを見るようになった。エクセルは2人以上で同時に開けず、共有のたびにメールやチャットへの添付作業が必要になります。手伝いの人や外注先に見せる場面が週1回を超えたら合図です
- 連絡先が数百人を超えて、並べ替えて探す時間が入力する時間を上回った
- メールとシートを毎日行き来していて、転記のミスが出た
たとえば外注のデザイナーから「来週分の顧客一覧を見せてほしい」と言われる場面が増えてきたら、その都度ファイルを添付して送るより、共有できるツールに移したほうが手間は減ります。
移らなくていい場合
次の状態なら、無理に移す必要はありません。
- 顧客の数がそれほど多くない
- 触るのは自分だけ
- 連絡は月に数件程度
この状態でツールに移すと、項目ばかり増えて入力が重くなり、結局書かなくなります。無料ツールに移したら入力項目が一気に増えて、結局エクセルに戻したという失敗もあります。ツールが悪いのではなく、項目を絞らずに移したことが原因です。
移すときは7列をそのまま持っていく
ツールを変えても、項目まで変える必要はありません。道具は替えても、「次に連絡する口実」の列は残してください。資産はファイルの形式ではなく、項目の設計そのものです。
顧客管理は営業の1つの工程にすぎません。全体の流れはフリーランスの営業の仕方で整理しています。
今日やること:名刺の束から10人だけ入れる
全員入れようとしない。直近半年で会った10人
名刺を全部入れようとして、初日で止まるのが一番多い失敗です。直近半年に会った人の中から、10人だけ選んでください。
選ぶ基準は「また仕事を頼まれそうな人」ではありません。「こちらから連絡する口実が思いつく人」です。仕事の規模が小さかった相手でも、口実が思いつくなら先に入れてください。
10人の「次に連絡する口実」を1行ずつ書く
口実の例文を3つ挙げます。
- 前回の納品物の使い心地を聞く
- 先方が話していた繁忙期の前に一声かける
- 紹介してもらった人にお礼を言い、その後の様子を報告する
口実がどうしても思いつかない人は、⑦を空欄のまま置いておいて構いません。無理に埋めなくていいです。埋まらない欄があること自体が、次に会ったときに何を聞けばいいかの目印になります。
来週の月曜に「シートを開く」予定を1つ入れる
カレンダーに「顧客一覧を開く 10分」という予定を1件だけ入れてください。開いたら、上から3人に連絡する。これが、毎回いちから型から抜ける最小の行動です。
うまくいった連絡の文面は、⑦の欄の横にメモしておくと、次から考えなくて済みます。
よくある質問
個人事業主の顧客管理、エクセルの項目は何を入れればいい?
7つだけです。名前・連絡手段・初めて会った場面・頼まれた仕事と金額・最後に連絡した日・次に連絡する日・次に連絡する口実。名刺の情報を全部写すより、次にいつ何の口実で連絡するかを書きます。
顧客が何人になったらエクセルでは足りなくなる?
人数では決まりません。誰かと一緒に見るようになったとき(エクセルは2人以上で同時に開けず、共有に添付作業が要ります)と、今週誰に連絡すべきかがシートを見ても分からなくなったときが合図です。
エクセルで顧客管理を始めても続かない。どうすればいい?
毎日5分ではなく、見積を送った直後や打ち合わせの帰りなど場面にくっつけて書きます。書くのは3行だけ。1か月空いても埋め直さず、今日会った人から再開してください。
顧客情報をエクセルで持つのは安全?
エクセルはUSBや外付けHDDへ簡単にコピーできるため、持ち出しや盗難のリスクがあります。ファイルは1か所に置き、パスワードを付け、USBに入れて持ち歩かないでください。個別の判断は専門家に相談を。
顧客管理のエクセル無料テンプレートは使っていい?
使っても構いませんが、列が多いものは空欄が増えて開かなくなります。7列に削ってから使ってください。テンプレートより、次に連絡する口実の列があるかで選びます。
参照した情報源
- 顧客管理をエクセルで行う4つの注意点!システム導入の4つのメリットを解説(NTT東日本)・確認日 2026-09-14
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