対面営業・商談
イラストレーターの仕事の取り方|作品を並べるだけでは依頼が来ない理由
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
イラストレーターに依頼が来ないのは、絵の腕が足りないからではない
ポートフォリオサイトを整えて、SNSには新作を上げ続けている。それでも問い合わせは月にゼロか一件。知り合いからの依頼も、最近は細ってきた。「もっと描けるようにならないと」と思い、練習と投稿の数を増やしている人は多いと思います。問い合わせがないまま月が変わると、自分の実力を疑ってしまう気持ちも分かります。ただ、増やした作品を見返しても、次の依頼にはつながらない。ここで足りないのは画力ではなく、別のものです。
作品を増やしても問い合わせが増えない理由
腕が足りないからではありません。作品を見た人が「自分の案件をこの人に頼む場面」を想像できていないからです。見る側が探しているのは「うまい絵」ではなく、「この案件に使えて、この人に頼めるか」です。作品が増えるほど、見る側は自分の案件に近いものを探す手間が増えます。100点並んだポートフォリオより、探している用途にぴったり合う3点のほうが、頼む決め手になります。
実績並べ型かもしれません
分かってもらおうと実績や作品を足し続け、見る人が自分の案件を重ねる場面がない――実績並べ型かもしれません。実力を証明しようとして、相手の話をしていない状態です。「これだけ描けます」を伝えるほど、見る人は「自分の案件はどれに近いんだろう」と探す作業を強いられます。
渡す許可:腕を上げ続けなくていい。変えるのは並べ方と動き方の順番
詰め込むほど、見る人は自分を重ねられなくなります。画風や性格を変える話ではありません。この記事で渡す方法は2つだけです。「用途で並べ直す」ことと、「自分から近況を届ける」こと。この2つで、いまの腕のまま依頼の入口を増やせます。難しい技術や新しいツールは要りません。
依頼はどこから来るか|フリーランスの受注経路の事実
収入になる経路の上位3つは、過去・現在の取引先、人脈、エージェントサービス

フリーランス白書2024によると、最も収入が得られる仕事獲得経路は「過去・現在の取引先」「人脈」「エージェントサービス」の上位3種で、全体の3/4を占めています。プレスリリースでは個別の内訳まで示されていませんが、リアルなつながりからの受注が大半を占めるのは間違いなさそうです。過去の取引先は、以前あなたに絵を頼んだことがある人や会社です。人脈は、まだ仕事を頼んだことはないけれど、あなたのことを知っている人です。イラストレーターに置き換えると、以前描いた相手、知り合い、仲介サービスの3つに自分から触れているかどうかで、依頼の量が変わるということです。エージェントサービスとは、企業と描き手の間に入って案件を紹介・仲介する専門会社のことです。白書ではクラウドソーシングは別枠の経路として扱われており、上位3種には含まれていません。登録して終わりではなく、得意な用途を伝えておくと、その用途の案件が回ってきやすくなります。
SNS・ブログ発信からの受注は増えているが、まだ主流ではない
仲介事業者やSNS・ブログでの発信経由の受注も、じわじわ増加していると報告されています。発信をやめる必要はありません。ただ、発信だけを仕事の入口にしてしまうと、まだ細い経路に頼ることになります。伸びている経路と、いま太い経路は別物だと分けて考えたほうがいい。
作品を並べて待つのは、細い入口に全部を賭けている状態
問い合わせが来るのを待つ前提だと、上位3つの経路には自分から触れていないことになります。ポートフォリオとSNSは、いわば「待つ入口」です。過去の依頼先や知り合いは「届ける入口」です。同じ時間をかけるなら、太い入口にも時間を使ったほうがいい。
自分がいま時間を使っている先を、書き出してみてください。
| 入口の種類 | 具体例 | いま使っている時間 |
|---|---|---|
| 待つ入口 | ポートフォリオサイト、SNS投稿、公募 | |
| 届ける入口 | 過去の依頼先への近況、知り合いへの一言、会える場 |
書き出してみると、待つ入口にばかり時間を使っていたと気づく人が多いはずです。営業の型全体はフリーランスの営業のやり方で整理しています。受注経路をどう組み立てるか、先に全体像を見ておくと今回の3段の動きが位置づけやすくなります。
作品の並べ方を変える|「うまさ順」ではなく「頼む場面」で見せる
用途で分ける:依頼側が探す単位に合わせる

書籍・雑誌の挿絵、Web記事のアイキャッチ、商品パッケージ、店舗のメニューや看板、企業のキャラクター、SNS用の図解――「何に使う絵か」で棚を作ります。タッチ別、時系列、自信作順は、依頼側の探し方とずれています。依頼側は「この用途に強い人」を探しているからです。棚のタイトルも「作品集」ではなく「メニュー・看板のイラスト」のように用途名にしておくと、探している人がすぐ気づきます。棚の数は3〜5個までにしておくと、見る側も選びやすくなります。全部を網羅しようとすると、結局「うまさ順」に逆戻りします。
1作品に「誰の・何のために・どう使われたか」の一文を添える
作品名やタッチ名だけのキャプションでは、見る人が自分の案件を重ねられません。一文を添えると、案件のイメージが伝わります。以下は説明用の架空の例です。
飲食店のメニュー用。写真より手描きが合うという店主の希望で、全12品を同じ線の太さで統一。
Web記事のアイキャッチ用。文章を読む前に内容が伝わるよう、登場人物の表情だけで状況が分かる構図にした。
こういう一文が、うまい絵の説明より効きます。用途・相手の要望・自分が意識した点の3つが入っていれば十分です。
NG例:全部載せる・練習作を混ぜる・「なんでも描けます」
点数が多いほど「この人は何が得意か」が薄まります。用途ごとに3〜5点に絞り、残りは「その他」に下げてください。練習作や二次創作は、仕事用の棚から外します。「なんでも描けます」は、「何が得意か分からない」と同じに聞こえます。
どれを残すか迷ったら、判断基準は3つです。相手から「これがよかった」と言われた作品、いちばん依頼を増やしたい用途に近い作品、直近1年以内に描いた作品。この3つに当てはまらないものは、いったん「その他」に回してかまいません。
持ち帰りチェック表です。
- □ 用途で分かれているか
- □ 各作品に用途の一文があるか
- □ 用途ごとの点数は3〜5点か
- □ 最初に見える作品は「いちばん頼まれたい用途」か
- □ 連絡先と「得意な用途の一言」が1画面目にあるか
自分から動く順番|過去の依頼先→知り合い→新規の3段
1段目:過去に頼んでくれた人へ近況を送る(頼まない)

収入になる経路の上位は過去・現在の取引先です。ここに送るのは「仕事をください」ではなく近況です。最近はこういう用途の絵を中心にやっています、という一言と近作を1点添えるだけでいい。
文面の例です。
以前は〇〇の件でお世話になりました。最近は店舗のメニューや看板のイラストを中心に描いています。近作を1点添えます。似た案件があれば思い出していただけると嬉しいです。
頼んでいません。思い出してもらうための一通です。返事が来なくても、催促する必要はありません。送ったこと自体が次につながる種になります。
2段目:知り合いに「得意な用途」を一言で覚えてもらう
人脈も上位経路です。「イラスト描いてます」だけでは、案件が発生した瞬間に思い出されません。「飲食店のメニューの絵なら私」のように、用途と自分を一語でつなぐ言い方にします。雑談の中でも、こう言えます。
最近、飲食店さんのメニューや看板を描くことが増えていて。もし近くでそういう話があったら教えてもらえると嬉しいです。
同業のデザイナーやライター、カメラマンは競合ではなく、同じ案件の現場にいる人です。相手の仕事に絵が必要になる場面を、先に聞いておくといい。誰から声をかけるか迷ったら、直近1年以内に会った人から始めるとやりやすいです。
3段目:新規は会える場で。名刺より作品1枚
展示、イベント、地域の交流会、取引先からの紹介。名刺交換だけで終わらせず、A5サイズの作品1枚(用途の一文つき)を渡します。渡すときの一言は「こういう用途の絵を中心に描いています」で十分です。会ったその週のうちに、近況メールを1通送ります。ネットの発信は、会った人があとで見る場所として整えておけば十分です。
週1回30分を「連絡の日」に固定するとやりやすくなります。1段目から順に、1回に3人まで。返事がなくても、3か月後にもう一度近況を送っていいです。
NG例は、「何かお仕事ありませんか」の一斉送信、作品URLだけを貼る、初対面で全作品を見せる、の3つです。相手から「ちょうど探してた」と返ってきたら、そのまま次章の「最初の10分で聞く4つ」に進めばいい。反応がなくても、それで縁が切れたわけではありません。
打ち合わせで先に聞くこと|作品説明より相手の困りごと
最初の10分で聞く4つ
| 順番 | 聞くこと |
|---|---|
| ① | 何に使うか(媒体・サイズ) |
| ② | 誰が見るか(客層・年齢) |
| ③ | いつまでに何点か |
| ④ | なぜ写真や既存素材ではなく絵なのか |
④の答えに、その人が絵に何を期待しているかが出ます。ここを聞かずに作品説明から入ると、相手の話をする時間がなくなります。相手が「やさしい雰囲気にしたくて」と答えたら、それが仕上がりの判断基準になります。④の答えがあいまいなときは、「完成した絵を見て、誰にどう思ってほしいですか」と聞き直すと具体的になります。③の答えがあいまいなときは、「いつ完成した絵が必要になりますか」と相手の予定から逆算して聞くと、具体的な日にちが出やすくなります。
作品を見せるのは相手の話のあと。用途に合う1〜2点だけ
聞いた用途に近い作品を1〜2点だけ出し、「この案件ならこの線の太さで、色数はこれくらい」と相手の案件に置き換えて話します。ここで実績並べ型から抜けられます。作品を並べるのではなく、相手の案件に自分の絵を重ねてもらう番です。
NG例:全作品を見せて「どれでも描けます」
選択肢が多いほど、相手は決められなくなります。「どれでも」は「何が得意か分からない」と同じに聞こえます。
対面でもオンラインでも、順番は同じです。相手が話した言葉(「やさしい感じ」「目立たせたい」)をそのまま見積やラフの説明に使うと、伝わったと感じてもらえます。
一度頼まれた相手から、二度目を頼まれる形にする
納品時に「次に使えそうな用途」を一言添える

過去・現在の取引先は、収入になる上位の経路です。納めて終わりにしないために、納品メールの最後に一言だけ材料を置きます。
このキャラクターはSNSのアイコンやPOPにも展開できます。必要になったらお声がけください。
相手が次を思いつくための一文です。多く語る必要はありません。この一言があるかないかで、相手が次に絵を使う場面を思い出せるかどうかが変わります。
納品から3か月後に近況を1通
頼みません。「先日の絵はその後どうですか」に近作を1点添えるだけです。使われ方を聞くと、次の案件の話が出やすくなります。送る日をあらかじめカレンダーに入れておくと、あとまわしにならずに済みます。送る相手と日付は、案件が終わるたびに1行でメモしておくと、3か月後に思い出さなくても済みます。返事が来ないまま半年たっても、縁が切れたと決めつける必要はありません。もう一度、同じ一言を送ればいいだけです。
使用範囲と修正回数は先に文字で決めておく
媒体、期間、二次利用、修正回数を見積に書いておくと、二度目の依頼で揉めにくくなります。書かずに納品してしまうと、「この絵、他の店舗にも使っていいですよね」と後から言われて断りにくくなる、といった場面が起きがちです。権利の扱いは案件ごとに事情が変わるので、個別の判断は専門家に相談してください。ここで整理しておくのは、言われた額をそのまま受けないための最低限の条件です。
今週やること|実績並べ型から抜ける最小の3つ
1. ポートフォリオの1画面目を「用途1つ・3点・一文」に直す
全部を直す必要はありません。いちばん頼まれたい用途だけ、先に整えます。30分あればできます。ここから始めるのは、届ける入口を使うときに見せる場所が先に整っていたほうが効くからです。
2. 過去に頼んでくれた人を3人書き出し、1人に近況を送る
1段目で紹介した文面例をそのまま使ってください。頼まなくていい。返事がなくても、それで終わりではありません。
3. 知り合い1人に「得意な用途の一言」を伝える
「〇〇の絵なら私」と口に出す練習です。相手の反応を見て、用途の言い方を直していけます。
腕を上げてから動くのではなく、いまの腕のまま並べ方と届け方を変える。性格を変える話ではありません。月にゼロか一件だった問い合わせは、絵を描く時間を削らなくても、入口を増やすことで変わっていきます。
よくある質問
イラストレーターは営業しないと仕事が来ませんか?
作品を公開して待つだけだと入口が細くなります。収入になる経路の上位は過去・現在の取引先や人脈などです。売り込みではなく、近況を届けて思い出してもらう動きが営業になります。
SNSのフォロワーが少なくても仕事は取れますか?
取れます。SNS・ブログ発信経由の受注は増えていますが、まだ主流ではありません。フォロワー数より、会った人や一度頼んでくれた人に「得意な用途」を覚えてもらうほうが先です。
ポートフォリオには何点くらい載せればいいですか?
点数より並べ方です。用途ごとに3〜5点に絞り、各作品に「誰の・何のために」の一文を添えてください。全部載せるほど、何が得意かが薄まります。
実績がない駆け出しはどうやって最初の仕事を取ればいいですか?
実績の代わりに、用途を決めた自主制作を3点ほど作っておきます(架空の店舗のメニュー用など、架空と明記して掲載)。知り合いに「〇〇の絵なら私」と伝え、会える場では作品を1枚渡すところから始められます。
知り合いに仕事をくださいと頼むのは失礼ですか?
頼まなくて大丈夫です。「最近はこういう絵を描いています」という近況と近作を1点送るだけで、相手は必要なときに思い出せます。頼むより、覚えてもらうことを優先してください。
参照した情報源
- フリーランスの実態・ホンネが丸わかり〜「フリーランス白書2024」を発表〜(フリーランス協会(プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会))・確認日 2026-09-15
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