対面営業・商談

契約書を交わさないまま仕事を始めてしまう|あとで揉めないための一枚

このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか

契約書がなくても、今からでも打つ手はあります

契約書を交わさないまま仕事が始まってしまった。もう納品も近い。それでも今からできることがあります。契約自体はすでに成立していますし、今からでも「条件メモ一枚」を送れば、揉めるリスクの大半は防げます。難しい手続きはいりません。

面倒だからではなく、出せなかった理由がある

打ち合わせの最後に「じゃあお願いします」と言われて、その場で作業が始まる。契約書を出すタイミングを探しているうちに、気づけば作業は半分終わっている。納品日はもう目の前です。「請求書はいつ出せばいいんだろう」「修正は何回まで無料なんだろう」と、あとになって自分でも条件を決めていなかったことに気づきます。

こうなると、出せない理由を「作り方を知らないから」「忙しくて後回しになったから」だと思ってしまいます。でも本当の理由はそこではありません。条件を紙にして渡すことが、相手を疑っているように見える気がする。自分の値打ちをわざわざ主張しているように感じる。だから口に出せなくなるはずです。

値段が言えない型かもしれません

金額を言う瞬間、自分の値段を言っている気がして口に出せない状態を、値段が言えない型と呼んでいます。契約書を出せないのは、面倒だからではありません。条件を書いて渡せるほどの立場じゃないと思っているから、かもしれません。

条件を書くのは、自分の点数ではなく仕事の条件

条件を文字にすることは、自分の値打ちを主張する行為ではありません。仕事の中身と支払いのルールを、お互いが忘れないように置いておくだけです。

条件が文字になっていれば、相手も楽になります。修正が何回まで無料なのか、支払日はいつなのか、毎回聞き直さなくて済みます。条件メモは自分のための紙ではなく、相手のための紙でもあります。

この記事で渡す方法は1つだけ

この記事では「契約書」という名前をいったんやめます。かわりに「条件メモ一枚」を送ることだけを渡します。以降の章はすべて、この一枚の作り方と出し方です。むずかしい条項も、甲乙の言葉も出てきません。

契約書がなくても契約は成立している——だから何が問題か

口頭でも契約は成立する

まず知っておきたいのは、契約書がなくても契約自体は成立しているという事実です。民法は、申込みに対して相手が承諾をすれば契約は成立し、書面の作成などの方式は原則いらないと定めています。つまり「契約書がない=契約がない」ではありません。「じゃあお願いします」「はい、やります」というやりとりの時点で、すでに契約は成立しています。

本当の問題は、何を約束したかを後から示せないこと

揉めるのは契約の有無ではなく、中身です。たとえば次のようなことが起きます。

  • 修正のやりとりが3回目、4回目と続いていく(「あと1つだけ」のつもりが、気づけば5回目に入っている)
  • 納品したあとに「支払いは来月末で」と言われる(先方は月末締め翌月払いが当然だと思っていて、こちらは納品時に一括のつもりだった)
  • 「そこまで頼んだつもりはない」と作業範囲を巡って食い違う(納品したデータを、聞いていなかった用途に使われていたということもあります)

これは相手の人柄の問題ではありません。「いい人そうだから大丈夫だと思った」で始めた仕事ほど、あとで条件のずれに気づきます。人の記憶は都合よく書き換わるので、口約束だけでは、双方が違うことを覚えていてもおかしくないのです。

言った言わないになる典型3場面

「言った言わない」になりやすい場面は、だいたい3つに絞られます。

  1. 修正の回数(どこまでが無料で、どこからが追加料金か)
  2. 支払日(納品日と支払日は別、という前提を共有できているか)
  3. 成果物の使い道(納品したデータや写真を、相手がどこまで自由に使えるか)

この3つだけでも先に文字にしておけば、揉める場面の大半は減らせます。ここから先の内容は一般的な考え方の説明です。実際のトラブルや契約内容の個別の判断は、専門家に相談してください。

頼む側には、条件を文字で示す義務がある

フリーランス法が求めていること

実はこの「条件を文字で残す」動きは、発注する側にも求められています。フリーランスに業務委託をした場合、発注者は直ちに書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で取引条件を明示する義務があります。

つまり、条件を文字にして渡すのは受注する側だけの作業ではなく、本来は発注する側が最初にやるべきことでもあるのです。

だから「文字で残したい」はわがままではない

ここが値段が言えない型の人に伝えたいところです。条件を一枚にまとめて渡すのは、自分の要求を押しつけることではありません。相手側にも本来求められていることを、先回りして手伝っているだけです。

切り出し方はこれで十分です。

「条件を一枚にまとめました。認識合わせに使ってください。違うところがあれば直します。」

「疑っている」でも「主張している」でもなく、「合わせている」という言い方に変わります。

ここで期待しすぎないこと

法律で義務が定められていても、相手が自分から条件を出してくれるとは限りません。忙しさや慣れの違いで、後回しになっていることも多いはずです。だとしたら、自分が先に一枚出すほうが早いですし、結局は相手も助かります。義務の適用範囲や、守られなかった場合の扱いについては、専門家に確認することをおすすめします。

「契約書」ではなく「条件メモ一枚」でいい

一枚に書く7項目

条件メモに書くのは、次の7項目だけです。

項目書く内容
①仕事の中身何を納めるか(成果物の形式、点数など)
②範囲に入らないこと今回はやらないこと(例: 撮影は含むが編集は別料金)
③納期納品日、途中の中間報告日があればそれも
④金額と支払日金額、支払期限、振込手数料の負担者
⑤修正の回数例: 2回まで無料、3回目から別料金
⑥成果物の使い道どこで使うか、二次利用や公開範囲の扱い
⑦中止・変更時の扱い例: 着手後に中止になった場合は作業分を請求

多くても、ここまでです。これ以上増やすと読まれなくなります。

メール本文でそのまま送る書き方

書面でもメール等の電磁的方法でもよいとされているので、わざわざPDFにする必要はありません。メール本文にそのまま書いて送れば十分ですし、LINEやチャットツールでのやりとりが中心の相手であれば、同じ7項目をそのまま貼り付けて送っても構いません。

件名: 【条件確認】〇〇の件

〇〇様

お世話になっております。今回の件について、進める前に条件を一枚にまとめました。

・仕事の中身: (内容) ・範囲に入らないこと: (内容) ・納期: (日付) ・金額と支払日: (金額) / (支払期限) ・修正の回数: 2回まで無料、3回目から〇〇円 ・成果物の使い道: (内容) ・中止・変更時の扱い: 着手後の中止は作業分を請求します

この内容で進めてよければ、返信で一言ください。違うところがあれば直します。

(署名)

「甲」「乙」は使いません。誰が読んでも意味がわかる言葉で書きます。

やりがちなNG例

  • 弁護士の雛形を20条そのまま送ってしまい、相手が身構える
  • 自分だけに有利な条項を並べてしまう(修正無制限で相手には縛りをつけるなど)
  • 一枚に収まらない量を書いてしまう

一枚に収まらないなら、削ります。読まれない紙は、交わしていないのと同じです。

そして、条件メモは送って終わりではありません。「この内容で進めてください」という相手からの返信をもらって、はじめて完成します。返事をもらうところまでが手順です。

もう始めてしまったときの出し方

着手後でも遅くない

すでに作業が始まっていても、出せるタイミングは2つあります。

  1. 最初の中間報告のとき
  2. 最初の修正依頼が来たとき

とくに修正依頼が来たタイミングは、「回数を決めていなかった」と自分でも気づく自然な場面です。ここで条件メモを出すのは、後出しではなく、むしろちょうどいいタイミングです。出すのが遅くなるほど、ここまでのやりとりを思い出して文字にする作業も増えていきます。早いタイミングほど、書く側の負担も軽くて済みます。

遡って責めない文例

着手後に出すときは、過去を蒸し返す形にしないことが大事です。

「ここまで進めた内容を一枚に整理しました。以降の進め方の認識合わせに使ってください。」

これで十分です。避けたいのは、こういう言い方です。

NG: 「最初に決めていなかったので、あらためて確認させてください」

これだと相手のせいに聞こえてしまいます。過去の話ではなく、これからの話として出します。

返事がないときの判断基準

メールで条件メモを送ったら、返事をもらうところまでが手順です。3日返事がなければ、電話か対面で一言確認します。それでも条件を決めたがらない相手であれば、次の工程に進む前に一度立ち止まったほうがいいはずです。止めるかどうかの最終判断は、そのときの状況に合わせて決めてください。

次回から「始める前」に出すための順番

見積と一緒に出す

条件メモは、見積書とは別の紙にしません。見積書の下に7項目を並べれば、それだけで完成します。改まった「契約書」という雰囲気にならず、金額と条件が同じ一枚に載っているので、相手にとっても読みやすくなります。

このあたりの見積や提案の出し方全体は、対面営業の型でも整理しています。

出すタイミングは一つに決める

出すタイミングを毎回考えていると、結局出せなくなります。「金額に返事をもらった直後」に固定してしまいます。

手順はこうです。

  1. 金額にOKの返事をもらう
  2. その日のうちに条件メモを送る
  3. 返信をもらってから着手する

タイミングを一つに決めておけば、毎回迷わずに出せます。

自分用の一枚を作っておく

7項目のうち、案件が変わっても同じ部分があります。修正回数、支払日、中止時の扱いは、多くの場合固定できます。案件ごとに変わるのは、①仕事の中身、②範囲に入らないこと、③納期、④金額くらいです。

今日やれることは、この自分用の雛形を一枚作っておくことです。30分あれば足ります。次に「じゃあお願いします」と言われたときに、すぐ出せる状態を作っておきます。

よくある質問

契約書を交わさないまま仕事を始めてしまいました。今からでも交わせますか?

できます。最初の中間報告か、最初の修正依頼が来たときに「ここまでの内容を一枚に整理しました。以降の認識合わせに使ってください」と送ります。過去を責める形にせず、これからの話として出すのがコツです。

業務委託契約書は個人でも自分で作れますか?弁護士に頼むべきですか?

7項目の条件メモ一枚で足りる仕事が多いです。金額が大きい、成果物の権利の扱いが複雑、相手が大きな会社で先方の雛形が出てくる、といった場合は専門家に相談してください。

契約書がないと契約は無効ですか?

無効ではありません。契約は申込みと承諾で成立し、書面は原則いりません。問題は成立の有無ではなく、修正回数や支払日など「何を約束したか」を後から示せないことです。

メールやLINEで条件を送るだけでも契約書の代わりになりますか?

フリーランス法でも、取引条件の明示は書面のほか、メールやSNSのメッセージなどの方法が認められています。送るだけでなく「この内容で進めてください」という返信をもらっておくことが大事です。

契約書を出したら相手に嫌な顔をされませんか?

「疑う紙」ではなく「認識合わせの紙」として出せば、嫌がられることはほとんどありません。甲乙の言葉を使わず、一枚に収め、「違うところがあれば直します」と添えます。それでも条件を決めたがらない相手なら、進める前に一度立ち止まる材料になります。

参照した情報源

  1. 2024年公正取引委員会フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)・確認日 2026-09-16
  2. 民法第522条(契約の成立と方式)(金子総合法律事務所(弁護士 金子剛))・確認日 2026-09-16

本記事は、当編集部の制作基準——出典との照合・表現・重複の多段検証——を通過したものだけを公開しています(下書きにはAIを活用)。 仕組みの詳細は編集プロセスの開示をご覧ください。

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