対面営業・商談
発注書をもらう言い方|口約束のまま始めないための一言
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
発注書をもらう言い方は「ください」ではなく「こちらで確認書を送ります」
発注書が来ないのは、軽く見られているからではない
打ち合わせで「じゃあお願いします」と言われた。金額も納期もその場で口頭で決まった。あとは発注書が届くのを待つだけ、のはずが、1週間たっても来ない。催促しようとメールの下書きを開いて、そのまま閉じる。着手はもう始めている。今さら書面の話を切り出すと、案件そのものに水を差す気がする。
このとき自分に言い渡している判決は、たぶんこうです。「催促できないのは、自分がまだ書面を出してもらえるほどの相手じゃないからだ」。
相手の番型かもしれません。出したあとに何をすればいいか習っていないので、あとは相手の番で止まる型です。
相手が発注書を出さないのは、あなたを軽く見ているからではありません。相手も発注書をどう出せばいいか、実は知らないことが多いからです。担当者が若手だったり、そもそも社内に発注書のフォーマットが整っていなかったり。理由はこちらの評価とは関係ないところにあります。
頼み事ではなく、確認の手順に変える
「発注書をください」は頼み事に聞こえます。だから言い出しにくい。言い方を変えれば、これは頼み事ではなく手順になります。
「行き違いがないように、条件をこちらでまとめて送ります。問題なければ返信ください」
フリーランスに業務委託をした場合、発注側は直ちに書面又は電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で取引条件を明示しなければならず、口頭で伝えることは認められていません。つまり、条件を文字にして送るのは、あなたが無理を言っているのではなく、本来は発注側がやるべきことをこちらが手伝っている形です。
ただし、これを相手に突きつける道具にはしません。腹に置いておくための後ろ盾であって、交渉の武器ではありません。「送ります」と言い切るだけで、こちらの立ち位置が「頼む側」から「進行を管理する側」に変わります。
| 言い方 | 聞こえ方 |
|---|---|
| 「発注書をください」 | お願い・頼み事 |
| 「条件をまとめて送ります」 | 確認・手順 |
今日使える一言(口頭版・メール版)
口頭版:「ありがとうございます。行き違いがないように、今日の内容をメールでまとめて送りますね。それに返信いただければ発注の確認とさせてください」
メール版は件名を「【ご確認】◯◯のご依頼内容について」にして、本文の締めを「上記で問題なければ、このメールへの返信でご承諾ください」にします。
渡す方法は1つだけです。自分でまとめて、返信をもらう。それだけです。「発注書をもらう」という言葉に引っ張られて、相手が書面を作るのを待つ必要はありません。作るのはこちらで、もらうのは返信だけ、と考えると動きやすくなります。
場面別の言い方|口頭OKの直後・メール・もう始めてしまったあと
打ち合わせで「お願いします」と言われた直後
その場で言えるのは、こういう一言です。
「ありがとうございます。金額と納期、今日の話の通りで進めます。今日中に文面にして送るので、そこで確定にさせてください」
ポイントは「あとで送る」ではなく「今日中に送る」と自分で期限を切ることです。日が空くほど、あとから言い出しにくくなります。相手がその場で少し驚いた顔をしても、気にしなくて大丈夫です。ほとんどの場合、単に「そこまでしてくれるんだ」という反応です。
その場で言えなかったとしても、打ち合わせの直後、移動中や休憩中にメモを取っておくだけで十分です。話した内容は数時間で細部が抜けていきます。金額・納期・仕事の範囲の3つだけでも先にメモしておくと、あとでメールを書くときに迷いません。
メールでもらう文面(発注書 もらう メールへの直球回答)
件名: 【ご確認】◯◯制作のご依頼内容について
本文は、仕事の内容/納期/金額(税込か税別か)/支払日/連絡先の順に並べます。金額は「¥50,000(税込)」のように税込・税別を必ず添えます。
締め: 「上記で問題なければ、このメールに『了承しました』とご返信ください。発注書の書式がある場合はそちらでも構いません」
相手に選ばせる形にすると、角が立ちません。
もう作業を始めてしまったあと
途中からでも遅くありません。
「進めながらで恐縮ですが、請求のときに行き違いがないよう、いまの条件を一度文字にしておきたいです」
NG例は「本当は最初にもらうべきでしたが……」と自分を下げる前置きです。下げると、相手も「面倒な話をされるのか」と身構えます。淡々と、事務的に送るだけで十分です。着手から日が経っていても、請求書を出す前であれば遅すぎることはありません。むしろ請求のタイミングで初めて条件を確認するより、よほど早いくらいです。
「発注書のひな形がない」と言われたら、こちらで書いて返信をもらう
メールの返信でも書面の代わりになる
取引条件の明示は、書面だけでなく、メールやSNSのメッセージなど電磁的方法でもよいとされています。だから、相手にひな形がなくても困りません。こちらが条件を書いて送り、相手が返信で了承すれば、それが記録になります。紙の発注書にこだわって着手が遅れるほうが、よほど損です。
確認メールに入れる項目
法律で示すべきとされている項目には、主に次のようなものがあります。
| 項目 | 抜けるとどうなるか |
|---|---|
| ①発注者と自分の名称 | 誰との取引か記録に残らない |
| ②依頼を受けた日 | いつからの話か、あとで揉める |
| ③仕事の内容(何を・どこまで) | 修正回数や範囲の話で揉める |
| ④納期または作業期間 | 「まだですか」の基準がぶれる |
| ⑤報酬の額(税込か税別か) | 請求段階で金額の認識がずれる |
| ⑥支払期日 | 請求後に「来月末で」と言われる |
これらの項目を見て分かる通り、金額だけを書いた文面は条件明示として不十分です。仕事の範囲と納期まで含めて初めて、あとから揉める余地が減ります。ほかにも項目はあります。個別の判断は専門家に相談してください。
締めの一文で返信をもらう
「上記で問題なければ、このメールへの返信で『了承』とお送りください」
返信のハードルを下げるために、相手が書く文字数を最小にします。NG例は「ご確認のほどよろしくお願いいたします」で終えることです。何をすればいいか相手に伝わらず、既読のまま止まります。「了承」の一言、あるいはスタンプのようなリアクションでも構わない、くらいまでハードルを下げておくと、相手も返しやすくなります。
口約束のまま始めると、請求のときに何が起きるか
「そんな金額だったっけ」が起きる
口頭で伝えた金額が、相手の記憶の中では税込だった、概算だった、にすり替わることがあります。悪意ではありません。相手は他の案件も抱えていて、単純に忘れます。請求書を送った段階で初めて食い違いが見え、直すのに自分の時間が丸ごと持っていかれます。しかも金額の話は一度こじれると、次からの見積もりまで「念のため安めに」出したくなり、単価が下がる方向に働きます。
「ついでにこれも」で範囲がふくらむ
仕事の内容を文字にしていないと、追加の頼まれごとを断る根拠がありません。ロゴ制作のはずが、名刺・封筒まで「セットでしょう」と言われる。文字があれば「それは別見積で」と言えます。文字がないと、自分の中で「まあいいか」が積み上がっていきます。範囲を書いておくことは、相手を疑うことではなく、あとで気まずい思いをせずに済むための線引きです。
支払日が決まっていなくて、入金が読めない
支払期日を決めずに始めると、請求してから「うちは翌々月末で」と言われることがあります。売上は立っているのに、手元にお金がない状態です。支払期日は発注側が示すべき項目のひとつです。着手前に一行入れるだけで防げます。
発注書を頼んだら嫌がられそう、が実際は起きにくい理由
発注側にとっても書面は保険
受け手の立場で考えてみます。発注する側も「言った言わない」で揉めたくありません。条件が文字になっていれば、社内で説明しやすく、担当者が代わっても引き継げます。あなたが文字にすることは、相手の仕事を減らす行為でもあります。むしろ「条件をまとめて送ってくれる相手」は、発注する側からすると仕事がしやすい相手として印象に残ります。
法律で発注側の義務になっている
フリーランスに業務委託をした場合、発注側は直ちに書面又は電磁的方法で取引条件を明示しなければならず、口頭で伝えることは認められていません。違反した場合、発注事業者は行政機関による調査を受け、指導・助言や必要な措置をとることを勧告され、勧告に従わない場合は命令や事業者名などの公表が行われます。
ただし、これを相手に突きつけないでください。知っておくのは、「自分が無理を言っているわけではない」と腹に落とすためです。個別の判断は専門家に相談してください。
それでも嫌がる相手がいたら
条件を文字にすることを嫌がる相手は、あとで条件を動かしたい相手であることが多いです。断定はできません。「受けるかどうかの判断材料が1つ増えた」と受け取っておく程度でいいと思います。逆に、条件をまとめて送ったときに素直に返信してくれる相手は、そのあとの仕事の進め方も比較的スムーズなことが多いです。最後にどう判断するかは、あなた次第です。
やりがちなNGの言い方3つ
「一応」「念のため」で小さく言う
NG例:「一応、念のため、発注書みたいなものをいただけたりしますか」
小さく言うほど、相手は「別になくてもいいのか」と受け取ります。曖昧な依頼は、曖昧なまま流されます。
言い換え:「行き違い防止で、条件を文字にして送ります」
理由を先に、依頼は短く言い切ります。断りづらい頼み事ではなく、当たり前の事務連絡として置くイメージです。
「法律で決まってるので」と相手を責める
正しい言い分ですが、関係が固くなります。法律は自分の腹に置くもので、相手に向ける刃ではありません。取引が始まったばかりの相手に法律用語を持ち出すと、身構えられて当然です。
言い換え:「請求まわりで迷惑をかけたくないので」
相手の得になる言い方に変えます。同じ内容でも、誰のための行動かを変えるだけで受け取り方が変わります。
相手が出すまで着手を止めて待つ
相手の番型の典型です。待っている間に相手の熱が下がり、案件そのものが消えることもあります。着手が遅れれば、納期にもしわ寄せがいきます。
言い換えは、自分から確認メールを当日中に送ることです。待つのではなく、こちらで決めて返してもらいます。ボールを相手に預けたままにしないという点は、ここまでの3つのNG例に共通しています。
今日やること|口頭OKの当日中に送る確認メール
送るタイミングは当日中
打ち合わせの熱が残っているうちに送ります。翌日以降になると、「いまさら」の気持ちが自分の中に生まれて出しにくくなります。同時に、記憶も薄れていきます。金額や納期の細かい条件は、時間が経つほど自分の記憶のほうも曖昧になっていきます。
手順は3つです。①打ち合わせ直後に6項目をメモする ②その日のうちにメールを送る ③返信がなければ2〜3営業日後に一言添える。この3つを機械的にこなす習慣にしてしまえば、毎回「言うべきかどうか」で悩む必要がなくなります。
確認メールのチェックリスト
- 件名に【ご確認】と案件名を入れた
- 必要な項目が全部ある
- 税込・税別を書いた
- 支払期日を日付で書いた
- 締めが「返信で了承ください」になっている
- 発注書の書式がある場合はそちらでも可、と添えた
このままコピーして使える形にしてあります。
返信が来ないときの一言
催促ではなく、再確認の形にします。
「先日お送りした内容で進めて問題ないでしょうか。返信いただければ、そのまま着手します」
着手の条件として返信を置くと、相手も動きやすくなります。返信がないまま着手してしまうと、結局この記事の最初に戻って、条件が曖昧なまま進めることになります。
型から抜ける最小行動は1つだけです。待たずに、自分から文字にして送る。それだけで、相手の番型から抜けられます。発注書の話は、営業という工程全体のごく一部です。案件が来る前の動き方まで含めて整理したい場合は、フリーランスの営業の仕方もあわせて読んでみてください。
よくある質問
発注書がもらえないとき、メールの返信でも代わりになりますか?
取引条件の明示は書面だけでなくメールなど電磁的方法でもよいとされている。こちらが条件を書いて送り、相手が返信で了承すれば記録になる。紙の発注書にこだわらなくてよい
発注書をお願いするメールの件名と本文はどう書けばいいですか?
件名は「【ご確認】◯◯のご依頼内容について」。本文は内容・納期・金額・支払日の順に並べ、締めを「問題なければこのメールへの返信で了承ください」にする
口頭で受けた仕事を、もう始めてしまいました。今から発注書を頼んでも失礼ではないですか?
失礼ではない。「請求のときに行き違いがないよう、いまの条件を一度文字にしたい」と伝える。自分を下げる前置きは不要
発注書には最低限、何が書いてあればいいですか?
主な項目は、発注者と自分の名称、依頼日、仕事の内容、納期、報酬額、支払期日など。特に税込・税別と支払期日は日付で書く。ほかにも項目があるので、個別の判断は専門家に相談を
発注書を出すのを嫌がる相手とは、取引しないほうがいいですか?
一律には言えない。ただ条件を文字にすることを嫌がる相手は、あとで条件を動かしたい相手であることが多い。受けるかどうかの判断材料として使う
参照した情報源
- フリーランス法特設サイト(取引条件の明示義務)(公正取引委員会)・確認日 2026-09-17
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