対面営業・商談
営業の振り返りの方法|決まった案件の記録の残し方
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
営業の振り返りは「失敗」ではなく「決まった案件」から始める
毎回いちからになるのは、実力がないからではない
営業の振り返りの方法を一言で言うと、決まった案件を5項目で記録し、3件たまったら共通点を見る。それだけです。難しい分析も、専用のツールもいりません。
独立して2年、3年たっても、商談のたびに一から話す内容を考え直していませんか。「毎回ゼロから考えているのは、自分にまだ営業の力がないからだ」。そう自分に言い渡していませんか。
力がないからではありません。決まった案件を書き残していないから、毎回いちからになるだけです。腕の問題ではなく、記録の有無の問題です。会社員の営業が先輩から手順を教わって身につけるものを、独立した人は自分で書き残すところから始める必要があります。
たとえば、初回面談の前日に、また一から話す内容を考え直す。契約が決まった翌月には、何が決め手だったかをもう思い出せない。これを毎回繰り返している人は多いと思います。
失敗の反省だけしていると、手元に何も残らない
断られた翌日、こう考えて終わっていませんか。「もっと早く連絡すればよかった」「提案が弱かった」「もっと熱意を伝えるべきだった」。
これは記録ではありません。自分への判決です。判決は読み返しても、次にどう動けばいいかを教えてくれません。反省するほど気持ちは沈み、次の商談への腰が重くなります。だから翌月、また同じ場面で同じことをします。
一方で、決まった案件の「なぜ決まったか」は違います。入口はどこだったか、相手は何に困っていたか、何が決め手だったか。これは次の案件でそのまま使える手順になります。反省は判決止まりで終わり、記録は手順にまで育ちます。振り返りという同じ言葉を使っていても、向いている先がまったく違います。
毎回いちから型かもしれません
毎回いちから型かもしれません。毎回いちから考えていて、うまくいったやり方が手元に残っていない型です。
「決まったのはたまたまで、自分には営業のやり方なんてない」。そう思っている人は、少なくないと思います。
決まったのは運ではありません。書き出していないから、理由が見えていないだけです。書き出せば、自分がどう動いたときに決まったかが見えてきます。逆に言うと、書き出すまでは、うまくいった理由も、失敗した理由も、自分の記憶の中で同じくらい曖昧なままです。
今日やることは一つだけです。直近で決まった1件を、10分で書き出してください。方法はこのあと具体的に説明します。
営業全体の順番を先に押さえたい方は、フリーランスの営業のやり方を先に読んでください。読み終えたら、ここに戻ってきてください。この記事は、その中の「振り返り」だけを取り出して、記録の残し方を具体的に扱います。
決まった案件の記録に残す5項目
5項目の記録シート(表)

決まった案件は、次の5項目だけを書きます。これ以上増やす必要はありません。
なぜこの5項目なのか。案件が決まるまでの流れは、5つの場面に分けられます。相手と出会う、困りごとを聞く、決め手が生まれる、金額が決まる、次につなぐ、の5つです。振り返りの5項目は、この5つの場面をそのまま抜き出しただけです。特別なフレームワークを覚える必要はありません。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| ①きっかけ | どこで、誰から知り合ったか |
| ②困りごと | 相手が最初に口にした困りごと(相手の言葉のまま) |
| ③決め手 | 決め手になった一言か場面(相手の態度が変わった瞬間) |
| ④金額と出し方 | 総額か分けたか、いつ言ったか |
| ⑤次の口実 | 納品後にいつ何を見に行くか |
この5項目は、あとの章で説明する「振り返りの3つの質問」にそのまま対応しています。表を、自分のメモアプリか表計算にコピーして使ってください。
各項目の書き方の例
言葉だけでは分量の感覚がつかみにくいので、書き方の例を見せます。デザイナーが案件を1件記録するなら、こういう形になります。
- ①前職の同僚の紹介。飲み会の場で名刺を渡した
- ②「ホームページが古くて、取引先に見せるのが恥ずかしい」
- ③見積の前に構成案を1枚だけ見せたところ、「こういうのが欲しかった」と言われた
- ④ある金額。デザイン・コーディング・原稿整理の3つに分けて出した
- ⑤公開から1か月後に、問い合わせ数を一緒に見る約束をした
職種が変わっても、書く形は変わりません。士業なら、①は異業種交流会での名刺交換、②は「相談する専門家が誰もいない」、③は初回相談で資料を1枚まとめて渡した場面になります。同じ5つの枠に、自分の言葉を当てはめるだけです。
1件はこの分量で足ります。長い文章にする必要はありません。箇条書き5行で、次に使える情報は全部そろいます。
書かなくていいもの
反省、感想、相手の人柄の評価、自分の気持ち。この4つは書かなくていいです。
理由は単純で、読み返したときに使えないからです。記録は日記ではありません。次の案件で真似する手順書です。
NG例を挙げます。「とても良い方だった」「自分の説明がうまくいった気がする」「今回は運が良かった」。こう書いても、次の案件で何を真似すればいいか分かりません。感想は自分の中だけに置いておけば十分です。5項目のどれにも当てはまらない言葉は、記録に書く必要がないということでもあります。
OK例とNG例を並べると分かりやすくなります。NG「今回はうまく話せた気がする」、OK「見積の前に構成案を見せた」。前者は再現できませんが、後者はそのまま次の案件でも行える手順です。
いつ書くか:決まった当日に10分だけ
当日に書く理由

決め手の一言は、3日空くと言葉が消えます。「見積の前に構成案を見せたら決まった」という具体的な場面が、「何か良い反応だった」くらいに薄まり、③が書けなくなります。
契約の返事が来た日、その場でスマホに打ってください。おすすめの順番は、請求書を作る前に書く、です。請求書は放っておいても作りますが、記録は放っておくと作りません。先にやる作業の直後に置くことで、忘れずに済みます。
10分で終わらせる書き方
5項目を1行ずつ、箇条書きで書きます。文章にしません。敬語にもしません。相手の言葉はカギカッコでそのまま書きます。
10分で終わらない人は、項目を増やしているか、文章を整えています。整えるのは禁止です。読みやすさより、書き終えることを優先してください。
手順はこうです。決まった連絡が来る、スマホのメモを開く、5行打つ、閉じる。これで終わりです。
溜めてしまったときの取り戻し方
半年分をまとめて書こうとしないでください。覚えている直近3件だけ、覚えている項目だけ書きます。空欄があってもいいです。
①きっかけと④金額は、請求書やメールを見れば埋まります。③決め手が思い出せない案件は、空欄のまま置いておいてください。無理に思い出そうとして時間を使うより、埋まる項目から埋めるほうが早く終わります。
それでも、入口と金額の出し方は並べられます。次の章の質問に答えるには、それで十分です。
記録から自分の型を取り出す3つの質問
質問1: 決まった案件は、どこから来たか

3件並べると、①きっかけに偏りが出ます。紹介が3件中3件なら、それが今の自分の営業経路です。SNSからの案件がゼロなら、今月SNSに時間を使うのをやめる判断ができます。
例えば、3件のうち2件が元同僚経由だったとします。その場合、次の1か月は元同僚に近況を伝える時間を先に確保する、という判断につながります。逆に、来た経路がばらばらなら、まだ固定するには数が足りていません。次の3件がたまるまで、判断を保留してかまいません。焦って1件だけで結論を出すより、3件そろってから判断するほうが、あとで動きを変えずに済みます。
質問2: 相手が最初に口にした困りごとは何か
②を並べてみます。「古くて恥ずかしい」「何を頼めばいいか分からない」。商品名ではなく、困りごとの言葉が並びます。
これが、次の営業で最初に聞く質問になります。「どんなサービスをお探しですか」ではなく、「今、何に困っていますか」から会話を始められます。
NG例は、自分の商品説明の言い方を振り返ることです。相手は説明ではなく、困りごとで決めています。振り返る対象を間違えると、次も同じところでつまずきます。
質問3: 金額は、どう出したら通ったか
④を並べます。「3つに分けて出した」「先に相場を伝えてから見積を出した」。通った出し方が見えてきます。
通った出し方が見つかったら、次からそれ以外を試さないでください。迷う時間が消えます。金額そのものではなく、「出し方」を型にするのがポイントです。同じ金額でも、総額だけ出したときと、内訳を分けて出したときとでは、相手の反応が変わることがあります。どちらが自分に合っているかは、3件並べれば見えてきます。
断られた案件の振り返りは「反省」ではなく事実だけ
書くのは事実3つだけ

断られた案件は、次の3つだけを書きます。どこで止まったか(見積の後、初回面談の後、返事待ちのまま、のどれか)。最後にやりとりした日。相手の最後の言葉(「検討します」「社内で相談します」など、言葉のまま)。
この3つ以外は書きません。所要2分です。理由や自分の評価は書かず、起きたことだけを残します。
「検討します」は、断りの言葉のこともあれば、迷っている言葉のこともあります。振り返りの段階では、その真意を判断しようとしなくていいです。判断はせず、言葉だけをそのまま残してください。
「自分が悪かった」を書かない理由
反省文は判決になります。「提案力がない」と書いた記録は、見返すたびにその判決を読み直すことになり、次の連絡が出せなくなります。
事実だけを書けば、判決ではなく構造が見えてきます。「見積の後で止まった案件が3件」という形です。構造は直せます。人格は直せません。だから書くのは事実だけにします。
決まった案件と並べて見る
決まった3件と、止まった3件を横に並べてみてください。違いは、腕ではなく①入口、②困りごとを聞けたか、④金額の出し方、のどれかに出ます。
例えば、止まった3件がすべて「問い合わせフォームから来て、初回で見積を出した」だったとします。決まった3件は逆に、すべて「紹介で、構成案を先に見せた」だったとします。これが分かれば、直すのは1か所だけです。腕を上げる必要はありません。順番を1つ変えるだけで、次の結果は変わります。
記録の置き場所:一人の営業に会社用の道具はいらない
スマホのメモ1つか、表計算1枚で足りる
案件名を縦に、5項目を横に並べた表1枚で足ります。会社のように上司に見せる必要がないので、自分が読めれば十分です。
手順はこうです。表計算アプリで新規作成する、1行目に5項目を入れる、決まるたびに1行足す。以上です。すでに使っているメモアプリがあるなら、新しいアプリを増やす必要もありません。
1行目の見出しは、案件名、①きっかけ、②困りごと、③決め手、④金額、⑤次の口実、の6列で足ります。案件が決まるたびに下へ1行足していくだけで、専用の案件管理ツールと同じ役割を果たします。
案件管理ツールを入れて続かなくなる落とし穴
入力項目が20個あるツールを入れる、初回で2件入れる、3件目から書かなくなる、半年後にログインしなくなる。よくある流れです。
項目が多いほど書かなくなります。5項目より増やしたくなったら、増やす前に、今の5項目が3か月続いたかを確認してください。続いていないなら、増やすのはまだ早いです。道具を変えることは、記録を続けることの代わりにはなりません。
見返すタイミングを決める
書いても見返さなければ、毎回いちからに戻ります。月初に5分、決まった案件の一覧だけを上から読んでください。
読む日を決めないと読みません。請求書を出す日など、すでに毎月やっている作業のあとに置くのがおすすめです。新しく予定を作るのではなく、今ある習慣に乗せるほうが続きます。
記録が3件たまったらやること:次の営業の準備に変える
一番多い入口に、今月の営業の時間を寄せる
質問1で分かった入口に、時間を先に取ります。紹介が多いなら、過去に仕事をした相手3人に、近況を伝える連絡を今月中に出します。
予定表に先に入れてください。空いた時間にやろうとすると、目の前の仕事に押されて後回しになります。「時間ができたらやる」営業は、たいてい実行されません。
決め手の一言を、次の初回面談で最初から使う
③に書いた場面を再現します。「見積の前に構成案を1枚見せたら決まった」なら、次の相手にも見積の前に構成案を見せます。
相手ごとに新しい方法を考える必要はありません。同じ手順を3回試して、3回とも反応が薄ければ、そのとき変えれば十分です。うまくいった手順を疑う前に、まず3回は繰り返してみてください。
型が手元に残ると「毎回いちから」が終わる
営業がうまくなったわけではありません。決まった理由が、手元に残っただけです。話し方も性格も変えていません。
性格はそのままでいいです。変えるのは、記録の有無だけです。この記事の要点を1行にすると、決まった案件を5項目で書き、3件たまったら3つの質問で見る、それだけです。
今日やることは一つです。直近で決まった1件を、5項目で書いてください。今すぐでなくても、今日中に。それだけで、来月の自分は今より少し楽に商談に向かえます。1年後には、案件が増えるだけでなく、商談のたびに迷っていた時間そのものが減っているはずです。
よくある質問
営業の振り返りは何を書けばいいですか?
決まった案件について5項目だけです。きっかけ、相手が最初に言った困りごと、決め手の一言、金額の出し方、次に会う口実。反省や感想は書きません。
営業の振り返りは毎日やるべきですか?
毎日は続きません。案件が決まった当日に10分書き、月初に5分だけ一覧を見返します。回数より「決まった日に必ず書く」ほうが手元に残ります。
断られた案件はどう振り返ればいいですか?
どこで止まったか、最後のやりとりの日、相手の最後の言葉の3つだけを事実として書きます。「自分が悪かった」は書きません。決まった案件と並べて違いを見ます。
営業の振り返りに使うツールは何がいいですか?
スマホのメモか表計算1枚で足ります。項目が多い案件管理ツールは書かなくなって続きません。5項目を横に並べた表だけ用意してください。
記録しても見返さないのですが、どうすればいいですか?
見返す日を決めていないのが原因です。請求書を出す日など毎月すでにやっている作業の直後に「決まった案件の一覧を5分読む」を置いてください。
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