やたの視点
私は人見知りです。今も
交流会の帰り道、名刺だけが増えている夜があります。名前と肩書きは覚えたのに、誰の顔も思い出せない。話した気がしないまま、電車に乗って帰る夜です。
会場では、輪になって笑っている人たちがいます。その輪に入れないまま、飲み物を片手に立っていた時間の方が長かった。そんな夜も、きっとあります。
自己紹介はできます。でも、そこから先が続きません。名刺を交換して、天気の話をして終わる。次に連絡する理由も、次に話す話題も、その場では出てきません。
事前に話す内容を考えていっても、当日は忘れます。用意した言葉より先に、沈黙の方が先にやってきます。
そういう夜が続くと、「人と話すのが苦手だから、営業には向いていない」という結論に落ち着きやすくなります。自分の性格のせいにして、話を終わらせてしまいます。
本当は、話し方の問題でも、性格の問題でもないのかもしれません。会う前に何も決めずに、その場の空気だけで乗り切ろうとしているだけです。
しゃべりすぎ型かもしれません。沈黙になった瞬間、「弊社のサービスは」と自分の説明で場を埋め、相手が話す番を取ってしまう型です。人と話すのが苦手だからではありません。何をどんな順番で聞けばいいか、それを習っていないだけです。
説明を用意すればするほど、安心できます。だから、聞かれてもいないことまで話してしまいます。気づけば、こちらだけがずっと話していた、という商談になります。
名刺交換のときだけではありません。見積りを出したあとの沈黙も、同じように埋めたくなります。値段の話になるほど、説明は長くなります。
これは性格の欠陥ではありません。技術が1つ抜けているだけの状態です。技術なら、あとから足せます。
私は人見知りです。今も。内向的で、オタクです。それも変わっていません。
もともと、人とほとんど話せませんでした。人に興味も持てませんでした。それでも、住宅営業の仕事で新人賞をもらい、3年目には全社のMVPになりました。
営業を最初に教わったのは、住宅展示場という対面営業の現場でした。来場してくれた方に、人生で一番高い買い物を任せてもらう仕事です。何を聞き、何を大切にしている人かを知らなければ、契約にはなりません。
人の集まりが得意だったことは、一度もありません。今も、初対面の場は緊張します。それでも、営業の数字は作れます。
人見知りな自分と、数字を作る自分は、同じ一人の人間の中にいます。どちらかが嘘というわけではありません。性格が変わったから売れたわけではなく、営業という技術を、後から身につけただけです。
性格を直す方法は知りません。準備の仕方なら、教えられます。
心理学では、人見知りを「評価されることへの不安」と説明します。もともとは子どもの特性を指す言葉でしたが、今では初対面の人と積極的に話せない大人にも使われます。
誰でも、初めて会う相手には多少の緊張があります。人見知りは、その緊張が人より少しだけ強く出ているだけとも言えます。
初対面の場で、相手にどう思われるかを気にするほど、言葉数が増え、説明が長くなる人を、私はたくさん見てきました。
評価される不安が強いほど、失敗しない言い方を探して、説明が長くなるのかもしれません。要点だけ話して黙るより、背景から話して安全を確保したくなるのかもしれません。
大人になっても、人見知りの人は少なくありません。ある調査では、20〜40代の28%が「自分は人見知りだ」と答えています。そのうち81%が、それで人生を損していると感じているとも答えています。
独立して、紹介の当てが細ってきたときほど、この感覚は強くなります。新しい人と会う機会を、自分から作らなければならないからです。
損していると感じるのは、話がうまいかどうかではなく、先に声をかけられなかった場面の記憶かもしれません。声をかけていれば変わっていた、という後悔です。
だとしても、外向的になる必要はありません。アメリカで、電話営業(アウトバウンド・コールセンター)の担当者340人を調べた研究では、外向性と営業成績の関係は一直線ではなく、曲線を描くことが分かっています。もっとも売っていたのは、外向と内向のちょうど中間にいる人たちでした。対面でも同じとは限りませんが、外向的であるほど数字が伸びるとは言えないようです。
外向型に寄りすぎると、話す量は増えても、相手の話を聞く量が減ります。内向型に寄りすぎると、そもそも声をかける回数が減ります。数字を伸ばしていたのは、そのどちらでもない人たちでした。
1つ質問して、相手の答えを最後まで聞く。相槌を打ちながら、次の質問はあとで考える。極端に静かでもなく、極端によく喋るのでもない。ちょうどそのくらいです。
話がうまい必要はない、ということです。
むしろ、聞く側に回れる人のほうが、数字は伸びやすいと私は考えています。
渡せる方法は1つだけです。会う前に、聞くことを3つ用意しておく。仕事の話ではなく、相手が今困っていることと、次にやりたいことについて。当日は、その3つを聞くことだけを目標にします。
「今、一番時間を取られていることは何ですか」「それが片づいたら、次は何をやりたいですか」。書いておくのは、この2つで十分です。あとの1つは、相手の答えから広げます。
名刺交換のあと、この質問を1つ出す。「弊社は」から入らず、質問から入る。それだけで、最初の1分の主導権が変わります。
答えが返ってきたら、すぐに提案しない。「それは大変ですね」と一度受け止めるだけで十分です。提案は、次に会うときで構いません。
沈黙が来ても、説明で埋めなくていい。書いた質問を1つ、そのまま聞けばいいだけです。話す量と聞く量は、それだけで逆転します。
人と話すのがうまい人に、無理に近づかなくていい。うまく喋れる自分を、演じる必要はありません。聞く数を増やせば、それで十分です。
しゃべって埋める代わりに、聞いて空ける。それだけで、帰り道の感覚は変わります。名刺の数を数える帰り道から、話せた手応えのある帰り道に変わるのは、性格が変わったときではありません。聞くことを3つ、先に決めていたときです。
人見知りは、たぶんこの先も直りません。それでいいと思っています。性格は変わっていません。変わったのは、技術を持っているかどうかだけです。
— やた
参照した情報源
- シャイネスとは? 意味や使い方(出典:最新 心理学事典)(コトバンク(最新 心理学事典))・確認日 2026-08-10
- 人見知り(Wikipedia)・確認日 2026-08-10
- 人見知りとは? 特徴や原因、克服方法をわかりやすく解説(カオナビ人事用語集)・確認日 2026-08-10
- 約3割のオトナが実は「人見知り」…81%が「人見知りで損」、「自分から話しかけられる」と、人生の充実度は43%もアップ!?(メントスPR事務局(AtPress配信)/「大人の人見知り」に関する意識・実態調査(2016年8月23日~8月25日実施、20〜40代男女500名対象))・確認日 2026-08-10
- Rethinking the Extraverted Sales Ideal: The Ambivert Advantage(Psychological Science (SAGE Publications), Adam M. Grant, 2013)・確認日 2026-08-10