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このシリーズの全体像 対面営業のコツ完全ガイド — 会って、信頼で売る技術の全体像
「事例が弱いから響かない」のではない。出す順番が逆になっている
提案の終盤、事例を1つ出したところ相手の表情が変わった。手応えを感じてもう1つ足したら、さっきまでの前のめりな空気が消えていた——という経験は珍しくありません。
事例を足すほど、相手の顔が曇る
提案の場で「弊社はこういう会社もやりました」「他にもこんな例が」と重ねるほど、話は自分の説明になっていきます。
NG例: 「同じような案件を何件もやってきました。たとえば飲食店様で導入いただいて、製造業様でも成果が出ていて…」
聞いている側の頭の中には、自分を重ねる場面が一つもありません。事例の数を増やすほど、相手にとっては他人の話が増えるだけになります。事例を重ねているとき、話す側は次に何を話すか困らないので安心します。ですが、それは話す側の都合であって、聞く側の都合ではありません。
これは実績並べ型かもしれません
事例が足りないから響かないのではないと感じている人は、実績並べ型かもしれません。分かってもらおうとして実績や情報を足し続け、聞く相手が自分を重ねる場面がなくなる型です。事例が足りないからではありません。話せば話すほど自分の宣伝になっているのが、自分でも分かるからです。
腕が悪いからではありません。事例をどの順番で出すかを、誰にも習っていないだけです。
買う側は事例を「早い段階」で見ている
BtoBでサービスの提案を受けて導入を検討した人に聞くと、導入事例を「とても参考にしている」「やや参考にしている」を合わせて約9割が参考にしていると答えています。「とても参考にしている」と答えた層に限ると、「初期の情報収集を行うとき」が68.8%でもっとも高く、「複数のサービス等で比較検討を行うとき」の60.7%を上回っています。
数字はここまでにします。ここから先を一般化した解釈にはしません。以降は、自分の商談を振り返っての整理として書きます。
事例は、話が煮詰まってから出す最後の一押しではなく、相手がまだ情報を集めている早い段階で効いてくるものだと考えたほうが、実際の商談の流れには近いはずです。早い段階で見られているということは、事例は商談の終盤に取っておく「とっておきの一枚」ではなく、話の入り口で使う道具だということになります。
順番の結論を先に置く
事例は「聞く前に配るもの」ではなく「聞いたあとに1つだけ差し出すもの」です。顧客の課題が分からない状態で事例を出しても、効果は薄いといわれています。
聞く前に配ると実績並べ型になり、聞いたあとに1つ出すと事例になります。この記事はその境目を、聞き方・話し方・立て直し方の3つに分けて書きます。対面営業の全体像は対面営業の極意で整理していますが、事例の使い方はその中でも特に差が出る部分です。
事例を出す前に、必ず聞いておく3つのこと
事例を出す前に聞いておくことは、次の3つです。この3つを聞かずに事例を出すと、事例のほうが先に相手の頭に入ってしまい、あとから聞いても「それで、うちの場合は」にしかなりません。

①いま何に時間を取られているか
「この件、いま社内で誰が手を動かしていますか」「その作業に週どれくらいかかっていますか」と、作業と時間で聞きます。
「課題は何ですか」と抽象的に聞かないほうがいいです。抽象的に聞くと、相手からは具体的な答えが出てこず、結局こちらが説明を始めることになります。
②なぜ今なのか
「なぜ今この問題に時間を使うべきなのか」を問う核心質問が、事例を出す前の下ごしらえになります。
言い換えるとこうなります。
「これ、去年からある話ですよね。なぜ今動かすことにされたんですか」
この質問への答えが、そのまま事例を選ぶ基準になります。今動かす理由が「人が辞めた」なら、人が辞めた状況の事例を選びます。「単価を上げたい」なら、単価の話をした事例を選びます。
③どこが自分の持っている話と同じか、を1点だけメモする
業種ではなく状況で合わせます。人数、引き継ぎがいない、前任者が辞めた、単価を上げたい、といった状況です。共通点は1つで足ります。3つ挙げると、当てはめているように聞こえます。
①②が聞けるまで、事例は出さない
3つのうち①と②が聞けていないうちは、事例を出しません。判断の基準は「相手の口から出た言葉を、そのまま事例の入り口に使えるか」です。使えないなら、まだ聞き足りていません。
出すときの一文はこうなります。
「特にこの点が御社と同じなので、その話をしていいですか」
先に共通点を言ってから事例に入ると、相手はポイントを理解したうえで聞くことができます。
事例は4行で話す(状況・つまずき・やったこと・変わったこと)
4行テンプレ

事例は次の4行に収めます。
- その人はどんな状況だったか
- 何でつまずいていたか
- 何をしたか
- どう変わったか
1事例につき4行、話す時間は30秒から40秒です。これより長い事例は、途中で相手の集中が切れます。
つまずき(②)を飛ばさない
成果だけの事例は自慢に聞こえます。効いてくるのは②のつまずきの部分です。相手が「それ、うちと同じだ」と重ねる場所は、成果ではなくつまずきの側にあります。
NG例: 「導入後、売上が伸びました」だけで終わる事例。②がないので、他人の話のまま終わります。
実演サンプル
数字を使うなら、自分の実体験の数字だけにします。他人の成果を数字で創作しません。
たとえば、こんな4行になります。
- 状況: 訪問販売で件数をこなす働き方をしていた
- つまずき: 契約になる割合が低く、利益率も低い案件が多いのに、件数を増やす方向でしか手を打っていなかった
- やったこと: 会う前に1件だけ調べてから行くように変えた
- 変わったこと: 事前に調べた1件が刺さり、契約につながる件数が増えた
もう一つの実演サンプル
同じ4行でも、選ぶ場面によってこんな形にもなります。
- 状況: 一人で訪問を回っていた時期があった
- つまずき: 件数を追うだけで、単価も紹介も増えていなかった
- やったこと: 会う前の下調べと、断られたあとの連絡の仕方を変えた
- 変わったこと: 単価も紹介も増え、まとまった実績につながった
1つの提案の中で、この2つを両方出す必要はありません。相手の状況に近いほうを1つだけ選びます。
数字は1事例につき1つだけ
数字を2つ以上入れると、資料の読み上げのように聞こえます。残す1つは、相手が自分に置き換えられる数字を選びます。件数、期間、人数です。
主語を「弊社」から「同じ立場の人」に変える
言い換え表
| 弊社主語 | 同じ立場の人主語 |
|---|---|
| 弊社が支援して | 同じくらいの規模でやっている方が |
| 実績としては | その人の場合は |
| 成功事例です | うまくいった回の話です |
主語が相手側の立場に寄るだけで、宣伝の匂いが落ちます。
固有名詞は言えるときだけ言う
言えないなら「名前は出せないんですが」と前置きして、状況だけ話します。ぼかすことより、勝手に社名を出さないことのほうが信用に効きます。許可なく実名を出すのは、一度で信頼を落とします。
うまくいかなかった話を1つ持っておく
「これは合わなかった例なんですが」と出せる人は、成功事例だけ並べる人より信じられます。落とし所は反省ではなく条件です。
たとえば、こんな言い方になります。
「体制が整っていないうちに始めると、うちのやり方だと逆に負担になることがありました」
断る材料まで渡すと、相手は正直な相手だと判断できます。
事例が滑る4つの型と、その場での直し方
同じNGパターンは、商談の中で何度でも繰り返されます。型として覚えておくと、その場で立て直せます。
| NGパターン | 相手にはどう見えているか | その場の直し方 |
|---|---|---|
| 大きすぎる事例 | 規模が違うので参考にならない | 「規模は違いますが、詰まっていた場所は同じでした」と共通点を状況に限定して言い直す |
| 事例が多すぎる | どれも他社の話 | 3つ出しかけたら止めて「いちばん近いのはさっきの話だと思います」と1つに絞る |
| 落とし所が「だから弊社に」になっている | 売り込みだ | 事例のあとに提案を続けず「御社の場合はここが違いますよね」と質問で返す |
| 相手が聞いてもいない事例を出す | 自分の話が終わっていないのに | 黙って続きを待つ。沈黙を埋めるために事例を使わない |
1商談1事例で足ります。3つ出しかけている時点で、実績並べ型に戻っています。事例の終わりは相手への質問にする。これができていると、落とし所が売り込みにならずに済みます。
最後の「相手が聞いてもいない事例を出す」は、しゃべりすぎ型と同じ動きです。沈黙が怖くて事例で埋めているだけなら、事例そのものを削ったほうがうまくいきます。
相手が事例で見ているのは成果ではなく「失敗したときの説明のつきやすさ」
決めた人は、うまくいかなかったとき責められる

新しいものを導入して失敗した場合、導入を主導した担当者は責められます。この組織的なリスク回避志向に対抗できるのが導入事例です。
ここからは、自分の商談を振り返っての整理として書きます。相手が知りたいのは、これを選んだ理由をあとで人に説明できるかどうかだと思います。成果が大きいかどうかより、あとで聞かれたときに答えられるかどうかのほうが、決める側にとっては重い判断材料になっているように見えます。
だから小さくて近い事例が効く
派手な成功例より、相手と同じ人数、同じつまずき方をした事例のほうが「うちでも説明がつく」につながります。よい導入事例は、製品トライアルと同等かそれ以上の効果があり、ぴったり合った事例を示せれば、相手は身を乗り出して質問してきます。
主張と事例を1対1で対応させる
主張したいこと(利点・得られるもの)に合った根拠として事例を選びます。
NG例: 「納期が心配です」と言われているのに、売上が伸びた事例を出す。論点がずれて、話が振り出しに戻ります。
一人社長・個人相手でも同じ
社内稟議がなくても、家族や共同経営者に説明できるかどうかは残ります。説明できる形にして渡すのは、法人相手でも個人相手でも変わりません。事例を選ぶ基準は、相手の肩書きが変わっても同じです。
事例が1件もない人の、今週からの作り方
終わった案件を1件、4行に起こす

実績が2〜3件しかなくても足ります。必要なのは件数ではなく、②のつまずきが書けている1件です。所要10分。書く場所はメモアプリ1つで十分です。
使う許可のもらい方
納品後のやりとりの流れで、こう聞きます。
「同じことで困っている方に話すとき、社名を伏せて事例として話してもいいですか」
実名掲載の許可は、そのあと別に聞きます。最初から実名で頼むと断られやすくなります。
貯め方を決めておく
案件が終わった週の金曜に、1件だけ4行を書きます。案件が終わった直後ではなく、曜日を決めておいたほうが他の仕事に埋もれずに済みます。毎回いちから考えていると、うまくいったやり方が手元に残りません。続けていけば、相手の状況に合う1件をその場で選べるだけの数がたまっていきます。
自分の失敗・自分の商談も素材になる
顧客事例がまだなくても、自分がつまずいて直した話は使えます。回した件数と成約した件数のような自分の数字は、自分の体験である限り正確に書けます。
事例は、腕の証明のために出すものではありません。相手が持ち帰ったあと、自分の言葉で人に説明できるようにするための材料です。聞く・話す・立て直すの3つが同時に問われる場面から、まずは4行1件を作るところから始めれば十分です。
よくある質問
事例が少ない(1〜2件しかない)ときはどう話せばいいですか
件数ではなく、つまずきが書けている1件があれば足ります。状況・つまずき・やったこと・変わったことの4行に起こし、相手の状況と重なる点を1つだけ先に言ってから出す。自分の商談でつまずいて直した話も素材になります。
お客様の社名を出せないときも事例として話せますか
話せます。「名前は出せないんですが」と前置きして状況だけ伝えれば十分です。許可は納品後に「社名を伏せて事例として話してもいいですか」と聞いておく。許可のない実名は使いません。
事例を話しても「うちとは違う」と言われます
業種や規模で合わせているのが原因のことが多いです。合わせるのは状況(人数・引き継ぎがいない・単価を上げたい)。「規模は違いますが、詰まっていた場所は同じでした」と共通点を言い直します。
提案の中で事例はどこに入れるのがいいですか
相手の話を聞き終わって、こちらの主張を出す直前に1つ。主張と事例を1対1で対応させます。納期の不安には納期の事例を当てます。売上の事例を当てると論点がずれます。
事例はいくつ用意しておけばいいですか
1商談で出すのは1つで足ります。手元のストックは、案件が終わるたびに週1件4行で足していく形が続きます。数がたまれば、その場で合う1件を選べるようになります。
参照した情報源
- 事例は比較検討ではなく「初期の情報収集」で読まれる?データで判明したBtoB購買プロセスのリアル【PRIZMA調査】(マナミナ(株式会社バリューズ))・確認日 2026-09-06
- なぜデータや数字ばかりのプレゼンは記憶に残らないか(日本経済新聞社(NIKKEIリスキリング))・確認日 2026-09-06
- 社会的証明|グロービス経営大学院 創造と変革のMBA(グロービス経営大学院)・確認日 2026-09-06
- 案件化に繋がる事例紹介の仕方とは?(TORIX株式会社)・確認日 2026-09-06
- BtoB営業で事例が顧客に刺さる理由と導入事例の書き方ノウハウ(株式会社シナプス)・確認日 2026-09-06
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