やたの視点

担当者を、共犯者にする

担当者を、共犯者にするのイメージイラスト

手応えのある打ち合わせがあります。担当者は前のめりで、資料の細かい数字にまで質問してくる。「社内で通してみます」とまで言ってくれる。それなのに、翌週から連絡が止まる。

相手の番型かもしれません。出したあとに何をすればいいか習っていないので、「あとは相手の番」で止まってしまう型です。連絡が止まったのは、担当者の熱意が足りなかったからではありません。自分の話が、社長を動かすだけの材料になっていなかったからです。

送ったメールを読み返す。打ち合わせのメモを見返す。何か失礼なことを言っただろうかと考える。何かできることがあるはずなのに、それが何かわからないまま日だけが経ちます。

担当者は、決める人ではありません。社内で説明する人です。

関わる人数は、会社の規模によって変わります。大きな会社ほど意思決定に関わる人は増え、社長一人で決める小さな会社もあります。上司かもしれないし、共同経営者や、家族かもしれません。担当者一人が「いいですね」と言っても、その先には別の壁があります。

「早く社長に会わせてもらえばいい」と思うかもしれません。ですが担当者を飛び越えて社長に直接話をつけようとすると、たいてい担当者の協力が薄くなります。対面営業の作法としては、相手の会社の中の順番を崩さないほうがいいのです。

買い手が営業担当と実際に顔を合わせる時間は、購買活動全体のわずか17%だという調査もあります。それ以外の時間は、営業のいないところで動いています。社内の会議、上司への相談、他部署への確認。担当者との商談は、そのごく一部でしかありません。

購買活動のうち営業担当と接する時間はわずか17%という比率を示す図

単価300万円の、ある商材を扱っていたときも、そうでした。担当者と何度話しても、最後に決めるのはいつも社長です。担当者がどれだけ乗り気でも、決裁の場に自分はいません。高額な商材ほど、担当者だけでは決まらないと最初からわかっています。

その場に立ち会えない以上、担当者に何を持たせるかがすべてでした。だからやるべきことは、担当者に熱心に売り込むことではありませんでした。担当者を味方にするところまでは難しくありません。問題はその先でした。


味方は、好意を持ってくれる関係です。共犯者は、一緒に社内でリスクを取る関係です。担当者を味方にしても、社内で誰かが反対すれば話はそこで止まります。共犯者にすれば、担当者自身が社内でその案を守る側に回ります。

共犯者にする、といっても丸め込むという意味ではありません。担当者にも担当者の困りごとがあります。予算を通したい、上司に評価されたい、部署の成果にしたい。その困りごとを、一緒に解決する側に回るということです。

「味方」と「共犯者」の違いを関係性と行動の対比で示す図

説得しようとするのではなく、担当者が社内で説明しやすくなるように手伝う。矢印の向きが逆になります。

「この提案、いいですね」で終わる担当者と、「これなら、うちの部長も納得すると思います」と言う担当者は違います。前者はまだ感想を言っているだけで、後者はもう社内での通し方を考え始めています。ここまで来て、初めて共犯者です。

共犯者になった担当者は、こちらが聞く前に動き始めます。誰が反対しそうか、いつ決裁が下りそうか、先に教えてくれます。それは、担当者自身がこの案を自分の手柄にしたいと思っているからです。

逆に担当者を一人にしたままだと、社内の質問に答えられず、案件はそのまま止まります。悪気があるわけではなく、答える材料がないだけです。

社内を動かすのは、決裁権を持つ人だけではありません。世話焼きで、おせっかいな人が社内を動かすことが多いという指摘もあります。決裁者が一人しかいない小さな会社でも、担当者が社内の誰かの意見を聞いてから返事をくれることは珍しくありません。関わる人が何人いようと、担当者一人の熱意だけでは足りないのは同じです。

だから渡すのは、担当者への説明資料ではありません。担当者が、社長に説明するための材料です。この案を通せば自分の評価が上がると思えたときに、担当者は初めて社内で動きます。社長に持っていくべきだと担当者自身が思うかどうかが、分かれ目です。

この材料は、商談が終わったあとに送るものではありません。商談の中で、担当者と一緒に作る意識のほうが伝わります。「ここは私の方で数字をまとめますので、社内で聞かれそうな点を教えてください」と、その場で言ってしまっていいのです。

商談の最後に「社長にも同席いただけますか」とだけ言うのは、まだ弱いやり方です。担当者に、また一つ仕事を増やしているだけだからです。同席してもらう理由も、当日の進め方も、こちらが先に用意しておく必要があります。

代わりに言うとしたら、こうです。「社長には、こういう順番でお話しいただくと伝わりやすいと思います。資料もこちらで用意します」。

同席依頼だけの弱い頼み方と、順番・資料まで用意した頼み方の比較図

通る稟議は、起案者が信頼されているかどうかに大きく左右されます。同じ内容でも、信頼されている人が出す稟議のほうが通りやすいということです。上層部や関係者への根回しも、通りやすさを左右します。だから商談の中でやることは、担当者を信頼される起案者にすることでもあります。

文章が長くなりすぎると、承認者は主旨を理解しづらくなり、印象も悪くなります。だから資料は、短くします。何ページもの提案書ではなく、社長が3分で読める一枚にします。

会社案内や実績一覧を渡すだけでは足りません。それは「うちの会社はすごいです」を伝える資料であって、「この案を通してください」を伝える資料ではないからです。

一枚に入れるのは、三つだけでいいと思います。担当者がいま困っていること、社長が気にしそうなこと、その二つをつなぐ数字です。多く盛り込むほど、担当者は自分の言葉で説明できなくなります。

一枚資料を構成する3要素(困りごと・関心事・数字)の構造図

社長からの質問は、たいてい三つに絞れます。なぜこの金額なのか、他社ではなくここを選ぶ理由は何か、始めたら何がどう変わるのか。この三つに、担当者が自分の言葉で答えられれば十分です。

たとえこの案件が決まらなくても、担当者との関係は消えません。次に別の案件で声をかけてくれるのは、共犯者になってくれた担当者のほうです。

担当者との商談で止まるのは、話し方の問題でも、相性の問題でもありません。担当者が一人で抱えられる範囲を、超えているだけです。止まったのは、話し方ではなく、渡すものが足りなかっただけです。渡すものを変えれば、話は動きます。

今日からできることは一つです。商談の終わりに、こう聞いてみてください。「社内では、どんなことを聞かれそうですか」。担当者の答えが、そのまま渡すべき資料の目次になります。

— やた

参照した情報源

  1. Study: buying is difficult in B2B – not selling(Documill)・確認日 2026-09-02
  2. エンタープライズセールスは「モビライザー」発見から始まる(INDUSTRY CO-CREATION(ICC))・確認日 2026-09-02
  3. BtoBマーケティングにおける”意思決定者への認知”の重要性(シラレル(マイクロアド))・確認日 2026-09-02
  4. 稟議が通る人の6つの共通点とは?稟議書が通らない原因と対策(ワークフロー総研(サイオステクノロジー))・確認日 2026-09-02
  5. 通らない稟議書に共通する特徴やうまく通すコツを徹底解説(HR NOTE)・確認日 2026-09-02
無料プレゼント 対面営業の教科書