対面営業・商談
もらった名刺をその日のうちに仕分けする手順
このシリーズの全体像 対面営業の作法・人脈術 完全ガイド
名刺が引き出しに溜まるのは、整理が苦手だからではない
場面から入る
展示会や交流会の翌週、輪ゴムで束ねた名刺が引き出しに入ったままになっている。捨てるわけでもなく、連絡するわけでもなく、そのまま次の交流会でまた10枚増える。気づけば引き出しの中に、いつの束か分からないゴムの塊が2つ3つ並んでいる。心当たりがあるかもしれません。
片付けが下手だから、ではない
名刺アプリもファイルも、たいてい持っています。止まっているのは分類の作業ではなく、名刺には相手の情報しか載っていない、という一点です。会社名・役職・連絡先は書いてあっても、自分が次に何を出せるかはどこにも書かれていません。だから名刺入れを開くたびに「この人に何を送ればいいんだっけ」と考え直すことになり、結論が出ないまま閉じてしまう——それを30枚繰り返すうちに、途中で手が止まります。
目の前優先型かもしれません
机に積まれた名刺が減らない背景には、目の前優先型という傾向があるかもしれません。営業がいつもあとまわしになり、自分が動かないと仕事が入らない型です。積まれた名刺を見るたび、納品はできても仕事を取りにいく側にはなれない人間なんだと思う、という感覚に覚えがある人もいると思います。ただ、ここで必要なのは営業の人になることではありません。仕分けは営業ではなく、5分の事務作業です。
この記事の答えを先に書きます。家に帰ってからやるのは、①名刺の余白に一言タグを書く、②残す情報量で3つの箱に分ける、③保管ルールを1つ確定する、の5分だけです。もらったら情報を忘れないうちにデータ化し、後回しにして溜め込まないことが、デジタルで管理する上でのポイントだとされています。名刺交換した直後、会場やその日の帰り道でその場の記録・仕分けをする手順は、帰り道にやることとして別に扱います。この記事が扱うのは、家に帰ったあとにやる、名刺のデータとしての残し方と保管のルールです。
名刺交換そのものの順番や渡し方の基本は対面営業の作法にまとめています。送る文面そのものにも、ここでは踏み込みません。
その日のうちにやる5分の手順(タグ→3つの箱→保管ルール)
0〜2分:余白にタグを書く

名刺をまとめて処理するときに、名刺の余白か名刺を撮った写真のメモ欄に、一言だけタグを書きます。基準は1つだけです。半年後の自分が検索窓に打ちそうな言葉にする、これだけです。たとえば「経理システム入替検討」「来月に契約更新」のように、場面と用件がわかる一言にします。
10枚あっても、1枚あたり15秒もあれば書き終わります。会場でその場に一言書き足したくなることもありますが、相手の前でメモを取ると品定めされている印象を与えてしまう、というのが筆者の経験則です。落ち着いて書けるのは、結局は家に帰ってからになります。
2〜4分:残す情報量で3つの箱に分ける
書いたタグを見ながら、名刺を3つに分けます。
- A 厚く残す(タグに会話の中身まで書き込み、紙も保管する)
- B 探せる形にして残す(会社名・連絡先と一言タグだけ)
- C データだけ残して紙は処分する(最低限の連絡先のみ)
判断する基準は、次のH2で1つの質問にして出します。1枚ずつ質問に照らすので、10枚なら1分もかかりません。全部の名刺をAに寄せてしまうと、あとで検索しても何も絞り込めなくなります。
4〜5分:保管ルールを1つ確定する
最後に、Aに入れた名刺をどこに置くかを1つだけ決めます。「専用の名刺ファイルの一番手前」のように、場所を具体的に決めます。置き場所を「とりあえず」にすると、次にAへ入る名刺もまた迷子になります。BとCのデータ入力先も、このタイミングでアプリかスプレッドシートか、1つに絞っておきます。保管そのものの詳しいルールは、後半の「名刺は個人情報」の章でまとめて扱います。
| 時間 | やること | 終わりの合図 |
|---|---|---|
| 0〜2分 | 名刺の余白にタグを書く | 全部の名刺にタグが入っている |
| 2〜4分 | A・B・Cの3つの箱に分ける | 全員がどれかの箱に入っている |
| 4〜5分 | 保管ルールを1つ確定する | Aの置き場所とデータ入力先が決まっている |
NG例: もらった全員をその日のうちに名刺アプリへ取り込もうとする。今日の分が終わる前に力尽きて、翌日から手を付けなくなります。取り込みは今日もらった枚数だけに区切ります。枚数の目安として、10枚のうちAに入るのは数枚程度という運用を続けています。これは公的な基準ではなく、筆者の運用方針です。1日で30枚以上もらった日は、5分の手順を3セットに分けて構いません。要点は1回で全部片づけようとしないことです。
3つの箱をどう決めるか|役職や会社の大きさで分けない
判断する1つの質問

次の1つの質問だけで、箱を決めます。
半年後、自分がこの人の名前か会社名を検索する場面を思い浮かべられるか。
はっきり思い浮かべられるならA、少し引っかかるけれど確信が持てないならB、まったく思い浮かばないならCです。
| 答え | 箱 |
|---|---|
| はっきり思い浮かぶ | A 厚く残す |
| 迷う・確信がない | B 探せる形にして残す |
| まったく思い浮かばない | C データだけ残す |
たとえば「経理システムの入れ替えを検討している」と話していた相手なら、半年以内に思い出して調べる場面がすぐ浮かぶので、迷わずAです。逆に、名刺交換だけして具体的な話をしていない相手は、半年後に検索する場面が思い浮かばないので、無理にAへ入れる必要はありません。
会社の大きさで分けると外れる
大きい会社の名刺をAに入れたくなりますが、半年後に検索するのは、会社の規模ではなく具体的な話をした相手のほうです。役職の高さが示すのは「決められる人かどうか」で、あとで自分が検索するかどうかとは別の話です。その場で具体的な話が出た相手が、実際にAへ入ります。名刺の肩書きが立派なほどAに入れたくなる気持ちは自然ですが、その基準で選ぶと、結局二度と検索しない名前にまで手間をかけることになります。
Cは切り捨てではない
Cはデータだけ残して紙を処分する箱です。連絡先自体は残るので、縁が切れるわけではありません。厚く残す手間をかけないと決めた分だけ、AとBに絞った相手の記録に集中できます。「厚くは残さない」と決めることも、仕分けの結果のひとつです。
NG例: 迷った名刺を全部Bに入れる。Bが100枚を超えたあたりから探す気が失せ、結局どこにも使われない束になります。迷ったときは、最初の質問に立ち返って「半年後に検索する場面が思い浮かぶか」だけを判定基準にすると、B行きが減ります。
余白のタグは、半年後の自分への引き継ぎメモ
OCRが読むのは文字、読まないのは会話

Sansanが自社開発したOCRエンジンでは、Eメールアドレスを99.7%の精度でデータ化できると同社が発表しています。ただし、これは同社のエンジンでの数値であり、名刺アプリ全般の精度を示すものではありません。OCRが読み取るのは名刺に印刷された文字だけで、「何に困っていたか」は自動では残りません。取り込みのあとにタグを足すところまでを、1セットの作業として考えます。文字が正しくデータ化されていても、半年後にその名刺を検索で見つけられるかどうかは、このタグがあるかどうかで決まります。
タグは、半年後に自分が検索窓へ打つ言葉で書く
| 良い例 | 悪い例 |
|---|---|
| 経理システム入替検討 | 元気な人だった |
| 来月に契約更新 | 感じが良かった |
| 副業でデザインも可 | 名刺のデザインが凝っていた |
| 同じ勉強会で以前会った | 名刺交換した人 |
良い例に共通しているのは、あとから自分が検索窓に打ちそうな言葉になっている点です。悪い例は、その場では意味が分かっても、半年後に読んでも何も思い出せません。会社名や業種は名刺そのものに印刷されているので、あらためて書き足す必要はありません。
名前で探さない前提で作る
人を思い出すきっかけは、たいてい名前ではなく場面です。「あの日、経理システムの話をしていた人」のように出てきます。だから記録するのは、会った場所・日付・話題の3点にしぼります。五十音順の整理が結局使われない理由も、ここにあります。名前から引ける棚を作っても、そもそも名前を思い出せなければ棚の前に立てません。
手書きが続かない場合は、名刺を撮って写真のメモ欄にタグだけ打つ形でも構いません。道具を増やさないことが続けるコツです。専用アプリを新しく契約する前に、まずは今使っているスマホのカメラとメモ機能だけで1か月試してみるくらいで十分です。
仕分けは会っている間に半分終わる|机の上での下ごしらえ
机上の並べ方が、あとの仕分けの精度を決める

受け取った名刺は机上の名刺入れの上に並べて置くのが一般的で、複数名の場合は座席順に整列して並べると、会話中に発言者を正確に把握しやすくなるとされています。この並びのまま持ち帰れば、あとでタグを書くときに誰の発言だったかをたどりやすくなります。逆に、受け取った名刺をすぐ名刺入れにしまい込んでしまうと、会話が終わる頃には座席の記憶があいまいになり、タグを書くときに誰の発言だったか迷うことになります。
会場では仕分けまで終わらせなくていい
立食や交流会で、名刺入れに並べる余裕がない場面もあります。そこで無理にA・B・Cの判断までしようとすると、会話に集中できなくなります。会場でやるのは、もらった順に一方向でそろえて重ねるところまでで十分です。厚く残すか・探せる形にするか・データだけにするかの判断は、家に帰って机に向かってからで構いません。順番さえ崩さなければ、判断を後回しにしても、あとでタグを書くときに困りません。
NG例3つ
- もらった名刺をその場でポケットに突っ込む
- ノートや資料に挟む
- 名刺入れの中で自分の名刺と混ぜる
どれも帰る頃には順番が崩れ、誰が誰か分からなくなります。分からなくなった名刺は、家に帰ってからタグを書くときに困ります。順番が崩れた束を前に「誰だっけ」と考える時間そのものが、5分の手順を10分にも15分にも延ばす原因になります。
【参考情報】名刺は個人情報|ひとりで使う名刺と、仕事で使う名刺台帳の違い
線はどこにあるか
名刺の整理は、個人情報の扱いとも関わります。従業者の私的な使用のみに用いられているのであれば、企業にとっての個人情報データベース等に該当しないと考えられますが、業務の用に供するために使用しているのであれば、企業の個人情報データベース等に該当することになり得ます。このQ&Aは、企業とそこで働く従業者の関係を前提にした説明です。個人事業主やひとりで名刺を管理している場合を直接示したものではありませんが、同じ考え方を当てはめて考えておくのが安全です。3つの箱に分けてタグを付け、仕事のために検索できる状態にした時点で、それは私的なメモの延長ではなく業務のための管理に近づいている、と考えておきます。
件数が少ないから関係ない、ではない
「うちは規模が小さいから関係ない」と思うかもしれませんが、この考え方は今は成り立ちません。5,000人分以下の個人情報しか取り扱わない小規模な事業者を対象外とする規定は、2015年(平成27年)の法改正で撤廃され、2017年5月30日の全面施行以降、取り扱う件数にかかわらずすべての事業者が対象になっています。ひとりで名刺を管理している場合も、この線引きの外にはいません。
今日決めておく3つ
- 保管場所を1か所にする(引き出しとアプリに分散させない)
- 共有範囲を決める(外注先や手伝ってもらう人にデータごと渡さない)
- 紙を処分するときの方法を決める(そのまま可燃ごみに出さない)
3つとも、5分の手順の最後に決めた保管ルールとセットで固めてしまえば、あとから慌てて考え直す必要がなくなります。たとえば、事務作業を手伝ってもらう人がいる場合は、渡すデータの範囲をあらかじめ決めておく、といった具合です。
法令の解釈や、自分の事業でどこまで対象になるかは、個別の判断になります。迷う場合は専門家に相談してください。
よくある失敗と、溜まってしまった束の戻し方
失敗1:全部データ化しようとする
過去の束から手を付けると、初日で終わります。対象は今日もらった分だけに固定し、過去分は別の作業として切り離します。「まとめてやる日」を別に確保するのではなく、過去分は次の項目のとおり期間を区切って扱います。
失敗2:五十音順に並べる
探すときのきっかけは名前ではなく場面なので、名前順の棚は結局開かれません。並べ替えるより、タグを足すほうが先です。すでに五十音順で並べてしまった束があっても、並べ替え直す必要はなく、1枚ずつタグを足していくだけで十分です。
失敗3:全部Aにして厚く残そうとする
会話の中身を全部書き込もうとすると、1枚に数分かかり、10枚目あたりで力尽きます。迷ったときはBに入れておけば十分です。あとで本当に検索する場面が来たら、そのときにタグを足せば済みます。
溜まった束の戻し方
全部はやりません。直近3か月分か、上から30枚だけを対象にします。束が数か月分たまっている場合は、直近の相手から手をつけます。古い相手ほど記憶も薄れ、判断に時間がかかりがちだからです。残りは厚く残そうとせず、「探せる形にする」だけで完了とします。連絡するかどうかは、この記事では扱いません。空白の長さより、あとで検索したときに何かしら手がかりが残っているかどうかのほうが効きます。
よくある質問
もらった名刺はいつ整理すればいいですか
家に帰ってからです。情報を忘れないうちにデータ化し、後回しにして溜め込まないのが基本とされています。その日にやるのはタグ書きと、残す情報量を3つの箱で決めるところまでで十分です。
名刺を捨てるのは失礼になりませんか
データだけ残して紙を処分する形なら、連絡先自体は残ります。ただし名刺は個人情報にあたり得るため、処分方法と保管場所を先に決めておくと安心です。業務のために使っている名刺の集まりは、企業の個人情報データベース等に該当することになり得ます。
名刺管理アプリと手作業、どちらがいいですか
Sansanが自社開発したOCRエンジンでは、Eメールアドレスを99.7%の精度でデータ化できると同社が発表しています。ただしこれは同社エンジンでの数値で、OCRが読み取るのは印刷された文字だけのため、「何を話したか」「何に困っていたか」は自動では記録されません。取り込んだあとに検索用のタグを自分で足す必要があります。
個人事業主でも名刺の管理に個人情報保護法は関係ありますか
5,000人分以下の個人情報しか取り扱わない小規模な事業者を対象外とする規定は、2015年(平成27年)の法改正で撤廃され、2017年5月30日の全面施行以降、すべての事業者が対象になりました。従業者の私的な使用のみなら企業の個人情報データベース等に該当しないと考えられますが、業務の用に供するために使用しているなら該当することになり得ます。この考え方は企業と従業者の関係についての説明ですが、個人事業主が自分で管理する場合も、同じ考え方を当てはめて考えておくのが安全です。個別の判断は専門家に相談してください。
名刺はどう並べて保管すると探しやすいですか
五十音順より、会った場面と課題で引ける形にします。人を思い出すきっかけは名前ではなく場面であることが多いため、半年後の自分が検索窓へ打つ言葉をタグにします。
商談中、もらった名刺は机のどこに置きますか
机上の名刺入れの上に置くのが一般的です。複数名のときは座席順に整列して並べると、会話中に誰の発言かを把握しやすくなります。この並びのまま持ち帰ると、帰宅後にタグを書く作業が速くなります。
参照した情報源
- 「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(Q1-37)(個人情報保護委員会)・確認日 2026-08-13
- 個人情報を取り扱う件数が少ない事業者も個人情報取扱事業者に該当しますか。(Q1-50)(個人情報保護委員会)・確認日 2026-08-14
- データ統括部門「DSOC」が独自のOCRエンジン「DSOC OCR」を開発 〜メールアドレスを99.7%以上の精度でデータ化〜(Sansan株式会社)・確認日 2026-08-13
- 名刺をきれいに整理する方法|アナログ・デジタル別の管理のコツ伝授(東日本電信電話株式会社(NTT東日本))・確認日 2026-08-13
- 名刺交換のビジネスマナー 基本と順番・信頼への影響・場面別チェック・定着のポイント(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)・確認日 2026-08-13
本記事は、当編集部の制作基準——出典との照合・表現・重複の多段検証——を通過したものだけを公開しています(下書きにはAIを活用)。 仕組みの詳細は編集プロセスの開示をご覧ください。