対面営業・商談
事務所移転の挨拶状の例文|連絡が途切れていた相手にも送れる一通
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
事務所移転の挨拶状は、連絡が途切れた相手にこそ送れる一通
送れないのは、間が空いたからではない
移転が決まって、送付先のリストを作り始める。名刺入れから拾い、請求書の控えを見返し、年賀状の宛名を確認していく。そこで手が止まる名前が出てくる。もう1年以上、仕事のやりとりも連絡もしていない相手だ。
「今さら送るのは都合がいいのでは」と感じて、リストから外そうとしたことはないでしょうか。
けれど、そこで起きているのは都合の良し悪しの話ではありません。仕事が減ったのではなく、思い出してもらえなくなっただけ、ということです。紹介待ち型かもしれません。いい仕事をすれば紹介は出ると思っていて、思い出してもらう働きかけをしていない状態を指す型です。連絡が途切れたのは、腕が落ちたからではありません。ただ、相手の記憶から名前が薄れていっただけです。
移転の挨拶状は、頼み事なしで名前を思い出してもらえる数少ない機会です。連絡が途切れた相手ほど、このタイミングを外す理由はありません。
移転の案内は『頼み事ゼロの用件』だから売り込みに読まれない
住所が変わる事実は、相手に知らせる必要があります。旧住所宛の郵便は、郵便局の転居・転送サービスを使っていても、転居届の届出日から1年で転送が終わり、差出人に返還されます。1年以内に新住所を届けておかないと、送ったつもりの郵便が戻ってくることになります。
つまり、移転の案内には「相手に知らせなければならない実務上の理由」があります。だから、しばらく連絡していなかった相手に送っても、それ自体は不自然な行為ではありません。
ただし、書き方を間違えると売り込みに読まれます。
- NG例:「新事務所ではサービスを拡充しております。ぜひお仕事のご依頼を」で締める → 案内のはずが営業文に変わる
- NG例:「長らくご無沙汰しており、大変申し訳ございません」と謝罪を何行も書く → 相手が返事の義務を感じて、かえって返しにくくなる
謝るのではなく、事実だけを淡々と伝える。それが「頼み事ゼロ」の状態を保つコツです。
まず基本の一通(はがき・封書用)
順番はこうです。①移転の事実と日付 ②新住所・電話・業務開始日 ③これまでのお礼 ④今後の一言。旧住所は書きません。間違って旧住所に送られる原因になります。
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。 このたび事務所を下記へ移転することとなりましたので、謹んでご案内申し上げます。新住所での業務は◯月◯日より開始いたします。 これまでのご厚誼に厚く御礼申し上げます。お近くにお越しの際はお立ち寄りいただけましたら幸いです。 敬具
【新住所】〒000-0000 ◯◯県◯◯市◯◯1-2-3 【電話】000-000-0000 【業務開始日】令和◯年◯月◯日
法人の場合は、この新住所を変更登記後の住所と一致させておきます。登記前の仮の住所で印刷すると、刷り直しになります。
相手別の例文(はがき・封書):今の取引先/途切れた相手/紹介してくれた人
今も取引がある相手

基本形に、実務の一行を足します。「請求書・納品物の送付先変更のお願い」です。業務開始日と、移転作業で電話がつながりにくい期間があれば、それも明記します。
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 このたび事務所を下記へ移転し、◯月◯日より新住所にて業務を開始いたします。つきましては、請求書・納品物の送付先も新住所へご変更いただけますようお願い申し上げます。◯月◯日〜◯日は移転作業のため、お電話がつながりにくい場合がございます。 今後ともご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。 敬具
1年以上連絡が途切れていた相手
謝罪から入りません。「ご無沙汰しております」の一行のあと、近況をひとつだけ添え、移転の事実に進みます。
ご無沙汰しております。◯◯(屋号・氏名)です。おかげさまで◯◯の仕事を続けております。 このたび事務所を移転することになりましたので、ご案内申し上げます。新住所での業務は◯月◯日から始めます。 またお目にかかれればうれしいです。
【新住所】〒000-0000 ◯◯県◯◯市◯◯1-2-3 【電話】000-000-0000
- NG例:「ご連絡できず申し訳ありません」から入る → 謝ると相手に「返事をしなければ」という負担を負わせます
- NG例:近況を実績の羅列にする → 詰め込むほど、相手は自分の話として読めなくなります。近況は3行以内に収めます
紹介してくれた人・独立時に世話になった人
印刷の基本形に、手書きの一行を足します。手書き部分には、相手との具体的な出来事を1つだけ書きます。
印刷部分(基本形と同じ内容)の余白に、手書きで一行:
◯◯の件では本当に助かりました。近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。
出来事を1つに絞るのがポイントです。複数書こうとすると、当たり障りのない挨拶文に戻ってしまいます。
メールで送る場合の例文:件名・本文・署名の3点
件名は『事務所移転のお知らせ(屋号・氏名)』で固定する
件名だけで用件が分かる形にします。
- 事務所移転のお知らせ(◯◯設計事務所・◯◯)
- 【事務所移転】新住所のご案内(◯◯・◯◯)
- 事務所移転のご案内 ◯月◯日より新住所にて業務開始
NG例:「ご挨拶」「お知らせ」だけの件名 → 迷惑メールと見分けがつかず、開かれないまま終わります。
本文は10行以内、住所は縦に並べる
スマホで読まれる前提で、新住所・電話・移転日・業務開始日は箇条書きで縦に並べます。
お世話になっております。◯◯(屋号・氏名)です。 このたび事務所を移転いたしましたので、ご案内申し上げます。
・新住所 〒000-0000 ◯◯県◯◯市◯◯1-2-3 ・電話 000-000-0000 ・移転日 ◯月◯日 ・業務開始日 ◯月◯日
何かございましたら、お気軽にご連絡ください。今後ともよろしくお願いいたします。
1年以上連絡が途切れていた相手には、冒頭に近況を一行だけ足します。「おかげさまで◯◯の仕事を続けております。」の一文を加えるだけで、他は同じ構成で使えます。地図のURLは、必要な相手にだけ添えれば十分です。
送る前に署名を直す・一斉送信の落とし穴
送信前に、メール署名を新住所に変えておきます。忘れると、移転の案内メールの下に旧住所の署名が残るという矛盾が起きます。
複数人に送るときはBCCを使います。送信前に、自分あてに一通テスト送信して、住所表示が崩れていないか、リンクが正しく開くかを確認しておくと安心です。
- NG例:CCで送る → 全員の宛先が見え、他の送付先に自分の連絡先を知られる相手が出てきます
- NG例:旧住所の署名のまま送る
- NG例:件名に「【重要】」を付ける → 中身が案内文なのに重要度を盛ると、開けたときの期待とずれます
誰に・何で・いつ送るか(送り分け表)
送る相手を3つに分ける

| 相手 | 手段 | 足す一言 |
|---|---|---|
| 今やりとりがある相手 | メール | 請求書・納品物の送付先変更のお願い |
| 1年以上連絡が途切れている相手 | はがき | 近況一行+「またお目にかかれれば」 |
| 紹介元・独立時の恩人 | はがき+手書き一行 | 相手との具体的な出来事を1つ |
判断基準はシンプルです。残ってほしい相手ほど、紙で送ったほうがいいという考え方です。メールは流れて消えますが、はがきは机の上や引き出しに残ります。
時期は『業務開始日の前に届く』を基準に逆算する
順番はこうなります。
- 新住所を確定させる
- 法人の場合、本店移転から2週間以内に変更登記を申請する。本店移転日は、実際に移転した日または取締役会で承認をした日のどちらか遅い日です
- 転居届を提出する。届出から登録まで3〜7営業日かかるため、早めに出しておきます
- 登記済みの住所で挨拶状を印刷し、発送する
NG例:登記前の仮住所で印刷してしまい、あとで刷り直しになる。住所は、登記が済んでから確定として扱います。
手続きの具体的な期限や必要書類は、個別の状況によって変わります。司法書士や税理士など専門家に相談してください。
送付先リストの作り方(手順)
- 名刺入れから、直近1〜2年でもらった名刺を拾い出す
- 請求書・納品書の宛先を確認する
- メールの送信履歴を、直近2〜3年分さかのぼって見る
- 年賀状のやりとりがある相手を確認する
このとき、1年以上連絡していない相手も外さないでください。旧住所宛の郵便の転送が切れる目安が1年です。連絡が途切れているからこそ、住所を更新しておく意味があります。
受け取った側から見て、残る一通と捨てられる一通の差
残るのは『自分の名前が呼ばれている』一通

受け取った相手の机の上を想像してみます。郵便物の束の中に、移転の挨拶状が混ざっている。請求書やダイレクトメールと一緒に積まれた中で、定型の印刷文面だけの一通は、住所録を更新したらそのまま捨てられることが多いはずです。文面を読んでも、差出人の顔が思い浮かばなければ、それ以上手が止まる理由がありません。
一方で、手書きの一行が添えられた一通は、少し扱いが変わります。同じ印刷文面でも、「◯◯の件では助かりました」という一行があるかないかで、相手が自分の話として受け取れるかどうかが変わってきます。手書き一行があるほうが、手元に残りやすいはずです。
捨てられるのは『売り込みが透けて見える』一通
以下のような文面は、案内文ではなく営業文として読まれます。
- 「新体制でサービスを拡充しております」
- 「ぜひご依頼ください」
- 料金表やサービス一覧を同封する
実績や新サービスの説明を盛るほど、読む相手が自分の話として重ねる場面がなくなっていきます。近況は3行までと、あらかじめ数で区切っておくと、書きすぎを防げます。
返事が来なくても、届いた時点で目的は果たしている
移転の挨拶状は、返事の有無で成否を測るものではありません。相手の住所録が更新され、次に何かを思い出す場面で名前が出る状態を作ることが目的です。返信率のような数字は出典がないため、ここでは扱いません。返事が来なかったからといって、届いていないとは限らない、という前提で見ておくくらいがちょうどいいはずです。
送ったあとの一手:お礼のやりとりで終わらせない
返事が来た相手には、日付のある一言を返す
「ありがとうございます」だけで返すと、そこでやりとりが区切りになって終わります。次の接点を、日付つきで置いておきます。
ご連絡ありがとうございます。落ち着きましたら◯月ごろ、近くに伺います。 またその節はよろしくお願いいたします。
「今度」ではなく「◯月ごろ」と書く。ここだけの違いですが、相手の記憶に残る期間が変わってきます。
返事が来なかった相手は、次の口実まで寝かせる
返事がなかった相手に、追いかけて連絡するのはおすすめしません。次に用件のある近況が出てきたときまで待ちます。年賀状、暑中見舞い、仕事の区切りの報告など、また「頼み事ゼロの用件」が出てきたタイミングで続けます。
移転の挨拶はここまでですが、独立してから営業をどう組み立てていくかは独立後の営業の始め方にまとめています。
今日やること
送付先リストから、1年以上連絡していない相手を3人だけ選びます。そして、その3人に向けて、手書きで足す一行を考えます。「最後に会ったときの話」でも「一緒にやった仕事の話」でも構いません。全員分を一度にやろうとすると、手が止まって進まなくなります。まずは3人からです。
やりがちな失敗と、発送前チェックリスト
よくある失敗5つ

- 登記前の住所で印刷してしまい、刷り直しになる
- 転居届を出し忘れ、旧住所宛の郵便が届かない。登録まで3〜7営業日かかることを見込んでいなかったケースです
- 旧住所を印刷した名刺を、そのまま配り続けてしまう
- メールの署名・請求書のテンプレート・ホームページの住所が、旧住所のまま残っている
- 「今さら送るのは」と感じて、連絡が途切れた相手を送付先から外してしまう
発送前チェックリスト
- □ 新住所・電話・業務開始日が正しく書かれているか
- □ 法人の場合、登記済みの住所と一致しているか
- □ 転居届を提出済みか
- □ 宛名の会社名・部署・役職が最新か
- □ 手書き一行を入れる相手に、印がついているか
- □ 売り込みの文言が入っていないか
- □ メールで複数人に送る場合、BCCになっているか
- □ 署名を新住所に変えたか
個人と法人で違う点
2週間以内の変更登記が必要になるのは、法人の話です。個人事業主の住所変更の届出は、この記事では扱いません。ただし、契約書や請求書に記載している住所、取引先ごとの経理システムに登録している住所は、法人・個人を問わず自分で確認して回る必要があります。届出という決まった手続きがない分、かえって直し忘れが残りやすい部分です。手続きの詳細は、司法書士や税理士など専門家に確認してください。
よくある質問
事務所移転の挨拶状はいつ送ればいい?
業務開始日の前に届くように逆算します。法人は移転後2週間以内に変更登記が必要で、転居届は登録まで3〜7営業日かかります。新住所の確定→登記→転居届→発送の順に進め、登記前の住所では印刷しないようにします。
移転の挨拶はメールとはがき、どちらで送る?
今やりとりがある相手はメール、1年以上連絡が途切れている相手や紹介してくれた人ははがきが向いています。残ってほしい相手ほど紙で送り、はがきには手書きの一行を添えます。
連絡が途切れていた相手に移転の挨拶状を送っても失礼にならない?
住所が変わる事実を知らせる必要があるため、不自然な行為ではありません。旧住所宛の郵便は転居届の届出日から1年で転送が終わります。謝罪から入らず、「ご無沙汰しております」の一行と近況をひとつだけ添えます。
事務所移転の挨拶状に書く項目は?
移転の事実と日付、新住所・電話、業務開始日、これまでのお礼、今後の一言の5つです。旧住所は書かず、売り込みの文言も入れません。
個人事業主でも移転の挨拶状は必要?
相手との関係によりますが、新住所を知らせないと転送期間が切れたあとに郵便が戻ってしまいます。2週間以内の変更登記は法人の話です。個人の手続きについては専門家に確認してください。
参照した情報源
- 会社の本店を移転しました。いつまでに登記をしなければならないのですか?(大阪司法書士会)・確認日 2026-09-16
- 転居・転送サービス(日本郵便株式会社)・確認日 2026-09-16
本記事は、当編集部の制作基準——出典との照合・表現・重複の多段検証——を通過したものだけを公開しています(下書きにはAIを活用)。 仕組みの詳細は編集プロセスの開示をご覧ください。