やたの視点

「やります」は、やりますじゃない

「やります」は、やりますじゃないのイメージイラスト

「また紹介しますね」

打ち合わせの終わりや、会食の帰り際。よく出てくる一言です。言われた側は素直に嬉しくなり、次の仕事につながるかもしれないと少し期待します。

それから一週間、一ヶ月、三ヶ月。連絡は来ません。スマートフォンを開いては、また閉じる。そんな日が続きます。

心当たりがある方は、紹介待ち型かもしれません。いい仕事をすれば紹介は出るものだと思っていて、思い出してもらうための働きかけを自分からはしていない状態のことです。

紹介が来ないのは、自分の仕事がそこまでじゃなかったということだ——そう結論を出してしまう方もいます。腕を疑い、次の依頼はこれまで以上に丁寧に仕上げようとします。それでも、紹介の連絡が増える気配はありません。

ですが、仕事の出来のせいとは限りません。あの日、1件目の相手と日付を、その場で決めていなかっただけかもしれないのです。腕一本で独立した人ほど、この型にはまりやすいと感じます。いい仕事をすれば自然と声がかかると信じているからこそ、「足りないのは腕ではない」という話が届きにくいのです。

私には、ある商材の代理店を100人ほどつくった経験があります。声をかけた時点では、多くが前向きな返事でした。

ところが、実際に動いたのは、その100人のうち2割ほどでした。残りの8割は、何も動かないまま時間だけが過ぎていきました。ここでの「動く」は代理店としての活動全般を指し、紹介一件に絞った数字ではありませんが、「やります」と言ったうち実際に動くのは一部だけという構図は、紹介の場面にもそのまま重なります。なぜ差が出るのかは、心理学の実行意図の研究が参考になります。

この8割を、嘘つきだとは思っていません。その場では間違いなく本気だったはずです。ただ、日々の仕事に押されて後回しになっただけです。目の前の締切と、いつかやる紹介では、締切が勝ちます。誰にでも起きることです。

代理店100人のうち実際に動いたのは2割、8割は動かなかったことを示す図

営業コンサルタントの伊庭正康氏も、同じような場面について書いています。「また、いい情報があれば連絡するね」と言われた時、それを信じるかと聞かれたら「連絡はないだろうな」と思うようにしている、と。理由は「私の経験上、9割の人は履行しないから」だそうです。

「決めたのに、動けなかった」は、紹介の場面に限りません。新年に立てた抱負について尋ねた調査でも、同じような数字が出ています。129人を対象にしたウェブアンケートで、「達成できた」と答えた人は20%以下でした。自分で決めた目標でさえ、この数字です。人に対して口にした「やります」が、同じか、それ以上に崩れやすいのは自然なことだと思います。

社交辞令だから、という話ではありません。言った本人も、その場では本気だったはずです。ただ、意図と行動のあいだには、思っている以上の距離があるということです。

待つ側にいると、この距離を自分のせいだと読んでしまいます。「自分の仕事が、紹介するほどのものじゃなかったんだ」。そんな判定を自分に下してしまいます。だからこそ目の前の仕事をもっと丁寧にやろうとしますが、腕を磨いても相手からの連絡は増えません。動かなかった理由は、腕とは別のところにあるからです。

紹介待ち型から抜け出すのに、性格を変える必要はありません。愛想よく振る舞う必要も、頻繁に連絡する必要もありません。変えるのは、頼み方の最後の一手間だけです。


分かれ目は、本気度ではありません。1件目の相手と日付が、その場で決まっていたかどうかです。

心理学の研究では、「やろう」という意図が実際の行動を説明する割合は、18〜23%にとどまるとされています。この研究は紹介の場面を扱ったものではありませんが、幅広い行動を対象にした結果です。

同じ論文で紹介されている集計では、前向きな意図を持っていた人のうち54%が結局実行しませんでした。逆に、気乗りしていなかった人が実行したのはわずか3%だったという結果も報告されています。ここでの「意図」は、口に出したかどうかを問わない、本人の中にある気持ちを指します。人に向かって「やります」と言うのは、その意図を言葉にする行為なので、同じ崩れやすさを抱えていても不思議ではありません。

つまり、紹介が来るかどうかを相手の人柄や誠実さで判断しようとしても、あまり意味がありません。誠実な人でも、意図だけでは動けないことの方が多いからです。人柄を疑うより、仕組みを疑ったほうが早いということです。

なぜ意図だけでは動けないのか。「誰かに話す」という行動は、誰に、いつ、どんな言葉で話すのかが白紙のままだと、日々の予定に押し出されて後回しになります。頭の片隅の「そのうちやること」は、目の前の締切には勝てません。

一方で、実行率を大きく引き上げる方法も分かっています。「いつ」「どこで」「誰に」を、その場で決めておく方法です。心理学ではこれを実行意図と呼びます。

ある実験では、乳房の自己検診を次の月に行うという目標を立てた女性が対象でした。いつ・どこで行うかを事前に決めるよう促された人たちの実行率は100%でした。促されなかった人たちの実行率は53%にとどまっています。事前に決めるよう促されたかどうかで、結果が分かれたということです。

この実験もWikipedia経由の要約で、原典そのものは確認できていません。紹介の場面を扱ったものでもなく、一つの実験の結果なので、幅を持って読む必要があります。

実行日時を事前に決めた人の実行率は100%、決めなかった人は53%だった比較図

理由は、その場面になった時に、いちいち「どうしようか」と考え直さずに済むからだと考えられます。一度決めておけば、当日は判断ではなく確認だけで動けます。判断が要らない分、目の前の仕事に押し出されにくくなるのです。

「そこまで聞いたら図々しいのではないか」と感じるかもしれません。ですが、私の経験では、聞かれて困る人はほとんどいません。むしろ困るのは、何も決めないまま「やります」だけが残り、数ヶ月後に急に催促されることです。

これは、紹介の場面にもそのまま当てはまります。「やります」を聞いた瞬間にやることは、お礼でも念押しでもありません。1件目の相手と日付を、一緒に決めることです。

やり方は難しくありません。「ありがとうございます」で終わらせず、「どなたか、お顔が浮かぶ方はいらっしゃいますか」と聞きます。名前が出たら、「いつ頃、お声がけいただけそうですか」まで聞きます。

場面によって聞き方は変えます。仕事を納めた直後なら「周りの方にもお話しいただけると嬉しいです。どなたか思い浮かぶ方はいますか」で十分です。メッセージで「良い人がいたら紹介しますね」と来た時は、「お心当たりが出てきたタイミングで一言いただけると助かります」と返します。催促ではなく、合図を頼んでおくだけです。

紹介の返事を聞いた瞬間にすべき3つの問いかけを示す手順図

NG例は「ぜひよろしくお願いします」で会話を締めることです。相手の善意にすべてを預けたまま別れることになります。OK例は「今度の勉強会でAさんに会うので、そこで話してみますね」まで、相手の口から具体的な場面が出てくることです。

その場で名前が出てこないこともあります。その時は無理に聞き出さず、「思い浮かんだタイミングで教えてください」と伝えるだけで十分です。決めるのは相手であって、決めさせられた感覚を持たせないことが大切です。

名前も時期も出てこない相手は、その場ではまだ動く準備ができていないということです。期待して待つ相手のリストからは、いったん外しておきます。追いかけるほど、相手も気まずくなります。

逆に、名前と時期まで出た相手には、決めた時期の少し手前で一度、軽く様子を聞くだけで十分です。急かすのではなく、確認するだけです。

名前と時期が出たかどうかで相手を2つに仕分ける分岐構造図

言葉と行動が揃っている人を、周りは見ています。新入社員を対象にした調査でも、理想の上司・先輩像として「言動が一致している人」が上位に挙がっています。決めた通りに聞き、決めた通りに確認する人は、次も声をかけやすい相手として覚えられます。紹介されやすい人の特徴は、詳しくはこちらの記事でも扱っています。

決まらなかった相手を責める必要はありません。声をかけられたその場では、その人も本気だったはずです。ただ、その人を「動く人」の数には最初から入れない。それだけで、次にやることがはっきりします。

この聞き方を続けていくと、数ヶ月後には「動いてくれそうな人」と「まだ様子見の人」が自然と分かれてきます。これまでの実感では、紹介が実際に生まれるのは、ほとんどが前者からです。

紹介待ち型という言葉を知っておくだけでも、意味があると思います。次に連絡が来なくても、「自分の仕事が悪かった」ではなく「まだ1件目を決めていなかった」と、原因を正しい場所に置き直せるからです。

紹介が来ないのは、紹介営業の仕組みそのものが崩れているからではありません。仕事のせいでも、腕のせいでもありません。「やります」を聞いた瞬間に、1件目の相手と日付を決めていたかどうか。振り返るべきは、そこだけです。

次に誰かが「また紹介しますね」と言ってくれた時は、その場でもう一歩だけ踏み込んでみてください。「ありがとうございます」で終わらせず、「どなたか、いつ頃」まで、一緒に決めてしまうことです。

— やた

参照した情報源

  1. Understanding the intention-behavior gap: The role of intention strength(Frontiers in Psychology (PMC/NCBI))・確認日 2026-09-03
  2. 「2023年度 新入社員意識調査」新入社員の理想の上司・先輩は「丁寧に指導する人」が約8割(一般社団法人日本能率協会)・確認日 2026-09-03
  3. 「新年の抱負」の実態調査|今年の抱負「達成できた」は20%以下(bondavi株式会社)・確認日 2026-09-03
  4. これで相手の信頼がぐんと上がる…「またわかったら連絡しますね」という社交辞令のような口約束への神対応(PRESIDENT Online(著者:伊庭正康/らしさラボ代表))・確認日 2026-09-03
  5. 口約束を証明できないとどうなる?契約は成立する?(GMOサインブログ(出典:e-Gov法令検索・民法第522条))・確認日 2026-09-03
  6. 実行意図(Wikipedia日本語版(原典:Gollwitzerらの実行意図研究))・確認日 2026-09-03
無料プレゼント 対面営業の教科書