やたの視点

200件まわって1件

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インターネット回線の飛び込み営業を、8ヶ月やっていた時期があります。毎日200件、住宅街を一軒ずつ回る仕事でした。

インターホンを押して、名乗って、要件を話す。それだけの動作を、200回繰り返す一日でした。出てこない家がほとんどです。出てきても、玄関先で断られて終わることが大半でした。

それでも、それなりに売れていました。平均すると、200件で1件の契約になっていたと思います。

残りのほとんどは断られている計算です。ただ、それは自分への評価というより、確率の話だと感じるようにしていました。確率pで起こることは、試行回数を増やすほど、実際に起こる確率がpに近づいていきます。

数を打てば確率に近づく。この理屈自体は、間違っていないと思います。だからこそ、8ヶ月も続けられたのだと思います。断られた一件を引きずっていたら、次の一件を押せなくなるからです。玄関先で断られても、次の家のインターホンは押します。感情を挟むと、続かない仕事でした。

似た数字は、ほかにもあります。ある営業研修会社の資料では、飛び込み営業の成功率は売れない営業で1%、一般的な営業で10%です。

ここでいう「成功率」は、玄関先で話せた割合を指し、契約が決まる段階とは少し違います。個人宅の内訳を見ると、100件訪問して在宅は10件、そこから見込みが2件、成約は1件という流れです。

私の200件で1件も、この最後の成約の段階を測った数字です。数字だけを見て「向いていない」と判断するのは、少し早いと思います。測っている段階が、そもそも違うからです。面談できた割合の低さと、契約できた割合の低さを、同じ物差しで比べてしまうと、必要以上に落ち込みます。声をかけられた回数ではなく、何件目まで進んだかで、自分を測った方がいいと思います。

テレアポも似た構造です。BtoBの平均成功率は1%未満、100件かけて1件成功すれば良いほうだとされています。ここでの「成功」はアポイントが取れることなので、契約とはまた別の段階です。

測っている段階はそれぞれ違います。それでも、どの数字も小さいことは共通しています。数を打つことが、仕事の設計そのものに組み込まれているのです。向いている・向いていないの話ではなく、そういう設計の仕事だという話です。断られる回数が多い仕事を選んだ時点で、断られること自体はもう前提に入っています。


「切り出せない型」かもしれません。まだ仕事をしたことのない相手に、仕事の話を切り出せない型です。

インターホンを押す指が、一瞬止まる。声をかける前に、断られる場面が先に浮かぶ。押し売りができない自分は、営業に向いていない——そう感じている人もいると思います。名刺交換をした相手に、あとから連絡する場面を想像しただけで、気が重くなる人もいるはずです。

ただ、それは向いていないからではありません。頼んだ瞬間、対等な関係が崩れる気がするからです。知らない相手に頭を下げる動作と、すでに知っている相手に近況を伝える動作は、体の使い方からして違います。前者は毎回ゼロから関係を作る動作で、後者はすでにある関係をなぞる動作です。

声をかけるたびに、値踏みされている気がする。そう感じてしまうと、次の一件を回す前に足が止まります。数を打って確率に近づける営業と、関係から始める営業は、そもそも別のものだからです。片方ができないからといって、営業そのものに向いていないとは限りません。得意な方を選べばいいだけの話です。

数がいる営業は、人が入れ替わりやすい世界でもあります。生命保険の営業職員の数字を見ると、その入れ替わりの大きさが分かります。

主要8社の2024年度、入社5年目の在籍率は25%です。コロナ前より4ポイント上がって、それでも25%です。

多くの人が、5年以内に辞めていく計算です。腕がないから辞めるわけではないと思います。数を追い続ける仕組みの方が、先に人を減らしていくのかもしれません。

日本生命は「5万人死守」を掲げてきましたが、2024年2月末の在籍者数は4万8323人まで減り、そのラインを割り込みました。主要4社合計では、約1年間で4400人超が減っています。

数を追う仕組みそのものが、人を辞めさせているように見えます。声をかけられない自分を責める前に、仕組みの方を疑ってみてもいいはずです。

一度でも仕事をしたことがある相手には、この数字はそのまま当てはまりません。人は、関係値がある人から物を買いたくなるものだと思います。会ったことのある相手には、すでにその土台があります。ゼロから信用を積む必要が、そもそもないのです。名刺交換しただけの相手であっても、一度も会っていない相手よりは、はるかに話が早いのです。

声をかける数を増やすより、すでにある関係を使うほうが近道です。紹介営業も、広い意味では同じ発想です。頼まなくても、近況を伝えるだけでいいのです。

急に用件から入ると、身構えられます。近況の言葉から入るだけで、受け取り方は変わります。相手も、身構えずに読めるからです。用件は、あとからついてくればいいのです。

今日やれることは、ひとつです。名刺入れから、1人だけ選んでみてください。以前に一度でも仕事をした相手なら、誰でも構いません。連絡が途絶えて久しい相手の方が、案外向いています。

いきなり「お願いがあります」から入る必要はありません。「お元気ですか、最近どうしていますか」くらいで十分です。用件は、ひとつも書かなくていいのです。

返事が来なくても、それでいいのです。届いた側は、覚えられていたことに気づきます。次に何か必要になったとき、思い出す相手が変わります。今すぐの契約につながらなくても、それでいいのです。

200件のピンポンを押さなくても、営業は成立します。数の世界と、関係の世界の両方をやってきたので、それだけは言えます。どちらが正しいかではなく、自分に合う方を選べばいいだけです。声をかけられない自分を、これ以上責める必要はありません。

— やた

参照した情報源

  1. 飛び込み営業の成功率は平均どれくらい? 個人宅・法人で成功率を上げる方法(株式会社アクセプト(営業研修))・確認日 2026-08-10
  2. テレアポの成功率は?テレアポ平均成功率やアポ率を高めるコツを解説(株式会社ディグロス)・確認日 2026-08-10
  3. 生保営業、脱大量離職へ待遇改善 第一生命・太陽など在籍率25%に微増(日本経済新聞)・確認日 2026-08-10
  4. 生保19社・営業職員の「実態」をランキングで斬る!在籍者数1位は日本生命、離職率ワーストや平均勤続年数は?(ダイヤモンド・オンライン)・確認日 2026-08-10
  5. 17-1. 大数の法則1(統計WEB(社会情報サービス))・確認日 2026-08-10
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