やたの視点
2,500万円の家を建てて引き渡しても、残ったのは粗利で数十万円だった
2,500万円の家を建てて引き渡しても、会社に残る粗利は数十万円でした。
建築の会社を経営していたときの話です。私がやっていた請負の仕事は、最終的に会社に残る粗利がだいたい2〜3%の水準になる商売でした。2,500万円の家でも、手元に残るのは数十万円ということになります。
見積もりを出し、契約をいただき、図面を引き、現場に足を運ぶ。職人さんの手配は別にありますが、営業も、設計も、現場管理も、原価管理も、ほとんど自分でやっていました。契約から引き渡しまで、何ヶ月もかかります。数十万円の粗利を、何ヶ月も張り付いて手に入れる計算です。
材料費や外注費は工事の途中で出ていきます。1棟ごとに、自分の時間とお金を、まとまった単位で張り付けるような働き方でした。天候で工期が延びることや、追加の要望で図面を引き直すこともある仕事です。
お客様に喜んでもらえる仕事だと思います。何ヶ月もかけて要望を聞き、形にして、鍵をお渡しする。その価値は今でも変わらないと、私は見ています。
会社は黒字になりました。ただ、借金は減りませんでした。楽になった実感が、まったくなかったんです。黒字と、手元に残る余裕は、別の話でした。
このまま棟数を増やし続けても、借金と固定費とリスクが増えるばかりかもしれない。本当にこのやり方でいいんだろうか、と考えていた時期です。
同じ頃、会社の一つの事業として、建設業向けのSaaSの代理店を始めました。ある案件では、1時間半のプレゼンで150万円が入りました。ただし、これは当時の一例です。金額も成約率も案件ごとに違い、見込み客探しや提案の準備にかかる時間、決まらなかった案件の手間は含んでいません。
元手や外注費はほとんどかかりませんでした。そのぶん、営業の時間と人件費が主なコストでした。利益の残り方は商材や契約条件で変わります。
家を1棟仕上げるのに何ヶ月もかけていた頃と、契約の件数でいえば同じ1件です。持ち出しになる材料費も、外注費も、ほとんどありませんでした。
この商材では、現場に何度も足を運ぶ必要も、天候で工期がずれる心配もありません。原価がほとんどかからない商品だったからです。楽な仕事だから稼げた、という話ではありません。頑張りの量で値段が決まる仕事ではなかった、というだけです。
1件あたりの金額で見ると違いがありました。ただし150万円は営業時間や不成約の案件を含まない一例で、同じ条件の比較ではありません。
頑張ったから稼げる、というわけではないのだと、身をもって感じました。
同じ1件でも、材料費や外注費が先に出ていき、残るまでに何ヶ月もかかる仕事があります。一方で、契約が決まれば材料費や外注費が出ていかないぶん、粗利は先に確定しやすい仕事もあります。ただし、そこに至るまでの営業の時間と、決まらなかった案件の手間は別にかかります。
これは、腕や努力を否定する話ではありません。家を建てる仕事に、粗利の低さに見合わないだけの価値があることは、今でも分かっています。ただ、何を、何で売るかによって、同じ頑張りでも残る金額が変わる。それだけの話です。
デザインでも、施工でも、士業の仕事でも、同じことは起きていると思います。時間をかけるほど良い仕事ができる商売と、時間をかけた分だけ粗利が削られていく商売が、同じ業界の中に混ざっています。
毎回ゼロから作り直す仕事と、一度作ったものを何度も使える仕事とでは、同じ時間をかけても残る金額が違います。家づくりは前者に近く、SaaSの提案は後者に近い商売でした。
案件の中身を分けずに、まとめて「今の仕事」として抱えていると、この違いは見えてきません。全部を同じ熱量で受けてしまいます。特に、粗利の薄い仕事ほど、忙しさだけが目立ちます。
忙しいのに残らない、という状態から抜け出せなくなります。見分けるところからしか、次の一歩は始まりません。
まだ楽にならないのは、自分の頑張りが足りないからだ——そう感じている人は、多いと思います。
忙しいのに残らないのは、腕が足りないからでも、値段を言えないからでもないのかもしれません。私の場合に見えていたのは、頑張りを乗せる先の、粗利の薄さでした。
足りないのは頑張りではなく、頑張りをどこに乗せるかの設計だと、私は考えています。棟数を増やす前に、確かめておくべきことがあります。性格や能力の話ではなく、値段のつけ方と、何を売るかの話です。
今日できることがあるとすれば、直近の仕事を3件ほど選んで、粗利を、それにかけた自分の時間で割ってみることです。時給に近い数字が出ます。見積書と、実際にかかった時間をメモしておくだけで十分です。特別な集計ツールは要りません。数字は粗くてもかまいません。まずは見てみることが先です。
低い数字が出ても、それは腕の点数ではなく、仕事の条件の結果です。
並べてみると、頑張りと稼ぎが比例していないことが、数字で見えてきます。時給にして並べると、同じ「1件」でも中身がまるで違うことが分かります。安く受けすぎている仕事と、思ったより残っている仕事が、はっきり分かれるはずです。
大変だと感じる仕事ほど、時給に直すと低くなっていることは珍しくありません。逆に、軽く受けた仕事のほうが残っていることもあります。やってみるまでは分かりません。
数字にしてしまえば、あとは難しい話ではありません。時間がかかる割に残らない仕事から、少しずつ減らしていくだけです。やりがいのある仕事まで手放す必要はありません。残す仕事と、条件を見直す仕事を、分けるだけです。
最初の一歩は、次に見積もるときに、残したい粗利から逆算して金額を決めてみることです。粗利が薄くなる仕事は、条件を変えて受けるか、断ります。契約を取ってから気づくより、見積もりを出す段階で粗利がいくら残る形かを先に見ておくほうが、ずっと手が打てます。
請負の仕事のほかに別の商売を持てない場合でも、見直せるのは、条件、値段、断る仕事の三つです。値段を上げる交渉も、条件を見直す一つの手です(値段や条件の伝え方はこちら)。
頑張った人が報われるのは、理想論ではなく、設計の問題です。腕を磨くことと、稼ぎ方を設計することは、まったく別の作業です。どちらか一方だけでは、頑張りは数字に変わりません。棟数を増やす前に、何に自分の時間を乗せているかを、一度数えてみてほしいと思います。
— やた
参照した情報源
- No.3302 マイホームを売ったときの特例(国税庁)・確認日 2026-08-23
- No.3208 長期譲渡所得の税額の計算(国税庁)・確認日 2026-08-23
- No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置(国税庁)・確認日 2026-08-23
- 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額(昭和四十五年十月二十三日建設省告示第千五百五十二号、最終改正令和六年六月二十一日国土交通省告示第九百四十九号)(国土交通省)・確認日 2026-08-23
- 抵当権抹消にかかる費用は?相場や司法書士に依頼する場合を解説(アットホーム株式会社)・確認日 2026-08-23
- 不動産売買契約書の印紙税の軽減措置(国税庁)・確認日 2026-08-23