対面営業・商談
デザイナーの営業方法|作品を並べる前にやる、仕事が続く関係の作り方
このシリーズの全体像 フリーランスの営業の仕方|営業を教わらずに独立した人が、まず何をするか
仕事が来ないのは作品が弱いせいなのか
見積もりを出しても返事がない。営業に声をかけても仕事にならない。そんなとき「もっといい作品を作れば」「ポートフォリオを一から作り直せば」と考えて、結局手を止めていないでしょうか。

実績並べ型かもしれません。分かってもらおうと実績や情報を足し続け、読む人が自分を重ねる場面がない状態です。仕事が増えないのは自分の実力がまだ足りないからだと思ってしまいがちですが、そうではありません。実力を証明しようとして、相手の話をしていないからです。
ポートフォリオサイトを見直すとよく見かけるのが、トップページに受賞歴・制作本数・使用ツール一覧がずらりと並び、「こういう困りごとの人に向いています」が1行もない状態です。見る側からすると、腕は伝わっても、自分の悩みと重ねる場所がありません。プロフィール欄に「Illustrator/Photoshop/Figma対応」「制作実績多数」と書いてあっても、それを読んだ発注側は「で、自分の悩みは分かってもらえるのか」までは判断できません。
詰め込むほど、読む人は自分を重ねられなくなります。減らすのは手抜きではなく、相手が自分ごととして読める余白を作る作業です。実績を隠せという話ではありません。実績の前に、誰の困りごとに向いているかを1文置くだけで、同じ実績が意味を持ち始めます。
書き方の違いを比べてみます。
- 変更前:「グラフィックデザイナー。ロゴ・チラシ・パンフレット制作。実績多数。」
- 変更後:「開業したての整体院・サロン向けに、名刺とチラシをセットで作っています。」
情報量は変更後のほうが少ないのに、読んだ相手が自分の状況と重ねやすいのは変更後です。
今日やることは1つだけにします。ポートフォリオの1ページ目に「どんな困りごとの人向けか」を1文足してください。作品は増やさなくていいです。業種を絞るのが怖ければ、「はじめて外部にデザインを頼む方向け」のように、相手の状況を絞る書き方でも構いません。
「業種を絞ると、それ以外の仕事を断ることになるのでは」と感じるかもしれません。実際には逆です。1文足したところで、それ以外の業種から声がかかったときに断る義務は生まれません。1文はあくまで、読む人が最初に立ち止まる場所を作るためのものです。
発注に慣れていない相手は何を見ているか
発注に慣れていない相手ほど、不安に思っているのは仕上がりの良し悪しではないことが多いです。気になるのは「途中で連絡が取れなくなること」「修正を嫌がられること」「専門用語で押し切られること」のほうです。
考えてみれば当然で、デザインの発注に慣れていない相手は、提出された案の細かい良し悪しを比較する物差しを持っていないことが多いです。フォントの選び方や余白の取り方を評価する訓練を受けていない人がほとんどだからです。そうなると、比較できるのはやりとりのしやすさになりがちです。
打ち合わせでの受け答え、修正依頼への反応、説明の分かりやすさ。作品を足しても、そもそも評価されない場所に向けて努力していることが多いです。
言葉遣いひとつで、この「話が通じるか」の印象は変わります。初回の打ち合わせで「トンマナ」「あしらい」「レギュレーション」を説明なしで使うと、発注に慣れていない相手ほど置いていかれた気持ちになります。分からない言葉が出てくるたびに、聞き返すか、分かったふりをするかの二択を迫られ、後者を選んだ相手はそのまま黙って離れていきます。
言い換え表です。
| 業界用語 | 言い換え |
|---|---|
| トンマナ | 全体の雰囲気の決めごと |
| あしらい | 細かい飾り |
| レギュレーション | 使い方のルール |
| ラフ | 下書き |
| 入稿 | 印刷会社にデータを渡すこと |
専門用語をゼロにする必要はありません。使うたびに「これは〜という意味です」と一言添えるだけで、印象は変わります。修正のやりとりでも同じです。「ここのあしらい、もう少し軽くできますか」ではなく「この飾りの部分、もう少し軽くできますか」と言い換えるだけで、相手は自分の言葉で答えられるようになります。
作品の並べ方も変えられます。完成物だけを見せるのではなく、「何を相談されて、どう決めたか」を3行添えてください。仕上がりを比較させるのではなく、やりとりの様子を見せる並べ方です。同じロゴでも、「シンプルにしてほしいという要望から、色数を2色に絞った」という一言があるだけで、発注側は自分が同じように相談したときの様子を想像できます。
営業を始める前に何をすればいいか
新しい営業手段を始める前に、まず今の状態を確認します。過去2年に受けた仕事を全部書き出し、「誰から来たか」を1件ずつ埋めてください。元同僚、前職の取引先、知人の紹介、SNS、問い合わせフォーム、といった区分けで構いません。

書き出すときの形はこの程度で十分です。
| 案件 | 誰から | 時期 |
|---|---|---|
| A社ロゴ | 前職の取引先 | 半年前 |
| B店チラシ | 知人の紹介(Cさん経由) | 1年前 |
| D社名刺 | 知人の紹介(Cさん経由) | 3か月前 |
やってみると、経路が1本に偏っていることがほとんどです。上の例なら、Cさんという1人の紹介で2件動いています。偏りが分かれば、増やす先も自然に決まります。
数えるときは件数ではなく、同じ人から来た件数を見てください。同じ人から3件来ているなら、その人がいまの窓口になっています。窓口になっている人が誰かを知らないまま新しい営業を始めると、いちばん大事にすべき相手への手当てが後回しになります。窓口が見つかったら、次にやることは新しい人を探すことではなく、その人に近況を伝える連絡を1本出すことです。
経路を調べないまま「とりあえずSNSを毎日更新する」を始めて、半年後に1件も来ていない、という進め方はよくあります。悪いことではありませんが、今の窓口になっている人への連絡より先に手を付けると、いちばん確実な相手を放置したまま、当たるかどうか分からない方法に時間を使うことになります。書き出しの所要時間は30分ほどです。表計算ソフトを開く必要はなく、紙とペンで足ります。
作品を送る前に何を聞けばいいか
デザイナーの営業でいちばん多い失敗が、いきなりポートフォリオのURLを送ることです。受け取った側は評価を求められた気分になり、返事がしづらくなります。「見ました、良いですね」としか返せない状態で止まってしまうことも多いです。
順番を逆にします。先に相手の状況を一つ聞き、返事が来てから、その困りごとに関係する作品を1〜2点だけ出す流れです。
紹介でつながった相手には、少し違う気の遣い方が要ります。紹介営業は、紹介してくれた人の顔を立てながら、相手とは新しい関係として一から話す形になるからです。
元同僚向け 「お久しぶりです。最近そちらの会社、新しいサービス始めたって聞きました。資料まわり、今どんな感じで作ってるんですか?」
紹介でつながった相手向け 「〇〇さんからご紹介いただきました、△△です。今、どんなことでお困りか、まず聞かせてもらえますか?」
前職の取引先向け 「ご無沙汰しています。独立してからも変わらずお世話になっております。最近、販促まわりで何か動きはありますか?」
しばらく連絡していない知人向け 「久しぶりです。最近どうしていますか。もしお店や仕事のことで、パンフレットや名刺まわりの相談があれば、いつでも声をかけてください。」
紹介でつながった相手から返事をもらえたら、紹介してくれた人へのお礼メールも忘れないでください。
聞くのは1問だけにしてください。ヒアリングシートのような形式で送りつけると、それ自体が相手の負担になります。
「ご相談があればいつでもどうぞ」で終わる文面もよく見ますが、これは相手が困りごとを言語化する手間を、全部相手に渡している形です。返事が来なくても催促はせず、次の相手に1通出す、を繰り返してください。1人からの返事を待つより、5人に送って誰かから返事が来る方を狙うほうが、気持ちの負担も軽くなります。
見せる作品は何点に絞ればいいか
作品を出す段になったら、絞り込みます。1案件につき「どんな相談だったか/何を決めたか/結果どう変わったか」の3行を添える型です。

たとえばこう書きます。
相談: オープン前で認知度がなく、名刺交換の場で覚えてもらえないという悩み 決めたこと: 業種名ではなく施術の得意分野を名刺の表に大きく入れる構成にした 結果: 名刺を渡した相手から「これは何のお店?」と聞かれる回数が増えたと連絡があった
選ぶ基準は3つです。
| 基準 | 選ぶ作品 |
|---|---|
| 業種の近さ | 相手の業種に近いもの1点 |
| 困りごとの近さ | 相手の困りごとに近いもの1点 |
| 語れる深さ | 自分がいちばん語れるもの1点 |
全作品を見せると「何でもできる人」になり、思い出してもらう引き出しがなくなります。20点並べたポートフォリオを見ても、相手は最初の数点で印象を決めがちです。「ロゴも名刺もチラシもWebもできます」という並べ方は、相手からすると「結局、何が得意な人なのか」が分からないまま終わります。
3行の説明は、作りかけの案件でも書けます。必要なのは新しく作品を追加することではなく、過去案件を思い出して言葉にする作業です。書けない案件は、相談の中身を覚えていないだけのことが多いので、その場合は無理に含めず、思い出せる案件から選んでください。
納品したあとは何を言えばいいか
デザイナーの仕事は納品で切れやすいところがあります。切れるのは腕の問題ではなく、次の接点を作る手順を習っていないだけです。
納品時にひとこと添える型があります。「今回作ったものは、こういう場面でも使い回せます」と、使い道を1つ具体的に示す一文です。ロゴであれば「このロゴ、名刺だけでなく請求書のフォーマットにも使えます」、チラシであれば「このデザイン、SNSのアイキャッチにもそのまま流用できます」といった具合です。
3か月後に出す近況連絡の例文です。
「ご無沙汰しています。先日作らせていただいたロゴ、名刺で拝見しました。しっくりきていてよかったです。そちらの新しい取り組み、SNSで拝見していて、何か形にするお手伝いができそうならいつでもお声がけください。」
半年たっていて何を書けばいいか分からないときは、相手の会社のSNSや近況を見て、そこに一言触れるだけで十分です。自分の近況を長く書く必要はありません。
納品メールが「ご確認よろしくお願いいたします」だけで終わっていないでしょうか。頼まなくていいです。近況を伝えるだけで、思い出してもらえます。
「仕事はありますか」と直接聞く必要もありません。むしろ聞かれた相手は、今すぐ発注できる案件がなければ答えに詰まります。近況に触れるだけの連絡であれば、相手は返事をする・しないを自由に選べ、負担になりません。
今日から何をどの順番でやればいいか
| 期間 | やること |
|---|---|
| 1〜2日目 | 過去2年の受注経路の書き出し(30分) |
| 3〜5日目 | 作品3点を選び、それぞれ3行の説明を書く |
| 6〜10日目 | 連絡が途切れている相手5人に、困りごとを一つ聞く文面を1通ずつ送る(1日1通でよい) |
| 11〜14日目 | 返事が来た相手にだけ、関係する作品を1〜2点出す |

進み具合は、返信率ではなく「送れた通数」で見てください。返事は相手の都合で決まるので、自分の数字にはしません。5人に送って返事が1人でも、送れた5通は達成したことになります。
14日目までに返事が1件も来ないこともあります。そのときは方法を変えるより先に、送った相手が「営業の前に、いま仕事が来ている経路を紙に書き出す」で書き出した経路から離れすぎていないかを見直してください。
この2週間には、ポートフォリオサイトの作り直しやサイト刷新を入れないでください。手が動くほうに逃げやすい作業なので、あえて外します。作り直しをやりたくなったら、まずこの2週間の4項目を先に終えてからにしてください。
よくある質問
デザイナーは営業しないと仕事が来ませんか?
紹介だけで回っている時期はあります。ただし経路が1本だと、その1本が細ったときに次の当てがなくなります。まず今の受注経路を書き出して、偏りを見るところから始めてください。
ポートフォリオサイトは必要ですか?
必要ですが、作り直しは最優先ではありません。20点並べるより、3点に絞って相談の経緯を3行添えるほうが早く効きます。
実績が少ないうちはどう営業すればいいですか?
作品数で勝負しなくて大丈夫です。1件でも、どんな相談を受けてどう決めたかを書ければ、判断材料としては十分に伝わります。
営業メールにポートフォリオのURLを貼ってもいいですか?
最初の1通では貼らないほうがいいです。評価を求められた形になって返しづらくなります。先に困りごとを一つ聞き、返事が来てから関係する作品を出してください。
クラウドソーシングと直接営業、どちらを優先すべきですか?
単価と継続性を求めるなら、いま仕事が来ている経路の周辺(元同僚・前職の取引先・紹介)が先です。どちらか一方に決める話ではなく、順番の話です。
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