対面営業・商談

値上げの伝え方|今のお客様に、関係を切らずに伝える順番と文面

値上げの伝え方|今のお客様に、関係を切らずに伝える順番と文面のイメージイラスト

このシリーズの全体像 お金の話の伝え方|値段・値上げ・値引きを、関係を壊さずに伝える

値上げを言い出せないのはなぜか

下書きのまま閉じたメール

値上げを言わない場合と伝える場合で、その先の関係の行方を対比した図

3年間、同じ金額で受けている取引先がいます。「料金改定のご案内」と件名を打ちかけて、本文を5回書き直しました。結局、送らずに閉じた夜があります。

書き直していたのは言葉選びではありません。送っていいかどうかの許可を、自分に出せていなかっただけです。

言い方が下手だからではない

相手が厳しいからでも、文面が硬いからでもありません。上げた金額に見合う仕事だと、自分でまだ思いきれていない、という人も多いです。

値上げの文面は、自分の値打ちの申告書ではありません。来期の取引条件を伝える、ただの連絡です。

対面で信頼を積んできた相手だからこそ、金額の話を切り出しにくくなります。ですが顔を合わせて築いてきた関係は、一度の案内文で崩れるほど薄くはありません。むしろ会って信頼を重ねてきた相手だからこそ、伝え方さえ間違えなければ、値上げそのものが関係を壊す理由にはならないのです。

値上げを伝えたら関係が切れるかもしれない、という不安が先に立つ人もいると思います。実際に切れる相手がゼロとは言い切れません。それでも、伝えないまま安い金額で受け続ける方が、いずれ自分の側から仕事を続けられなくなります。関係を切りたくないから伝えないのではなく、関係を続けるために伝える、という順番で考えると、送る理由の方が先に立ちます。

決めるのは金額ではなく3つ

値段が言えない型かもしれません。金額を言うことが、自分の値打ちを言うことになっていて、口に出せない型です。悩んでいるのは金額の大きさそのものではなく、実施日・新しい金額・理由の3つを、どの順番で決めて書くかということです。

渡せる方法は1つだけです。文面を練る前に、実施日をカレンダーに書き込んでください。実施日が決まると、あとの2つは埋めるだけの作業になり、本文は6行で書けます。

伝える順番は「実施日 → 新しい金額 → 理由」です。理由から書き始めると、言い訳の文章になり、金額が最後まで出てこないまま本文が長くなります。

値上げはどの順番で伝えればいいか

実施日を最初の1行に置く

実施日→新金額→理由の順で伝える3ステップと、逆順がNGであることを示す図

相手が最初に知りたいのは、いつから支払いが変わるかです。BtoB取引では実施日の60〜90日前、飲食店など一般消費者向けは30〜60日前に初回告知するのが目安とされています。迷ったら早めに出してください。早めに周知すれば、突然の値上げによる不信感や炎上のリスクを避けられます。ギリギリの告知は、金額の話ではなく「なぜ今言うのか」の話にすり替わります。

契約書や基本合意書に通知期間の定めがある場合は、そちらが優先します。この目安はあくまで一般的な基準であり、業種や契約内容によって必要な期間は変わるため、迷ったときの日数は個別に専門家へ相談してください。

金額は旧・新・差額の3つを並べる

「◯%程度」「若干の改定」という書き方は、相手に計算させています。現在の金額・改定後の金額・差額の3つを、数字で並べてください。単価が複数ある場合は表にして、変わらない項目も同じ表に残します。

項目現在改定後
月額料金◯万円◯万円
差額-◯千円
訪問回数月◯回月◯回(変更なし)

理由は事実だけ、1行で

原材料費や人件費の上昇など、可能な範囲で客観的な事実を示してください。NG例は「生活が苦しく」「他のお客様も上げているので」「諸般の事情により」です。個人の事情や、他の相手との比較を理由にすると、読む側は「自分だけ狙われたのか」「事情はこちらに関係ない」と受け取ります。事業側の事実を1行で示す方が、短くても納得は得やすくなります。

詳しい内訳まで説明する必要はありません。原価が上がっている、という事実が伝われば十分です。内訳を細かく出すほど、相手はそこに反論できる余地を探し始めます。冒頭3行を挨拶と前置きに使い、金額が本文の最後に出てくる文面は、読まれ方が変わります。

値上げのお知らせ文はどう書けばいいか

一斉案内メールの6行

一斉案内・個別2行差替・口頭先行の3パターンを対象の広さで比較した図

件名: 【ご案内】◯月ご請求分からの料金改定について

  1. 実施日
  2. 旧・新・差額
  3. 理由(1行)
  4. 変わらないこと(1行。対応範囲・納期は据え置き、など)
  5. 質問の窓口
  6. 締めの一文

挨拶は1行までにします。文章にすると、たとえばこうなります。

いつもお世話になっております。

このたび、◯月ご請求分より、月額料金を◯万円から◯万円(差額◯千円)に改定させていただきます。原材料費および人件費の上昇によるものです。訪問回数・対応範囲は従来どおり変更ございません。

ご不明な点がございましたら、下記までお気軽にお問い合わせください。今後ともよろしくお願いいたします。

前置きと締めを足しても、本文は5〜6文で収まります。長くなっているときは、たいてい理由の説明か謝罪の言葉が増えています。件名や書き出しの型は、営業メールの例文集でも場面別にまとめています。

長い付き合いの相手には冒頭2行を差し替える

一斉文面をそのまま送らないでください。冒頭2行だけを「この相手だけの話」にします。担当してきた期間と、いま続いている仕事の一文を入れます。

◯◯様には、担当させていただいて3年になります。いつも◯◯の件で助けていただき、ありがとうございます。

このあとに、一斉案内と同じ実施日・旧新差額・理由の3点を続けます。実施日と金額の書き方は全員同じにし、冒頭が長くなって金額が埋もれないよう2行を超えないようにします。

口頭で先に伝える30秒・4文

  1. 「来期から料金を見直します」
  2. 「◯月から◯円になります」
  3. 「理由は◯◯です」
  4. 「今の内容のまま続けたいと思っています」

付き合いの長い相手、金額の大きい相手には、この4文を電話か対面で先に伝えてから、同じ内容の書面を送ります。理由を細かく聞かれても、「詳細は書面でお送りします」で区切れば、口頭の説明が長くなって本題がぼやけることもありません。

書面を送ったあと、しばらく返信がないことも珍しくありません。相手が承知していないとは限らず、社内の決裁を待っているだけの場合も多いです。催促の一文を足すよりも、「ご不明な点があればいつでもご連絡ください」という同じ窓口の案内を添えて、様子を見てください。

その場で値引きを頼まれたら

対面や電話で伝えた直後に、「今のままでお願いできませんか」と言われることがあります。ここでその場に金額を下げると、次の値上げはさらに切り出しにくくなります。即答で応じる必要はありません。「いただいたお話は持ち帰って検討します」と受け止めて、その場での即答を避けてください。

動かせる余地があるとすれば、金額そのものではなく実施時期です。今回だけ開始月を1か月ずらす調整であれば、来期以降の金額まで約束したことにはならないと考えられます。ただし契約書の記載によって扱いが変わることもあるため、迷う場合は専門家に確認してください。金額を動かすかどうかは、その場ではなく後日、書面で返事をする形にすると、勢いで決めた条件が残ることを防げます。

添えない方がいい一文もあります。謝罪と相談で始めると、金額が交渉の入口として読まれます。

NG例言い換え
ご理解いただけない場合は(書かない。理由の1行だけで足りる)
今まで安すぎました(書かない。旧・新・差額の表で伝わる)
値上げをお願いする立場ですが料金を改定させていただきます
ご相談させていただきたくご案内いたします

「お願い」「ご相談」を使うと、金額はまだ決まっていない前提で読まれやすくなります。実施日と金額はすでに決めたこととして書き、変更の余地がある部分だけを別途相談する、という順番にします。

その文面、相手が社内でそのまま転送できるか

受け取った担当者は、次に社内で説明する人になる

文面が自分から担当者、上司経理へと社内で転送される流れを示す図

相手が会社であれば、担当者はこの連絡を上司や経理に見せて、承認を取りにいくことが多いです。文面の善し悪しは、受け手の感情ではなく、担当者がそのまま転送できるかどうかで決まります。担当者に良い印象を持ってもらうことよりも、担当者が上に説明しやすい形にしておくことの方が、結果として値上げが通りやすくなります。「どう思われるか」ではなく「どう使われるか」で文面を組み立てる、という切り替えです。

転送できる文面の3条件

  1. 金額が表で読める(旧・新・差額)
  2. 理由が個人の事情ではなく、事業上の理由になっている
  3. 実施日が本文の最初にある

この3つが揃っていれば、担当者は本文を書き足さずに転送できます。

転送できない文面の例

長い感謝の挨拶で始まり、謝罪が続き、「ご相談」という言葉の中に金額が埋もれている文面です。担当者は要約し直す手間を負います。その要約の中で、値上げ幅だけが独り歩きします。

個人が相手の場合も同じです。家族に説明できる形になっているかで見てください。たとえば家族に見せるとしたら、金額と時期がひと目でわかるかどうかを基準にしてください。長い前置きが要る文面は、家族にもそのまま見せにくいはずです。

たとえば「諸般の事情によりご相談させていただきたい件がございます」で始まる文面は、担当者が金額の話を探すところから始めなければなりません。「◯月分より月額料金を改定いたします」と頭にあれば、担当者はその一文をそのまま社内チャットに貼るだけで済みます。

値上げの文面をめぐって迷うことのほとんどは、金額の妥当性ではなく、書く順番と渡す許可の問題です。実施日を先に決め、旧・新・差額を並べ、理由は1行で置く。この順番さえ守れば、相手ごとに文面を作り直す必要はありません。

人と会って築いた関係だからこそ、事務的な連絡ほど丁寧に扱う価値があります。対面営業の作法を重ねてきた相手であれば、値上げの案内もその延長として届き、丁寧さを示す機会になります。

値上げの伝え方に迷ったときは、まず実施日から書く順番を思い出してください。順番さえ決まれば、文面は6行で足ります。

よくある質問

値上げのお知らせは何ヶ月前に伝えればいいですか

BtoB取引では実施日の60~90日前、飲食店など一般消費者向けは30~60日前の初回告知が目安とされる。迷ったら早めに周知した方が、突然の値上げによる不信感を避けられる。法令で決まった日数ではないので、契約書に通知期間の定めがあればそちらが優先。個別の判断は専門家に相談を。

値上げの理由はどこまで書くべきですか

原材料費や人件費の上昇など、可能な範囲で客観的な事実を1行で示す。個人の生活事情や「他のお客様も上げているので」は書かない。長く説明するほど言い訳に読まれる。

値上げのお知らせはメールだけでいいですか

一斉案内はメールでよい。付き合いが長い相手・金額が大きい相手には、電話か対面で30秒の4文を先に置いてから同じ内容の書面を送る。順番が逆になると「もう決まっていた」と受け取られやすい。

参照した情報源

  1. 値上げのお知らせ文例集|理由別・業種別に丁寧な伝え方を解説(freee株式会社)・確認日 2026-08-27

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