対面営業・商談
看板屋の営業|一度作った店から、次の店を紹介してもらうまで
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
看板を納めてしばらく経つと、「そろそろ次の紹介が来てもいい頃なのに」と思う瞬間があります。来ないと、いい仕事をしたはずなのに「自分の仕事はその程度だったのか」と自分を疑いたくなります。ですが、実際に起きていることは少し違います。
看板屋の営業は、新しい店を探すより「作った店」から始めるのが早い
看板屋の営業方法で一番早いのは、飛び込み営業でも広告でもありません。一度作った店から、次の店をつないでもらうことです。
理由には、看板屋という仕事ならではの事情があります。納めた看板は、店の中にしまわれるものではなく、店の外に出て、毎日そこに立ち続けます。隣の店主も、同じ商店街を歩く人も、毎日その看板を目にします。看板は、納品した瞬間から街の中で営業を続けているのです。
チラシや名刺は受け取った人の手元で止まりますが、看板は違います。作った本人が何もしなくても、通りを歩く人・隣の店主・配達業者の目に、毎日勝手に触れ続けます。この「勝手に営業してくれる時間」を生かせるかどうかで、次の仕事につながる速さが大きく変わります。
紹介待ち型かもしれません
紹介が来ないと悩んでいるなら、紹介待ち型かもしれません。いい仕事をすれば紹介は出ると思っていて、思い出してもらう働きかけをしていない状態です。
仕事が減ったのではなく、思い出してもらえなくなった。そう考えると、見えてくるものが変わります。腕のせいではありません。
看板屋が「取り付けて終わり」になりやすい理由
看板屋の仕事には、他の業種にはない区切りがあります。
- 工事完了という物理的な区切りがはっきりしている(取り付けが終われば、その場で仕事の完了が目に見える)
- 引き渡し後は店主が開店準備で忙しく、連絡しづらい雰囲気になる
- 「何かあったら連絡ください」で帰るのが習慣になっている
よくある流れはこうです。取り付け完了→請求書を送る→終わり。この3手で仕事が閉じてしまうと、店主の記憶の中で看板屋は「開店前に来た業者の一人」として薄れていきます。
しかも看板屋が店に関わるのは、たいてい開店前の慌ただしい時期だけです。店が一番輝く瞬間、つまりお客さんで賑わう開店日やその後の営業には立ち会いません。だから店主の記憶が更新されないまま、時間だけが過ぎていきます。
紹介は「頼んだとき」ではなく「店主が聞かれたとき」に起きる
実際に紹介が生まれる場面を見てみると、看板屋が何かを頼んだ瞬間ではありません。隣の店主が「その看板、どこで作ったの」と聞く場面です。
ところが、聞かれた店主が看板屋の名前を思い出せないと、そこで話は途切れます。だから営業の本体は「紹介を頼むこと」ではなく、「店主が聞かれたときに答えられる状態を保つこと」です。
飛び込み営業と、作った店からの紹介では、必要なものがまったく違います。
| 飛び込み営業 | 作った店からの紹介 | |
|---|---|---|
| 相手との関係 | ゼロから作る | すでにある |
| 信用の作り方 | その場で説明して納得してもらう | 隣の店主の口から伝わる |
| 必要な行動 | 数を回る体力 | 開店日から半年の接点を保つ手間 |
体力で押す飛び込みよりも、すでにある関係を保つほうが、看板屋にとっては負担が少なく済みます。
仕事の取り方の全体像はこちらにまとめています。
一度作った店から、次の店につながる3つの道筋
隣の店・同じ商店街・同じテナントビル
看板は場所が固定されているので、次の客は物理的に近くにいます。取り付け作業中に、隣の店主が様子を見に来ることは実際によくあります。
声をかけられたら、作業の手を止めて名刺を渡し、屋号で覚えてもらいます。
- NG: 作業中だからと会釈だけで済ませる
- NG: 「後で伺います」と言ったまま戻らない
隣の店主が見に来るのは、単なる好奇心だけではありません。自分の店にも看板が必要になったとき、あるいは知り合いに聞かれたときに備えているからです。目の前で作業している人を、無意識に値踏みしているのです。そこで手を止めて話せるかどうかが、次につながるかの分かれ目です。
店主の同業仲間・開業仲間
美容室のオーナーは美容室仲間を、飲食店主は飲食仲間を持っています。開業したばかりの店主の周りには、これから開業する人がいることも多いです(これは体験からの仮説で、店ごとに差はあります)。だから、開店直後は紹介が出やすい時期だと考えられます。
店主に「内装はどちらに頼まれたんですか」と聞く
この一言から、内装業者や工務店、不動産屋につながる道もあります。聞くだけなら一言で済みます。
ただし、下請けとして現場に入ると、店主が看板屋の名前を知らないままになり、紹介は起きません。この記事は店主から直接つながる道を中心に書きますが、業者ルートがあることも知っておいて損はありません。
下請けの現場でどうしても仕事を受けたい場合は、元請けに「店主に名刺を渡してもよいか」を一言確認しておくと、後から紹介につながる余地が残ります。確認せずに勝手に渡すと、元請けとの関係を悪くする原因にもなります。
取り付けの日にやっておく3つのこと(ここで縁が続くか決まる)
開店日を必ず聞いて、その場でカレンダーに入れる
文例:「開店はいつですか。当日、看板の様子を見に寄らせてください」
これだけのことですが、開店日を聞かない看板屋は多く、聞くだけで覚えてもらえます。
手順は、聞く→その場でカレンダーに入れる→開店前日に一言連絡、の3段階です。
写真と店名の許可を、その場で取る
文例:「完成写真を撮らせてください。事例として店名を出してもよいですか」
後から頼むと断られやすくなりますが、取り付けのその場であれば通りやすくなります。撮る写真は次の3枚に絞ります。
- 店の正面全体
- 看板のアップ
- 夜の点灯(照明付きの場合)
NG: 許可を取らずにSNSへ載せる
写真は、次に会う店主に見せる事例にもなりますし、店主自身が「うちの看板」として周りに自慢したくなる材料にもなります。取り付け直後は店主のテンションが上がっているタイミングでもあるので、頼みごとがいちばん通りやすい瞬間でもあります。
「何かあったら連絡ください」を言い換える
- NG:「何かあったらご連絡ください」→次の一手を相手に渡してしまっている
- OK:「2週間ほどしたら、照明と貼りの様子を見に来ます」→次の接点を自分で予約している
この言い換えが、「取り付けて終わり」から抜ける最小の行動です。
開店後の接点カレンダー(取り付け日から半年まで)
| 時期 | やること | 一言の文例 | 頼むか |
|---|---|---|---|
| 取り付け日 | 開店日・写真の許可を取る | 「開店日に看板の様子を見に寄らせてください」 | 頼まない |
| 開店日 | 顔を出して1枚撮って帰る | 「看板を見に来ました」 | 頼まない |
| 2週間後 | 点検の連絡 | 「看板の様子を見に伺います。10分で終わります」 | 頼まない |
| 1か月後 | 効果を尋ねる | 「看板を見て来たお客さんはいましたか」 | 頼まない |
| 半年後 | 点検+紹介の話 | 後述の文例参照 | ここで初めて頼む |
すべて目安の時期であり、統計ではありません。店の忙しさに合わせて前後させてかまいません。
開店日: 花より「看板を見に来ました」
開店日は店主にとって一番うれしい日で、その日に来た人のことは覚えています。長居はせず、店の前で看板と店の写真を1枚撮って帰ります。何も頼みません。差し入れをするとしても、重くしないことです。
2週間後: 点検の連絡
照明の点き具合、シートの浮き、汚れの有無を確認します。看板は取り付け後に不具合が出ることがあるので、点検は自然な訪問の口実になります。
文例:「看板の様子を見に伺います。10分で終わります」
ここでも何も頼みません。
1か月後: 「看板を見て来たお客さんはいましたか」
この質問が、紹介の入口になります。店主が看板の効果を口にすると、店主の中で「この看板屋は良かった」という評価が固まります。紹介の話を切り出せるのは、ここから先です。
NG: 取り付け直後に紹介を頼むこと。店主がまだ効果を実感していない段階で頼むと、話が重くなります。
もし「まだお客さんの反応はよく分からない」という答えが返ってきたら、無理に紹介の話は出しません。「また落ち着いた頃に伺います」で切り上げ、半年後の接点に持ち越します。急いで結果を求めないことが、長く付き合える関係につながります。
「紹介してください」と言わずに紹介が出る頼み方(文例つき)
頼む順番: お礼→相手の店の話→「同じように開店準備中の方がいたら」
紹介の頼み方は3段で組み立てます。
- お礼を伝える
- 相手の店の調子を聞く
- 「もし同じように開店準備中の方がいたら、お声がけいただけると嬉しいです」で締める
最後を「いたら」という条件形で終えることで、頼みが軽くなり、店主に借りの感覚を残しません。「紹介してください」と言い切ると、店主は断りにくくなり、無理に誰かを探そうとしてしまいます。「いたら」で終える言い方は、店主が自分のペースで思い出せる余地を残す言い方です。
そのまま使える文例3つ
①1か月後の訪問時(口頭) 「看板、順調そうで安心しました。もし近くで開店準備中の方がいたら、お声がけいただけると嬉しいです。何かあればいつでも見に来ますので」
②半年後のメッセージ(LINE・メール) 「その後、看板の調子はいかがでしょうか。半年ほど経ったので、照明と貼りの様子を見に伺えればと思います。もし周りで開店準備中の方がいらっしゃれば、お声がけいただけると嬉しいです」
③紹介が来た後のお礼と次のひと言 「◯◯さんのご紹介で、△△さんの看板を無事に取り付けました。おかげさまで、いいご縁をいただきました。ありがとうございます」
NG文例
- 「どなたかご紹介いただけませんか」(丸投げで、考える負担を店主に渡している)
- 「紹介してくれたら値引きします」(値段で釣る言い方は、安くしとく型の入口になります)
- 半年以上空けて突然の紹介依頼(思い出してもらってからでないと通りません)
店主が「あの看板屋」と答えられる状態を作る3つの準備
店主の手元に残るもの
名刺だけでは店主がなくしてしまうことがあります。看板の裏や店内の目立たない場所に貼れる小さなステッカー(屋号と連絡先)、レジ横に置ける名刺サイズのカードを用意し、「聞かれたらこれを渡してください」と言って渡します。
スマホで見せられる事例1枚
店主が隣の店主に「ここに頼んだよ」と見せられる形を用意します。店名、看板の写真、どんな相談で作ったかの一言だけで十分です。ポートフォリオを全部見せる必要はありません。1店1枚に絞ります。詰め込むほど、見る人は自分の店と重ねられなくなります。
紹介が来たら、紹介元に必ず報告する
文例:「◯◯さんからご紹介いただいた△△さん、看板が付きました」
報告をしないと、紹介元は「どうなったんだろう」で終わり、次に紹介する気持ちが薄れていきます。受注時と取り付け完了時の2回、報告することを習慣にします。
紹介した側にとって、自分の紹介がちゃんと役に立ったかどうかは、報告されないと分かりません。報告を受けて初めて「紹介してよかった」という実感が生まれ、それが次の紹介につながります。
持ち帰り用チェックリスト(取り付け日に)
- 開店日を聞いた
- 写真・店名の許可を取った
- 手元に残るもの(ステッカー・カード)を渡した
- 2週間後の連絡を自分から予約した
- 紹介が来たら紹介元に報告する
紹介が細ったときの立て直し: 過去に作った店を回る
過去に作った店のリストを作る(4項目)
紙1枚でかまいません。次の4項目を書き出します。
- 店名
- 取り付け日
- 看板の種類(照明あり・なし、シート・立体文字など)
- 最後に連絡した日
これを一覧にすると、「最後の連絡から1年以上空いている店」が見えてきます。
「看板の様子を見に来ました」で回る
頼まない訪問として回ります。点検の目線で見て、劣化していれば張り替えや照明交換の提案ができます。これは紹介ではなく再受注の入口です。無理のない件数で、週に決めた曜日だけ回る形にすると続けやすくなります。
久しぶりに顔を出すのは気が引けるかもしれませんが、「看板の点検で近くまで来たので」という理由があれば、不自然にはなりません。点検という実務上の理由が、疎遠になった相手にも連絡できる後ろ盾になります。
閉店・移転していた店の扱い
閉店した店は、もう紹介元にはなりません。移転先があれば、移転先の看板が次の仕事になります。連絡先が残っていれば「移転されたと聞きました」の一言で構いません。
NG: 閉店した店を見て「自分の看板でも客が来なかった」と腕のせいにすること。店が閉まる理由は看板だけではありません。紹介待ち型の判決に自分を戻す必要はありません。
よくある質問
看板屋の営業は飛び込みでやったほうがいいですか?
飛び込みが無駄ではないが、作った店から次の店をつなぐほうが早い。飛び込みをするなら、作った看板の近く(同じ商店街・同じビル)に絞ると「あの看板を作りました」と言えるので入りやすい
一度作った店に、また連絡するのは迷惑になりませんか?
点検の連絡なら迷惑にならない。看板は照明や貼りの劣化が出るので「様子を見に来ました」は店主にとってもありがたい。頼み事を持ち込まないのがコツ
紹介をお願いするのは、いつがいいですか?
開店から1か月ほど経って、店主が「看板を見て来た客がいた」と口にした後。取り付け直後は店主が効果を実感していないので通りにくい
看板の写真を事例として使うのに、店の許可は要りますか?
店名を出す・SNSに載せるなら、取り付けの日に口頭で許可を取る。後から頼むより通りやすい。断られたら店名を伏せて使う。権利の細かな判断は専門家に相談を
内装業者からの下請けと、店主から直接の仕事、どちらを増やすべきですか?
どちらも要るが、紹介が出るのは店主から直接の仕事。下請けだと店主が看板屋の名前を知らないので紹介が起きない。下請けの現場でも、店主に名刺を渡してよいか元請けに一言確認しておく
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