対面営業・商談
実績を公開できない仕事の見せ方|守秘義務のまま信用を積む
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
守秘義務があっても実績は見せられる|出せる・出せないの線引き
ポートフォリオを作ろうとして、この仕事は出せない、この社名も無理、と消していったら、気づいたら何も残らなかった。初対面で「これまでどんな実績がありますか」と聞かれて、守秘義務を思い出して口ごもった。そんな経験はないでしょうか。

これは実績並べ型かもしれません。分かってもらおうと実績や情報を足し続け、読む人が自分を重ねる場面がない型です。名前を出せる実績がないと、自分はまだ人に見せられる仕事をしていない、と自分に判決を下してしまう人もいます。
ですが選ばれないのは、実績が見せられないからではありません。実績で選ばれようとしているから、見せられないと止まってしまうのです。名前を出せない仕事は「本物じゃない仕事」ではなく、任されたから守っている仕事です。
秘密保持契約(NDA)とは、自社が持つ秘密情報を他社に開示する場合、その情報を秘密に保持してもらうために結ぶ契約で、情報を開示する前に結ぶのが一般的です。守秘義務があるということは、相手が自分に大事な情報を開示してもいいと判断した、その証拠でもあります。実績の見せ方も、独立してからの営業の型のひとつです。
守る対象は、相手が秘密として開示した情報です。相手の社名・案件の中身・数値・未公開の計画は、原則として出せません。一方で自分の作業工程や考え方まで縛られているかどうかは、契約書の条文次第です。ここから先は一般的な考え方として読んでください。
| 区分 | 具体例 |
|---|---|
| 原則出せない | 社名・案件名・相手の数値・成果物そのもの |
| 確認が要る | 業種・規模感・自分の役割・成果物の一部・「案件があった」という事実そのもの |
| 原則出せる | 自分の仕事の進め方・道具・考え方・自主制作 |
よくある勘違いを2つ挙げます。
NG「社名は伏せたからロゴを載せても大丈夫」→ 成果物そのものが秘密情報にあたることがあります。ロゴや画面のスクリーンショットから相手が特定できれば、社名を消しても意味がありません。
NG「NDAは結んでいないから全部出せる」→ 契約書がなくても、取引上の信義則で問題になる場合があります。書面がないことは、出していい理由にはなりません。
迷ったら、自分で判断せずに相手に聞きます。そのまま使える文面です。
「今回の仕事について、社名を伏せたうえで『◯◯業の会社様向けに△△を担当』と書いてもよいでしょうか。難しければ載せません」
法務についてはここまでが一般的な考え方の説明です。契約書の条文は一件ごとに違うので、個別の判断は専門家に相談してください。
この記事ではこのあと、次の4つを渡します。
- 社名を伏せたまま実績を書く5要素の分解テンプレ
- 「実績は?」と聞かれたその場で言える3ステップの答え方
- 受注時に掲載可否を聞く文面と3段階の掲載範囲
- 出す前に確認する5項目チェックリスト
社名を伏せても信用が伝わる「実績の分解」の書き方
実績は5つの要素に分けられます。相手の業種と規模感、抱えていた課題、自分の役割(どこからどこまで)、やったこと、変化の前後です。社名を消しても、残り4つは手元に残ります。

5要素をひとつずつ確認します。
- 業種と規模感:「製造業」「従業員数十名」など、相手を特定しない範囲まで書きます
- 抱えていた課題:数字ではなく状態で書きます。「問い合わせが少なかった」ではなく「問い合わせフォームで離脱していた」のように、具体的な動きで書きます
- 自分の役割:どこからどこまでを自分が決めたのかを明記します
- やったこと:手を動かした中身を書きます。使った道具や進め方まで書くと、実績のない部分を補えます
- 変化の前後:数字がなくても、導入前と導入後の状態を並べれば伝わります
書き換えの例を見てみます。
NG「大手メーカー様のサイト制作」→ 何をしたのかが分かりません。
OK「従業員数十名の製造業。問い合わせフォームの離脱が課題でした。要件整理から公開後の修正まで担当し、複数案の入口を試して1案に絞りました」
※数字や案件の中身は例文です。自分の実際の仕事の事実に置き換えて使ってください。
数字が出せないときは、割合ではなく状態の前後で書きます。「◯%改善」ではなく「導入前は担当者が手で転記していた、導入後は転記がなくなった」のように書くと、相手の数値を推測しなくても伝わります。相手の数値を勝手に見積もって書かないことが大事です。
役割の書き方には落とし穴があります。「関わりました」「携わりました」は一番弱い表現です。どこからどこまでを自分が決めたのかを書きます。要件を決めたのか、案を出しただけなのか、実装だけ担当したのか。ここをぼかすと、実績があっても伝わりません。
発注する側が実績で本当に確かめたい3つのこと
実績はゴールではありません。発注する側が確かめたいことの代用品です。発注側が本当に確かめたいのは、次の3つです。

①この人の腕で、自分の案件が成り立つか ②途中でどんなやりとりになるか ③安心して任せられる人か
このうち①以外は、実績がなくても見せられます。①は実績でしか示せない部分です。ここは無理に匂わせるより、「まだ経験がない領域です」と正直に言ったほうが、あとで信用を落としません。
②を見せるには、仕事の進め方を型にして出します。初回の打ち合わせで聞くこと、中間で見せるもの、納品後のやりとり。これを1枚の手順書にまとめて見せるだけで、実績の代わりになります。
たとえば「初回に確認すること」を並べておくだけでも手順書になります。困っている内容、いつまでに必要か、決裁者は誰か、予算感、過去に似た依頼をしたことがあるか。この並びを見せると、相手は「この人は毎回同じ順番で進めている」と分かります。中間報告でも「必ずこの3点を入れる」と決めておけば、相手は途中の状況を毎回同じ形で確認でき、仕事が止まっていない実感を持てます。順番が決まっているという事実そのものが、経験の証拠になります。
③を見せるには、線を引く姿勢そのものを見せます。「前の取引先の中身は話せません」とはっきり言えることが、目の前の相手には「自分の情報も同じように守ってくれる」という証拠になります。実績を話せないことが、そのまま信用に変わる数少ない場面です。この姿勢は、対面で話すときほど伝わります。表情や間の取り方まで含めて、線を引く態度そのものが情報になるからです。
反対にやってはいけないことがあります。相手の信用を得ようとして「実は◯◯社の仕事もやっていて…」と匂わせる。目の前の相手は、自分の案件もいつか誰かにこうやって話されるのかと受け取ります。守秘義務を軽く扱う人だと伝わってしまうと、実績以前の話になります。
「実績は?」と聞かれたその場で言える答え方
言ってはいけない答え方があります。「守秘義務があって言えません」で切ることです。相手は聞いてはいけないことを聞いたと感じて、そこで会話が止まってしまいます。

答え方は3ステップです。
①範囲を言う「社名は出せませんが、◯◯業の会社で△△を担当しました」 ②役割を言う「要件の整理から納品後の修正まで担当しました」 ③相手の話に戻す「御社の場合、いま一番困っているのはどのあたりですか」
会話にするとこうなります。
相手「これまでどんな実績がありますか」 自分「社名は伏せますが、製造業で受注管理の仕組みを作りました。私は現場のヒアリングから設計まで担当しています。御社はいまどこで手間が増えていますか」
文章で聞かれたときも考え方は同じです。メールで「実績を教えてください」と来たら、範囲→役割→相手への質問、の順で3行にまとめて返します。話し言葉で使う骨格を、書き言葉でも崩さないことが大事です。
実績並べ型から抜ける最小行動はここにあります。実績の話を長くせず、相手の話に戻す。並べられない分、相手の話を聞く時間が増えます。それが結果として、相手が自分の状況を重ねて話せる場面になります。
今日やれることは、この3ステップを自分の仕事に当てはめて、1回分だけ声に出して言えるようにしておくことです。60秒以内で言い切れる長さにしておきます。
公開できる実績を「これから」作る動き方
事例として使ってよいかは、納品後ではなく受注時に聞きます。納品後に頼むと、相手の熱がすでに冷めていて断られやすくなります。見積や契約の段階で聞いておきます。
文面例です。
「完了後、社名を伏せた形で事例としてご紹介してもよいでしょうか。内容は事前にご確認いただきます」
掲載範囲は3段階で相手に選んでもらいます。社名あり、業種と規模だけ、完全匿名です。「全部出すか、まったく出さないか」の二択にしないで、相手が選べる形にすると通りやすくなります。
実案件が出せない期間のために、公開用の仕事を自分で持っておきます。自主制作、知り合いの小さな仕事、自分の事業で使っているもの。実績そのものは出せなくても、仕事の進め方や考え方を見せる材料になります。
公開用の仕事は一度作って終わりにせず、実案件が終わるたびに入れ替えます。守秘義務のある実績は増えても、見せられる実績は増えないままになりがちなので、更新する日をあらかじめ決めておくと止まりません。
やってはいけないことも書いておきます。「掲載してもいいですよね」と事後に既成事実で押すこと。確認を取らずに「A社(仮名)」で載せて相手に見つかること。信用を積むために出した実績で、信用を落としてしまいます。
守秘義務のまま実績を出す前の確認チェックリスト
出す前に、次の5項目を確認します。
- 社名・案件名・相手の数値を消したか
- 成果物そのものを載せていないか
- 載せる内容を相手に見せて了承を取ったか
- 「関わった」ではなく自分の役割を書いたか
- 実績の代わりに、進め方や考え方を1つ載せたか
この5つのうち1つでも空いていれば、まだ出しません。特に3つ目の了承は、口頭ではなくメールで残しておきます。あとになって「言った、言わない」にならないためです。相手が忙しくて返事が遅れることもありますが、確認を急かすより、返事が来るまで載せないほうを選びます。
このチェックリストは一度書いたら終わりではなく、実績を1件足すたびに見直します。仕事の中身は毎回違うので、前回大丈夫だった書き方が今回も大丈夫とは限りません。
今日やることを1つに絞るなら、過去の仕事を1件選んで、5要素に分解し、社名を消したまま書いてみることです。出せるかどうかの確認は、書いたあとで構いません。書けることが分かるだけで、止まっていた手が動き出します。
実績が出せないのは、欠けているということではありません。預かっているものがある、ということです。性格を変える必要も、実績を盛る必要もありません。見せる順番を変えるだけです。
よくある質問
守秘義務がある仕事は、ポートフォリオに一切載せられないのですか?
社名・案件の中身・相手の数値・成果物そのものは原則出せませんが、業種や規模感・自分の役割・仕事の進め方は相手に確認したうえで載せられることが多いです。契約書の条文で決まるので、迷ったら相手に聞いてください。個別の判断は専門家に相談を
取引先の社名を伏せれば、実績として書いても大丈夫ですか?
社名を伏せても、成果物や具体的な数値から相手が特定されれば秘密情報にあたる場合があります。伏せた文面を先に相手に見せて了承をもらってから出してください。口頭ではなくメールで残すと安心です
「実績は?」と聞かれて守秘義務で答えられないとき、何と言えばいいですか?
「言えません」で切らず、範囲(業種と担当した仕事)→役割(どこからどこまで)→相手の話に戻す、の3ステップで答えます。線を引ける姿勢そのものが、目の前の相手には「自分の情報も守ってくれる」証拠になります
公開できる実績がゼロの場合、何を見せればいいですか?
仕事の進め方(初回に聞くこと・中間で見せるもの)と判断の基準を見せます。自主制作や知り合いの小さな仕事を公開用に1つ持っておくのも手です。発注側が確かめたいのは実績そのものではなく、任せて大丈夫かどうかです
事例として掲載していいか、いつ・どう聞けばいいですか?
納品後ではなく見積や契約の段階で聞きます。「社名を伏せた形で事例として紹介してよいか。内容は事前に確認してもらう」と伝え、社名あり・業種のみ・完全匿名の3段階から相手に選んでもらいます
参照した情報源
- 秘密保持契約というのはどういうものか教えてください。(J-Net21(中小企業基盤整備機構))・確認日 2026-09-13
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