やたの視点

営業を教わらないまま、独立してしまった人へ

営業を教わらないまま、独立してしまった人へのイメージイラスト

独立してから、営業の本を何冊も読んだ——そういう人は多いと思います。傍線を引き、付箋を貼って、読んでいる間はなるほどと思う。それなのに、月曜になるとまた同じ。目の前の仕事を片付けているうちに、一週間が終わっています。

本を読んだ直後は、少し営業に前向きになる、という人がいます。でも数日たつと、いつもの仕事のペースに戻る。新しく知り合いを増やす動きも、値段の話を切り出す練習も、結局手をつけないまま来週になりがちです。

気づくと、今の仕事が一段落したタイミングで、また同じ本を読み返す、というパターンもよくあります。読むこと自体が、営業をやった気になる時間になりがちです。中身は増えているのに、行動は増えていません。

週末に1冊読み終えても、月曜の朝はいつもの仕事の電話から一日が始まる、という人がいます。そんな繰り返しに、心当たりがある人は多いと思います。読んだ内容は頭の中にあるのに、手も口も動かないままだったりします。

同じ場所でずっと足踏みしている人は、たぶん少なくないと思います。開業したときに苦労したことの上位は「顧客・販路の開拓」で47.4%です。開業して1年ほど経った時点でも、苦労の1位は同じ「顧客・販路の開拓」(47.7%)です。開業したときだけの問題ではない、ということです。

本の中身が悪いわけではないと思います。書いてあることは、たいてい正しいです。それでも効かないのは、自分がどの場面で止まっているかを、一度も決めたことがないからだと思います。本は「どこで止まっているか」までは教えてくれません。

開業時と1年後、顧客・販路開拓の苦労割合が横ばいで並ぶ比較グラフ

知り合う場面で止まっているのか、値段の話で止まっているのか。それを決めずに読むと、本に書いてあることが全部大事に見えて、結局どれも手につかなくなります。たとえば「集客の文章を磨け」も「紹介をお願いする勇気を持て」も、本には同じ熱量で並んでいます。全部同時にやろうとして、結局どれも手につきません。

名刺を交換して、それきりになる人もいます。次に会う口実の作り方を知らないだけで、感じの悪い人ではありません。それでも本人は「営業が下手だから」とひとまとめにしてしまいます。

そもそも独立は、営業を誰にも教わらないまま始まることが多いものです。フリーランスの営業の仕方は、あとから自分で身につけていくしかありません。

腕は本物です。デザインでも、施工でも、書く仕事でも、直接お客さんに評価されてきたから、今、独立してやっていけています。営業が苦手なことと、仕事の腕は、別の話です。足りないのは、腕でも気合でもなく、順番と型だけです。


止まり方を先に1つ決める、と考えると楽になります。営業は、1件の案件が進む順番で見ると7つの工程に分けられます。

知り合う、話を聞く、お金の話をする、返事をもらう。ここまでが、1件の商談の基本の流れです。断られたら、そのあとどうするか。頼まれたら、次にどうつなぐか。この2つも工程として数えます。

商談が進む7つの工程を矢印でつなげた手順フロー図

そして最後にもう1つ、仕事を切らさない、という工程があります。これだけは1件の話ではなく、案件をまたいだ全体の話です。目の前の仕事がある間は、あまり意識されません。

止まる理由は、だいたい4つに分かれます。習っていない、そう思い込んでいた、気が引ける、あとまわしにしている、の4つです。この4つは原因がまったく違うので、当てはめる手当ても違います。

習っていないなら、足りないのは手順です。何をどの順で聞くか、値段はどう分けて出すか、そういう型を渡せば、それだけで動けるようになります。

営業が止まる4つの理由をカード形式で並べた分類図

気が引けるなら、足りないのは手順ではなく許可です。頼んでいいのか、値段を言い切っていいのか、そこで止まっている人に手順だけ渡しても、余計に動けなくなります。

たとえば値段の話で止まる人もいます。金額を言うことが、自分の値打ちを言うことのように感じて、口から出てこない、という止まり方です。逆に、下げることが誠実さだと思い込んで、聞かれてもいないのに値引きを申し出る人もいます。同じ工程でも、理由が違えば形は正反対になります。

見積を出したあと、返事が来ないまま3日たったとします。工程で言えば「返事をもらう」です。理由が「急かせない」なら、期限の切り出し方を1つ覚えれば動けます。理由が「連絡しそびれ」なら、催促ではなく近況を伝える連絡で十分です。同じ止まり方に見えても、渡すものは違います。

断られたあと、縁がなかったと思って終わりにする人もいます。タイミングや相手のせいにして、何が起きたかを振り返らないまま、次の機会も同じように終わる、という止まり方です。

前に頼んでくれた人に、次の仕事の話をするのを迷う人もいます。もう関係ができているのに、頼み事をすると借りができる気がして、言い出せないままになる、という止まり方です。工程で言えば「また頼まれる」ですが、理由は気が引ける、です。

工程が7つ、理由が4つ。かけ合わせると28通りありますが、必要なのは自分に近い1つだけです。これを決めずに営業の本を読むと、7つの工程ぜんぶの話が同時に降ってきて、どこから手をつけていいか分からなくなります。

営業がいつもあとまわしになって、自分が動かないと仕事が入らない状態が続いている人は、目の前優先型かもしれません。サボっているわけではありません。目の前の仕事を優先する理由がいつもあって、気づけば営業だけが空席のまま、社長や個人事業主になった、という型です。

7工程×4理由の掛け合わせから自分の1つを選ぶマトリクス図

腕はあるのに仕事が取れないのは、営業に向いていないからだ——そう結論を出す前に、疑ってほしいことがあります。向いていないのではなく、7つの工程のどこで、何が理由で止まっているかを、一度も選んだことがないだけかもしれません。

私はもともと人見知りで、内向的で、オタクです。人と話すのは、今も得意ではありません。社交的な性格に生まれ変わったわけではなく、型を1つずつ覚えただけです。それでも、仕事は途切れずに続いています。

今日やれることは1つだけです。直近で止まった案件を、1件思い出してください。

7つの工程のどこで止まったか、4つの理由のどれに近いか、それぞれ1つずつ選んでみてください。直すのは、そこだけでいいです。全部を一度に直そうとしなくていいです。

本を読んでも変わらなかったのは、意志が弱いからではないと思います。止まり方を1つ決めれば、次にやることも1つに決まります。次に本を開くときは、ページ全部ではなく、自分の1つの止まり方が書いてある場所だけ読めばいいです。

— やた

参照した情報源

  1. 2022年度新規開業実態調査(日本政策金融公庫総合研究所)(資金調達ハブ(日本政策金融公庫総合研究所調査を引用))・確認日 2026-09-04
  2. フリーランス白書2023抜粋解説。コロナ禍でフリーランスの収入はどうなった?仕事獲得経路にも変化あり(Workship MAGAZINE(フリーランス協会「フリーランス白書2023」を引用))・確認日 2026-09-04
  3. 2023年の「休廃業・解散」過去最多の4.97万件、赤字率は過去最悪、倒産増で「退出企業」も過去最多(東京商工リサーチ)・確認日 2026-09-04
  4. 「フリーランス実態調査 2024年」を発表(ランサーズ株式会社)・確認日 2026-09-04
無料プレゼント 対面営業の教科書