対面営業・商談
話すのが苦手なら聞き役に回る|持っていく質問リスト
このシリーズの全体像 対面営業の作法・人脈術 完全ガイド
交流会で話せなかったのは、口下手だからではない
名刺を交換したあとの沈黙が怖い

名刺交換のあと、数秒の間ができる。その沈黙が怖くて、自分の仕事の説明を早口で並べてしまう。相手が相槌を打つ隙もないまま話し続けて、帰り道になって「しゃべりすぎたな」と落ち込む。心当たりがあるかもしれません。
しゃべりすぎ型かもしれません。沈黙が怖くて自分の説明で埋め、相手の話を取ってしまう型です。話すのが苦手だから、人に会って仕事を取るやり方は自分には向いていない——そう結論づけたくなります。でも口下手だからではありません。何を聞けばいいか、決めずに会場に入ったからです。
一番売れたのは、よく喋る人でも無口な人でもなかった
340人のコールセンター営業担当者を対象にした調査があります。外向性のスコアと売上の関係を調べたところ、一番売上が高かったのは外向性が中間くらいの人たちでした。
内向型(外向性スコア3.75未満)の時給売上は120.10ドル、外向型(5.50超)は125.19ドルでした。真ん中のアンビバート(3.75〜5.50)は154.77ドルでした。3か月間の売上でも、アンビバートは内向型より24%、外向型より32%多く売っています。
この調査が測ったのは外向性のスコアであり、「黙って座っている」かどうかという行動そのものではありません。それでも、スコアが低い人(内向型)と高い人(外向型)のどちらも、真ん中の人の売上には届いていません。
口下手だからではなく、何を聞くか決めずに行ったから
人事・組織コンサルタントの相原孝夫氏は、営業のハイパフォーマーの多くは、必ずしも話が上手いわけではないと分析しています。ペラペラしゃべり出した瞬間、相手は売りつけられると警戒してしまう。自分が話すより、相手から話を聞くことを優先する人が売れている、という指摘です。
交流会で沈黙が怖いのは、性格の問題ではありません。何を聞くかを決めずに会場に入るから、埋めるものが自分の説明しかなくなるだけです。持っていく質問さえ決まっていれば、沈黙は自分から次の質問を出すための間になります。
対面営業全体の考え方は対面営業の作法の基本にまとめてあります。ここでは交流会に持っていく質問リストに絞って進めます。
会場に着く前に決める——50社の中の3人
全員と話そうとするから、翌日に何も残らない

東京商工会議所の異業種ビジネス交流会は、1回あたり50社程度が参加し、月1回程度のペースで開催されています。50社と名刺を交換しようとすると、1社あたりにかけられる時間はごくわずかです。
名刺を50枚集めても、翌日に送れる相手が1人もいなければ、その日の時間は使われずに終わります。50社の中から3人に絞って、1人5分話すほうが残ります。
参加者が事前に分かる会なら、1人3分だけ調べる
この交流会は8万人規模の会員数を生かして、参加前に参加者の情報が分かる仕組みになっています。当日会場で誰と話すか決めるのではなく、事前に3人選んで、1人につき3分だけ調べておきます。
見るのは実績ページと直近の投稿1本で十分です。そこから「その人にしか聞けない質問」を1つだけ用意します。次の章の7つの質問のうち、どれか1つをその人向けに言い換えるだけで足ります。
参加費を1人あたりに割ってみる
参加費は会員5,500円、非会員33,000円(税込)です。非会員として参加して3人と決めた場合、1人あたり1万円強かかっている計算になります。
名刺の枚数で交流会の成果を数えると、何十枚集めても手応えがありません。翌日に一通送れる相手が何人いたかで数えると、3人と決めて臨んだ日のほうが、50枚集めた日より成果が残ります。
持っていく質問は7つ|そのまま読み上げていい文面
事前に調べなくても、その場で使える7つの質問を用意しました。名刺入れに入るサイズに印刷しておくと、会話に詰まったときにそのまま見返せます。会話の最中に開いて読み上げるものではありません。名刺交換の直前に1回だけ見返して、順番を頭に入れておくためのものです。
| 順番 | 質問文 | 何のために聞くか | 相手が答えやすい理由 |
|---|---|---|---|
| ① | 今日はどちらから来られたんですか | 場を開く | 考えずに答えられる事実の質問 |
| ② | 具体的にどんなお仕事をされているんですか | 相手の仕事を知る | 自分の仕事を説明する話なので答えやすい |
| ③ | その仕事、どういう経緯で始められたんですか | 相手に話し出してもらう | 経緯は聞かれ慣れていないぶん、話したくなる |
| ④ | 独立されてどれくらいですか | 相手の状況を知る | 数字で答えられる |
| ⑤ | どんなお客さんが多いんですか | 相手の商売の中身を知る | 自分の得意分野の話なので話しやすい |
| ⑥ | いま一番時間を取られているのは何ですか | 相手の今の課題に触れる | 弱みではなく現状の話として聞ける |
| ⑦ | その話、今度もう少し聞かせてもらえませんか | 次の約束を作る | 頼みごとではなく、続きを聞きたいという意思表示 |
①から④は事実を聞く質問です。相手は考えずに答えられます。⑤と⑥で相手の仕事の中身に踏み込み、⑦で次につなげます。全部使う必要はありません。相手が話し出したら、そこで止めて聞き役に回ります。
答えを出そうとしない
これらの質問は、情報を集めるためのものではありません。コーチングでは、コーチが答えを与えるのではなく、相手の中にある答えを引き出し、創り出すことを援助するとされています。
⑥で相手が困っていることを話し始めても、その場で解決策を出さないようにします。思いついても飲み込んで、⑦の「今度もう少し聞かせてもらえませんか」につなげます。その場で答えを出すと、交流会が営業の場だと相手に伝わってしまいます。
順番を間違えると、質問は尋問になる
NG例:いきなり「何かお困りごとはありませんか」

初対面の相手に、いきなり困りごとを聞くのは避けます。名刺交換の直後にこの質問をされると、相手は弱みを見せることになり、次に何を売り込まれるのかと身構えます。
同じ内容を聞きたいなら、⑥の「いま一番時間を取られているのは何ですか」に言い換えます。困りごとではなく、今の状況として聞くと、答えやすくなります。
事実→経緯→中身→次、の4段で上げる
質問には順番があります。①②のような考えなくても答えられる事実の質問から入り、③の経緯を聞くと、相手が自分から話し出します。④⑤で中身に踏み込み、⑥⑦で次につなげます。
困りごとの話は、この4段の手前では出てきません。事実→経緯→中身→次、と段を上げていく途中で、相手が自分から話し始めるのを待ちます。
たとえば①でどこから来たかを聞き、②で仕事の内容を聞き、③で経緯を聞くと、多くの場合ここで相手のほうが自分から話し出します。そこから④⑤で仕事の中身に踏み込み、⑥で今の状況、⑦で次の約束、という順で上がっていきます。慣れないうちは、①から⑦まで番号どおりに聞くだけでも成立します。
他のNG例3つ
これも避けたい進め方です。
- 初対面で予算や金額を聞く
- 「うちは◯◯をやってまして」と自分の自己紹介から会話を始める
- 相手の答えを待たずに、質問を2つ3つ続けて投げる
いずれも、こちらがしゃべる時間を増やす方向に働きます。ペラペラしゃべり出した瞬間、相手は売りつけられると警戒するという指摘のとおりです。質問は1つ出したら、答えが返ってくるまで待ちます。
聞いたあとの3秒で差がつく|相槌より、相手の言葉を返す
「すごいですね」で会話が止まる理由
相手が話したことに「すごいですね」と評価を返すと、そこで会話が止まります。評価は感想であって、続きを促す言葉ではないからです。
代わりに使えるのが、相手の言葉を適度に繰り返して理解を示す「バックトラッキング」という方法です。評価ではなく、相手が言った言葉をそのまま返すことで、相手は「聞いてもらえている」と感じて話を続けます。
返し方の実例
たとえば相手が「紹介が減ってきて」と言ったとします。「それは大変ですね」ではなく、「紹介が、減ってきてるんですね」と言葉をそのまま返します。相手は自然に理由を話し出します。
声の大きさや話す速さを相手に合わせる「ペーシング」も合わせて使います。相手がゆっくり話すタイプなら、こちらもゆっくり話す。それだけで話しやすさが変わります。
沈黙は3秒待つ
相手が話し終えたあと、すぐに次の質問を出したくなります。ここを3秒だけ待つようにしています。3秒という長さ自体に出典上の根拠があるわけではなく、筆者自身の実践です。
心理的安全性とは、自分の意見や懸念を伝えても否定されないという確信が持てる状態のことです。沈黙を埋めずに待つのは、この状態に近づけたいという狙いからです。しゃべりすぎる人ほどこの3秒は長く感じられますが、埋めないほうが会話は深くなる、というのが筆者の実感です。
持ち帰るのは名刺ではなく一行——その場のメモと翌日の一通
名刺の裏に3行

会話が終わったら、その場で名刺の裏に3行だけ書きます。
- 1行目:日付と会の名前
- 2行目:相手が言った言葉をそのまま(要約しない)
- 3行目:次の口実(送るもの・聞くこと)
2行目は要約しないのがポイントです。「紹介が減って困っているとのこと」のように要約すると、翌日には自分の言葉に変わっていて、メールに書いても相手には響きません。「紹介が減ってきて」という相手の言葉のまま書き残します。
3行目の次の口実は、思いつかなければ無理に作らなくて構いません。相手が話していた仕事の話の続き、次に会えそうな場、それだけで十分です。何も浮かばないときは「その話、また聞かせてください」とだけ書いておけば、翌日のメールはそのまま書けます。
翌日のメール文例(そのまま使える)
翌日、その場で書いた3行をもとに一通送ります。
昨日の◯◯会でお名刺を頂きました△△です。 「紹介が減ってきて」というお話が印象に残りました。 よろしければ、また少し詳しく伺えたら嬉しいです。
売り込みの言葉も、頼みごとも入れません。相手の言葉を返すだけの一通です。
頼まないから、次が続く
仕事の話を切り出すのが苦手でも、この一通に頼みごとは要りません。近況を伝えるだけで十分です。返信率のような数字は約束できませんが、名刺を50枚集めて何も送らないより、3人に一通ずつ送るほうが、次につながる可能性は残ります。
性格は変えなくていい。手順にすれば口下手のまま回る
6つの場面に分けて、それぞれ1文だけ決める
内向型・口下手・あがり症の気質を変えなくても、営業成績を上げる方法は実際に教えられています。新規開拓、アイスブレイク、ヒアリング、商品説明、クロージング、フォローアップの6つの場面に分けて、それぞれで何を言うかをスクリプト化する営業法です。
交流会も同じ考え方で分解できます。名刺交換、質問、聞いたあとの返し、メモ、翌日の一通。場面ごとに1文だけ決めておけば、性格を変える必要はありません。
うまくいった質問や返し方は、名刺の裏のメモに残しておくと、次の交流会でそのまま使い回せます。毎回ゼロから考えるのではなく、回を重ねるごとに自分に合う言い回しが手元に増えていきます。
今日やる最小の1つ
7つの質問を全部覚えて持っていく必要はありません。次の交流会で、1人に「その仕事、どういう経緯で始められたんですか」とだけ聞いてみます。それだけで終わらせて構いません。
黙って聞くだけでは伸びない、をもう一度
340人の調査で一番売れていたのは、内向型でも外向型でもなく、真ん中のアンビバートでした。ここでも測っているのは外向性のスコアで、「黙って座っている」という行動そのものではありません。
聞き役に回るとは、黙ることではありません。質問を出す側に回ることです。名刺入れに7つの質問を入れて、次の交流会に行ってみてください。
よくある質問
交流会では何を質問すればいいですか?
事実→経緯→中身→次の4段で上げる。最初は『今日はどちらから来られたんですか』など考えずに答えられるもの。『何かお困りごとは』から入らない。
口下手でも営業はできますか?
できる。ただし黙って聞くだけでは伸びない。340人の調査で一番売れたのは真ん中の人(時給$154.77、内向型$120.10)。質問を出す側に回る。
質問リストを見ながら話すのは失礼になりませんか?
手元のメモを見るのは失礼にならない。会話の直前に1回見て、順番だけ思い出す。読み上げるのではなく、4段の順番を持っていく。
名刺交換のあと、何を話せばいいか分かりません。
自己紹介を足さない。『具体的にどんなお仕事を』と『どういう経緯で始められたんですか』の2つで足りる。経緯を聞くと相手が話し出す。
交流会では何人と話せばいいですか?
3人でいい。50社規模の会でも、翌日に一通送れる相手が1人残れば足りる。名刺の枚数では数えない。
参照した情報源
- Rethinking the Extraverted Sales Ideal: The Ambivert Advantage(Psychological Science (SAGE) / The Wharton School, University of Pennsylvania)・確認日 2026-08-10
- ビジネス交流会(東京商工会議所)・確認日 2026-08-10
- 傾聴力とは?ビジネスでの実践方法とトレーニング方法(株式会社リクルートマネジメントスクール)・確認日 2026-08-10
- コーチング:用語解説(厚生労働省「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」)・確認日 2026-08-10
- 内向的・口下手・あがり症の人のための営業実践術(一般社団法人中部産業連盟(中産連))・確認日 2026-08-10
- なぜ「口下手な営業のほうが売れる」のか…「ペラペラ喋る営業」がハイパフォーマーになれない意外な理由(PRESIDENT Online(プレジデント社))・確認日 2026-08-10
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