対面営業・商談
保守契約の提案の仕方|納品で終わらせず、月ごとの契約に変える切り出し方
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
保守契約を切り出せないのは、押し売りが嫌だからではない
納品の日、最後に交わす言葉はだいたい同じです。「何かあったら連絡ください」。それだけ言って帰る。 その後にくる連絡は、壊れたときだけです。気まずさもあって、たいていは無償で直してしまいます。次の案件が入ると、その相手のことは頭から消えます。
「保守を勧めると押し売りに見える」「自分の仕事に不安があると思われる」——そう思って言い出せない人は多いです。でも、そうではありません。切り出せないのは、「何も起きなかった月にもお金をもらう」ことに、自分がまだ納得していないからだと思います。
値段が言えない型かもしれません。金額を言うことが自分の値打ちを言うことになっていて、口に出せない型です。保守料を「何もしない対価」と自分で決めてしまっているから、言葉が出てこないのだと思います。
保守料は、自分の価値の点数ではありません。仕事の条件です。何もない月は、何もしていない月ではなく、「何もなかったことを確認した」を届けている月です。そこにゼロは一つもありません。
「何かあったら連絡ください」で帰ったあとに起きること
連絡先だけ渡して終わる納品から数か月後を想像してみます。相手は画面が崩れても、誰に聞けばいいか分かりません。直してもらったら有料なのか無料なのか分からないので、連絡すること自体を迷います。結局、検索して見つけた別の業者に相談します。対応していれば当然もらえていた仕事が、こうして静かに消えていきます。
このとき失っているのは、その1件の仕事だけではありません。相手の中で「次も頼む相手」の候補から静かに外れているという、目に見えない変化です。壊れたときだけの関係は、壊れなければ関係自体が続かないという意味でもあります。
「保守を勧めるのは押し売り」は本当か
発注した側が納品後に一番困るのは、壊れたことそのものではありません。「誰に、何を、どこまで頼めるか分からないこと」です。窓口を用意しないまま去るほうが、実は不親切です。保守の提案は、売り込みではなく、その不安を先に埋める行為だと考え直すと、切り出す言葉も変わってきます。
何もない月の請求書に、自分が納得する言い方
請求書を出す前に、自分の中で一文にしておきます。「見ている」「すぐ動ける状態を保っている」を売っている、と言葉にする。この一文が自分の中で言えないと、相手にも言えません。逆に一度言葉にしてしまえば、何も起きなかった月の請求書にも迷いがなくなります。
保守契約が売っているのは「直すこと」ではなく「気づく人を置くこと」
民法では、引き渡した物が種類や品質の面で契約の内容に適合しないとき、買主がその不適合を知った時から一年以内に売主へ通知しないと、追完の請求・代金減額の請求・損害賠償の請求・契約の解除ができなくなると定めています。売主が引き渡しの時に不適合を知っていた、または重大な過失で知らなかったときは、この限りではありません。請負契約についても、同じ趣旨の規定(民法637条)があります。
ここから言えることは一つです。法律上の保証は、「気づいて、通知した人」にしか働きません。納品後に誰も見ていなければ、不具合が起きても気づくこと自体ができず、保証を使う機会がそのまま来ません。保守契約は、この「気づく人」を置く契約です。
個別の契約が請負にあたるのか、売買にあたるのか、業務委託にあたるのかによって、適用される考え方は変わります。自分の契約にどう当てはまるかは、専門家に相談することをおすすめします。
法律の保証は「気づいた人」にしか働かない
条文を平易に言い直すと、ポイントは三つです。保証には期限があること。買主側から通知が必要なこと。そして、気づかなければ何も始まらないこと。「保証期間があるから安心」ではなく、「気づく仕組みがあって初めて保証が機能する」という順番です。
ミスを無償で直す義務と、保守でやることは別物
| 自分のミスを直す | 保守でやること | |
|---|---|---|
| 対象 | 自分の仕事のミス | ミスではない変化(環境の変化・使い方・追加要望) |
| 期間 | 通知の期限あり | 契約期間中 |
| 費用 | 無償 | 月額 |
| 誰が気づくか | 相手 | 自分 |
この二つを混ぜて説明すると、相手は「壊れたら無料で直すのが当然」と受け取ります。保守の値打ちが見えなくなるのは、ここを分けずに話しているときがほとんどです。
受け手が本当に買いたいのは「連絡先」
発注する側の立場で考えると分かりやすくなります。社内に詳しい人がいない。放置していいのか分からない。次に何か起きたとき、誰に言えばいいのか分かりません。保守契約は、この不安を先に埋める提案です。「直します」ではなく「見ています」を売っている、という説明のほうが伝わります。
切り出すタイミングは納品日ではなく、見積の段階
納品日に初めて保守の話をすると、「追加請求」に聞こえます。見積の中に「納品後」の話を1行入れておけば、納品後の提案は「見積のときの話の続き」になります。
タイミングは三つあります。 ①見積提示時。「納品後の運用は2通りあります」と選ばせる。 ②納品前の最終確認。「使い始めてから出てくることが多いのは…」と予告する。 ③納品後の様子伺い。使ってみて困ったことを聞いてから、その困りごとに保守を当てる。
NG例も並べておきます。納品日に「あと、保守もどうですか」と付け足す。請求書に突然「保守料」の行を書く。相手から「これ直せますか」と聞かれたときに初めて有料の話をする。どれも、相手からすると「後出し」に見えます。
見積書に「納品後」の欄を1行足す
書き方はシンプルです。「納品後の対応: 保守契約あり/なし(都度見積)」という2択を見積書に入れておきます。この段階で金額まで書く必要はありません。選択肢があることを見せるだけで十分です。
納品前の最終確認で「使い始めてから出てくること」を話す
台詞の例です。「最初のうちは、文言の直しや細かい調整が出ることが多いです。その窓口をどうするか、決めておきませんか」。脅しではなく、経験から見える事実として伝えます。
納品後の連絡が最後の入口
売り込まず、「使ってみてどうですか」から入ります。困りごとが出たら、その場で「それを毎月見るのが保守です」とつなぎます。何も出なければ、連絡先だけ置いて次に回します。ここで焦って売り込む必要はありません。
保守で何をするかを「毎月やる・起きたらやる・別料金」に分けて書く
「保守 月額◯円」の一行では、相手は何を買うのか分かりません。三つに分けると、値段の話ではなく中身の話になります。
| 区分 | 内容の例(Web制作) | 他職種の例 |
|---|---|---|
| 毎月やること | 動作確認、バックアップの確認、更新の適用、月次報告 | 講師: 月1回のフォロー面談/カメラマン: 月次の撮影枠の確保 |
| 起きたらやること | 軽微な文言修正は回数を決めて対応、不具合の一次対応 | 講師: 質問への回数制の返信/カメラマン: 差し替えカットの対応 |
| 別料金のこと | 新しいページや機能の追加、デザインの変更 | 講師: 新規カリキュラムの作成/カメラマン: 追加日程の撮影 |
「含まないこと」を先に書きます。含まないことが決まると、含むことの値打ちが見えます。逆に書かないと「それも保守でしょう」が始まり、断れない仕事が増えていきます。
「毎月やる」「起きたらやる」「別料金」の3つに分ける
自分がこれまで納品後に無償でやってしまったことを、思いつく限り書き出します。それを上の三つに振り分けるだけで、メニュー表の骨格ができます。
含まないことを先に書く
NG例は「その他ご要望に対応」とだけ書いてしまうことです。これでは何でも入ってしまいます。書き直すなら「新規ページの追加は別途見積」のように、含まない項目を具体的な言葉にします。
月次報告1枚が「何もない月」の請求書を支える
雛形はこの四つで足ります。今月やったこと。起きたこと(なければ「異常なし」と書く)。来月の予定。相談したいこと。この1枚があると、相手も自分も「払う理由」が見える形になります。
月額の言い方——金額は最後、先に「保守がないと起きること」
話す順番を決めておきます。①保守がない場合に起きることを事実で話す(連絡先がない、不具合に気づけない、都度見積になるので、そのつど見積と確認の時間がかかる)。②次に毎月やる中身を話す。③最後に金額を話す。金額から始めないことが大事です。
月額の決め方は、相場ではなく自分の時給から逆算します。毎月やる作業の想定時間に自分の時間単価をかけ、そこに起きたらやる分の予備を足す。この金額は自分で説明できるので、値切られても根拠を持って答えられます。
「安くしておきます」とは言わないほうがいいです。値段を下げるのではなく、中身を減らします。毎月やることを絞ったライト版を用意する形です。値段を下げると、「何もしない月の請求」への自分の後ろめたさが、そのまま相手に伝わってしまいます。
先に「保守がないと起きること」を事実で話す
台詞の例です。「保守がないと、次に何か起きたとき、都度お見積りになります。その分、確認のお時間もいただくことになります」。脅しにならない線引きは、仕組みの説明にとどめることです。「放っておくと大変なことになります」ではなく、「不具合に気づいてから1年以内に通知しないと、直してもらう・減額してもらうといった請求ができなくなります。気づく人がいないと、その1年の時計自体が動き出しません」のように話します。
月額は自分の時給から逆算する
手順は三つです。①毎月やる作業にかかる時間を洗い出す。②自分の時間単価をかける。③起きたらやる分の予備を足す。数字は読者自身が自分の作業時間と単価を入れて計算します。
「安くしておきます」の代わりに中身を減らす
値下げとライト版は似ているようで違います。値下げは同じ中身を安く売ること、ライト版は中身そのものを減らすことです。ライト版の例は、月次の動作確認と報告のみにして、修正は都度見積にする形です。
そのまま使える切り出しの台本(対面・メール・断られたとき)
対面で切り出す台詞(3場面)
見積時:「納品後の運用は2通りあります。保守契約をつけるか、その都度お見積りするかです。どちらがいいか、見積書に書いておきますね」(見積書の欄を見せながら)
納品前の最終確認:「最初のうちは、細かい調整が出ることが多いです。その窓口を保守契約にするか、都度にするか、今のうちに決めておきませんか」(メニュー表を見せながら)
納品後の様子伺い:「使ってみてどうですか。困ったことがあれば、それを毎月見るのが保守です」(月次報告の雛形を見せながら)
メールで提案する文面
件名は「ご提案」ではなく「納品後の窓口について」にします。冒頭で様子を尋ね、中身で困りごとを聞き、締めで保守契約の案内を添えます。本文は10行以内に収めます。
件名:納品後の窓口について
本文例: 「先日は誠にありがとうございました。その後、使ってみて気になる点などありませんでしたでしょうか。 細かい修正やご質問があれば、いつでもご連絡ください。あわせて、今後の運用について、月ごとに動作確認や更新対応を行う保守契約もご用意しています。ご興味があれば、内容をまとめた資料をお送りします。 引き続きどうぞよろしくお願いいたします。」
売り込みの言葉を入れず、様子伺いの延長として読める長さと言葉を選びます。
「今はいらない」と言われたときの返し
「今は必要ない」と言われたら、「分かりました。困ったときの連絡先と、都度対応の目安だけお伝えしておきます」と返し、関係を切りません。「社内で相談する」と言われたら、判断材料を1枚送り、「来週こちらから確認のご連絡をします」と自分から期限を置きます。相手の番のまま止めないことが大事です。
一度作った保守の型を、次の案件でそのまま使う
毎回いちから考えていると、提案は納品の忙しさに押されて消えていきます。残しておくのは三点です。保守メニュー表(3分割)、月次報告の雛形、提案メールの文面。次の見積からは、この三点をコピーして相手に合わせて直すだけです。見積の雛形と同じフォルダに置いておくと、探す手間もなくなります。
保守契約の考え方や進め方は、案件の取り方全体の中でも特に「終わった案件をどう次につなげるか」の部分にあたります。
残しておくもの3点
保守メニュー表・月次報告の雛形・提案メールの文面。この三つを見積の雛形と同じ場所に保存しておきます。
保守契約 提案チェックリスト
| チェック項目 |
|---|
| □見積書に「納品後」の欄がある |
| □含む・含まないが書いてある |
| □月次報告の雛形がある |
| □断られたときの連絡先の置き方が決まっている |
| □提案する日を決めている |
見積を出す前に、この5項目を見る習慣をつけます。5つとも揃ってから提案する必要はありません。まずは見積書の欄とメニュー表の2つから始めても、切り出しやすさは変わります。
今日やる1つ: 直近の納品先に様子伺いを送る
直近で納品した1件に、「使ってみてどうですか」の様子伺いを送ります。保守を売り込まず、困っていることを1つ聞くだけでいいです。返事が来なくても、連絡先を思い出してもらえた時点で目的は達しています。
よくある質問
保守契約は納品後に提案しても遅いですか?
遅くはないが「追加請求」に聞こえやすい。納品後の様子伺いで困りごとを聞いてから当てる。次の案件からは見積の段階で「納品後」の欄を1行入れておく
個人・フリーランスでも保守契約は結べますか?
結べる。ただし1人で対応できる範囲を「含む・含まない」で明記し、連絡手段と対応する時間帯を先に決めておく。全部対応と書かないことが続けるコツ
保守契約の内容には何を入れればいいですか?
「毎月やること」「起きたらやること」「別料金のこと」の3つに分けて書く。月次報告を必ず含める。含まないことを先に書くと値打ちが伝わる
何も起きなかった月も請求していいのですか?
保守は「見ている」「すぐ動ける状態を保つ」ことの対価。月次報告で「確認した結果、異常なし」を届ける。それが払う理由になる
納品後の不具合は無料で直すべきですか?保守と何が違いますか?
契約内容に合わない不具合は法律上の責任の話で、買主が知った時から一年以内の通知が必要。保守はそれとは別に、ミスでない変化への対応と気づく人を置く契約。個別の判断は専門家に相談を
参照した情報源
- 民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条(e-Gov法令検索(デジタル庁))・確認日 2026-09-20
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